幸せ四妖精   作:松雨

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今話はフラン視点です。


やるべき最後の一仕事

 お姉さまは、自分にとって何か嬉しい出来事が起こった時の喜び方が、館の妖精にとても似ている。

 翼を忙しなくパタパタさせたり、ニコニコで大はしゃぎしたり、鼻歌をいつでもどこでも歌い始めたり、家族や友達にそれについて色々教えに行ったりするところとか。

 

 無論、起こった出来事やその時々の気分とかで細かい部分は変わるし、理性に関しても流石に妖精よりは強いので、場を弁えることくらいは普通にできる。とは言ったけど、何だかんだで抑えが効きにくくなっていることは多い。

 

 だから、私としてはその度にもう少し落ち着いたらどうなのと思わなくもないけれど、お姉さまが喜ぶところを見るのは好きだし、そんなお姉さまを見てる館の皆も幸せそうにしてるから、是非ともそのままでいて欲しくもある。

 

「幽々子、妖夢……本当にありがとう! これでようやく、うちのメイド妖精たちに我慢させずに済むわ。メノウの前世のしがらみも、断ち切れる……!」

「どういたしまして。こう言ってはなんだけど、大分楽だったわ~」

「そりゃ楽ですよ。普通の人間に、幽々子様の能力が対策できる訳ありませんし」

「それどころか、並大抵の人妖にも対策できる力じゃないわ! 幽々子に狙われて生き延びれるのなんて、幻想郷でも一握りよ!」

 

 で、どうしてこんな分かりきったことを今更改めて考えてるのかといったら、今まさに私たちや幽々子、妖夢の前でお姉さまが妖精のように喜ぶ様を見ていたからである。

 

 そりゃあ、お姉さまは紅魔館勢の中でも1番メノウを好いているし、間接的に館のメイド妖精たちにも害を与えていた奴らが、幽々子の能力でじわりじわりと回避や抵抗が不可能な死に怯え、もがき苦しむ様を見届けられたのだから。

 

 死の寸前、この期に及んで命乞いをし始めた時なんかもう、満面の笑みを浮かべてたし。蔑むだけ蔑んで、プライドも何もかもズタズタにしてから止めを幽々子が刺したっけ。

 結局、安全圏からメノウを奴隷扱いして自分たちが得したいだけの、ろくでなしだって改めて示されればそうもなるか。

 

「これでもう、今世のメノウが脅かされることはなくなった。喜ばしいことこの上ないわ」

「そうね、フラン! ああ、本当に素晴らしい日よ!」

 

 人間の男の子だった頃のメノウを死に追いやった要因を作り、今世では妖精となってようやく幸せを掴んだメノウに、魂に巣食う呪いの如く近づこうとしてきた人間共。

 

 あんなのが実の両親だとお姉さま経由で知ってから、メノウが三妖精の面々をまるで実の姉であるかのように扱い、愛情を求める姿がより一層焼き付いて離れない。ため息だって沢山出てくる。

 

 そう考えると、私やお姉さまの亡きお父さまとお母さまは、あんなのと比べれば圧倒的にマシというか、比べることすらおこがましいわ。不器用だったけど、愛してもらっていたもの。

 

 だからせめて、当時はもう少しちゃんと向き合っていればよかったなと、今更ながら思う。

 

「よかったですね、妹様」

「そうね、美鈴。誰かが死ぬところを見て、ここまで心が晴れやかになるなんて……私も大分、メノウに絆されてるって訳か」

「メノウちゃんはこう、不思議な魅力のある妖精ですから」

「ふふっ、違いないわ」

 

 ちなみに、喜び方こそ十人十色だけれど、お姉さま以外も当然奴らの死を大層喜んだ。無論、私も嬉しくて堪らない。

 

 美鈴が言うように、メノウはメイドとしての能力が高いこと以外にも、その穏やかな性格や可愛らしい仕草とか、人妖問わず引き付ける魅力がある子だから、こうして皆が心から喜べる。

 

 紅魔館以外にも、立場故に露骨な肩入れがしづらい霊夢や魔理沙。

 愛する家族として、共に魔法の森の妖精大樹で暮らすサニーとスター、それにルナ。

 文字通り妖精の中で最強のチルノを含めた、幻想郷でも有名な妖精軍団辺りは、メノウの安寧を確実なものにできたことに対して、まず間違いなく大喜び。

 

 香霖堂の霖之助にアリス、幽々子や妖夢、鴉天狗の文、霊夢と一緒に暮らすあうんだって、メノウと親交がある以上は同様に喜んでくれるだろう。

 

「あー……喜んでるところに現実を見せて悪いけれど、まだ最後の大仕事が残ってるわ」

「メノちゃんへの事情と経緯説明、ですね。パチュリー様」

 

 とはいえ、パチュリーやこあが言うように人里解禁をする以上、絶対に避けて通れない最大の課題がまだ残っているから、喜びの中にも引っかかりがある。

 

 色々説明した時に、メノウの心に巣食うトラウマがどれだけ刺激され、どんな反応を見せるかが想定しづらいからだ。

 

 どうでもいい話を聞いた時みたいに、全然平気かもしれない。

 サニーから聞いた、いつぞや1人でお出かけした時くらいの、耐えられるけど強めな緊張感が襲いかかるかもしれない。

 自分が前世で人間の男の子だったと、皆に言う寸前と同等かそれ以上の、身体的な苦痛を伴う精神的負担を負うことになるかもしれない。

 

 他にも色々と、数多もの予想ができてしまう。もしかしたら、私の予想なんて軽々と超えるような事態が起きる可能性も否定はできない。

 

(お姉さま……)

 

 そうは言っても、これは未来を能力で見通せるお姉さまが悩み選んだ道だから、信用はできる。

 相当馬鹿なことをしていたり、逆に私たちがどう考えてもおかしいってことをしない限りは、運命が大きく変わることはないのだろう。

 

「はぁぁ……どうしたものかしら。メノウにとって奴らは、一瞬たりとも見聞きしたくない輩なのに」

「この手の話題って、どうしたってデリケートですものね。ウルちゃんが居ますけど、あの子を以てしても恐らく相応に体調は崩してしまうでしょうし」

「そう。妖夢の言う通り、いくら強力無比な守護霊とて限度はある……本当なら、メノウだけは年単位で人里禁止にしたいわ。精神が回復しきるまで」

 

 しかし、お姉さまが能力で見て真剣に考えて選んだ道とはいえ、不安なものは不安。恐怖やら不安といった感情から羽を青く光らせ、ブルブル震えて泣いたりするメノウなんて見たら、こっちまで心が痛くなる。

 

 付き合いこそ館の誰よりも短いものの、それを感じさせないくらいに一緒に居ると楽しいのだ。幽々子や妖夢と話しているお姉さまたちだってそうだからこそ、悩みに悩んでいる訳だし。

 

 特に、ここ最近メノウはほぼ毎日が幸せの頂にあり、羽を桜色に光らせた状態を維持しているから余計にそう。

 私だって、メノウにこのことを説明せずに人里解禁しても問題がないのなら、例え面倒でもそっちの道を確実に選んでいたに違いない。

 

「咲夜。例えば、メノウとスターの休みが単純に倍くらいに伸びたら、館の仕事はどのくらい大変になる?」

「そうですね……お嬢様のお食事に、虹色のキノコを盛りたくなるくらいには」

「えっ。それ、スターがイタズラに使うやつ……」

「冗談です。ただまあ、私が時間止めて休憩する頻度は確実に倍以上になりますね……おや? 妹様、どうかしました?」

 

 すると、パチュリーと話していたお姉さまが、唐突に咲夜へこんな話題を振ったのを聞いた。内容がいきなりガラッと変わったものだから、私も思わず2人の方に顔を向けてしまう。

 

(……なるほどね)

 

 メノウとスターは、掃除に洗濯、料理に裁縫などの家事能力に関しては、咲夜に勝るとも劣らない。妖精らしくはしゃぐことこそあれ基本的には真面目な働き者で、紅魔館になくてはならないメイドと化した。

 

 咲夜やノーゼやスフェの負担を大きく減少させ、ゆっくりぐうたら休める時間を増やせたこと。

 他のメイド妖精たちのモチベーションを上げて、全体的に紅魔館をより活気付かせたこと。

 

 これだけでも、2人がなくてはならない雇われメイド妖精として認められる理由としては、十分に大きい。

 

「お姉さまがメノウとスターの休暇中に出向いて、事情の説明やろうとしてるのかなって」

「なるほど……そういうことでしたか、お嬢様」

「まさにその通りよ。ただ、それをやるにあたっても問題があってね」

「やっぱり。覚悟はしてても、抵抗感は強い?」

「ええ。どのルートでもメリットとデメリット、総合的にはほぼ同等だからこそよ。メノウも当然大切だけど、他の皆も同じくらい大切だから悩ましいわ」

「まあ、それはそうね。何より、メノウ自身が紅魔館の皆を身内に近しい、そんな存在として扱っているのだし」

「間違いありませんね。メノウですから」

 

 そして、唐突にメノウとスターの休暇を伸ばすって話になった理由も、案の定私が予想した通りのもの。言葉では勿論、表情や仕草でも悩みに悩んでいるのがよく分かる。

 

 何せ、こちら側にどういう意図があったとしても、せっかく妖精軍団の皆で仲良く楽しく遊んでいるところに、激流の如く水を差す(流す)行為に他ならない。

 

 特に、メノウ自身は言わずもがな、三妖精や前世からの守護霊であるウルにとっては、水を差すどころではないだろう。話をしてきた相手が誰であれ、条件反射で攻撃しても無理はないレベルだ。

 

(……)

 

 だけど、メノウが受ける精神的負債(トラウマ)を少しでも軽減させ、後に引きにくくするというメリットがある以上は、一考の余地はある。

 

 しかし、せっかく今世で妖精となり、サニーたちとの出会いを経てようやく得た幸せの貯蓄を、ここで一気に減らしかねないというデメリットもあるから、お姉さまも唸っている訳だものね。

 

 本当は、数年とか数十年単位って時間が使えたならよかったけれども、そう上手くもいかないか。

 

「お嬢様。でしたらやはり――」

「必要とあらば、うちの妖夢を出張させるわ~」

「幽々子……? 私が言うのもなんだけど、妖夢の意思は確認した方がよくないかしら? というか、優秀な従者が居なくなって大丈夫?」

「勿論大丈夫よ~。妖夢程は優れていなくても、優れてはいる幽霊は割と豊富だもの。紅魔館には負けるけれどね」

 

 なんて思いながらお姉さまと話をしていた刹那、幽々子が誰も考えていなかったことを口にしたから、一瞬静寂が辺りを支配した。名前を出された妖夢なんか、主の発言が予想外過ぎたのか呆けた顔をしている。

 

(メイドの妖夢……)

 

 確かに、妖夢が紅魔館に来てくれるのであれば申し分ない。この白玉楼を幽霊たちの助けを借りているとはいえ、基本1人で回せるだけの家事能力があるから。

 

 それ以外でも、異変解決後の宴会や館でのパーティーなどに参加した際、時々主力級の助っ人として活躍してくれている。霊夢も咲夜も、揃って太鼓判を押すくらいと言ったら分かる人は分かるはず。

 

 メイド妖精たちとの相性も悪くないどころか、むしろいい方だから尚更だけど、性格が性格だから多分よくいじられたりして、それはそれで騒がしくはなるんだろうなぁ。

 

 で、そんな様子を少しニヤニヤしながら、遠くから見て楽しむお姉さま。うん、これはもう決まったわ。

 

「レミリアさん。私なら別に構いませんよ。まさか行けと言われるとは考えていなかったので、少し驚きはしましたけど」

「あらそう? えっと……咲夜、ノーゼ、スフェ。色々なお詫びも込めてメノウとスターの休みを倍に延長する方針で、いいかしら? 勿論、様子次第では当初の予定通りになるかもしれないけど」

「妖夢が来てくれるのなら、尚更否定する理由は見当たりません」

「あたしもそれでいいですよー。まあまあ付き合いありますし」

「妖夢とおしごと! わたしもいいですよっ!」

「ふふっ。それなら、私も相応に頑張らないとね。紫とメノウの対談、この調子だと休暇中になりそうだから」

「「「あー……」」」

 

 案の定妖夢と咲夜、ノーゼとスフェの賛成も得られたことで、お姉さまは当初の予定から今日舞い降りてきた予定の方へと、吹っ切れたかのように舵を切った。

 

 しかし、それにしたって今理想郷へ行こうとするのは、嫌なことを早急に終わらせておきたいって気持ちは分かるけれど、いささか急過ぎはしないだろうか。

 

 ちなみに、メノウやスターが他の妖精軍団と共に未だ理想郷に居ると、2人の休日が終わるまで居続けるとの情報は、昨日遊びに行った霊夢とあうんと魔理沙からお姉さまへともたらされている。

 

 現状、幻想郷の探検には制限がかけられている以上、あまりの広さに未だメノウですら探索しきれていない理想郷が、長い休日の妖精軍団の遊び場となるのも当然の摂理か。

 

(交友関係がとんでもないことになってきてるわねぇ。メノウ)

 

 後はそう、地獄の女神(ピースの保護者)であるヘカーティアがメノウたちへと合流し、何だかんだ仲良く遊んでいるって情報もあったなぁ。まさか、この短期間で神とお友達になっていたとは流石に私も思わず、柄にもなく変に驚いたっけ。

 

 ピースと親友レベルで仲良しな以上当然といえば当然なんだけど、ヘカーティアにいい意味で目をつけられるなんて、本当に凄い子だわ。

 

 現状警戒気味な紫とも、対談後にはなんやかんやで仲良しな友達として、普通に接する光景が目に浮かんできた。

 

「さてと、思い立ったが吉日。早速……と、言いたいところではあるんだけど、一旦館に帰るわよ。こんな状態でメノウに会えば、不必要に不安を与えかねないわ」

 

 ちなみに、ここへ奴らを連れてくる段階でも、到着してからも死なない程度に痛めつけたりなどしてた影響で、多かれ少なかれ私とお姉さまからは人の血の匂いがする。血そのものは、ちゃんと綺麗に取り除いてはおいたけど。

 

 美鈴たちだって、血の匂いはほぼせずとも奴らの死の直後で気が立っているし、このまま行けば雰囲気に敏感なメノウに余計なプレッシャーを与えかねない。

 

 もしくは、自分に対して怒っているから来たのではと、とんでもない誤解を招く可能性すらあるだろう。お姉さまはそう考えているからこそ、私たちにこう言ったのだ。

 

「ええ、分かったわ。こんな状態でメノウに会うなんて言語道断だものね、お姉さま」

「それはそうね。レミィの言う通りだわ」

「ありがとう、皆。妖夢の方は……そうね。準備ができたら、館に来てくれると助かるわ」

「分かりました。準備ができ次第向かいますね」

 

 無論、お姉さまのその発言に異を唱える私たちではない。どのみち、館でやるべきこともまだいくつかある訳なんだから、一旦休息も兼ねて帰ることを決めたのであった。




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