幸せ四妖精   作:松雨

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今話はレミリア視点です。


厄介事の終わり

 早朝の人里の商店街。本来であれば、行き交う里の人々や友好的かつ穏やかな里外の人妖もあまりおらず静かなはずのこの場所は今、異様とも呼べる雰囲気に包まれていた。

 

 喜怒哀楽や憎悪、意識せずとも感じ取れる程に強いこれらの感情が渦巻き、混ざり合い、形容し難い嫌な空気感。うちのメイド妖精であれば、これだけで近づきたくなくなると思えるもの。

 

 これらは、里の人間同士で向け合ったり、里外の人妖に向けられたものでもなければ、何者かが起こした異変による変化の一環が要因という訳でもない。

 

 ある時を境に外の世界からやって来ては、人里どころか方々に大小様々な害をもたらし、あの紫すらいずれ必ず無慈悲に去ぬべき存在として認めたとある2人の男女が、今日ようやく居なくなることに起因するのだ。

 

 言わずもがな、その男女とはメノウの前世での家族。何の因果か幻想郷にやって来て、今世でやっと掴めたメノウの幸せを破壊しようとしている、私が今最も殺したいと思った人間共でもある。

 

「まさしくこれは、針の莚。今までしてきたことに対する罪の精算としては、生温いくらいだわ。ねぇ、お姉さま」

「ええ。でも、これは前座も前座。人里のことも考えれば、まずはこれくらいがちょうどいいのよ」

「あはっ! これだけで終わるってその気にさせてから、私たちの登場で絶望のどん底に落とす……か。いい気味ね!」

 

 人里の人間の中では屈強な男に拘束され、周りを囲む多数の里の住人からこれでもかと怨嗟の声と憤怒の視線を向けられていた。その更に外側には、メノウの友達を含めた私の知る顔がいくつか見える。

 

 ここに至るまで、里の住人や知り合い(友人)による暴力行為は欠片も見られない。止められているというのもあるけれど、彼ら彼女らにはしっかりと理性を保てているからだ。

 

(はぁぁ……ふざけるのも大概にしなさいよ……!)

 

 一方で、今までの振る舞いが酷過ぎたせいで味方の居ない、まさしく針の莚な奴らは、こんな状況にも関わらずえらく醜く喚き散らしている。

 

 この期に及んで「あいつを出せぇ!!」「跪かせてやる!」だの、「当たり散らしたのは悪かったけれど、それもこれも私の駒が……」とか、よくもまあ言えたものだ。

 

 あまり調子に乗ったままでいると、私が計画する道筋にえげつないルートが追加される運命が見えたが、まあ教えてやる義理などない。むしろ、そのままそっちの方に行ってしまえと思っている。

 

「さっきから聞いてりゃあ……ふざけんじゃねえぞ、クソ余所者がぁっ!!」

「ごがっ!?」

「ぎゃっ!?」

 

 ほら、いわんこっちゃない。誰が見てもぶちギレていると判断するであろう1人の(青年)が、中々の速さであいつらの顔に同時に大きめの石を投げ、見事に当てる芸当を成し遂げたのだ。

 

 痛恨の一撃だったようで、当たった鼻や額からはそれなりに血が流れている。しかし、彼にとってはこれでも満足し得ないらしく、もう1度投げようとしていたけれど、すんでのところで踏ん張っていた。

 

 慧音が何か彼に耳打ちしたことで、心境に変化が芽生えたようである。

 

 私としては、彼ならばこの行動にも納得がいく。何てったって、うちのメイド妖精たちがこぞって遊びに行く駄菓子屋のおばあちゃん、その孫なのだから。

 

「手前らのせいで、うちのばあちゃんが生き甲斐を失ってんだよ! 色々と騒がしくも可愛げがある、妖精ちゃんたちと楽しくお話しするって生き甲斐をなぁ!」

「そんなクソ……ごぶっ!?」

「昔何があったかはよく知らねえが、妖精ちゃんのことが昔から凄い好きでさぁ。そんなばあちゃんの影響かな、俺もあいつらが来るのを楽しみにしてたんだよ。それを台無しにするどころか、無垢な妖精ちゃんを傷つけやがって……里のためにも、くたばっちまえ!」

「てめぇ……がっ」

 

 で、その後に拘束され跪かされている奴らの前まで歩いて近づくと、今にも殴りかかって殺すのではと言わんばかりの剣幕かつ、拳を握りながら辺り一体に聞こえる声量で語り始めた。

 その過程で、何の躊躇もなく両方の顔にパンチや膝蹴りを入れるものだから、一層流血が酷くなる。

 

 小さな人間の子供に見せるには厳しくなってきたこの光景、ピリピリした雰囲気が威圧的で怖いからか、いつの間にか殆んどの子がこの場から居なくなってたので、あまり心配には思っていない。

 

 そうなると、極一部残っている子たちは相当肝が据わっているか、恨みや怒りが単純に凌駕していることになるけど、まあ考えないでおこうかしら。

 

(そう……事が済んだら、真っ先に向かわせてあげるからね)

 

 発言通り、大好きな駄菓子屋のおばあちゃんを気の毒なくらいに、どんよりとさせたことへの怒りもあるんだろうけど、それ以上に彼自身も微塵の邪念もなく純粋に妖精のことが好きなのだ。

 

 サニーたち光の三妖精にチルノを含む妖精軍団、名有りも名無しも含めたうちの館のメイド妖精との思い出を口にする度、目から涙が溢れ落ちていってるもの。

 

 やはり、コイツらは許せない。幽々子と妖夢には、少なくとも人里の皆や私たちの被害に、メノウが前世で受けた分の被害を上乗せした分の苦痛を、しっかりと与えて欲しいって改めてお願いしておかなきゃ。

 

「そうだそうだ! こっちの親切や制約に漬け込んで、色々とやりたい放題しやがって! 外道が!」

「自分の子供すら1度殺してる奴らを里に入れてたなんて、恐ろしくて堪らないわ! これ以上放っておいたら、うちの子も何されるか……」

「メノウって妖精が可哀想過ぎる……謝れ! いや、やっぱ謝んなくていいからさっさと死んでくれ! で、2度と戻ってくんなよ!」

「慧音先生やレミリア嬢を侮辱した野郎共に、惨たらしい天罰を!!」

 

 短いながら強い感情の籠った、彼の言葉。カリスマの権化たる亡き私の父を想起するそれに、奴らへのボルテージが極めて高くなっていた人里の面々が、感化されないはずがなかった。

 

 早朝とは思えない程に辺りが騒がしく、罵詈雑言が飛び交うこの光景だけを切り取ってみれば、今から集団で襲いかかり五体満足では居られなくするか、もしくは殺してしまう寸前に見える。

 

 それでも、石を投げたり殴る蹴るなどの暴力的な行為をする人間が現れない辺り、さっきの彼が数発豪快にやってくれてるからよしとしたのか、単純に理性が強いのどちらかなはず。いや、どちらもかしらね。

 

「あはははっ! 見事なまでに顔がボコボコで傷だらけ、清々するわ!」

「顔だけ狙うって中々よ。彼の言葉を聞いてれば分かることだけど、相当腹に据えかねていたのね」

「本来は人里で事が済んだら、どこかに連れてって色々するつもりだったわ。でもこれ、もう私たちの出る幕なさそうね。パチェ」

「確かに。ただ、殺さない程度に1発軽く殴ったらどう? どのみち死ぬにしたって」

「お姉さま、ずっと我慢してたもんね。里の人間たちも慧音も、それくらいならきっと気にしないわ」

「……ええ」

 

 なお、純粋にやられた時の傷の痛みが強くてってのもあるんだろうけど、事ここに至ってようやく自分たちの置かれた状況を深く理解したのか、奴らは見るからに大人しくなっていた。

 

 謝罪の言葉もなければ態度すらも見せる様子はないが、前世のメノウを死に追いやり、人里での傍若無人な振る舞いを見ていたから分かっていたし、そもそもコイツらの謝罪など耳障りなだけ。

 

 何度でも言ってやろう。仮に何万何億何兆回謝られたとて、メノウを酷く傷つけたコイツらを許すことなど絶対にないし、むしろ苛立ちがその分だけ限りなく上昇していくだけであると。

 

「ねえ、貴方。最後の1発だけでいいから、その役目こっちに譲ってもらえると嬉しいわ」

「……ああ、レミリアか。貴女の頼みとあらば、聞き入れない訳にはいかないな」

「感謝するわ。その代わり……()()()メイド妖精の人里解禁は、楽しみにしてなさいよ」

「え?」

 

 ということで私は、最後の1発と称して再び殴ろうとする彼に声をかけ、明日すぐ1番仲良しだったモリオンたちを向かわせることをしっかりと誓い、その1発を譲ってもらったのだ。

 

 慧音や里の長老衆も、私のこの行動に言うことは何もないみたいなので、大手を振って1発ぶちかますことができる。

 

 無論、彼のように私が拳で殴ったり蹴ったりすれば、間違いなく殺してしまう。ビンタとかでも、今のボルテージが高まっている私がやれば同じだから、加減は間違えないようにしないと。

 

「無様だな。しかし、お前たちはこの程度で許されることはない……ふっ!」

「……っ!!」

「「うぉぉ……」」

 

 可愛い妖精たちと接する時の力、しかしそれよりは強く乱暴にするイメージで手を開いて振り抜くと、小気味よい音と共に奴らの顔に更なる傷を増やす。

 

 わざと彼がぶった箇所を狙って攻撃したので、見てくれは勿論凄いことになったけれど、手加減が上手くできたのか命まで届くようなダメージにはなっていない。

 少なくとも、この追放の式という名の恨み辛みを向ける会が終わり、幽々子と妖夢の下へ連れていくまでは持ちそうだ。

 

 ああ、でもこのまま血まみれの状態で連れていって白玉楼を汚すのは、2人に対して申し訳ない。最低限の止血と汚れ掃除だけは、連れていく前にちゃんとしておこう。

 

「ふぅ。スッとしたけど、ちょっと汚れちゃったわ。蹴りにしておけばよかったかしら?」

「どっちでも一緒だと思うが……まあ、レミリアが満足できたんならよかったよ」

 

 ちなみに、彼と私の報復を兼ねた攻撃によってある程度気が済んだのか、あれだけ怨嗟の声で溢れていた商店街広場は、嘘のように静まり返っていた。

 

 まあ、いくら恨んでいる相手とはいえ、幸いにもこの数ヵ月で死人が出た訳ではない。であれば、顔面が血だらけで唸っているあいつらを見れば、少なくともボルテージは下がっていくのも納得ね。

 

 そもそも、仮に出ていたとしたら今日に至るまで、こいつら2人がのうのうと生き長らえているはずがないか。まず間違いなく、親しい関係にある里の人間からの恨みを買い、遅かれ早かれ死んでいただろうから。

 

「レミリア嬢。こやつらのこと、後はよろしく頼みましたぞ」

「当然よ、長老。とは言ったけれど、止めは幽々子と妖夢にお願いしてあるのよねぇ」

「ん? ああ、あの亡霊のお嬢様方か。それはどうしてだ?」

「怨霊対策。万が一の可能性も封じておかなければ、でしょう? 人間にも相応の害はあるけど、人間以外にとってはより一層有毒なのよ」

「なるほど……確かに、たった1人の妖精ちゃんに抱く恨みとしては異常そのものか。全く、最後まで面倒な奴らだ」

 

 と、呻くこいつらを尻目に彼と会話をしていた刹那、慧音と一緒に歩いてきた里の長老が、とても穏やかな表情で私にこう話しかけてきた。憑き物が落ちたと、そう言いたげな感じで。

 

 無論、時が来た以上はこいつらを生かしておく理由なんてない。誰に言われずとも、幻想郷から永久に排除するために動くのは確定事項だもの。

 

(本当なら、私が気づいてやるべきだったのにね)

 

 なお、この話をこいつらの前でして大丈夫なのかと、油断してうっかり死なれないのかと問われれば、自身を持って大丈夫だと言える。理由は運命が、こいつらは幽々子のところに持っていくまで死ぬことがないと告げてくれているから。

 

 現に、私たちの会話を聞いてたこいつらの様子を見て、慧音や彼がそれを想定して先手を打ってくれているもの。

 

(こいつらへの煮え滾る怒りで、広くあるべき視野が狭まっていた……反省しなきゃ)

 

 万が一というか、億が一が起こった時も想定してはいたからこそ、対処がある程度可能なフランや咲夜、パチェに美鈴、こあといった主力陣を連れてきている。

 

 言わずもがな、それを突破されたとしてもまだまだ対策はいくつもあったけど、全て使わず無駄に終わってくれた。

 白玉楼に連れていくまで完全に気を抜くことはできないけど、今日の大きな山場は越えたと断言はできるだろう。

 

 ようやく、私たちにとってある意味厄介極まっていた()()を、終わりへと導ける。

 そして、友人でもあり大切なメイド(家族)でもあるメノウの(精神)に、呪いの如く絡み付く悪しき運命の鎖を断ち切る準備が整う。

 

 ここ最近で、最も喜ばしく思える事柄である。他のメイド妖精たちのように、何も考えないでただ単にはしゃいで遊びたくなるくらいには。

 

「あい分かった。であれば、儂らの代わりに厄介者の対処をしてくれて感謝していると、伝えておいてくれるか?」

「ええ、勿論伝えておくわよ」

「ああ、それと……今の内に言っておく。人里のために、こうして動いてくれたからこそ、この程度で済んだ。レミリア、ありがとうな」

「お互い様ってやつよ。人里がよろしくないと、私たちも凄く困るもの」

 

 しかし、心の中で喜ぶのも一旦ここまでにして、気持ちをしっかりと切り替えよう。何事も1番、今みたいに達成目前で気が緩んでいる時に限って、失敗しがちなものであるのだから。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。
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