スターが考えた、サニーとルナに虹色キノコ入りアップルパイを食べさせるというイタズラは、この上なく大成功に終わった。
ルナに対しては、最後は作戦じゃなくて普通に力ずくだったんだけど、本人が爆笑して大満足だったからよしとしよう。
なお、サニーとルナからの仕返しを回避するためか、スターは僕や翡翠の妖精さんを置いていつの間にか居なくなってた。
ルナ曰く、普段のイタズラの時にしれっと居なくなってたり、自分だけさも無関係ですと言わんばかりに振る舞って、お説教やお仕置きを回避しようと画策する時もあるから、特段あーだこーだ言うこともない。
(分かってたけど……えへっ。僕が居るだけでこんなに喜んでくれるなんて、嬉しいなぁ)
実際、2人というかサニーが僕を仕返しに誘ってきて、僕が頷いた瞬間キャッキャしながら盛り上がるくらいだし、スターが逃げなかったら多分すぐに始まってただろうなぁ。
まあ、その場合はイタズラ合戦というよりは、弾幕ごっこ的な勝負って風になりそうだけど。
「大作戦、上手く行くかしら……? できれば、上手く行ってくれると嬉しいわ」
「せっかく、メノが参加してくれてるんだもんね。成功体験でイタズラが楽しいって思ってくれるようになれば、夢の1つが叶うから」
「そうそう。私とルナ、スターにメノを加えたイタズラ
「えへへっ……もう、サニーは気が早いんだから。でも、そうやって喜んでくれるなら、僕が参加した甲斐はあったよ」
ちなみに、サニーが命名した『スターにイタズラ大作戦!』は、わさびと唐辛子の激辛爆弾で涙とくしゃみを止まらなくさせるという、スターのそれと遜色ない辛そうな内容だ。
そこでの僕の役目は、その過程で楽しそうで効果的だと思うイタズラを、準備も含めて自由に行うというもの。
手取り足取り自分たちが導くよりも、高ぶる気分のままにやった方が多分楽しいでしょとは、サニーの言葉である。
勿論、途中で何をしていいか分からなくなっても、サポートはしてくれるらしいから安心だ。
(ふむふむ……)
流れとしてはまず、皆が噴水広場に戻ってくる夜の時間までは、スターを探したりはせずにのんびり過ごす。
スターの能力は動く物の気配を探る、探しに行ったところで逃げられたり返り討ちに合う可能性が高いから。
「夜かぁ。サニー、一応他の皆にも察されないように少し気を付けた方がいい?」
「聞かれてもないのに、わざわざ言いふらしたりしなきゃいいわ!」
「うん、わかった。確かにそうだよね、サニー」
「もしかしたら、チルノ辺りは面白がって参加させてってお願いしてくるかも」
「そうなったら、凄いことになりそうだね。ルナ!」
次は、夜になって皆が戻ってきてからなんだけど、スターがまだ警戒していることを想定して、僕たちはさっきのイタズラのことを忘れているかのように振る舞う。機が熟すまで、待ち続けるのだ。
おバカなお遊びをしたり、チルノ一行や魔理沙たちと会話したり、ごはんを食べて楽しみつつ隙を窺って準備を行うのは、言わずもがな大変だろう。スターもイタズラのエキスパート、ちょっとでも油断したら多分気づかれちゃうし。
(ご褒美みたいだからなぁ……)
いつものように、メノがスターにちょっかい出したり甘えたりすれば、警戒を緩められるんじゃないかなってルナから出たアイデアも、実行を考えておこう。
そうしたら、幸せに浸り過ぎてイタズラを忘れるって本末転倒な展開にならないように、ちゃんと気を付けなきゃ。
後は、いつでも予想外が起こって流れを変えざるを得なくなるかもって、しっかり想定しておかないと。予想よりも早くスターだけが戻ってきたり、実は逃げたふりで今も更なるイタズラを計画してる最中だったりとか、他にも色々とね。
「
「じゃじゃーん! メノ、この袋に入ってるものはなーんだ?」
「えっ? それ、わさびと唐辛子……だよね? こしょうもあるみたいだし、どうやって用意したの?」
「私だよ、メノ。駄目で元々で守護妖精にお願いしたら、どさっと普通に渡してくれた。理想郷で栽培するつもりで集めたやつの一部だって」
それで、肝心のイタズラに使うわさびや唐辛子をどうするかについては、いつの間にかルナが翡翠の妖精さんにお願いしてくれたお陰で、あっさりと解決している。
(いつか、相手がスターじゃなくても、サニーたちと一緒にやるんだ……!)
サニーもイタズラ成就が既に決まったかのようにニッコニコ、ルナも笑顔で翡翠の妖精さんも2人や僕を見ていて幸せそう。
今に至るまで、サニーたちやチルノ一行の話を聞き続けてて、正直僕も参加したら面白そうって思ってた。
じゃあ、何で今まで参加しなかったのかと問われれば、少なくともイタズラはいいことじゃないから、やった
しかし、今日はサニーとルナのお誘いに乗りたいって思えた。色々と正当化できたって理由もあるにはあるけど、単純に怖さよりもやりたいって欲が勝ったから。
他の誰か、例えば霊夢がこれを聞いたら「いや、そこは勝たなくていいんだけど」って、呆れ顔で僕に言ってきそうとは思ったけども。
「わさびとこしょうはともかく、唐辛子に関してはそっくりな代用品なので……期待している効果があるか否かは、正直保証しかねないです」
「問題ないわ、2人とも! 駄目で元々だったんだもの!」
「そうだよ、翡翠の妖精さん。ルナも、僕とサニーの代わりにありがと!」
「どういたしまして。この程度、造作もありません」
「ふふん。私だってイタズラ好きな妖精、楽しめるならとことん楽しみたいもんね」
さてと、ここまでサニーとルナが楽しみにしているのだから、それに応えるべく頑張っていかなきゃ。
と、心の内でそう決意を固めたはいいものの、如何せん僕にはイタズラの経験が足りない。
例えば、お風呂でサニーの背中に冷たい水をかけたり、後ろからスターやルナの肩トントンして、振り向いたところでほっぺたに指をつんつんしたりみたいな、ちょっかい程度のものしかやったことがないくらいには足りないのだ。
ただ、サニーは「駄目で元々って思えば気が楽よ!」と、ルナも「仕返しだ何だ言ってたって、私たちも結局楽しみたいだけ」と、気負い過ぎないように声をかけてくれたから、かなり肩の荷を下ろせたけど。
「ぶっ……ぶぁっくしょん! げほっ、げほっ!! うぇぇ、作ってるだけで地獄みたいだわ……ルナ、あなたは大丈夫?」
「効果が保証されたも同然なのはいいけど、自滅してるみたいで辛いっ。タオルで鼻まで覆ったらマシになったけど……メノ、これどうにかなったりしない?」
「すんすん……びゃっ。考えてるから、ちょっと待って」
そんな感じの雰囲気の中、広場の隅でサニーとルナが早速準備を始めたのを皮切りに、僕もスターを落とす用の沼作りを始めたんだけど、チラ見してみたら大分苦戦しているところが目に入る。
こういう爆弾系のものを使ったイタズラは、サニーとルナもできない訳じゃないんだけど、十八番であるスターにはとても敵わない。勿論、僕はど素人故に根幹部分には手を出さないというか、そもそも手は出せないので、少しでも楽出来るようにちょくちょくサポートをするくらいはしている。
爆薬とかそれに類するものもなしに、自分たちの魔法やなけなしの知識やイタズラ技術だけで作ってるんだし、沢山失敗して辛い思いをするのも当然とはいえ、どうにか軽減させてあげたいなぁ。ルナが、僕にそう声をかけきてるし。
(材料、大丈夫なのかな……わぁ。翡翠の妖精さんが補充してくれた)
しかし、それでも翡翠の妖精さんや他の誰かの力を殆んど借りようとせず、基本的に自分たちの力だけで成し遂げようと凄く頑張っているし、こんな感じだけどとても楽しめているのは凄い。
翡翠の妖精さんも、そんな2人の姿を見てて時々爆弾作りをやってあげたくなってるみたいだけど、ぐっと堪えて材料の補充を時々やってくれるに留めていた。
というか、手伝いたくなるってことは、翡翠の妖精さんって爆弾作れるんだなぁ……何のために、そんな技術を磨いてきたんだろうか。
もしかして、辛く苦しい過去が関係してたりして。だとしたら、少しは僕やサニー、ルナがわちゃわちゃする姿で心の傷を癒してくれたのかな。
「うーん、うーん……そうだ! 思いつきだけど、えいっ!」
「「おぉ……!!」」
「ふぅ。えへへ、よかった。ごめんね、サニーにルナ。こんなに簡単なこと、すぐに思いつければよかったよ」
「大丈夫よ! それを言ったら、私とルナも思いつかなかったのだからおあいこだわ!」
「そうそう。とにかく、私とサニーのために思いついてくれてありがとう、メノ」
と、ここでようやく僕の魔法と大ちゃん直伝の風纏いで、上手いこと水の球ヘルメットを作り、2人の顔全体を覆って辛味成分を防いであげることを思い付く。
サニーとルナも含めて、口や鼻を覆わなくてもこの程度なら大丈夫でしょと、少し油断していたって理由はあるものの、誰でも思いつきそうな簡単なことを、全く思いつけなかったのはちょっと恥ずかしい。恥ずかし過ぎる。
でもまあ、そのお陰で涙やくしゃみで速度が落ちていた作業も、なくなってからは普通の速さに戻すことに成功してるし、よかったと言えばよかったかな。
「ん? おぉ、これは……あれ? ちょっ、粘着力強すぎない――」
単にやり方を間違えたからか、唐辛子の代用品がそういう性質を持つ食材だからか、製作途中から妙な粘着性を発揮し始めた爆弾に四苦八苦しながら準備を整えていた刹那、ふわりと柔らかなそよ風が辺りに吹く。
大ちゃんが、瞬間移動で至近距離に来た時に吹く風と全く同じ。その上放たれる雰囲気や妖力の質、微かに聞こえる声がもう2人……チルノとスターが一緒だと僕に教えてくれたのだ。
(ありゃま。サニー、ルナ、僕のいずれかを驚かせようってチルノと大ちゃんのイタズラに、偶然鉢合わせたスターが乗っかったってところかな? それとも、何やかんやでスターが促した?)
チルノと大ちゃんはともかく、この状況下でスターが一緒なのはちょっぴりまずい。完全に意味がないとは言わないけど、動く物の気配を探る程度の能力の精度が日々上がっていってるスター相手には、もう一声欲しいかな。
なのに、サニーが床にくっつくネバネバ激辛爆弾に慌てて動いてるし、そもそも無意識に能力を解除してれば、スターが居なくたってそこに僕たちが居るってことはすぐに分かる。
つまるところ、これが予想外の発生ってやつ。ルナも「もう意味ないか」と諦め気味に呟いて能力を解除するくらいには、イタズラ大作戦は予定を大きく外れている。
「やっと聞こえてきた。おーい、サニー? 前のめりになって何やってんの?」
「……うげっ、チルノ!? 大ちゃんとスターも居る!?」
「うおうっ!? えっ、そこまで驚く……? まあ、そのつもりで来たっちゃ来たからいいんだけどな!」
「ふふっ、よかったね。チルノちゃん」
「あはは! サニー、今日のあなたは凄く面白いわー!」
「むぅぅ~、スター! 笑ってる暇あるんなら、これ取るの手伝って!!」
「はいはい。本当、何やってたのかしらねー?」
しかし、サニーがこっちを一瞬向いた時に見せた表情からは、まだ諦めていないことがひしひしと伝わってくる。勝手な予想だけど、言葉に表せば「私のことは心配しないで!」かな。
であれば、僕もルナも諦めない。全然準備は整っていないけど、心の備えはしていたから慌てず騒がず、スターにイタズラ大作戦のことを察されないように動くまで。
とはいえ、ぶっちゃけできることはあんまりない。なので、スターがサニーの必死の演技に気を取られている隙を突き、ルナと一緒にチルノと大ちゃんを激辛爆弾から距離を取らせよう。
無論、何も知らない2人は最初はポカンとしていたものの、ルナがサニーの手元を指差しつつこれまでの経緯を併せて耳打ちして教えると、すぐに納得してくれた。
さて、後は何とかしてサニーも範囲外へと出してあげなきゃ。
「ちょっと待って。何か急に光り始め……サニー、まさかこれって」
「ご明察! 私とルナとメノ特製、激辛わさび入り爆弾! 激マズアップルパイのお返しよ、スター!」
「やっぱり……えっ? メノも一枚噛んでる――」
しかし、それは間に合うことがなかった。本当にギリギリのタイミングで、サニーの顔全体をあの水の泡で覆うことはできたけど、終わった刹那に大きな音と共に爆発してしまったのだ。
(びゃっ、こっちまで飛んできた……けど)
見た目こそ派手ではあるけど、爆発そのものの威力は僕を含む妖精を1回休みにするレベルにはまるで足りず、サニー曰く「スターたちの通常スペカの直撃を受けた時にも、全然及ばない程度にはできたはずよ!」とのこと。
絶対に安全という訳ではないけども、そのくらいなら流れ弾も大した威力じゃなくなるし、防ぐのもさほど難しくはない。大ちゃんも、小さな竜巻で吹き飛ばしに協力してくれたから。
「おー……サニーが、くしゃみと咳して涙を流しながら大爆笑してるぞ! メノが被せたあの泡、あんまり意味なかったみたいだな!」
「スターちゃん、バタバタしながら凄い叫んでる……ふふっ」
「計画は滅茶苦茶になったけど、仕返し自体は大成功っ! サニーもろとも巻き込んでいなければ、言うことなしだった」
ただ、爆発の威力こそ大したことがなくても、それに秘められた諸々の辛い食材や調味料の効果は絶大。
あのスターが、「ふぐっ!? のぉぉぉぉ……げぼげほっ……びゃあぁぁぁ……!」と、激マズアップルパイを食べさせられた、あの時のサニーやルナに勝るとも劣らない悶えっぷりを見せる程度には凄かった。
なお、その光景を見ているチルノは普通にニッコニコ、大ちゃんはこみ上げてくる笑いを堪えきれていないし、ルナは僕にハイタッチを求めてくるくらいには喜んでいる。これだけ見ても、仕返しイタズラは成功したと言ってもいい。
「ふぎゃっ!? ぺっ、ぺっ……何で、こんなところに沼があるのよ。当たり前だけど抜けないし、それでいて地味に首より上は埋まらない絶妙な深さって……普通、こんな気遣いする?」
「すぅ……くしゅん! それはメノ特製の手作り沼よ、スター! それにしても、初めての大がかりなイタズラに沼嵌めを選ぶだなんて、随分思い切ったわね!」
「げぼっ……ふぅ。サニーでもルナでもなくて、メノだったとはねー。げほげほ……してやられたわー」
しかし、生まれた成果はそれだけではなかった。サニーとルナの激辛爆弾が抜群に効き過ぎて注意散漫となったスターが、僕の作った沼に気づかずあっさりと引っ掛かり、首から下が全部埋まったのだ。
ひんやりとした泥の感触は気持ち悪いだろうし、簡単には抜けられないように色々と細工はしてあるけど、変に苦しめ痛めつけたりもしないように気を遣ってはいるから、心配はないはず。
(……)
勿論、ここに至れたのは数々の強力なお膳立てがあってこそ。でなければ、ここまで上手くはいかなかっただろうし、何ならあっさりと気づかれて避けられたというのもあり得る。
それでも、僕が僕なりに一生懸命考えたイタズラが普通に通用し、サニーたちを凄い喜ばせることができた。
なるほど、こういう時に自己肯定感が上がっていって、沸き上がる気分の高ぶりを強めに感じられるのなら、サニーたちがイタズラを楽しいと思うのも無理はない。
「ねえ、メノ。ちょっといい?」
「なあに? ルナ」
「今日のイタズラ、楽しかった?」
「……えへへ、うん! また、一緒にやりたいな」
そして、慈愛に満ちた微笑みを見せるルナからのこんな問いかけに、何の迷いもなく頷いてしまうのも、至極当然だったのである。
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