もう何日かは、わさびや唐辛子といった辛味が強い食べ物は、何であっても口に入れたくない。好きな人妖には悪いけど、あそこまで行ったらもはや痛みしか感じないもの。
何だったら、和食にしろ洋食にしろ料理の味の引き立て役として使われる細やかな辛味も、正直遠慮したいかな。ただ、仮に入ってたとしても、
「うへぇ。そりゃあ、見たくもなくなるよー。口はともかく、目と鼻は大丈夫?」
「心配ありがとう、リリー。メノの水魔法で何とか回復したから、もう平気よ」
「そっか……メノが、嬉々としてイタズラやってたなんて、今でも正直信じられないわー。小さなちょっかいから、大分すっ飛んだね」
「ええ。サニー曰く、何というかイタズラする時の私みたいな顔してたって。色々と、話を聞かせ続けたりしたからかしら?」
それで、何でこんなことを考えているのかと言ったら、まさしくこれらを使ったサニーとルナ、そしてメノのイタズラにまんまと引っ掛かったからである。
仕返しされるかもとは考えていたけど、あの後私とチルノと大ちゃんで出向くまで追いかけてくることもなく、それで案外諦めたか忘れたのかもと思っちゃったのが運の尽き。
お試しで虹色キノコを1口かじった時にも決して劣らない、純粋な辛味による攻撃を顔全体に受け、悶えに悶えたところにメノが作った妙にひんやりした沼に嵌まって動けなくなれば、あの場に居た皆に笑われたのもまさに必然。
自他共に認めるイタズラ好きとして、不覚を取ったと言わざるを得ない。
「きゃはは! そりゃ、やり返されても自業自得ってやつだぜ、スター!」
「うん。まあ別に、それ自体は仕方ないことと受け入れてるけど、本当にあの爆弾はヤバかったわー。ラルバも食らってみる?」
「いやいや、冗談キツいって。そんな話を聞いてなお食らってみたいなんて変人、幻想郷にも絶対に居ないわ」
「だよねー。今度、私も似た爆弾を作って……サニー、ルナ、メノ。次は私も一緒に参加して、魔理沙にやってみましょー!」
「私かよ!? って、メノ? お前、その意味深な笑みぶっ……辛っ! ぬぉぉぉ……この饅頭、例の激辛わさび入ってるだろ!?」
「「「ぷっ、あっはははは!!」」」
「順調に三妖精の影響を受けてるわね、メノ……魔理沙、大丈夫?」
「ごほっ……霊夢、全然大丈夫じゃねえって。今の私の口の中、どえらい大火事だぜ。やべぇ、涙と鼻水が止まらないんだが」
しかし、何も悪いことばかりではない。夜になって、自由行動から戻ってきたピースを含めた皆の笑い話のネタにもなってるし、私のイタズラのバリエーションも増やせる。
そして何より、メノがイタズラの楽しさに目覚めてくれたのが、私にとっては1番嬉しかった。今だって、私の悶えっぷりに味を占めたのか、魔理沙の口にわさび入り饅頭を押し込んで、見せた反応に対して笑うって反応を返しているんだもの。
(ふふっ……メノ、ありがとう。今日はとっても幸せよ、私)
悪戯好きな日の光の二つ名らしく、サニーが嬉々として語る光の四妖精で『イタズラ
サニーやルナと同じくらい、何ならそれ以上に待ち遠しく思う程の大きな私の夢が、達成に一気に近づく。
サニーのお願いがきっかけとはいえ、割と大がかりなイタズラを自分の意思で実行して私が引っ掛かれば笑える、それ即ちメノの精神が順調過ぎるくらいの回復傾向にあると、はっきり示されるも同義。
結果的には、よかったと言えるのではなかろうか。ただし、あの激辛わさび入り爆弾とやらを何度でも食らっていいってことでは、決してない。
「んにゃ!? ま、魔理沙……?」
「よーし、メノ。そういうイタズラする奴はな……こうだ!」
「びゃっ! ぶっ、いひひひひ……羽、根元は特にだめぇ……あっはははは!」
「……メノちゃん、相変わらずくすぐりに凄く弱いですね! 霊夢さん」
「ええ。にしても、これだとじゃれ合ってるようにしか見えないわね」
ちなみに、ちゃっかり魔理沙にイタズラを仕掛けていたメノは、普通に捕まって弱点のくすぐり攻撃で仕返しされてた。
皆に何度やられても、一切耐性がつかないくらいに弱いままという点は遺憾なく発揮されていて、相変わらず手足と羽をバタバタさせながら大爆笑している。
どうして全く強くならないのかについては、私たち三妖精や妖精軍団の皆も、霊夢や魔理沙を含む実力者の友達も最初は不思議がっていた。メノ本人やウルですら、首をかしげて「何でだろうね……?」って言うくらいだったし。
しかし、何度かくすぐりバトルで遊んでいく内に、実はこうなんじゃないかってレミリアやパチュリーが見解を示してくれた。
私たち家族や妖精軍団、魔理沙一行がくすぐりを行う場合は大概楽しい遊びの延長戦上の場合が多く、表情や仕草も幸せや楽しさを本人に感じさせるものになる。
そこに、前世の人間の男の子だった頃の酷い記憶持ちかつ、種族的に精神・概念寄りな妖精という絶対的な要素が合わさったことで、くすぐりはよいものと身体に無意識下で判断されたからではないかと。
「メノウの顔、見るからに真っ赤だわぁ。ピース、魔理沙を止めなくて大丈夫かしら?」
「大丈夫だぜ、ご主人様! ああ見えて、メノにはまだ喜べるだけの余裕があるから!」
「そうそう。下手なところで止めると、ニコニコしながらありがとって言ってくるわ。イタズラへの仕返し目的なら、止めちゃ駄目よー」
「……なるほどねぇ」
なので、くすぐりをメノとの勝負やちょっかいないしイタズラへの仕返し、これからもないとは思うけどお仕置きとして行う場合は、かえって喜ばれるだけになるため中途半端で止めてはいけない。
息遣いが明らかに荒くなってくるか、笑い声や手足・羽のバタバタが途切れ途切れになるか、見るからに弱くなるなど体力が尽きる寸前になって、ようやく止めるべきとなるのだ。
なお、そこに至るまでの時間は日によって全然違うものの、平均すれば相応に長い。そう考えると、ある意味耐性がかなり高いと言えるのかもしれない。
「はひ、はひっ……けほっ。僕、もう無理ぃ……」
「へへっ、私の根気勝ちだな。絶対じゃないが、何かイタズラをしたならば、そのイタズラで生じた出来事相応の仕返しやお説教をされる。それを頭に入れた上でやるならまあ、基本無理に止めやしないぜ」
「うん……けほっ、分かってるよ……魔理沙」
「だからと言って、しょっちゅうやるのは止しなさいな、メノ。後、あなただから大丈夫とは思うけれど……決して、相手にとっての譲れない一線は越えないこと。愛する家族や友達との絆に傷をつけたり、失いたくないならね」
「うん。霊夢の言う通り、僕はちゃんと理解してるから……」
と、魔理沙がかれこれ15分くらいメノを捕まえてくすぐり続けていると、流石に限界がやって来たっぽい。ここまで来れば、仕返しとしても達成したと言えるから、魔理沙もくすぐる手を止めてくれた。
メノの息は普通に上がってるし、暴れ続けたせいで暑いのか汗だく、疲れのあまり魔理沙に寄りかかってくでーっとしてる。羽の色は透明だけど、疲れの方が幸せなどの他の感情を大きく上回っているからだろう。
(魔理沙の方は……うん、流石。体力的にまだまだ余裕そうだわ)
この様子だと、高ぶった心が落ち着いてきた頃に一気に眠たくなって、そのままぐっすり寝るって感じかな。魔理沙と霊夢とのやり取りで、その傾向は顕著だし。
盛り上がってきたところだし、もう少し遊びたかったけどしょうがないわ。何より、メノの体調の方が大切だもの。
私たちのお願いであるならば、無理を押してでも聞こうとする危うさも未だ健在ではあるので、間違えてもお願いしちゃ駄目。遊びたかったなと小声でぼそっと言うのも、メノの耳の良さを考えれば避けた方が無難である。
何にせよ、早めに落ち着かせて寝かせてあげよう。汗だくだとか、土とかで服が汚れているのは気になるけど、ぐっすり眠って元気になってから能力を使えば綺麗にできるから大丈夫。
「魔理沙! メノを寝かせたいから、私に渡して!」
「おう。ほら、サニーが呼んでるから渡すぜ」
「わっ、サニーの膝枕……ふぁぁ、あったかいお日様……えへへぇ」
サニーも同じことを思ったのか、私やルナよりも先に魔理沙からぐったりしたメノを受け取ると、自分の膝に寝かせて頭をよしよしし始めた。普段よりもメノが甘えてきた時や、変な夢を見ちゃって寝れなくなった時などに、サニーがよくやる行為の1つである。
こと寝かせるという点においては、この行為はメノにとっても効果抜群。優しく撫でられるやいなや、心地よさそうに目を細めてあくびをしたのを見れば、誰でも分かるはずだ。
(幸せそうね、メノ。気持ちは分かるわー)
私やルナも、サニーに膝枕をやってもらったことはあるけれど、かなり疲れてたり眠い時だと本当にすぐに寝れる。メノの膝枕に勝るとも劣らないと、はっきり言ってもいい。
それもきっと、日の光の妖精らしく身体から放たれる、お日様のほんのりとした香りと暖かさが、ちょうどよく眠気を誘ってくれるからだわ。
逆に、眠気が全くない元気いっぱいの時だったりすると、多少リラックスできる程度に収まったりする。その前にじっとできなくて、結局効果を発揮しないで終わったりすることが多いけど、やってよかったとは思えるからいい。
「それじゃ、私たちは帰るぜ。ちょうどいいタイミングだしな」
「お帰りですか? よろしければ、皆様を入り口まで魔法でお送りしますよ」
「おっ、マジか。それじゃあ、お言葉に甘えてよろしく頼むぜ。守護妖精」
「了解致しました」
どこで覚えたのか分からない、子守唄を口ずさみ始めたサニーのお陰でメノの眠気が限界寸前まで強まった刹那、見守ってくれてた魔理沙がそう言って立ち上がった。霊夢やあうんも、それに続く。
夜になったら帰るって話になってたけど、何やかんやで夜になってからもしばらくは私たちと一緒に、沢山遊んで盛り上がってくれたのだ。お泊まりの準備も約束もしていない以上、流石にもう十分かしら。
「もう終わりかー。この仲良し軍団で遊んでれば、そりゃ時間も早く過ぎるよな!」
「そうだね、チルノちゃん。妖精軍団の皆も霊夢さんたちも、大好きなお友達だもの」
若干数名、チルノやピース辺りはもっと遊びたがっているし、ラルバや大ちゃんも少し残念そうに3人を見ていたものの、特に引き留めはしていない。
そりゃまあ、もう何年も遊べないとかだったり、会うことすらできない距離を離れるっていうならともかく、明日以降いくらでも遊んで話すチャンスはやって来る。
後はそう、いくら異変解決をそつなくこなせる程に強い魔理沙たちとはいえ、これだけ遊んでくれてるのに疲れないなんてことはない。
私が、家族であるサニー、ルナ、メノの3人と過ごす一時が必須なように、ゆっくりする時間だって必要なはずだから。
「じゃあな、魔理沙! 今度はお泊まりしようぜ!」
「霊夢さんもあうんさんも、今日はありがとうございました!」
「ええ。まあ、楽しめたなら良かったわ」
「はいっ! こちらこそ、とても楽しかったですよ!」
と、頭の中でそんなことを考えながら、守護妖精が用意した魔法陣の上に乗って帰っていく魔理沙たちを、私たちは皆で手を振って見送った。
ただし、メノだけはサニーの膝枕と頭なでなでによって既にぐっすりすやすやなので、お見送りはできない。わざわざ起こしてまで、お見送りをさせる必要も特にないもの。
だって、今日は特に可愛い寝顔で寝ているし、寝言でも私たちの名前を幸せそうに呼んでいるから。
夢の中でも、私たちに囲まれながら思う存分甘えてるか、遊びの続きでもしているであろう時に起こされるなんて、きっと嫌だろう。
(僕たち家族も、大好きな友達の皆も、ずっと一緒だよ……か。そんなこと、言われるまでもないわ。メノ!)
だけどまあ、その程度なら現実でも十分再現することはできるし、何ならもっと幸せな一時を味わってもらうことも簡単にできる。仮に無理に起こしたって、相対的に問題にはならないのだ。
「ところで、ご主人様はまだ居てくれる? あたいはもっと居て欲しいなぁ。いや、むしろ居て!」
「私なら暇だし、別にいいわよん。皆はどう?」
そんなこんなで、守護妖精の不思議な魔法により魔理沙たちが理想郷を立ち去っていく中、ヘカーティアはここに残るつもりでいるらしい。
理想郷でもっとやりたいことがあるというよりは、一緒に居たくて自身にべったり甘えているピースへの気遣いで、そう選んだって感じが強かった。
「別にいいんじゃない? 好きにしていいぞ!」
「私も同じです……えへへ。クラピちゃんも喜んでくれてるなら」
「いいよー! 神様にも、春のお裾分けしたいもの!」
「相変わらず元気ね、リリー! 私にはあまり分からないけど、ここって春の気配そんなに強いの?」
「いや、そこまででもないよー。ただ単に、あげて喜んでもらおうかなって思っただけ!」
「なるほどね!」
なお、チルノ率いる妖精軍団の皆も、サニーやサニーと一緒に寝ているメノを撫で始めてたルナも、ピースが甘えているっていうのもあるけれど、ヘカーティアが一緒なことに結構乗り気。
それに、今はぐっすり眠るメノともかなり相性は良さげなのもいい。初対面で緊張が高じた故の唐突なものとはいえいきなり抱っこを要求し、実際にされた時にも嬉しそうな表情を見せるくらいだし。
であれば、私も賛成だ。でなくても、私的には一緒に遊んでて楽しい神様って思ってるから、よほどのことがない限りは賛成していたとは思う。
「ありがとう~。ピース、よかったわねぇ」
「うん! えへっ……皆、ありがとうな!」
さてと、それならこれから何をして遊ぼうかしら。ヘカーティアが一緒なことに喜ぶピースと、サニーの膝上で相変わらず幸せそうに眠るメノを見ながら、頭の中で私は色々と考え始めた。
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