幸せ四妖精   作:松雨

79 / 103
今話の前半は主人公、後半はレミリア視点です。


溢れる幸せ

 リリーと3人組の妖精さんの、帽子を賭けた弾幕ごっこがついさっき無事に終わるも、その時の盛り上がりは未だに僕たちの心に尾を引いている。

 

 本当に凄い、ギリギリで迫力のある勝負だったって訳じゃないんだけど、リリーと3人組の妖精さんの弾幕と動きはとても綺麗で、見ているだけでも楽しかった。

 美味しいお菓子や果物、水を味わいながら皆でピクニックをしていたのも相まって。

 

「よーし、飾り付けはこんなもんでいいよな! 他にもあるっちゃあるんだけど……」

「うん、本命はお誕生日会にとっておきたいもんね。リリーちゃん、横断幕の方はどう?」

「バッチリですよー、大ちゃん! 春告精らしく、春を全面に押し出してみたわ!」

「わぁ、本当だ! メノちゃんの羽の色も時々桜色になるし、確かに雰囲気に合ってるね」

 

 そこに、チルノやピースが「メノに真の春が来たお祝いしようぜ!」と、大ちゃんもニコニコで「えへへ、メノちゃんの春だよー」と、リリーを真似した感じで言うものだから、もう止まらない。

 

 あれよあれよと話が進んでいって、皆の他にリリーと戦った3人組の妖精さんも一緒に今、妖精大庭園にある神殿へと直行してすぐプチお祝いパーティーなる会の開催のために、わいわい楽しく準備をすることになる。

 

(いいんだよ、妖精さん。安心して楽しんでってね)

 

 理想郷生まれではあるものの、僕と直接話もしたことがないからだろう。3人組の妖精さんは、ここに居て大丈夫なのかと戸惑いを隠せていない様子だ。

 

 しかし、それも最初の頃だけ。言い出しっぺのチルノやピース、大ちゃんを筆頭にはしゃぐ皆の暖かな陽気に当てられて、時折ふざけながらも一緒に楽しそうな感じで準備を手伝い始めている。

 

 彼女たちにとってこれは、別に親しくもないどころか今の今まで知らなかった、一介の妖精のためのお祝い会。それなのに、普通に楽しめているのはきっと、リリーや他の皆にそう思わせる魅力があるからかな。

 

「メノ。何か、あっちの柱の陰から興味津々に私たちを見てる妖精が居るけど……どうする? もしかしたら、飛び入り参加とかされるかも」

「止めなくていいよ。むしろ、ルナとか他の皆は大丈夫?」

「私? うん、全然構わないけど」

「大丈夫だよ、メノ。それが嫌なら、メノの家とか私の秘密基地に一旦行こうって提案してるわ」

 

 ちなみに、妖精大庭園および神殿内部に居る他の妖精さんの飛び入り参加は、僕的には拒むつもりはない。例え会話が殆んどなくたって、僕と完全なる無関係ではないからだ。

 

 とはいったけれど、1番は他の皆が人数が増えて騒がしくなることに、拒否感を微塵も感じていないから。だから、多分やってる内に人数が結構増える予感がしている。

 

 ただし、あまり増え過ぎると翡翠の妖精さんなり、咲夜と美鈴が用意してくれた食べ物とかがあっても足りなくなるかもしれない。まあ、その時は僕と一緒に我慢してもらうしかないんだけどね。

 

「サニー。ありがとうね」

「ふふっ。あいつらを排除して、メノを幸せにしてくれた最大の功労者だもの。参加させないなんて、あり得ないわ!」

「だねー。ところで、身体の調子は大丈夫なの?」

「お陰様で絶好調よ、スター。風が吹けば舞い上がりそうなくらいにね」

「ならよかった。準備が終わったら、メノのお祝いしながら存分に楽しみましょー」

 

 そして、この僕のためのお祝い会には、当然レミリア率いる紅魔館の主力陣営も参加してもらっている。サニーも言ってたように、レミリアたちが居なければ安心安全な人里巡りなど、とてもできたものではなかったからだ。

 

(僕のために、手を汚してくれたレミリアたち。それに報いれるだけの何かを、僕は……提供できるのかな……?)

 

 僕だけが、あの人たちのせいで嫌な思いをするとか、喧嘩になってしまう程度で済むならいい。暴力とか罵詈雑言を浴びせられたりしても、まだ大丈夫。

 サニーやスターやルナという愛する家族の存在、今ここに居る皆を含めた大好きな友達の存在という、とっても強固な心の防壁があるんだもの。

 

 しかし、実際はそうではない。僕にはもったいないくらいに優しくて、春の陽気の如く暖かな皆のことだから、そんなことになれば一緒に嫌な思いを抱いてしまうのが明白。

 

 それのみならず、とっても綺麗で暖かなサニーやスターやルナの手に、まかり間違って落とせない汚れをつけさせてしまうなんてことになれば、間違いなく終わっていた。地獄行きなんて生温い程に重く、忌むべき罪と言える。

 

「館の妖精さんたち、人里楽しんでくれてるかな。そうだといいな……パチュリーはどう思う?」

「レミィも言ってたけど、間違いなく楽しんでるわ」

「ですねぇ。あの熱狂的な様子を見るに、夕方どころか夜までどんちゃん騒ぎするのでは?」

「可能性は高いわ。多分、レミィも夕方には戻って来てと言いつつ、薄々そう感じていたかもね」

「えへへ……そっか。嬉しいけど、レミリアが困るならちょっぴり複雑かも」

 

 とまあ、あったかもしれない嫌な未来を考えるよりも、今は思う存分皆と一緒にこの場を楽しむべきだろう。恐らく、僕たちと同じかそれ以上に人里で楽しんでいるモリオン他多数のメイド妖精さんたちのように。

 

 せっかく、皆がニッコニコでお祝いしようとしてくれてるめでたい時なのに、当の本人である僕が勝手にどんよりとしてしまえば、全てが台無しになるのだから。

 

「皆、僕のために頑張ってくれてる……お祝い、されてるんだなぁ……」

「そりゃするでしょ。何言ってるのさ、メノウ」

「ノゼちゃんの言う通りだよっ! もっと自信持って!」

「……えへへぇ。うん、頑張るよ。ノーゼ、スフェ」

 

 ちなみになんだけど、皆にお祝いされる側である僕はサニーやチルノの計らいで、近くのベンチでのんびりしててもいいことになっていた。むしろ、準備が終わるまでのんびりしていて欲しいと頼まれている。

 

 どこに、お祝い会の準備に祝う対象となる相手を駆り出すお馬鹿さんが居るのかとは、スターの一言だっけ。

 

 退屈しないようにか、僕が変な罪悪感とかを抱かないようになのか、ルナやパチュリー、こあやラルバを話し相手として側に置いてくれていた。だから、今感じているのはとても心地のよい幸福感だけである。

 

(お誕生日会も、この先あるんだよね……)

 

 ふと、こんなことが頭をよぎった。咄嗟に決まった今日のお祝い会でさえこれだけ幸せなのに、およそ2ヵ月先に開かれることが決まっているお誕生日会では、僕は一体どれだけ幸せになれるのだろうかと。

 

 愛する家族や参加できると言った大好きな友達が、一斉に僕の家へ集まり、幻想郷へと生まれてきた僕に色々な形でお祝いや感謝の言葉を贈ってくれたり、いつも以上に構ったり遊んでくれたりする。いつぞやの魔理沙曰く、これは確定事項だという。

 

 加えて、参加できないかしないと言った友達も、様々な形で僕のお誕生日を祝福してくれるのだ。前世とは真逆どころか、本来であれば比べることすらおこがましい程の差がある。

 

 うん。きっと、僕が想像するよりも遥かに深く暖かな幸せに包まれて、春真っ盛りのリリーや冬真っ盛りのチルノ以上に高ぶって、皆に迷惑かけちゃうんだろうなぁ。

 

「じゃじゃーん! メノ、準備はできたぞ!」

「待って、チルノちゃん! 『おいわいたいちょー』の襷、反対にかけてるよ!」

「げっ、本当だ! 何だか締まらないなぁ、あたい」

「きゃはは! まあ、面白いからいいじゃん!」

 

 ぽかぽかした気持ちのままにルナと肩を寄せ合って、いつものように頭をなでなでしてもらいながらいると、襷を肩にかけたチルノが大ちゃんやピースと一緒に、こっちに駆け寄ってきた。いつの間にか、お祝い隊長なる役職についていたらしい。

 

 何というかまあ、チルノも大ちゃんもピースも楽しそうでよかった。僕のことを思ってくれつつも、場の雰囲気と自身の気分のままに遊んで過ごしてくれてるなんて、まさしく理想通りと言える。

 

(にゃっ……!? く、くす玉……?)

 

 そして、サニーやスターを筆頭とした他の皆も駆け寄ってきたんだけど、サニーが手にもってた何かの紐を引っ張ると、小気味いい音と共に天井から『春の訪れおめでとう、大好きなメノ』と、可愛らしい風の文字が書かれた紙がぶら下がってきたから驚いた。

 

 右下の方に小さくサニーって書かれているから、文字を書いたのもサニーなんだろう。顔を見たら、ちょっと照れくさそうにしている。

 

「下手だけど、頑張って書いたのよ! えへへ、喜んでくれると嬉しいわ!」

「うん……うん……!」

 

 こんなことを愛する家族に書かれれば、無論嬉しいに決まっている。あまりにも嬉し過ぎて、心の内から勝手に力が込み上げてくる感覚すら覚えたくらいには。

 

 字が下手なことを気にしているみたいだけど、一体どこが下手なのか僕には全く分からない。スターもルナも、他の皆もサニーの書いた字を目にした瞬間すぐに読めているんだもの。

 

 仮に、本当にサニー自身が評すように下手だとしても、最終的に読めさえすれば僕としては全然構わない。レミリアも、笑顔で「メノが読めさえすればいいじゃない」って、優しく言ってくれてるし。

 

 というか、極論読めなくたって言葉で説明してくれさえすれば、それでいい。

 

(今日、サニー含めた全員にもらった幸せの対価に相応しい……よし!)

 

 ああ、僕は本当に究極の幸せ者だ。こうやって、何かと優しくしてくれたりお祝いしてくれる家族や友達を、こんなにも大勢得られたのだから。

 

「えへへ……サニー! 人里に遊びに行こ! お祝い会終わってからすぐでもいいよっ! 今の僕なら、例え1人お出かけでも何だってできるもの!」

「ひゃっ! め、メノ……あなた、髪の毛が……!」

「ねえ、スター。これって、まさか……」

「……ふふっ、そのまさかみたいねー。私たちとは違って、不完全(兆し)ではあるみたいだけど」

 

 だからこそ、抑えきれそうにない胸の高鳴りとほんの少しずつ僕の身体や羽から溢れてくる、命満ちる暖かな大地(地球)の光が導くまま、僕は高らかに宣言したのである。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「お嬢様。よかったですね、本当に」

「ええ。嬉しいことこの上ないわ、咲夜。あれは、皆が贈った幸せがトラウマを超えかけているという、確たる証拠だから」

「感動しましたよ、私。やはり、流石は愛する家族なだけありますね。サニーちゃんの言葉は、メノウちゃんの心にすっと染み渡ったようで」

 

 まさか、不完全とはいえこのタイミングで、メノウに強化形態が発現するとは。綺麗な白髪に黄土色が目に見えて混じり、瞳の琥珀の輝きを更に増し、水ではなく大いなる大地の力に満ちた白黄色の妖気を羽や身体より発するあの子を見て、柄にもなく私は呆けてしまった。

 

 しかし、その直後に私の心から沸き上がってきた感情は、まさに歓喜。メノウの精神状態が、健康的で可愛らしいサニーたち(妖精)と同じ領域に近づいてきているという、否定のしようがない絶対的な証拠なのだから当然である。

 

「おー、メノの強化形態ってこうなるんだな! 正直、水ってイメージだったから、青とか水色じゃなくてビックリしたぞ!」

「溢れてる白と黄色のキラキラが綺麗……ねえ、今幸せ?」

「うん! さっきも言ったけど、今なら何だってできちゃいそうなくらいに幸せだよっ、大ちゃん!」

「ふふ、本当にそんな感じだね。メノちゃん」

 

 幻想郷で一定以上の実力(妖力)を持ち、適性の極めて高い自然環境ないし、当人にとってよい精神的環境に相応に長く置かれた()()が、同様の環境下に置かれている際に唐突に発現することがある強化形態。

 

 この()()がどの程度の長さなのかや、条件を達成した後どのタイミングで発現してくれるかなどに関しては、私が300年程かけて方々を巡り調べた結果、規則性が全くない(ばらつきがあり過ぎる)ことが判明している。

 生まれて10年程度で発現する場合もあれば、数百年単位で生きてようやく発現するなんて場合も、十分にあり得るのだ。

 

 とはいえ、妖精として生まれてから1年以内に発現することは、それこそメノウのような前世持ちなどという特殊な事例でもない限り、殆んどあり得ないが。

 

(これで、私の知る上位の妖精は皆強化形態持ち……か)

 

 そして、1度発現さえしてしまえば、一定時間経過などで解除されても再度発動させやすくなるし、その度に身体が増大した力に慣れて制御しやすくなり、解除されるまでの時間も長くなる故色々と役立てやすくなるに違いない。

 

 とまあ、ここまで考えてみたけれど、妖精たちの強化形態が幻想郷での日常生活で役立つ場面はあまり多くないというか、かなり少ないけども。

 

「メノ? えっと、本当に大丈夫なの? 人里、一緒に行けるなら夢が叶って嬉しいけど……無理しない方がいいと思う」

「大丈夫だよ、ルナ! ルナたちを苦しめてたあの人たちが居なくなったなら、僕にとってはもう何も怖くないもの! 明日以降も、きっと耐えれる!」

「そう? まあ、メノのその目を見れば確かにそうかも」

「あはは、凄く自信たっぷりね! そう言われると、私正直迷っちゃうわ! ねえ、スター?」

「だねー。というか、私やルナよりサニーの方が興奮してそうなのは、気のせい?」

「ううん、気のせいじゃないわ! ふふっ、今からとっても楽しみよ!」

 

 なお、この人里行こう発言を聞いた面々の中で、最も喜び興奮しているのは言わずもがな、家族全員で遊びに行きたいって夢を抱いていた三妖精だ。

 

 確かに、メノウの自信満々なこの発言通り、私の能力を以て運命を覗いてみても一切負の未来は見えてこない。

 これならば、並大抵の人妖なら気に病むレベルの罵詈雑言を浴びせられても、まるでそよ風に揺られる草花の如く受け流せるだろう。心の支えがある限り、あの子は精神防御が見た目よりも強固なのだ。

 

 ただし、本人のみという注釈はつく。その罵詈雑言を周りで耳にして目にする側の、特に三妖精は不快極まりない思いをすることになってしまうだろうけど。

 

(どのタイミングで言おうかしら? あいつらの話を繰り出す時よりは圧倒的に楽だけども……)

 

 それに、メノウは数日後に紫との対話が控えている。いくら運命で回避すべき負の未来がないことを確認したとは言っても、1週間の内に大イベント2つは正直大丈夫か不安だ。

 

 でもまあ、どちらもメノウが1人で行うような事柄ではない。必ずサニーやスター、ルナの3人が側にずっとついててくれるし、いざとなったら私が動けばどうとでもなる。

 

 あいつらが関わる事柄への対処よりは、何倍も気が楽なのだからね。

 

「あら、どうかしたのかしら? 何だか凄く、メノに言いたげって顔してるわよ!」

「まだ何かあるの? ならこの際、全部打ち明けちゃった方が楽になるよ、レミリア! 今の僕なら、正真正銘どんなお話でもどんと来いだもん!」

 

 なんて考えていたら、今にも強化形態になりそうなサニーや当人たるメノウに察されたのか、ニッコニコでこう聞かれた。話すタイミングとしては、まさしく今といえよう。

 

 それなりに重要な話ではあるが、あいつら云々の話に比べれば何ら大したことはない。故に、余計な想像とかをさせないように、できる限り柔らかい口調を心がけなければ。

 

「あっ。そっか、紫って名前の妖怪さんとのお話があったよね。僕が当人なのに……頭から抜けちゃってて、本当にごめん」

「今が幸せで楽し過ぎて、そんなこと忘れてたわ! そうじゃなくても多分忘れてたけど!」

「サニーちゃんはともかく、メノちゃんまで……ふふっ」

「真なる春の訪れに、押し流されちゃったんだねー! 私たちの方が、メノにとっては重要なんだわー!」

 

 という感じで、紫との対話と人里巡りを同じ週にやるのは私としても心配だから、後者の方を次の週にずらしてくれないかと言ってみたんだけど、それ以前の問題だった。どうやら、対話の存在そのものを忘れていたらしい。

 

(ふふっ、そりゃそうよね)

 

 あいつら云々の話でトラウマを刺激され、お祝い会では三妖精を含む皆から絶大な幸福感を与えられ、生じたその大きな波によって心に与えられる衝撃は、考えなくとも凄いものと分かる。

 

 その影響で、これに関係のない記憶が一時的に思い出せなくなるか、完璧に忘れてしまうのも無理はない。となると、メノウにとっては人里巡りをしない理由がなくなる訳だ。

 

「でもね、レミリア。そのお願いは、ごめんだけど聞き入れられないの。人里巡りも紫さんとのお話も、同じ週でいい。いや、同じ週がいいの」

「分かったわ。私は、貴女の意思を尊重する」

 

 だけど、私のお願いに対してはっきりと、一切の揺るぎがない強い意思を持って断りを入れてくるメノウを見るに、最初からしっかり覚えていたとしても同じ感じで断っていただろう。

 

(……メノウ、強くなったわね。本当に嬉しいわ)

 

 何にせよ、当の本人がここまで明確に自分の意思を示したのだ。忌避すべき運命も見えないし、私がすべきことはフランたちや守護妖精、ヘカーティアと共に1歩2歩下がったところから、暖かく見守ることである。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。