「おー、スッゴく元気いっぱいだな! よかったよかった!」
「びゃっ……えへへ、チルノを含めた大好きな皆のお陰だよ。ありがと」
僕の心にかかっていた
レミリアから、あの人たちが幻想郷に現れて消えていくまでのお話を聞いて、これでもかと感情剥き出しで泣き腫らした後、明らかに心と身体が軽くて暖かくなったことで、僕は実感したのだ。
自分の前世のことを、嫌われる覚悟で皆に打ち明けた時にも似たような感覚は覚えてたんだけど、今回は明確にその時以上に強かった。強かったからこそ、さっきまでの反動とも言うべきこの高ぶりを抑えておくのが、本当に難しい。
とにかく甘えてよしよしされたい、はしゃいで一緒に楽しく遊びたい、イタズラやちょっかいを出してみたい、こんな感じの感情を。
「おうよ! あたいたちにとって大切な友達なんだから、気遣うくらいは当たり前だぞ!」
「右に同じくですよー! いざという時は、私が春を分けてあげる!」
「ぐすっ。チルノもリリーも優しいね、ありがと。大好きだよ」
「私も同じく……って、ここ数日ずっと元気だよね。リリー」
「春の力で満ちてるもん! 後、ラルバだって私に劣らず元気だと思う!」
「メノちゃんの羽の光とか、理想郷の環境が妖精にとって快適そのものだもんね。一部を除いて」
「あはは! 大ちゃんの言う通り、確かにあそこはあたい以外にはキツ過ぎるもんな!」
本人たちの幸せや笑顔を守るためならば、僕の命すらも迷いなく差し出せるくらいには大切であり、大好きであり、愛すべき家族であるサニーやスター、ルナ。
愛すべき家族程ではなくとも、それに近いくらいに大切で大好きな妖精友達のチルノや大ちゃん、ピースにリリー、ラルバ。
紅魔館の主力陣であるレミリアにフラン、パチュリーにこあ、咲夜に美鈴、ノーゼにスフェだって言わずもがな同じ。
一緒に居るだけで、至高の幸せを与えてくれる皆が一緒なだけでかなり高ぶるのに、もし仮にここには居ない僕の大好きな友達も全員揃っていたとしたら、果たしてどうなっていたことやら。
ただ1つ言えるのは、高ぶりを抑えるなどという思考すら生まれず、大風の大森林で春と暖気が溢れていたリリーや、蒼氷の渓谷で冬と冷気に満ちていたチルノのように、皆を振り回してグロッキーにさせていたってことだけかな。
「それはそうと……リリーちゃん。帽子、落っことしたの? なくなってるよ」
「うわ、本当だ! 私も高ぶってて全然気がつかなかった……あーっ! あれ、私の帽子!」
「あちゃー、妖精に取られてたね。リリーの帽子、可愛い形と色合いだから、被ってみたくなったのかしら」
「でも、あの仕草からして単に取られた時の反応を見て、存分に楽しみたかっただけに違いないわ! 私たちもイタズラの時、そういうこと結構やるもの!」
「確かに。普通なら、昨日のスターみたいに逃げるはず。まあ、気に入りもしたんだろうけど」
と、そんなことを考えながら美鈴に肩車してもらっていた時、リリーが唐突に大声を出した。今気づいたけど、いつの間にか被っていたはずの帽子がなくなっている。
同時に、どこかへ指を差していたのでその方向を見ると、建物の屋根の方にリリーが被っていたはずの帽子を持って被り、仲間ないし友達同士で談笑している妖精さんたちの姿が見えた。
向こうも今の僕たちのやり取りで、リリーが帽子を取られたことに気づいたと気づくも、逃げる様子は全然ない。
それどころか、これ見よがしに被っていた帽子を手に取り、ヒラヒラさせて見事に取れたぞと自慢してくる程。
確かに、僕も含めて誰もが油断していたってのもあるとは思うけど、あの妖精さんたちの隠密能力は普通に高いんじゃないかな。そうでなきゃ、多分誰か気づいてたと思うし。
「こらー! それは私の大切な帽子、返してください!」
「やだよー! どうしてもってなら、わたしたちとしょうぶしてかってよねっ!」
「ふーん……弾幕ごっこを知ってたんですね? それなら、私は絶対に負けませんよー! 満ちてきた春の力、あなたたちに思い知らせてあげるわ!」
当然、大切な帽子を取った犯人の妖精さんが手の届く範囲に居るならば、リリーが取り返しに行かないはずがない。再び満ちつつある春告精の力を引っ提げて向かったんだけど、何故か流れで帽子を賭けた弾幕ごっこの提案を了承してしまう。
しかも、相手の妖精さんとの連戦で数的には不利ではあるものの、リリーは不適な笑みを浮かべている。
まあ、そりゃそうだ。今のリリーから発せられる妖気と生命力の波動はチルノに迫る勢いで、相手の妖精さんたちはそれよりも大きく下回っているんだから。
地力の差が、勝負の優位性を担保してくれる訳じゃない弾幕ごっこにしたって、恐らくはリリーの方が上。心配せずとも、普通に勝って帽子を取り戻せるだろう。
万が一……いや、億が一リリーが負けちゃった場合に備えて、どうにかして取り返すための手段を1つか2つ、またはそれ以上の数考えてはおこうかな。もしくは、同等以上に大事に思えるような帽子を、僕が作ってあげることを。
「決まったわね、この勝負。あの時程じゃなくても、普段と比べて高ぶったリリーに仕掛けるだなんて自滅行為だわ!」
「流石、経験者は語るってやつだね。サニー」
「それを言うならルナもでしょ! あの時は、3人連続で仕掛けてやっとこさって感じだったもの!」
「ふふっ、緩い勝負だったとはいえ苦い思い出ねー。ところでラルバ、何かおやつある?」
「えっと……メノが出してくれた水と、何個かのりんごくらいしかないけど」
「それでいいわ! さて、観戦しながらおやつタイム堪能しましょー」
過去、春に満ちたリリーにちょっかいを出して痛い目を見たらしいサニーとスターとルナも、やはりと言うべきか心配していない。それどころか、好きなスポーツの現地観戦をするファンの人みたいに、この状況を楽しみ始めるくらいだった。
勿論、僕もサニーたちと一緒に
チルノと大ちゃん、美鈴はもとより顔色がはっきりと良くなったレミリアが何やかんやで幸せそうだから、ちょっと言い出しにくい。
でも、あんまり考え過ぎて決めかねていると、リリーと3人組の妖精さんの帽子を賭けた弾幕ごっこが終わっちゃう。そうなってしまえば、どうしようか考えるって行為そのものが無意味になる。
それに、いつだか「もう少しわがままだって、誰も怒らないわ」ってレミリアに、美鈴からも「今更、ちょっとわがままになったくらいじゃ、嫌いになんて絶対になりませんよ」って言われてる。他の皆からも、言葉は違えど似たようなことを何度も言われていたなぁ。
「確かに、休憩がてらにちょうどいいわね……分かったわ。美鈴も付き合いなさい」
「勿論です、レミリアお嬢様……メノウちゃんも、私の膝においで」
ほら、やっぱりそうだ。お願いをしてみたら、チルノと大ちゃんは言わずもがな、レミリアと美鈴だってニコニコしながら二つ返事で了承してくれた。
妖精さんたちの相手をしつつ、僕たちを遠目で見守ってくれてたフランとパチュリーも目が合うと、よかったねと言わんばかりに微笑んでくれてる。
「わぁ……! えへへ、レミリアのお隣――」
「楽しそうね! メノ、私も混ぜなさい!」
「サニー、おしくらまんじゅうになるから自重……駄目かぁ」
「駄目みたいねー。まあ、メノが飛び上がりそうなくらい嬉しそうだし、何ならレミリアも嬉しそうだからいいんじゃないの?」
「うん、まあ……美鈴はぎゅうぎゅうで大丈夫?」
「大丈夫ですよ、ルナちゃん。お気遣いありがとうね」
そして、こんな僕たちの様子を横目で見ていたからか、真昼間のお日様の如く笑顔のサニーやスター、ルナを筆頭に楽しんでいた皆、見守り役の翡翠の妖精さんやへカーティアさんも集まってきて、気づけばちょっとしたパーティーないしピクニックみたいになっていた。
咲夜とこあが、当たり前のようにレジャーシートを取り出して地面に敷き、どこからか採ってきたか持ってきた果物などをあるだけ置いたのも相まって、余計にそう見えてくる。
「あら、気が利くじゃないの。流石は咲夜ね」
「りんごとかもいっぱい、お菓子もあるわ! スター、ルナ、メノ! せっかくだし、皆でピクニックしながら観戦するわよ!」
「いつの間に採ってきたんだ……? まあ、咲夜なら時間操れるしおかしくはないな!」
「でも、咲夜さん自身はあっという間じゃないんだよね。時間かかっただろうなぁ」
サニーたち含め、誰かが2人にお願いしたとかじゃないみたいだけど、せっかく用意してもらったのに楽しまないなんて損。これを見ていた皆も乗り気ということで、シートの上に座ってピクニック風の弾幕ごっこ観戦を楽しみ始めた。
僕自身は美鈴とレミリア、サニーとスターとルナに囲まれる位置取りで、楽しさと幸せも倍増しである。
(わぁ……綺麗! 空を泳いでるリリーも、何だかんだで楽しそう……あっ、1人倒した!)
ちなみに、空中で行われているリリーと3人の妖精さんたちの弾幕ごっこは、大方の予想通りリリーの優勢で推移していた。たった今、1人目に余裕を残して勝ったところである。
ひらりひらりと空を泳ぐように飛び、四方から迫る弾幕の嵐を何でもないように回避。
一生懸命考えたであろうスペルカードのレーザー弾や球形弾、避けるのが難しそうなぐにゃぐにゃ曲がるビームですら、その軌道を見切って避けていった。
で、当然と言わんばかりにその合間を縫い、桜色を筆頭としたカラフルな弾幕を都度適切に放って、じわりじわりと行動できる範囲を狭めていくその様は、まさしく弾幕ごっこの実力者。
今日とは違い、春真っ盛りの超強化状態かつ昔の話だったとはいえ、自分とサニーとルナが全力で連戦仕掛けてやっと勝てたって、スター本人が苦笑いするのも頷ける動きだ。
ちなみに、ルナ曰く弾幕ごっこのルールが浸透・改定されてきてて、なおかつちゃんと訓練してきた今であれば、強化状態のリリーと1対1でもそれなりに勝てるらしい。
やっぱり、サニーたちは凄いなぁ。とっくの前から分かっていたけれどね。
「そう言えば、僕たち最近あんな感じの弾幕ごっこしてないよね。サニー」
「確かにしてないわね! 最近は楽しいことばかりで、しようとすら思わなかったけど……したくなったの?」
「ううん、そういう訳じゃないの。ごめんね」
「ならいいわ! でも、こんな話をしてたらしたくなってきたわね……ねえ、近い内にやりましょ!」
「うん、分かったよ。サニー!」
なお、弾幕ごっこについての話をサニーたちとしている間にも、戦況はどんどんとリリーの方へと傾いていっている。
というか、今2人目の妖精さんが撃墜されて負けたところであり、僕の耳に聞こえてきたルール的に、リリーの勝利がもはや約束されたも同然になった。
勝負を仕掛けた3人組の妖精さんたちも、まさかここまで追い込まれるなんて思っていなかったのか、目を見開いて驚いていた。
まあ、相手が霊夢とか魔理沙、レミリアみたいな幻想郷でも上位の実力者かつ種族的にも格上相手ならまだしも、同じ妖精にここまでしてやられるなんて思えなくても仕方がない。
むしろ、ある程度持ちこたえれてる分妖精さんたちも弱くはないのだ。単純にリリーの方が強く、かつやる気もあったってだけで。
(うーん……)
ただ、それはそれとしてリリーとの連戦を楽しんでもいるらしい。最初は帽子目的だったものの、最後の方になってくると勝負することが目的になっていたのだろうか。気にはなってくる。
「ふふっ。微笑ましいですね、レミリア様」
「そうねぇ。妖精たちがきゃっきゃしてるところは、見るだけでも癒しになる。抱いてる悩みなんてこう、きゅっとしてドカーンね」
「お姉さま。私だって、お姉さまの悩みくらい解決できるわ」
「頼もしいわね、フラン。もしその時になったら、お願い」
「レミリアさま。あたしとスフェも居るの忘れないでくださいねー」
「勿論よ、2人とも。いざという時は頼りにさせてもらうわね」
「はーい! わたし、任されましたっ!」
しかし、それよりもフランと仲睦まじく過ごすまでになってくれたレミリアの方が、嬉しくて気になることだ。あの人たちのお話をする寸前までのレミリアを見てる分、余計に嬉しくて堪らなかった。
やっぱり、僕とは違って精神的にダメージを負ったとしても、回復が早いんだよなぁ。500年という長い年月を生きている中で得た数多くもの経験が、大きな要因の1つと言っても過言ではないよね。
(すぅ……)
これから先、僕も妖精として何百年という長い時間を、サニーたちや大好きな友達の皆と共に過ごしていく。ともなると、過去のレミリアみたいな頻度や質とまではいかずとも、嫌な思いや辛い出来事にだって遭遇する機会もあるだろう。
例えば、今後100年以内に訪れることが確定している、霊夢や魔理沙や咲夜とのお別れとか。
今から考えてても仕方のないことだから、できる限り考えないようにはしてるんだけど、やっぱり時々ふと頭によぎってしまうのだ。
できることなら皆で妖精になって、何百何千と長い時を一緒に楽しく幸せに過ごせれば1番なんだけど、それは絶対に駄目。他にも理由は沢山あるけれど、3人の思いや幸せはどうなるのかという最大の問題を無視しているから。
(皆のためなら、僕はどこまでも頑張れる。頑張れなくても、頑張らなきゃだけど)
僕が望むのは、愛する家族や大好きな友達が皆幸せなこと。僕自身の幸せは、それが達成されてこそ得られるのである。
決して、僕だけが幸せになるなんてことがあってはならない。
「あら、勝負あったみたいよー。予想通り、リリーが普通に勝ったわ」
「リリーちゃん、凄い嬉しそう。無事に帽子を取り返せてよかった……わっ! メノちゃん……?」
「えへへぇ……大ちゃん、駄目?」
「ううん、そのままでいいよ。ちょっとびっくりしただけだから」
でも、今この光景を見る限りでは、皆とっても楽しそうでとっても幸せそうだから、僕も同じくらい幸せだ。
既に決まっていたことかの如く、3人目の妖精さんを倒して無事に帽子を取り返し喜ぶリリーを見つつ、僕は沸き上がるこの気持ちの成すがままに大ちゃんに寄って抱きつき、極限の幸せを噛み締めるのであった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。