幸せ四妖精   作:松雨

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今話はサニーミルク視点です。


悶絶する日精と月精

 元は異世界の妖精が作った里だった場所で、一緒に遊んでいた私たち妖精軍団。ピースのご主人のヘカーティア、霊夢たち3人と出会って合流してからは、それはもう盛り上がった。

 

 ただし、この大探検では皆が常に固まって行動している訳じゃなく、時々守護妖精とかの手がすぐに届く範囲内に限り、各々が気分転換がてら自由に行動することもある。

 

 タイミングは気まぐれ、自由行動の時間とかもその時の流れ次第で決まる。

 誰かと一緒に動くか、自分1人だけで動くかも当然気まぐれだし、途中で増えたり減ったりすることも、普通にあり得る。

 

 仮に予定をちゃんと組んだって、霊夢たちやヘカーティアはともかく、こんなに楽しい大探検で私たち妖精がその通りに動ける訳がないから、そうなるのも当たり前なんだけどね。

 

 そして今日も、スターがメノと守護妖精を連れてアップルパイを作りに一旦離脱したことをきっかけに、妖精の里のある階層での自由行動が始まる。

 霊夢や魔理沙、あうんにヘカーティアが居るから昨日やおとといより行動範囲が広げられるって、皆大喜びだったなぁ。

 

「スターとメノ、アップルパイ作り楽しんでるかな」

「愚問よ、ルナ! 何なら今頃気が散って、他のことして遊んでるかもしれないわ!」

「確かに。スターが気まぐれで色々決めて、メノが戸惑いながらも一緒に幸せそうに遊ぶ、そんな光景が頭に浮かんでくる」

「ただ、それを言ったら私もルナもスターのこと言えないけれど!」

「うん、否定はしない。今まで、何度途中で集中力が切れたことか」

 

 ちなみに、私はルナと2人で相変わらず、噴水広場周辺で駄弁ったり本を読んだりしながらのんびりと過ごしている。興味津々なのか、時々寄ってくるここの妖精の相手もしてるから、割と騒がしくはあるけど。

 

(今日は割とはしゃぎ回ってばかりだったもんね、ルナ。のんびり……できてる? 本当に、場所移さなくても大丈夫なのかなぁ)

 

 自他共に認めるドジっ娘で、貧乏くじを引くことが多くてもイタズラ好きで、妖精らしく元気にはしゃぐことだって好きな方ではあるルナ。

 だけど、基本的にはゆったり本を読んだり、コーヒーを飲みながらお喋りする方が好みなインドア派寄りの妖精なのだ。

 

 妖精の中では一二を争うくらいに大人しいとまで魔理沙に評されてて、幻想郷縁起では人ならざる者の中で人間に対し、最も安全な内の1人(危険度極低)とまで書かれているんだっけ。

 

「じーっ……」

「ん? サニー? いくら私でも、そんなにじーっと見られたら気になるんだけど」

「あはは! いやー、ルナって全然怖くないわね!」

「……?」

「ふと、幻想郷縁起を思い浮かべてね。メノって、ルナと同じで全然怖くないけど……力は強いでしょ? 危険度とかどうなるのかなーって思わない?」

「あー、そういうこと。合点がいった」

 

 ちなみに、メノを除いた私たち3人の危険度評価としてはスターがルナと同じで、私が1段階上の安全(危険度低)である。星や月の光の妖精と日の光の妖精とでは、著者の阿求的に後者の方が危険と思ったらしかった。

 

 ただし、スターもルナもわざわざ阿求に載せるよう言ったり、魔理沙や霊夢以外の人間に見せびらかしたりしないだけで、やろうと思えば能力でもっと色んなことができる。

 

 勿論、私と完全に同じことができるって訳じゃないけど、できることの数や凄さ自体は誤差程度でしかない。

 純粋な妖力量や膂力、弾幕ごっことか戦闘の技量的な意味でも殆んど互角、私がまあちょっと上くらいには居るにしたって、当然勝負を仕掛けて負ける時も多々ある。

 

(メノ、どうなるのかな? 幻想郷縁起に載ったら、私と同じくらいになるかも。ふふっ)

 

 となると、メノは最低でも私と同じくらいにはなりそう。何故なら、現時点でも純粋な妖力量に関してはチルノと同じくらい、つまるところそれだけなら私たちの中では最強だから。

 

 弾幕ごっこや戦闘の技量だって、私たちや魔理沙を筆頭に色々な面々から教わってて、メキメキ上達している。近い内に、チルノやピースにも勝てる時が来るかもしれないと思うと、何だか嬉しくなってきた。

 

 だけど、いくら私とて簡単には勝たせてあげるつもりなんてないし、スターとルナも同じだと思うよ、メノ。

 

「私が阿求だったら、最低でもサニーやチルノと同じ危険度にはするかな」

「やっぱり、ルナもそう思う?」

「うん。理由は色々あるけど、魔理沙に張り合える飛行速度持ちの妖精ってインパクトは、特に大きな強みでしょ」

「ええ! 飛行能力の高さに関連した二つ名が、もうあるくらいだし!」

「人間友好度の方は、あいつらのせいでちょっと怪しい。でも、何だかんだで私たち妖精軍団と似たり寄ったりかも……?」

「でなきゃ、霊夢や魔理沙は言わずもがな、咲夜とも仲良くならないものね!」

 

 弾幕ごっこ云々なんてことを考えつつこんな話をルナにしたら、私と似たり寄ったりな考えを伝えてきた。流石、昔から仲良しな家族(仲間)として一緒に暮らしてきただけはある。

 

 となると、仮にスターに対してこの話題を振った時の返答は、私やルナの考えと似たような感じになりそうだ。

 

 まあ、これは人里にメノを連れていけるようになってからの話になるし、そもそも一介の妖精である私たちがあーだこーだ言ったって、最終的に判断するのは幻想郷縁起の著者たる阿求。どう書かれるかなんて、あまり考え過ぎててもしょうがない。

 

 よっぽど酷いこと、例えばあいつらの行動にかこつけて危険度を上げ、友好度を下げ、でたらめを書いて無駄に恐怖や憎悪を抱かせるようなことがなければ、別に好きにしてもいい。

 

 メノの性格を考えれば、人里の人間にどう噂されようが気にしないだろうし、何なら知らぬ間に自分が酷い扱いを受けたことより、そのせいで私とスターとルナが傷ついたって方を気にしそう。

 

「何はともあれ、あいつらが居なくなってくれないと話は進まない。私たちも動いてはみたけど、結局大したことはできなかったし」

「悔しいけど、殆んどレミリア頼りだもんね。霊夢と魔理沙は立場上、あんまり露骨に肩入れできないもの」

「そう考えたら、レミリアとメノが相性良さげでよかったわ。でなきゃ、もっと面倒なことになってたのは間違いない」

 

 ちなみに、メノは喜怒哀楽の怒が抜けてるんじゃないかってくらい、今まで誰に対しても怒ったことがない。

 自分を、心が壊れかけるまで傷つけてきた前世の家族に対してさえ、「あの人たち」と他人行儀かつ嫌そうに呼ぶ程度で留め、乱暴な言葉遣いすらしない程には。

 

 ただ、厳密に言えば違う。まだここに来たばかりの頃でさえ、もし私たちが誰かに傷つけいたぶられたらなんて話になった時、そいつは絶対に許さないと静かに怒りを示したから。

 

 関係がより深まり、私たちを愛する家族として認めた今なら、どうなるかは火を見るよりも明らかだろう。メノが怒るなんて、天変地異よりも恐ろしく皆には映ると言ってもいい。

 

「サニー、ルナ! ただいま……あれ? あっ、自由行動中みたいねー」

「お帰り、スター! 随分と遅かったわね!」

「まあ、色々とあってねー」

 

 そんな時、私とルナの目の前に魔法のバスケットを持ち、妙にニッコニコなスターが大ちゃんの瞬間移動が如く現れた。勿論、守護妖精やメノも一緒だ。

 

 しかし、メノの方は昼寝でもしてて起きたばかりなのか、もう1つのバスケットを持ちながらちょっとふらふらしている。羽の色は安定と信頼の桜色だから、アップルパイ作りの途中でスターとはしゃいで遊んだりしたに違いない。

 

「さて、それはともかくとして……召し上がれ! 我ながら、最高の出来になった合作アップルパイよー!」

「「おぉ……」」

「もし、お腹いっぱいで要らなかったら無理しなくていいわ!」

「えー? そんな訳ないでしょ、スター!」

「うんうん。ちょうど、コーヒーのお供におやつが欲しくなってきたところだし」

 

 なんて考えながら、スターが持っていたバスケットを開いた瞬間、とっても甘くて美味しそうなアップルパイの匂いが、私とルナの鼻を突き抜けた。相変わらず、スターとメノの作るお菓子は匂いと見た目だけで美味しいと分からせてくるから凄い。

 

(……)

 

 大きさは手のひらサイズで食べやすく、見た目も紅魔館のおやつタイムで出されそうな、普通のアップルパイ。

 私としては、紅茶のお供に食べたい感じなんだけど、ここにはないので諦めよう。わざわざ紅魔館に貰いに行くのは面倒だし。

 

「いっただきまーす……むっ!?」

「え? サニー……ちょっと、どうしたの?」

「ふびゃぁぁぉぉ……まずまずまずぃぃ……!!」

 

 とまあ、こんな風に考えながら渡されたアップルパイを頬張る私だったんだけど、1秒後にはその選択を後悔する羽目になってしまう。理由は単純明快、私の知るありとあらゆる味が一気に襲いかかってきて混ざり合い、この世のものとは思えない何かになったからだ。

 

 ルナに分けてもらったブラックコーヒーは言わずもがな、わざわざ瞬間移動してまで家に来た大ちゃんに食べさせられた生のゴーヤとわさび、これらを遥かに超えるレベルの不味さ。

 

 心配してくれたルナには申し訳ないけど、何か言葉を返す余裕すら今の私にはない。こんなものを食べて、ある訳がない。

 

「ぶふ……あっはははは! さいっこうよ、サニー!」

「……なるほどね。スター()何か仕込んだでしょ」

「ご名答! 名付けて、虹色キノコ入りアップルパイ。ちなみに、丸々1本分のエキスを突っ込んであるわ!」

「うげっ。こんなに悶絶する程なの……?」

 

 案の定、やはりと言うべきか犯人はスターで、仕込まれたものはよく話に出てきていた虹色のキノコらしい。こっちを見て、お腹を抱え大声を出して爆笑するスターを見れば、すぐに分かった。

 

 まあ、この状況だったら仮にお腹を抱えて爆笑してなくたって、食べたのが私でなくたって、イタズラを仕掛けたのがスターだとは間違いなく分かるだろう。

 

(うげぇぇぇ……よく考えたら、妙にニッコニコだったわね……スター)

 

 してやられた訳だし、文句の1つや2つ言ってやりたくもなったけれど、未だに口の中に残る地獄の味のハーモニーが、それを全く許してくれない。

 

 いつだったか、物は試しで食べてみたスターがのたうち回るレベルで強烈な不味さだったという話に、絶対的な説得力が生まれた瞬間だった。

 

「という訳で、ルナ。あなたもこれを味わいなさいっ!」

「へ? スター、ちょっとやめ……うわわっ! わざわざ抑えつけてまでもごっ!? ふっ、あばばばば……うぇぇぇ……あまからにがすっぱしょっぱまずぅぅ……」

「わっと……ふふっ、やったわ! ルナは力ずくだったけど、これは大成功といっても過言ではないわね!」

 

 そして、スターはルナにもこれを食べさせるつもりだったようで、ドタバタひと悶着ありながらも激マズアップルパイを口に入れることに成功した。成功してしまった。

 

(うっわぁ……ルナ、御愁傷様……うっぷ)

 

 結果は、まさにご覧の有り様。ルナにとっても絶望的な不味さだった故に、抑えつけてたスターを弾き飛ばし、変な叫びをあげながら意味もなく走り回ったりと、凄いことになる。

 

 なお、私やルナが口をつけたやつ以外にもまだ、いくつかの激マズアップルパイが残っていたんだけど、数秒目を離した隙に全部が持ってかれていた。

 

 間違いなく、周りで私たちの様子を窺っていたここの妖精たちの仕業なんだろうけど、何に使うのかな。まあ、こんな劇物自分で食べる訳ないし、十中八九誰かへのイタズラだろうなぁ。

 

「ごめんね。大丈夫……じゃないか。おまじないをかけたこのお水で、少し和らぐかも」

「ぶはぁ! マシになったわ、メノ。流石ね!」

「ありがと。仕込んでる時のスターの楽しそうな姿見てたら、止められなくて……ごめんね、サニー」

「別に2回も謝らなくていいのに。いやまあ、あれをもう1度食らっていい訳じゃないけど!」

 

 悶えに悶え、ようやく少し落ち着けるまでに抜けてきたタイミングで、さっきまで静観していたメノが申し訳なさそうに差し出してきた水で口をゆすいだら、より一層マシになったから助かった。

 

 多少気持ち悪さが残ってはいるものの、これくらいなら全然許容できる。もう少し我慢していれば、綺麗さっぱり消えてくれる訳だしね。

 

「サニー、こっちは正真正銘普通のアップルパイだよ。食べて」

「もぐもぐ……ふぁぁ……味薄く感じるけど、美味しいことくらいは分かるわ! 後、ルナにも食べさせてあげて」

「うん……」

 

 で、正真正銘のメノとスターの合作アップルパイを食べながら、未だに悶えているルナに食べさせてとお願いしたら、眠たい目を擦りながらも青く光る泡のようなものを出して、優しくぶつける。

 

 水の囁きと同じ効果のある魔法なのだろう。目がうるうるしてはいるものの、見るからにリラックスの傾向を見せ始めたので、メノはそれを見計らってさっきの私と同じように魔法で出した水を渡し、同じように謝って、ちゃんとしたアップルパイを食べさせてくれた。

 

「あぁぁ、生き返るぅ……」

「……ねえ、ルナ。その、どんな感じだったの?」

「うーん……砂糖と塩と唐辛子とわさびとゴーヤとレモン汁を適当にがばっと混ぜて、その辺の野草を適当に突っ込んだ何かを食べた感じ」

「私も概ね同意するわ! まさしく罰ゲーム、もしくはお仕置きかしら」

 

 無論、ルナにもその水は効果を遺憾なく発揮、普通のアップルパイも併せて地獄のような味による苦しみから解放してくれた。

 

 ありがたいのはそうなんだけど、それにしても一体どんなおまじないをかけたら、こんな効果を持つようになるんだろうか。今度、忘れなかったらメノに聞いてみたいな。

 

「さてと……ありゃ。スター、居なくなっちゃったわ。それとも、逃げちゃった?」

「拘束してた訳じゃないし、そりゃそうでしょ。これだけ隙を晒せば、仮に私がドジを発揮しても逃げれるって」

 

 ちなみに、私とルナの悶える姿を見て大爆笑して満足したのか、それともイタズラの即座の仕返しを想定してか、気づいたらスターは居なくなってた。メノと守護妖精は、普通に置いてかれている。

 

 守護妖精はともかく、メノがキョロキョロ辺りを見回したり、辺りを歩き回ったりして探すような仕草を見せていることから、こっそり隠れて近くで様子見という線は消えた。

 

「それはそうと、逃げ隠れに徹したスターを見つけるのは至難の業。サニー、どうする? 探して仕返す?」

「いや、夜までのんびり待つわ。もしかしたら、諦めた後にしばらく遊んだりして、忘れたと思わせることができるかも?」

「なるほど。それなら効果があるかもしれない」

 

 という訳で、堂々とスターへの仕返しについてルナと話をすることにしよう。あそこまでしてやられて、やり返さないと思ったら大間違いである。

 

 しかし、同じようなことをして仕返ししようとしても、今日はスターは間違いなく警戒モードで居るから、多分すぐ察知して回避しちゃう。

 

(うーん。もう一声欲しいわ……そうだ!)

 

 イタズラは、やってる時にワクワクドキドキを感じながら、家族や友達と一緒にやるのが1番楽しいのだ。勿論、1人でやっていても楽しくはある。

 言わずもがな、イタズラが成功すれば気分も最高だし、失敗して返り討ちにされたりお仕置きされてもそれはそれで笑えるけど、できることなら上手く行った方が私としても嬉しい。

 

「メノ。私やルナと一緒に、スターにおっきなイタズラしましょ?」

「うん。いいよ、サニー……ふふ」

 

 なんて考えながら、ダメで元々とメノを誘ってみた私なんだけど、考える素振りすら見せずに了承されるなんて全然思わなかったから、一瞬思考が真っ白になった。

 

(メノも、こんな表情するのね……)

 

 ちなみに、そう答えてくれた時のメノが見せた表情や声のトーンは、スターが何か企んでる時や企みが成功して、喜びを抑えきれなくなってる時のものとそっくり。

 

 ことイタズラ関係に関しては、どうやらメノはスターに似る傾向にあるようだ。完全に精神が回復しきったら、スターのようにちょっと危なめでしたたかなイタズラをする妖精として、幻想郷内で有名になるかもしれない。

 

「サニー、自分で言っておいてびっくりしてる。私もだけど」

「そのね、サニーとルナがお話してる時から、お願いされたら頷こうって、僕決めてたんだ。びっくりしてくれるかなって」

「そりゃ、小さなちょっかい程度ならともかく、私とルナがやるつもりなのは大きめなイタズラだもの。驚くなって方が無理よ!」

「そっか。えへへ、嬉しいな」

 

 何にせよ、これでスターへの仕返しは成功したも同然だ。と、あんまり根拠のない自信を抱きながら、私もメノやルナと一緒に笑うのであった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。
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