どんな手段を講じようと気持ちが高ぶって眠くならない、むしろ昼間と同等以上に元気が湧き出てくるだなんて、随分と久しぶりだ。何十年、下手したら100年近く経っているかも。
しかし、それも当然。あいつらが居なくなったお祝い会で沢山、メノの可愛らしい元気な姿を見ることができたし、レミリアたちも加わってどんちゃん騒ぎした時の興奮が、未だに残っているのだ。
やることをやって、さて館に帰ろうとしたレミリアたちを間際で引き留めようするメノを、まあまあと落ち着かせるまでが大変だったなぁ。
その上で、スターやルナに加えてメノも一緒に人里へ行き、思う存分遊ぶって私の夢がようやく叶うかもしれないのだから、尚更高ぶる訳である。
「おや、サニー様。眠れませんか」
「ええ!
「……ふふっ。私も本当に、よかったです。メノウ様が、あそこまで元気になられて」
しかも、一緒に大探検してる妖精軍団の皆やヘカーティアが気を遣って、明日は私たち家族だけで人里を楽しんできてと、心の底から言ってくれている。
ピースに至っては、「初めての人里なんだし、記念日にしてやらなきゃ駄目だぜ!」と、チルノも「あたいたちは大丈夫かって? 勿論、大丈夫に決まってるぞ!」って、親指を立ててくれた。
皆だって、私やスターやルナとはもとより、メノとも人里で楽しく一緒に遊びたかったはずなのに。この時ばかりは私も、メノみたいにチルノに抱きついてうるうる泣いちゃったわ。
(頑張れ、私! 例えメノの悪口を聞いたとて、本人が気にしない限りは気にしては駄目よ!)
とまあ、ここまで何の問題もなく楽しめることを前提として、色々とワクワクしながら想像してる訳なんだけど、実際はまあ違う。勿論、トラウマが完璧に消え去ったのではないってのもある。
しかし、よく考えてみよう。人里にはつい昨日まであいつらが居た訳で、当然1日に満たない程度の短い時間でその余韻が、綺麗さっぱり消えるはずがない。
そこへ、渦中の妖精であるメノが私たちと一緒とはいえ現れれば、否が応でも注目を浴びる。良い意味でも、悪い意味でも。
理想としては、過剰にどちらかに偏った視線を浴びることもなく、多少噂とかになる程度で済んでくれることだけど、多分無理そうだから。
「でも、人里に行けばメノは変に注目を浴びちゃう。嫌な言葉とかだって聞く羽目になるかもしれない。そう思うと、喜ばずにメノを止めるべきだったかなって」
「うーん……サニー様が、そう考える気持ちは分かります。しかし……」
「しかし?」
「あのようなお姿になるくらいです。サニー様方が楽しく幸せになれるのであれば、大丈夫だと思いますよ。メノウ様にとって、それが
でも、眠れない私にこうして付き添ってくれてる守護妖精が、私を肯定し悩みを溶かしてくれる言葉をかけてくれたから、幾ばくかは気が楽になる。
ある意味では私やスター、ルナ以上にメノを深層までじっくり見て守ろうとしている妖精の言葉だから、説得力が半端ではない。
ともなると、私がやるべきはどういうルートで人里を回るかとか、逆にここは止した方がいいのかとか、今日の朝10時からの流れを考えておくことだ。
余計なことを考えないで、気分のままに人里巡りができるのならそれが1番なんだけど、初めてなのにあまり派手に連れ回すのは流石にどうかと思うもの。
「あっ、居た居た! サニー、やっぱり興奮し過ぎて眠くなかったの?」
「こんな時間なのに強化形態って、よっぽどメノと人里巡りできるのが嬉しいんだ。まあ、私もスターもそうだから起きてるんだけどね」
「サニーも、こんなに僕との人里巡りを喜んでくれるだなんて……えへへっ、また幸せもらっちゃった!」
この上ない幸せを噛み締めながら、守護妖精と大庭園の丘で話をしていたその時、側にニッコニコなスターとルナ、それ以上に幸せそうな笑顔をしてるメノが降り立った。
メノはお祝い会の時から姿も力も変わらないし、スターやルナも余程嬉しくて幸せでたまらないのか、私と同じように強化形態になってる。
星の輝きを彷彿とさせる強力な光と妖気を身体や羽から放ち、見づらいけど髪に紺色が混じるようになって、羽にも星のような紋様が入っているスター。
髪色こそほぼ変わらずとも長くなり、満月時の月光のような光と妖気を放ってて、トレードマークの三日月のような羽が一回り大きくなってるルナ。
そして、2人とも私のように早く人里行きたくてウズウズしているし、メノはそんな私たちを見て羽からより沢山の白と黄色のキラキラを出して、大ちゃんのように纏うレベルまで高ぶるのである。
だけど、こんな夜中に起きてる人里の人間なんてそう多くないし、私たちのような妖精や子供たちが立ち寄る商店街だったり食事処は、お祭りの日でもない限りは当然全部閉まっている。
イタズラ目的とかならまだしも、今の私たちみたいな目的なら行ったところで、そんなに楽しいとは言えないかな。
「ああもう! 楽しみ過ぎるがあまり、ウズウズして仕方ないわ! せっかくだし、何かして遊びましょー」
「ふふっ、そうね! どうせなら、夜の人里の上を思う存分飛んでみない? ギリギリのラインで!」
「人里の上かぁ。メノみたいに、羽からキラキラ出して飛んだら綺麗じゃない? 強化形態の私たちなら、メノ程じゃなくても簡単にできると思う」
「各々がバラバラに飛ぶよりも、僕たち皆で手を繋いで飛んでみたら楽しいかも? どうせなら、模様でも描いてみる?」
「いいわね! もし、この時間帯に起きてる人間が居たらビックリしそう!」
とはいえ、メノはもとより同等程度に大人しめなはずのルナですら、強化形態になる程に高ぶっている今、私やスターがその高ぶりに耐えきれる訳がない。
心の片隅では、夜が明けるまで妖精大庭園で遊べばいいじゃんと思いながらも、人里上空で飛び回って遊ぶって選択肢をほぼ迷いなく選ぶのである。
(本当、目を見開いちゃうくらい速いものね。空を飛ぶメノって)
なお、こと飛行に関しては私たちはおろか、チルノ一行でもメノにちょっと力を入れられるだけで敵わない。レミリアやフラン、魔理沙や文が比較対象になるくらいなんだから至極当然。
普段なら分かってくれてても、兆しとはいえ強化形態になるレベルで高ぶってるメノだと、無意識に速度と軌道を凄まじくしかねないから、ちゃんと私たちに合わせて手加減してもらうように促さないとね。
ただまあ、上手く行かなくて振り回されちゃったとしても、メノが幸せならそれでいいかな。私たちなんかしょっちゅう、周りの皆を色々な形で振り回したりしてるし、人のことを言える立場じゃないのだから。
「守護妖精! どうしても我慢できそうにないから、もう行くわ!」
「ふふっ……分かりました、行ってらっしゃいませ。他の皆様には、私の方から伝えておきます」
「ええ、ありがとう! さてと、3人とも。ちょっとどころかかなり早いけど、人里方面へレッツゴーよ!」
「「「おーー!!」」」
色々と思考を巡らせながら、寝ているであろう他の皆への連絡を守護妖精に託し、メノに大水晶のハンドベルを使ってもらって、私たちは家族仲良く理想郷から出発した。
(ただいまー……って訳じゃないのよね。帰ってくるのは当分先だから)
当然、すこぶる丈夫かつ信頼性の高いハンドベルにトラブルが発生するはずもなく、速攻で我が家に戻れる訳である。
で、誰もお手洗いに行きたそうじゃないから、取り敢えずお金を取りに行ってからざっと家の庭を見回って、そのまま立ち去った。
「私の能力があっても、暗い魔法の森はやっぱり怖いわ。サニー、ライト役よろしくねー」
「まっかせなさい! えっと、
「うわっ、眩し……サニー、もうちょっと抑えられない?」
「これでも抑えたつもりなんだけどなぁ……よし。ルナ、これでどう? メノとスターも、まだ眩しい?」
「今度はバッチリよ、サニー」
「眩しくないから大丈夫だよ、サニー」
「快適になったわー、サニー。ありがとうね」
「そう? よかったわ!」
月光とか強化形態特有の光はあるし、完全に真っ暗ではなくとも当然夜の魔法の森は相応に暗い。スターのお願いもあったから、しばらく辺りを照らす光の球を出して安心安全の森歩きにさせる。
本当はこう、すいすいーっと空を飛べたら楽だったんだけど、魔法の森では鳥とか虫以外は飛べないんだからしょうがない。
まあ、森の中をスターやルナ、メノと歩きながらお話するのも楽しいし、緊急時でもないんだから、仮に空を飛べたとしても歩いていたとは思うけどね。
(ふんふんふ~ん……ああ、今日はなんて気分がいいのかしら! 舞い上がりそう!)
メノも一緒に、人里で思う存分楽しく遊ぶっていう私とスターとルナ共通の、いつかは叶えたいと思っていた夢。それが今日、遂に叶う。
勿論、私が考える『思う存分』ができるか否かについては、一考の余地はある。沢山の知らない
しかも、初めて紅魔館に行った時に、知らないメイド妖精と会ったのとは訳が違う。どう違うのかは、あいつらの存在が人里にかけた迷惑の数を考えれば、容易に分かることだ。
でも大丈夫。例え何があったって、決してトラウマをぶり返させるレベルの嫌な思いはさせないように、私とスターとルナが絶対に守りきるから。
メノと仲間になり、大切な家族になってからずっと3人で抱いていた夢を、最高の形で叶えてもらう以上は当たり前のことである。
「よっと……えへへ。サニーとスターの手、暖かいね」
「強化形態だからかしら! それはそうと、メノの手も暖かいわ!」
「ふふっ。いつもより、妖力と血の巡りがよくなってるからねー」
「そうそう。お風呂で暖まった後とか、思い切り遊んた直後みたいな感じよ」
「うん、確かに。身体がこう、ぽかぽかしてる気がするなぁ」
で、その後特に何か起こる訳でもなく、そこそこの時間歩いて普通に魔法の森を出ることができた後は、当たり前のように4人で横並びで手を繋ぎ、足並みを揃えてふわっと飛んだ。
(あははっ! ただ空を飛ぶだけの単純な行為が、こんなにも楽しいだなんて!)
だけどすぐに、あまりの幸せと楽しさに心が逸り、少しでも気を抜けば勝手に3人との足並みを崩して飛ぼうとしてくる。
私の右手を握り、真夏のお日様のような笑顔を浮かべて幸せそうなメノを見ることにより何とか堪えられてはいるけど、並大抵の理性で耐えられる衝動ではない。
取り敢えず、もうしばらくの間はメノは当然として、スターやルナにも幸せを感じてもらうために、耐えて忍ばなければ。
自分で言った、人里の上空でキラキラを出しながら皆で飛んで楽しむってことも、まだしていないもの。
「見えてきたわ! メノ、あれが人里よ!」
「わぁ……! 写真とかで見るのとはやっぱり違う……ねえ、サニー。こんな時間なのに、明かりが付いてるね。あの人たち何してるんだろ……あわわっ! そういう意味で言った訳じゃないからね!」
「分かってるわよ! それにしても、日付を跨いだ頃まで起きてるなんて、春のお祭りでも……いや、もうとっくに春は過ぎてるから違うかしら!」
「まあ、夜になったら絶対に全員寝るって訳じゃないもんねー。人里の中なら、安心して起きてられるもの」
「そうだね、スター。それにしたって、本当に何してるんだろうね。夜中の娯楽でもあるのかな? 私には見えないし、分からないわ」
ちなみに、あいつらが圧倒的にトラウマ筆頭ではあれ、男女問わず純粋な人間に対していい思い出がメノにはない。優しくされた記憶とかが、全然なかったっていう悲しい理由で。
本来であれば、純粋な人間ってだけでも警戒心が強くなってもおかしくはないと、私やスターやルナはそれを聞いた時に強く思ったっけ。
しかし、実際はそこまで過剰に警戒心を抱いたりはしていないし、心などがある程度優しいとか私たちと親しい友達って条件が付け加われば、初対面でも更に警戒心は弱くなる。魔理沙や霊夢、咲夜がいい例だ。
今に至っては、強化形態故の気分の高ぶりで更に警戒心を弱めている。それこそ、もうレミリアや幽々子が幻想郷から消してくれた、あいつら級のトラウマ人間が出て来ない限り問題はない。
仮に出てくる可能性が少しでもあったならば、レミリアがこれでもかとメノの人里行きを反対してきただろうから、そんな人間が出てくるなんて出来の悪過ぎる夢物語としか思ってないけどね。
「いっくわよー! 皆、準備はいいかしら?」
「私は準備万端よ、サニー! メノとルナはどう?」
「僕ならいつでもいいよ。えへへ、ドキドキしてきた」
「勿論、私も心構えできてる。だから行こう」
そして、メノでなくても人里の様子がよく見えるような距離にまで近づいてきた刹那、私の一声で私自身も含め皆が一斉に『光』の力を開放して、少しずつ高度を下げると同時に飛行速度も上げ続けた。
(わわっ……凄い! 何この感じ……)
すると、私の太陽にスターの星、ルナの月にメノの
4人が力を合わせれば無敵だって前から思っていたけど、もしかしたら本当かもしれないって思えるくらいには凄い感覚を覚えたのだ。
勿論、あくまでも私たちは妖精。木っ端や弱めな妖怪ならいざ知らず、中級以上の妖怪やレミリアのような大妖怪や霊夢に魔理沙といった強い人間相手には、挑んでも間違いなくやられちゃう。
というか、弾幕ごっこやイタズラ以外の勝負を仕掛けるつもりなんて、端からないけれどね。
「楽しいわー! サニーの言う通り、ただ家族の皆でキラキラを出しながら飛ぶだけなのに!」
「力が溢れてくる……うん! この私でも、こんなにぽかぽかしてくるだなんて……!」
「とても高ぶってる、メノの力も加わってるから尚更よ! いつまでもできそう!」
それにしても、本当に楽しくて仕方がない。人里の上を縦横無尽に飛び回りながら、私たち家族の力が秘められた光の軌跡で、少しずつ消えていく模様を描くっていう遊びが。
時折、飛び回りながら手を繋ぎ直してみたり、輪になってくるくる回ってみるなどの変化球を加えて、より一層楽しくしてみたりもする。
本物よりは圧倒的に遅くて低空ではあれど、名付けるとするなら四妖精の夜光お絵かきショー……もしくは、真夜中の空中妖精の舞かしら。まあ、楽しければどっちでもいっか。
なお、全員が強化形態故にやっていることでもあるから、次も開催されるかは分からない上に、仮に何とかなって開催が決まったとしても、開催時期や時刻は私たちの完全なる気分次第になる。メノやスターは、紅魔館でメイド妖精を忙しくやってるから尚更ね。
後はそう、頭の中で描いている模様通りにできているか、私も含めた誰も保証しかねるってのもあったわ。例えば、丸を描いたつもりがぐちゃぐちゃだったり、他の形になってたりとか。
さっきも考えたことだけど、これは私たち4人が楽しければそれでいいのだ。ぶっちゃけ言うと、夜中も起きてる人里の人間に対する、ちょっとしたイタズラみたいなものだし。
「とはいえ、強化形態も無限のスタミナを提供してくれる訳じゃないから、頃合いを見計らって休憩しましょー。サニー」
「ええ! そもそも、これは人里巡り前のおまけの遊びだし!」
「うんうん。どうしてもやりたければ、大探検とか紫との対談が終わってから、またやればいい」
それに、楽し過ぎて時折忘れそうになるけれど、メインは私たち4人で人里巡りをすることであって、夜空のお絵かきショーをすることではない。
高ぶるがあまりとても早めに出てきたのに、そのせいで人里巡りがロクにできませんでしたなんて、まさに本末転倒ってやつだもの。こんなことになれば、守護妖精やへカーティアはもとよりチルノたちに笑われても、全くおかしくはない。
(メノ……また今度、きっとやるわ。約束するから!)
だけど、もう少しだけは楽しんでおこうとも私は考えている。再び配置を変えるためにルナと手を繋ぎ直してるメノが、幸せのあまり嬉し涙を流していたところを、はっきりとこの目で目撃したんだから。
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