僕は今、幸せのあまりヘリウムの入った風船のように、空高く舞い上がっていきそうな気分である。
唯一無二の家族であるサニーたち、何にも代えがたい友達のチルノ率いる妖精軍団の皆、僕たちについてきた風妖精さんたちと楽しく探検していたところに、魔理沙や霊夢に加えてあうんにも出会う。
しかも、流れで僕やサニーが「一緒に遊ぼ!」とお願いしたら、今日の夜までならと大探検のメンバーに加わってくれたのだ。嬉しくないはずがない。
「嬉しそうね、メノ。レミリア辺りも連れてきてたら、もっと凄いことになったかしら」
「ははっ、違いねえ! でも、あいつ最近忙しそうにしてたから、誘っても駄目だろうな」
「そうなの? もしかして、館のお仕事とか……?」
「いや、
「うん。それなら、まあそうだね」
「ひゃあ。私とメノには門外漢もいいところだわー」
でも欲を言えば、一緒にお泊まりまでして欲しかったな。美味しいご飯やおやつを食べて、何度もしたことのあるような他愛もないお話をして、一緒の寝床で眠るだけでも絶対に楽しいし幸せだから。
だけど、それではサニーたちやチルノ一行だけでなく、魔理沙たち3人にも余計な気を使わせてしまいそう。いや、絶対に気を使わせることになる。
皆がくれる究極的な優しさにつけ込んで、自分の欲を通すばかりの妖精には、仮に消滅してもなりたくない。だから、そう言いたくなったのを抑えに抑えた。
「えっ、わぁっ……えへへ、抱っこしてもらっちゃった。ありがと、ヘカーティアさま」
「どういたしまして。それと、私が神だからって理由で『様』なんてつけなくていいわ、メノウ。何なら、呼び捨てや愛称呼びも大歓迎よん」
「おー、大分相性いいんだな! 抱っこをしたか否かの違いだけで、みすちーたちと同じくらい?」
「うーん。あの時、チルノちゃんに聞かされたお話を考えてみれば、初対面の時だとやっぱりヘカーティアさんの方が、少し上だと思うよ」
それだけじゃなくて、ヘカーティア様もといヘカーティアさんとも仲良くなれそうなのは嬉しいし、初対面の時の僕の奇行も、触れずにスルーしてくれるくらいには優しい神様で本当によかった。
何といっても、ピースが幻想郷で1番大好きな家族なんだもの。僕との相性が悪くて、仲良くできずに気分を悪くするなんてことになれば、きっと物凄く悲しんじゃう。
僕と家族になってくれたサニーたちや、もう身内同然の関係を持ってるチルノ一行とピースの関係にも、悪い変化をもたらすかもしれない。
だから、昔から大好きな家族と新しくできた仲良しな友達のどちらを取るかなんて選択を、最終的な判断が十中八九前者になるにしたって、それをピースにさせること自体が許されないのだ。
まあ、仮に相性が悪かったとしたら、ヘカーティアさんの方がもう嫌だってとなったりとかでもしない限りは、僕が耐えればいい。大好きな友達のためならば、その程度は全然できる。
「きゃはは! ご主人様、ちょっとびっくりしてる! まあ、この中の面々は基本様呼ばわりしないもんな!」
「うんうん。それどころか、スターとかサニーは「変な人」「変な女神」って直球な呼び方してたもん」
「ルナの「変な格好の人」呼ばわりも大概だと思うけど。でもまあ、最近は大体ちゃんとした呼び方だから、気にしないでおきましょ!」
「えぇ……大体って、サニーちゃん……」
「ふふっ、まあまあ。妖精に変だ何だって言われた程度で、目くじらは立ててないから気にしなくてもいいわよ~」
「そういうものらしいね、大ちゃん」
「うん。えっと、そうみたいだね。ラルバちゃん」
ちなみに、サニーたちやチルノ一行が仲良さそうにお話ししてるのは当然として、霊夢たちもヘカーティアさんと普通の知人的な感じでお話をしている。幻想郷でも、顔が広い部類の神様だったみたい。
ただ、それよりも割とサニーたちがヘカーティアさんに対して、結構容赦がなかったのはびっくりした。変な人、変な女神、変な格好の人、どれも直球な発言だ。
でも、僕だって一目見た時、変わった語尾と格好の人って口にはしなかっただけで、しっかり思ってはいたなぁ。もしかしたら、ヘカーティアさんに対して僕やサニーたちのようなことを思う人妖さんは、結構多いのかも。
「えへへ、翡翠の妖精さん!」
「おっと、失礼しました。何でしょうか、メノウ様」
「大好き、いつもありがとう! ごめんね、単にこう言いたくて呼んだだけ!」
「……ふふっ」
なお、翡翠の妖精さんは僕やサニーたちがわいわい楽しそうにしてるからか、1歩2歩退いたところで妖精さんたちの相手をしながら、微笑ましそうに見守ってくれていた。
最初こそ、警戒のためなのかヘカーティアさんの方へ意識を向ける回数が多かったけれど、これに関しては致し方のないこと。僕やサニーたちの命と尊厳の方が、何よりも大切なものなのだ。
(ふふっ。ピースの家族なら、神様だろうが何だろうが優しいに決まってるよね)
それと、翡翠の妖精さんから相応に警戒されていることに、ヘカーティアさんはすぐに気づいていたっぽいけど、何も言わずにスルーしてくれている。
僕たちや翡翠の妖精さんへの気遣い、霊夢や魔理沙曰く反則かと言わんばかりの強さを持つ故の余裕、実は平和と安寧を重んじる性格故の振る舞い、一体どんな理由なのかな。
何だかんだ考えてみたけれど、きっと僕が今挙げた理由は全部あるんだろうなぁ。
「あのー……かみさま。かみさまのためにあまいりんご、よういしたの……やっぱり、いらなくなった?」
「「「あっ」」」
と、ちょっとした噴水広場まで歩いてって、皆と楽しく騒ぎながらヘカーティアさんの愛称を考えていた時、ちょっぴり悲しそうな妖精さんが大きめのりんごを持ち、こっちの方へてくてく歩いてきたことに皆が揃って気づく。
そういえば、興奮したピースを追いかけて僕たちが建物に入ってからうやむやになったけど、最初はヘカーティアさんとこの妖精さんがお店屋さんごっこ的なことをしていたんだったっけ。
で、その後は慌てて奇妙なことを言ってた妖精さんに導かれ、魔理沙たち3人に出会い、こうして楽しく遊んでいた訳である。それを見たあの妖精さんにとっては、全く面白くない光景だ。
僕で例えるなら、サニーたちと楽しく遊んでいたところに知らないお友達がいきなり現れ、散々目の前で遊んだ挙げ句にそのまま一緒に外へ行っちゃって、放っておかれたようなもの。
「ごめんね、妖精さん。妖精さんに割り込んで、僕たちが神様……ヘカーティアさんと遊んじゃって」
「あたいも謝る。ごめんな!」
「……いいよっ!」
うん、考えてみれば尚更悲しくて当然と思える。僕とピースが代表してちゃんと謝ったからとはいえ、怒らず普通に笑顔で許してくれたこの妖精さんは、間違いなく器が大きい。
次また同じような流れがあるかは分からないけど、もしそうなった時には気を付けなきゃね。
「私からも、ごめんなさいねぇ。りんご、もらってもいい?」
「うんっ! わたしがおまじないをかけた、おっきなりんごあげる!」
「ありがとう……へぇ、確かにとても甘くてシャキシャキ。もしかしたら、あなたのおまじないが効いたのかもね~」
「わは! やったぁ!」
そんなこんなで、ベンチに座った妖精さんの隣に座ったヘカーティアさんが渡されたりんごは、相当美味しいものだったらしい。綺麗な輝きを秘めたその目が、明らかに見開かれたのだ。
見た目や名称こそ、まさしく美味しそうな地球のりんごそのものだけど、僕やサニーたちの知るものと同一の果物かどうかは、正直食べてみなければ分からない。
ただまあ、別にそこまで気にするようなことでもないかな。安全性は理想郷だから言わずもがな、肝心の味もいいみたいだし、何よりもさっきまでは悲しそうだった妖精さんだってニッコリだもの。
「この階層を探せば、多分同じようなりんごも見つけられそうだし……メノ。沢山採れたら、一緒にアップルパイ作りましょー」
「うん、勿論だよ。でも、お菓子作りってなったら、一旦お家に帰らないと。後、りんご以外の材料は大丈夫だったっけ? 結構沢山あったって僕は記憶してるけど」
「材料云々は確か、大丈夫だったはずよー……よく考えたら、守護妖精を家に招くのって初めてじゃない? 遊びじゃないし、ほんの僅かになるだろうけど」
「あっ、確かに!」
それに、ヘカーティアさんの反応と妖精さんのやり取りでやる気の火が灯ったのか、スターがウキウキで僕をお菓子作りに誘ってきてくれたし、何だったらさっきまで浮かんでいたりんご云々なんて、どうでもよくなってきたかも。
後は、これがあの妖精さんに対してのお詫びにもなりそう。さて、そうと決まれば即行動、熱が冷めないうちにスターと一緒に楽しくやってしまおうか。
「という訳なんだ、翡翠の妖精さん。僕とスターに、少しばかり付き合ってくれる?」
「勿論です。最大限、私がサポートしましょう」
「霊夢、魔理沙。サニーとルナ、他の皆にもこのことをよろしくね」
「おぉ、はいよ。私らだけじゃなくてヘカーティアも居るし、何があっても大丈夫だぜ」
「妖精軍団のことは見といてあげるから、安心して行ってきなさい」
噴水広場にて、各々楽しく幸せそうにはしゃいで遊ぶ皆の姿を遠目に見ながら、僕とスターは翡翠の妖精さんと一旦この場を後にするのであった。
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「あっちにもこっちにも、沢山りんごの木が生えてるわ! どれも美味しそう!」
「えへへ、スター。キノコだらけの森を見つけた時みたいに嬉しそう」
「確かに嬉しいけど、流石にこっちの方が下かしら」
理想郷産の大きなりんごを、とっても美味しそうに食べるヘカーティアさんを見ていて、唐突にアップルパイを作って食べたくなったらしいスター。
それだけでなく、皆にも食べてもらおうとして沢山採ろうと意気込むスターに誘われた僕は、翡翠の妖精さんも一緒に誘い、妖精の里を離れてりんご探しのプチ冒険に出発していた。
材料探しの過程も少しは楽しみたいと、翡翠の妖精さんから生えてる場所のヒントとかはもらわずにウロウロしていたんだけど、そこまで珍しい植物でもなかったのか、りんごの木の群生地がすぐに見つかっている。
時計は持ってないけど、多分1時間も経っていない。僕やスターの感覚が楽しさに惑わされず、本当に役に立っていればの話ではあるけど。
「あら、虹色キノコを見つけたわ! サニーとルナのアップルパイにだけ仕込んで、反応を楽しむのも一興ね!」
「えっ、こんなに輝いてるものだったっけ? すんすん……うえっ。スター、これ匂いでバレない……?」
「メノも意外とイタズラに乗り気? えっと、その辺は大丈夫だから心配要らないわ」
「そっか。スターがそう言うなら、僕は信じるよ」
あくまでも、目的は僕とスターがアップルパイを作って食べることと、サニーたちやチルノ一行、ヘカーティアさんや魔理沙たちにもご馳走すること。
こうしてすぐに発見できた以上、寄り道せず適当にいくつかのりんごを木から取って家に一旦帰り、アップルパイを作り始めるのがベストだと、僕もスターも重々承知している。
(えへへ……何だか、スターと2人でイタズラ作戦会議してるみたい)
はずなんだけど、やっぱりスターも妖精。他に興味を引く何か……例えば、面白かったり珍しいキノコとかを見つければ、一時的にしたって集中力をそっちに持ってかれるのも、まあ無理はない。
言わずもがな、ちょっぴり特殊とはいえ僕だって妖精。例のイタズラ用のキノコを見つけ、もっとウキウキになったスターの方に集中力が持ってかれていた。というか、もう既に脱線していると言ってもいい。
翡翠の妖精さんに関しても、僕やスターの様子を見て幸せに浸っているのか、脱線してても何も言ってくる様子はない。種族が妖精だからって理由も、やっぱりあるのかな。
「メノウ様、スター様。そろそろりんごを取って、お二人の家へ作りに向かいましょう。ご馳走をする約束をしてはいないにせよ、大探検をサニー様方としていらっしゃる身。あまり待たせ過ぎるのも、よろしくないかと思います」
なんて考えつつ、スターと虹色キノコを使ったイタズラ談義に花を咲かせていたら、いつの間にか許容できる時間を超えていたらしい。諭すように、翡翠の妖精さんに優しく声をかけられる。
もう少しだけって気持ちがない訳ではなかったけど、本来の目的にイタズラ談義があった訳じゃない上に、そう声をかけられてさえ無視したり反発するなんて、まさしく論外もいいところ。
噴水広場で待たせている皆のことよりも、自分のことが大事だと公言するも同然なのだから。
「ありゃ、そうだった。キノコ見つけただけで、唐突にイタズラ計画が舞い降りてきちゃうのも考えものねー」
「ふふっ、スターらしくていいと思うなぁ。それはそうと、声をかけてくれてありがとう。翡翠の妖精さん」
「いえ。この程度、お安いご用です。むしろ、私もお二人の仲睦まじい様子を見れて、とても幸せで暖かな気持ちになれました」
言わずもがな、スターも同じ思いを抱いたためイタズラ談義は即時中断、普通の会話は続けつつ近くの木から何個かりんごを取る。
多少なりとも考え、生命力の流れとか妖精さんのアドバイスとかも鑑みてより美味しそうなりんごを選んだから、きっと美味しいアップルパイが出来上がることだろう。
ただし、サニーとルナは激マズイタズラ用のキノコ入りアップルパイを、スターに食べさせられることが確定している。
勿論、ちゃんと2人の分の美味しいアップルパイは、代わりに僕が丹精込めて作るし、スターの企みも止めるつもりはないけれど、その分アフターケアはしっかりやろう。
ちなみに、りんご以外のアップルパイに必要な材料については、いつもの妖精軍団の皆にご馳走できる程度の量があるので、何の心配もいらない。
ヘカーティアさんや霊夢、あうんに魔理沙も居るけれど、おかわりを少し控えめにすれば全く問題はなさそうだ。
ヘカーティアさんがゆゆさんみたいに、とっても沢山食べる神様だったら材料が足りるかどうか、ちょっぴり不安だけど。
「りんご採ったよ。スター、翡翠の妖精さん。準備は大丈夫?」
「ええ、いつでもいいわ!」
「はい。いつでも問題ありません」
「じゃあいくよ……えいっ」
色々と考えを巡らせながら、懐から大水晶のハンドベルを取り出して振り鳴らすと、次の瞬間には見慣れた僕の家の庭へと風景が変わる。
(サニー、スター、ルナ……大好き。ありがとう)
やっぱり、ここは落ち着く。生き物が呼吸をするのは当たり前でしょと言わんばかりに、無償で毎日沢山の幸せを僕にくれたサニー、スター、ルナのお家だもの。
幻想郷に妖精として生まれてからはないけど、もしどんなに辛くて苦しい出来事があっても、ここを起点に作ってきた幸せな思い出が、それを全部打ち消してくれると断言できる程に大切な場所。
1年も経っていないのに、前世で僕が受けた酷い扱いのトラウマがまるで、熱湯に入れた氷のように溶けていってる感覚を覚えれば、あながち間違いではないはずだ。
「ただいまー……返事がないわ、メノ」
「もう。あったら怖いよ、スター」
「ふふっ、そうねー。えっと、道具を出して――」
「出しておいたよっ、スターちゃん!」
「「びゃあっ!? ウルかぁ……」」
「てへっ、びっくりした?」
辛い前世と幸せな今世の思い出に浸るのもそこそこに中に入り、キッチンに行ってアップルパイを作るための準備を手早く進めていく。とはいったものの、何の脈絡もなく登場したウルのお陰であっという間に終わる。
理想郷大探検の時なら分かるけど、ただのアップルパイ作りの時に顔を出すなんて想像していなかったし、スターと仲良く同じ驚き方をしちゃった。妖精さんたちとかサニーたちみたいに、イタズラでもしたくなったのかな。
(サニーとルナも、一緒に来てもらえばよかったかな……? イタズラの対象だから無理か)
それと後、翡翠の妖精さんは特にアップルパイ作りで何かしてもらうつもりもないから、リビングのソファーに座ってのんびり待っていてもらおう。ちょっぴり緊張してるみたいだし、のんびりしてもらえるかどうかは分からないかなぁ。
「切ったりんごと他の材料を……わっ、何か目に入っちゃった! しみるぅぅ」
「メノ? えっと、大丈夫? そういえば、こんなうっかり初めてじゃない?」
「この程度なら大丈夫、だよ……ごめんね。僕の不注意で心配させちゃった」
「ともかく、平気ならよかったわー。何か考え事でもしてたの?」
「うん。翡翠の妖精さんのこととか、サニーたちとの思い出に浸ってたり。えへへ」
とまあ、アップルパイ作りを始めてからちょくちょく、それとは殆んど関係ないことを考えたりしていた僕なんだけど、当然集中力は低下する。
こんな感じで、ちょっとしたトラブルを発生させてしまうのも、無理はないことだろう。
しかし、幸いにもスターに迷惑をかけるようなことはなかったし、切った理想郷りんごを筆頭とした各種材料を鍋に突っ込み、りんごの水分が出てきたら、それが飛んでいくまでたまにかき混ぜつつ煮詰めていくという工程も、今のところ問題なくできていた。
僕とスターで、勝手に皆の分も作っている都合上量が多くて大変ではあるものの、やること自体はほぼ変わらない。というか、今更だけどお菓子作り用の大型レンジとかでやっても、作る量的にはよかったかもしれないなぁ。
(よっぽどイタズラしたくて堪らないんだね、スター。ふふっ)
ちなみに、スターは自身特製のお菓子専用パイシートや溶き卵、隠し味のお花の蜜などの用意を量の割には手早く済ませ、魔法のバスケットに一旦入れてからは、霊夢とサニーへのイタズラ遂行のための準備に手をかけ始めている。
やり方は、すり鉢に虹色キノコと匂い消し草と水を入れてすり潰し、できた虹色の塊を使い捨ての布に乗せてぎゅっと絞る。
で、出てきた薄い虹色の雫をガラス製の小瓶に入れ、冷蔵庫で30分前後冷やすというもの。
いつぞやスターが思いつきで、自分が考えて作ったお菓子用の調味料と同じやり方をふと試してみたら、不思議と匂いが綺麗さっぱり消え去ったのだという。
「本当、準備に余念がないよね」
「ええ! 成功するかしないかに関わらず、イタズラは楽しいもの。だけど、やっぱり成功させた方が嬉しいでしょ?」
「うん、まあ確かにそうかも。慌てふためくところが見たいんだもんね、スター」
なお、純粋な味の強さは生の虹色キノコをそのまま食べさせた方が、普通に強いらしい。
物は試しと自分で1口かじってみた時は、その形容し難い味のせいで冷や汗が止まらずのたうち回るレベルで、しばらく何食べても水以下の味にしか感じなくなったという。
そういえば、改めて聞いて思い出したけど、大風の大森林に居る時に、スターとサニーがそんな感じの会話をして盛り上がっていたっけ。サニーもルナもスターとは長い付き合いだし、何だかんだで気づきそうな気が僕はしてきている。
まあ何にせよ、サニーとルナがスターの企みに気づかず食べてしまった時のアフターケアは、僕が責任を持って最後までやろうと改めて誓った。
本当なら止めるべきなんだろうけど、イタズラの準備をしている時のスターが、羽をパタパタさせながらこの上なく楽しそうにしていて、止めるのに多大なる抵抗があったから。
「ねえ。あなたが理想郷で生まれて、探検しに行った私たちと出会って、何やかんやで
「……? うん。そうだね、スター。僕もちょっとびっくり」
「なのに、思い出は沢山できたし、その1つ1つがとても暖かみを感じるものだった。サニーもルナも、メノが家族になってから毎日が本当に楽しそうで、幸せそうにしているの。以前までがそうでなかったって訳じゃないけどねー」
「……うん」
それに、僕と同じで出会ってからの思い出に浸っていたのか、イタズラ云々考えるどころかアップルパイ作りに集中できなくなるような、勝手に涙が出てくるレベルの嬉しい言葉をかけてくれたのだから。
(すぅ……はぁ……すぅ……)
しかし、いくら幸せが溢れてきたからとはいえ、ここで集中力を切らす訳にはいかない。後少しで、鍋の中の切ったりんごの水分が抜けて、それ単体でも美味しく食べれる『理想郷りんごのコンポート』が完成するから。
「暖かい家族の思い出を私にありがとう、メノ。大好きよ」
「ぶぇっ……うぅ……僕も大好きだよ、スター……!」
「もう、すぐに嬉しさ極まっちゃうんだから。メノは」
あぁ、でも無理かも……いや、もう無理だ。一時的に手が空いたのか、隣で見守ってくれていたスターから、優しい声でこんな言葉を贈られてしまえば。
間一髪、鍋の中に僕の涙が入るのだけは避けられたけど、これじゃあアップルパイ作り云々どころじゃない。本当は、最後までスターと一緒に楽しく頑張りたかったけど、後は任せることになりそうかな。
無理にやったって、失敗して大事な食材を無駄にしたり、変に迷惑をかけちゃいそうだもの。
「守護妖精、ウル。メノが落ち着くまでの寄り添い、よろしくね」
「分かりました。お任せください」
「任されたよっ! アップルパイ作りは、スターちゃん1人で大丈夫?」
「大丈夫よ。メノが大体やってくれたから、後は比較的楽に終わるわー」
なので、翡翠の妖精さんや実体化したウルと一緒に、後は大人しくリビングでスターのアップルパイ作りを見守りながら、幻想郷での思い出とさっきの言葉で得た幸せに浸ることに僕は決めた。
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