幸せ四妖精   作:松雨

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今話は幽々子視点です。


来るべき日に向けて

 高級なお煎餅を筆頭としたお菓子を手土産に、食事を少しご馳走になろうと光の四妖精の家へ行ったら誰もおらず、手持ち無沙汰となってしまった私と妖夢。

 

 特段急いでいた訳ではないし、直接手渡すつもりのお土産自体も長持ちするものではあったからいいけれど、何とも間が悪いわと思った。

 

「幽々子様。レミリアさん、少し雰囲気がいつもと違いません?」

「本当ね。妙に疲れが溜まっているようにも見えるけれど、何かあったのかしら?」

 

 で、わざわざ探し回るのもあれかしらと思い、白玉楼へと戻ってきたまさに今、「幽々子! 居るかしらー?」と、縁側付近で叫んでいるレミリアが視界に入ってくる。

 

 頻度こそ高くはないが、ちょくちょく1人ないし複数人の妖精メイドと一緒に遊びに来たり、宴会などで顔を出しに来たりしてはいるため、特に珍しくもなかった。

 

 幽霊たちもそれをよく知っているから、さほど気にする様子は見せてない。

 

(大方、何か頼み事をしに来たって感じかしら。急ぎ目な内容ではありそうね)

 

 しかし、今日に限っては違う。妖夢が言うように、雰囲気がいつもとは異なっていたからだ。

 

 何というか、これは早く伝えてお願いして了承を得なければ、とても大変なことになりかねないと、そう暗に伝わってくる。どう大変なことになるのかに関しては、全く以て想像はつかないけれど。

 

「あら、道理で……どこに出かけてたの?」

「妖夢と四妖精の住みかに行ってたのよ。お休みって聞いてたから居ると思ったけど、留守だったわ」

「なるほど。まあ、大分長い休日を与えたし、紅魔館以外のどこかお泊まりでも行ってるんじゃないの? 候補は色々あるけれど、理想郷探検中って可能性が私としては高いと思うわ」

「理想郷ねぇ。お煎餅だけでもあげたかったけど、比較的長持ちするものだし、休日が終わって戻ってくるまで待ちましょうか」

「あの広さだと、探しに行くだけでも骨が折れるからね。まあ、理想郷に行って待ってれば、守護妖精経由で気づいて来てくれそうだけれど」

「そうなの? うーん……考えておこうかしら」

 

 そこから、幾ばくかの時間大声で叫んだ後に、出直そうとして振り向いたレミリアと目が合うと、近寄って来た後に即頼み事をするでもなく、普通の友人同士みたいな感じの会話が始まった。

 

 私の予想が的外れだったのか、取り敢えず世間話から入っただけなのかとも考えたものの、様子がいつもと違うままだから、やはり後者の線が濃厚だと見てよさそう。

 

 さて、一体どんな頼み事をされるのだろうか。わざわざ世間話という緩衝を入れたところから、当初の想定以上に面倒事にはなりそうな気がしてはきたけれど。

 

「さてと、これ以上話を脱線させる訳にはいかないから、本題に入るわね……幽々子、妖夢。人里に居るメノウの前世の家族の始末と後処理を、任せてもいいかしら?」

 

 そんなことを考えながらある程度の時間、比較的和やかな雰囲気の中話を続けていると、レミリアが一呼吸置いたのと同時に雰囲気が一気に変わる。

 

 今現在、人里を含めた幻想郷の方々を騒がせていて、なおかつメノウにとっての敵である前世の家族を殺してなどと頼まれるなんて、予想できるだろうか。いや、普通は想像できないどころか夢にすら思わない。

 

「始末と後処理、ですか。いつの話でしょう? レミリアさん」

「明後日よ。追放されて人里の領域から出た後すぐに、私がここに連れてくるから、待ってるだけで大丈夫。まあ、五体満足かどうかはちょっと、保証はしかねないけれど……妖夢、ごめんなさい。いくら運命が見えたからとはいえ、このような話に貴女も巻き込んでしまって」

「あはは……まあ、その行為の是非は取り敢えず置いておいて、私も相応の報いは受けるべきと考えています」

「そうよね、そう思うわよね。妖夢!」

「わっと。それはまあ、先程も言いましたけど……はい」

 

 事実、妖夢もレミリアがそんなお願いをしに来たなんて、全く思っていないどころか、思わず私との会話に割り込んで、色々と聞いてしまう程度には驚いている。

 

(未来を見通す力……そうね、紫。敵に回すより、味方として取り込んだ方が断然いい。理想郷が顕現した今となっては尚更よ)

 

 わざわざ私にお願いしなくても、人間どころか大抵の相手を蹂躙し、その命脈を絶つことができるだけの力があるレミリア。

 紫を含めた幻想郷の賢者たちですら、全面的な敵対はしたくないと言い切る程度には強いのだ。

 

 しかし、こうして頼み込んできた。自分では、殺した後に発生するかもしれない強い恨みを抱いた怨霊への対処を誤るかもしれないと、自分よりも私へ任せた方が確実であると、そう実感したのだろう。

 

 もしくは、そっちの方が普通に殺して地獄へ送るよりも遥かに長く、苦しんでもらえると考えた故のお願いかもしれない。何となく、レミリアでもできそうな気がするのは、果たして気のせいであろうか。

 

「大丈夫? ここに連れてくる前に、自分で手を下しちゃわない? 勿論、それならそれで対応策はあるし、全然構わないわよ~」

「すぅ……失礼したわ。分かってはいるのだけど、どうにも駄目ね」

「いえ、私は駄目とは思いませんけどね。メノウちゃんとそこまで親しければ、無理もないかと」

「あら、随分と肩を持ってくれるのね。嬉しいわ」

 

 なお、レミリアは話をしている内に段々腹が立ってきたのか、メノウの前世の家族に対する物騒な発言が増えるのみならず、少し刺激を加えれば暴発しそうな程に威圧感が膨れ上がる。

 

 しかし、自身の懐に入れた妖精(メイド妖精)を深く愛している故に、致し方ないこと。唯一無二の血縁、フランドールに匹敵する家族愛を向ける対象として見ている程となれば尚更。

 

 仮にそうでなくとも、妖精という種族が相手であれば初対面であっても、何かしらのイタズラの対象となってしまおうとも、非常に寛容で優しい大妖怪として振る舞う。

 

 場合によっては紅魔館のメイドとして、自ら本人の同意を取った上で連れていくこともある。最近だと、件の理想郷からも何人か連れてきたらしいと、風の噂で聞いている。

 

 つまり、メノウの今現在の状況を鑑みれば、例の家族の存在はレミリアにとってこの上なく目障りで耳障りな存在。本来なら即殺を決断するレベルで苛立つのも、無理のない話なのである。

 

 しかも、前世の家族共々下手に人里で有名になってしまったせいで、心に負うであろう傷を最も浅く済ませるために、その存在と所業の一部を伝えなくてはならなくなったという。

 

(全く以て厄介ね……)

 

 なるほど、それはまさしく苦渋の決断と言わざるを得ない。浅く済ませるとは言っても、端から見れば全くそうではないレベルの傷を負わせることになる訳だもの。

 

「とまあ、ここまで話に乗っているところから察しているでしょうけど……そのお願い、しかと受け入れたわ」

「本当に? 幽々子、ありがとう」

「どういたしまして。用件はそれだけかしら?」

「それだけね。諸々の準備で忙しくて……お陰様で眠たいわ」

 

 何かしらの、堪え難く下劣極まる扱いをされたなどの同情の余地があればまだしも、そうではないのにも関わらず人里の住人に対して、傲岸不遜な態度を取る。

 

 メノウに対しては、前世だけでなく今世まで病的に執着し、殺意一歩手前か同等の負の感情を抱いているのを隠さず喚き、関係のない周囲の面々にすら当たり散らす。

 

 前世のあの子がとてつもなく下劣な人間で、トラウマを植え付けられる程に酷く苦しめられていたみたいな、納得はできないけど理解はできる事情すらもない。

 

 更に言えば、私だけでなく妖夢もメノウと良き友人同士。積極的に懐いてくるあの子への対応を鑑みたら、すぐに親友ないし家族同然とまでは行かずとも、普通の友人よりかは仲良くなれそうだった。

 

 だからこそ、私は彼らの存在を今は不愉快に思っているし、レミリアからのお願いを二つ返事で了承したのである。

 何にせよ、余計な出来事が何も起こらず、最善の流れで事が進むことを願うばかりだ。

 

「ふふ。頑張るのはいいけれど、倒れたりしては駄目。分かるでしょう?」

「そうね。流石に頑張り過ぎたし、館の皆にも心配かけてる以上は……うん。いい加減、帰ってゆっくり休むことにするわ。それに、今の私ですらメノウに見られたら、普通に「僕みたいなことしないでっ!」って泣かれちゃいそうだし」

「ええ、それが1番よ~。メノウには、妖精らしく笑っていて欲しいもの」

「無論よ。幽々子、妖夢。じゃあね」

「ええ、さようなら。また明後日会いましょう」

「はい、レミリアさん。また明後日」

 

 とまあ、そんなことを心内で願いつつ、私と妖夢は疲労困憊なレミリアを見送った。

 

(どうしたものかしらねぇ)

 

 さてと、これからが正念場である。メノウの前世の両親に死んでもらうことは、レミリアのお願いで確定してはいるのだけど、果たしてあっさり能力で命脈を絶ってもいいのだろうか。

 

 とはいえ、捕まえた後に過剰な身体的苦痛を与えつつ、それを徐々に上げていくなど、そういう類いの拷問をするつもりはない。

 間違いなく、レミリア率いる紅魔館の面々がそれに相当する報復を行うし、私個人としてあまりそのような手段を好まないから。

 

 ただまあ、一緒にやる妖夢の精神が途中でもたなくなる可能性が、相応に高いという理由の方が私にとって大きいかしら。

 

「ねえ。もしも、問答無用で私の命……魂魄を狙い続ける敵が出てきたら、貴女ならばどうする?」

「無論、幽々子様の従者として、そのような輩は私の一刀で迷いなく斬り捨てます。改めて言われるまでもありません」

「ふふ、そうよね。至極当たり前のことを聞いてしまったわ」

 

 当然、いざという時に躊躇なく敵を斬り捨てて、それしかないともなれば命脈を絶てるだけの刃を振るう覚悟は、妖夢も固まっている。何の脈絡もない私の質問に、迷いなく答えるところを見れば分かるだろう。

 

 しかし、やはりわざと痛めつけ続け、苦しめてから殺すともなれば話は別。大抵の場合は痛みなどで苦しむ様子を死ぬまで見て、自身や周辺へ向けられる怨嗟の声を耳で聞き続けなければならない訳で、それはあまりにも厳し過ぎる。

 

「ふぅ……妖夢。ひとまず、向こうでお茶しましょう。何だか少し疲れたわ」

「分かりました。では、私はお饅頭と玄米茶の用意をしに行ってきますね」

 

 まあ、あの2人が連れてこられるまでの時間は、明後日の昼間以降。だから、そこまでにしっかりと考えておこう。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。
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