幸せ四妖精   作:松雨

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今話は前半がレミリア、後半が上白沢慧音視点です。


戻り来る活気

 ここ最近で最大の悩み事である、メノウが前世で両親だったという人間2人の、幻想郷からの完璧な排除。

 

 最後の仕上げとも言うべき、最難関課題こそまだ残ってはいるものの、少し一息をつけるくらいには心が軽くなっている。

 

 最も理想的なタイミングで解決できたのも、方々で私に協力してくれた全ての人妖のお陰なので、いずれ必ずお礼をしなければならないだろう。

 

 さて、誰にどういったお礼をしようかしら。ある程度時間を使ってでも、しっかり考えておかなければ。

 

「流石です。こうもすぐに集まってくれるとは、普段の立ち居振る舞いが皆の心に響いている証拠です」

「ふふっ。改めてこう、元気いっぱいで可愛い妖精(家族)たちに好かれているって示されると、元気が出るわ。勿論、咲夜たちも同じで私の家族だから、これからも着いてきてね」

「勿論です、お嬢様」

「当たり前よ、レミィ」

 

 事を済ませて館に帰って来てすぐ、皆で軽く入浴して血の匂いと汚れを落とし、1時間程度休んで英気を養ってからまず私がやったのは、エントランスホールにメイド妖精を全員集めるという行為。

 その理由は言わずもがな、人里の解禁宣言を含めて今まで固く禁止していた訳などを、全員に説明する必要があるから。

 

 メノウのように、奴らに対して特大級のトラウマがある訳ではないため、幾ばくかは心は軽くて楽だ。

 ただし、メノウが前世の家族に奴隷的な扱いを受けていた(いじめられていた)こと自体は知っていて、なおかつメノウとも皆仲が良い。

 

 そんな皆がこの事実を知ったならば、どんな反応を示すかは想像に難くない。

 

「わははー、全員即座に集まれなんて珍しいね! うち、お仕事放り出してきちゃった!」

「そりゃ、すぐに集まれって言われたら、お片付けしてる暇ないでしょ。ところで、流石に火はちゃんと消したよね? ボヤ騒ぎは勘弁だわ」

「勿論! いくらうちでもそこまでバカじゃないもんね!」

「なんだろなんだろ? 紅魔館のパーティー?」

「ううん、きっととってもしんけんなおはなしよ! パーティーだったら、いつのまにかはじまってるわ!」

「そっか! まあそうだよね!」

 

 だからこそ、何か楽しいことでも始めてくれるのかと、ニコニコで仲間とはしゃいだり期待の眼差しを私に向けてくるメイド妖精たちには、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

 しかし、これを理由に説明を止めるつもりは一切ない。ここでは何も言わずに人里へ行ってから色々知ってしまうのと、前もって伝えておくのとではかかる負荷が大きく違うから。

 

(ふぅ。さて、始めましょうか)

 

 とはいえ、周知の通り妖精という種族は例外こそあれ、基本的には無邪気な子供に精神性が酷似している。うちのメイド妖精に関しても、大なり小なりこの法則に則った精神性を持っている。

 

 あまりにも直接的な刺激が強い表現をしてしまえば、心を抉り取るレベルの不快感を植え付けるだけで意味がないので、ある程度柔らかくなるように気を遣う。

 

 それでも、無邪気なメイド妖精たちには刺激が強いのではと指摘されれば、全く以て否定はできないくらいにはなってしまうけれど。

 

「ごめんねぇ、殆んど楽しいお話じゃないのよ。でも、とても大切なお話だから、できたら最後まで聞いて欲しいわ。勿論、気分が悪くなったら無理しないでいいからね」

「はーい! ほら、やっぱりすごくしんけんなおはなしだった!」

「気分が悪くなるかもしれない程かぁ……うん。さて、レミリアさまが真剣なお話するよー! 皆、静かにしよーね!」

 

 で、比較的察しのいいメイド妖精の一声で静かになったところで、一呼吸置いた後に私は口を開く。

 嘘の理由で、今まで人里へ遊びに行くことを禁止していた事実の公表と謝罪、正真正銘の禁止理由についてを。

 

(メノウ……)

 

 瞬間、エントランスホールが一気にざわつく。当然だけど、いつもの楽しくはしゃぐような感じが微塵もないざわつきだ。

 

 メノウをいじめた人間が幻想郷に来ていたことへの驚愕や、我慢させられていた理由への納得の声。

 どうして今、自分たちにこの話をしようと思ったのかという深い疑問の声とか、他にも様々な声でいっぱいだ。

 

 しかし、それ以上にその人間たちに対する煮えたぎる怒りや、仲間であり家族であるメノウに対する深い同情の声の方が、私には大きく聞こえている。

 

 後はそう、メノウへの同情の声に劣らないレベルで、人里の親しい人間に対しても同情の声があげられていた。総合的にはメノウに劣れど、自分たちに良くしてくれた人間も相応に被害を受けていた訳なんだし、考えずとも分かるか。

 

「レミリアさまっ! そいつは、そいつらはどうなったの!? 死んだの? 生きてるの!?」

「しろちゃんをいじめてたやつなんて、みたくないもん! いなくなってるよね!? いたらいやだよ!」

 

 そして、言葉を選びながらも話を続けて一段落つくかどうかとなった瞬間、メノウと最も仲良しなお騒がせ2人組を含む数人のメイド妖精が、強い口調でこう問いかけてくる。

 館の主力陣以外で唯一、人里にあいつらが居ることを知っているモリオンも、そうでないシャーネットも仲良い相手への共感の度合いが最も高い子たちだから、至極当然の振る舞いね。

 

 視線を全体に向けてみれば、モリオンやシャーネットたち程でなくともそう考えている子は多いようで、私への注目度がグッと上がったのを実感した。

 

 無論、この感情の込められた問いに対する答えは『死んだ』である。最後の止めこそ幽々子や妖夢によるものではあるが、それまでを含めれば私たちが完全に殺してきた訳なんだから。

 

 それはそうと、話の構成を間違えた感じが半端ない。やはり、今まで無理し過ぎて疲れているということかしら。

 

「言わずもがな、しっかり死んで消えてもらったから安心しなさい」

「本当に? しろちゃん、もう泣かされなくて済むの……?」

「ええ! もう2度と、どのような形でさえ現れてメノウをいじめたり、苦しめたりできないように何重もの対策は打ってあるわ。人里の人間に対してもね」

「わぁ……うふふ、いぃやったぁぁ……シャーネちゃん!!」

「わっ、モリオンちゃん……えへへ、うん!」

「「「ーー!!」」」

 

 頭の中でそんなことを考えつつ、そいつらがもう完全に死んで居なくなったことを伝えると、モリオンとシャーネットはお互いに抱き合ってきゃっきゃしながら大喜び。

 他のメイド妖精たちも、2人に負けず劣らず喜びを全身で表現したり、何言ってるのか分からないくらいやかましく叫んでみたりと、私までほっこり。

 

 それでいて、今までメノウと同じカバーストーリーを流布していた都合上、咲夜が悪口などのせいで傷ついた事実が全て嘘だったという真実にも喜ぶ声が、遅れて皆から上がり始めてきたのも最高だ。

 

 よくイタズラしてお説教されている子が、ニッコニコで咲夜に抱きつきながらお芝居でよかったという旨の言葉を投げかけて、それに対し本人が嬉しそうに頷く場面なんか、下手な感動系の物語よりも感動できるのではなかろうか。

 

(……ふふっ。やはり、メノウをうちに招き入れたのは正解だったわ。こんなに、メイド妖精たちを笑顔にしてくれたんだもの)

 

 ここで普段なら、大はしゃぎからのイタズラやちょっかい出し合い、弾幕ごっこパーティーとかが始まるところなんだけど、パッと見その様子はない。

 

 今はそんなことをしている時ではないと、しっかりお話を聞かなきゃいけないのだと思い、頑張ってくれているのだろう。何ともまあ、微笑ましい一幕だわ。

 

「とはいえ、心の中にトラウマが未だに残っているわ。これからもずっと仲良くして、幸せで埋めてあげましょう!」

「うん、うん! そうだね、レミリアさま!」

「にひひっ! おやすみおわってきたら、わたしがぎゅってしてあげなきゃ! いや、よしよしのほうがよろこんでくれるかなぁ?」

「どっちもやってあげたらどうですか? シャーネットちゃん」

「たしかに……めーりんさまのいうとおりだね! えらぶひつよう、ぜんぜんない!」

 

 これにて、メイド妖精たちへの事情説明は終わった。最初から分かっていたのだけど、気を付けるべき部分があまりにも乱暴な言葉遣いをしないことと、死ぬまでに与えた苦痛の内容を察されないようにする程度だったので、本当に楽だったわ。

 

(さてと……1番重要な宣言をしなければね)

 

 後ここでやることと言えば、人里の解禁を宣言することだけ。これからすぐ、理想的に居るであろうメノウへの事情説明という、最大にして最難関な仕事が残っている以上、あまり時間を使ってはいられないからすぐにやらなければ。

 

 何というか、話の構成とかタイミングとか色々、これでよかったのかと思わなくもないけど、この際それについては目を瞑ることとしよう。

 

「えっ……駄菓子屋のおばあちゃんと、お兄さんのところに遊びに行っていいの? イタズラしに行っても……?」

「イタズラ……うん、まあ……程々にね? 後、行くなら片付けとかちゃんとしてからにしなさい」

「わぁぁ……! だってよ、皆!」

「「「やぁぁーー!!」」」

 

 なお、私が大声で人里の解禁を宣言し、おまけで今日の夕方までなら仕事の日であろうとも、遊びに行きたければ許可をすると伝えてみたところ、メノウの件も併せて盛り上がりが凄まじいことになったのだった。

 

 館の主力陣もこれから連れていくつもりなので、場合によっては一時的に誰も居なくなってしまうのだけど、その点は今日中に妖夢も来るし、フランにも全力で頼み込んで対応を了承してもらったから問題はない。

 

「はぁ……相変わらず、お姉さまはお姉さまね。了承する私も私だけど」

「ごめんなさい、フラン。埋め合わせとして、何でも1つ望みは叶えてあげるから許して」

「許すも何も、別に怒ってはいないわ。皆のためを思えばって、お姉さまの気持ちは理解できるもの。私だってそうだし」

 

 維持にかかる魔力の負担も少なくない分身を留守番に使うというところと、これが完全なる咄嗟の思い付きであったことからフランにはため息交じりに呆れられ、咲夜やパチェたちにはジト目で見られてしまう。

 

 で、相応の埋め合わせもすることになった訳だけども、この程度で済むのなら安いものである。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 人里に害を成していた、外の世界出身の男女2人。前世でのテルースメノウの両親という驚愕の経歴の持ち主が、つい先程排斥されていった。

 

 レミリア率いる紅魔館の面々を完全に敵対させ、紫を含む幻想郷の重鎮すら排除に舵を切らせる程の存在であった以上、今どうなっているかは考えずとも分かるだろう。

 

 私個人としても、相応の報いを受けてよかったと考えている。周りが同調しなくとも、無害なたった1人の妖精にあそこまで憎悪の感情を露にして暴れられる輩など、とても共存できるとは思えない。

 

 人里全体を考えたとて、共存共栄できる存在といったら例の2人よりも、圧倒的にメノウの方であると断言しよう。無論、彼女を主に据える理想郷の面々も1度交流を行えば、きっと上手く付き合える。

 

(こればかりは仕方ないな……うむ、気長に行こう)

 

 ただし、この件に関しては当分実現することはないと見ている。排斥が済んだばかりでゴタゴタしている上、メノウ自身の心の傷の問題があるからだ。

 

 そう考えると、初手で出会った三妖精の手腕は凄まじい。1年にも満たない短い間で、幻想郷の面々とここまで関係を広げられる程に、傷ついた心を回復させた訳なのだから。

 

「あっ、慧音先生。どうかしました?」

「いやなに、何となく駄菓子を口に入れたくなってな。少し寄ってみただけだ。大丈夫か?」

「ちょっと待って下さい……おーい、ばあちゃん! 大丈夫だよなー?」

「っとと……いらっしゃい、慧音さん。大丈夫ですよ」

「てな訳で、ご自由に吟味してもらって構いませんよ」

「ありがとう。少しここで、ゆっくりさせてもらおう」

 

 ちなみに、私は今妖精たち御用達の駄菓子屋へふらっと立ち寄り、駄菓子を吟味しつつ店主のおばあちゃんと、その孫である青年の様子を見に来ている。此度の大騒動で、受けた影響が大きかった内に入るからだ。

 

 人里の中でも生粋の妖精友好派だからこそ、妖精たちとの交流が生き甲斐にもなっていた2人。メノウを守るための苦渋の決断だったにせよ、レミリアの采配でばったり来なくなった時に感じた寂しさは、察するにあまりある。

 

 まあ、そうはいっても二大妖精長だとかチルノや大妖精、クラウンピース辺りがたまに訪ねてくれてはいたみたいだから、幾ばくかはマシではあったらしいけど。

 

「ところで、慧音先生はどうですか? 身体的とか、精神的な面で」

「私か? まあ、普通といったところか。ただし、心なしか晴れやかな気分でもあるな」

「やはりですか。確かに、あいつらは相当しでかしていましたからね」

「全くだ。そのまま追い出せていれば、どれだけ楽だったことか」

 

 実際には違うのだが、体感的には年単位で時間が経ったと錯覚するくらいに、面倒なことがあった時だったと言わざるを得ない、外来人の来訪から排斥に至るまでの期間。

 

 状況が状況故に致し方ないとはいえ、メイド妖精が一斉に人里へ立ち寄らなくなって以降、この駄菓子屋以外の雰囲気もどんよりしてきていたから、本当に大変だった。

 

 精力的だったレミリアのみならず、紫他幻想郷の重鎮たちですら対処に困る程だったが故に、早期の解決が見込めなかったのも相まって。

 

 しかし、そんな厄介事もさっきまでで終わる。紅魔館のメイド妖精たちも、元凶が取り除かれれば遊びに来るようになるし、人里の雰囲気もすぐに元に戻るはずだから。

 

「ん? 何だか外が騒がしい――」

「どどーん! 私とシャーネちゃん軍団再登場だよっ、おばあちゃん! えへへ、やっとお話しできるし楽しみにしてたんだ!」

「やっほー! あそびにこれなかったぶん、これからはまいにちくるからねっ!」

「あのぉ……流石に、こんな大勢で毎日押しかけるのは迷惑なんじゃ……?」

「大丈夫! おばあちゃんとお兄さん、私たちがいなくて寂しがってたって里の皆が言ってたでしょ?」

「それはそうですけどぉ……あっ、お煎餅割っちゃった」

 

 なんてことを言ったからだろうか。まあ、単なる偶然なんだろうけど、強く雑に駄菓子屋(ここ)の障子が開けられると同時、常連の妖精2人を筆頭とした大勢のメイド妖精たちが中へ雪崩れ込んできたのである。

 

 私が想像するよりも、遊びに行きたいという声が相当大きかったから、レミリアは輩を排斥した当日に人里行きを即解禁したのだろう。早くて数日後だと考えていただけに、少々私も驚いた。

 

 しかし、いかに大きめな駄菓子屋かつ妖精とはいえ、25人も駆け込んで来られると流石に狭い。というか、開いた障子から外にもまだ相当な人数のメイド妖精たちが見えたから、これでも遠慮した方らしい。

 

 もしかしたら、人里の他の場所も合わせたら200人を超えるという、紅魔館のメイド妖精が全員人里に居る可能性すらあり得る。

 それはそれでいいのだが、今日はそこら中でイタズラやちょっかいの出し合いが発生するなどして、えらく盛り上がる1日になりそうだ。

 

「ふんふふ~ん、おかし~おかし~なにたべよ……あっ、おもしろおにーさん! わたしはげんきだったよー!」

「そうか……シャーネット。お前も、お前の友達も皆元気そうで何よりだ」

「わわっ! おにーさん、ちょっとないてる?」

「こんなにも嬉しいことがあるかしら……モリオンちゃん、お帰り。今日は特別、お友達もお菓子を好きなだけ持っていっていいわよ。お金はいらないからね」

「ええっ!? そんなことして大丈夫……?」

「大丈夫よ。その代わりといってはなんだけど、今日は年寄りのお話しに付き合って欲しいわ」

「わはっ、やったぁ! 沢山お話しして過ごそうね、おばあちゃん!」

 

 ただまあ、ここの駄菓子屋の店主と孫のように、メイド妖精たちが人里に訪れることを喜ぶ人々が居ると考えれば、今日くらいは大目に見てやってもいいかもしれない。

 

 私の服を引っ張って遊ぶメイド妖精の相手をしながら、そんなことを思うのであった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。
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