幸せ四妖精   作:松雨

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人里巡り

 サニー、スター、ルナ。3人は前から、僕と人里巡りを存分に楽しむことを夢と言っていた。だから、お祝い会でとてつもない量と質の幸せをもらった僕は、何の迷いもなくすぐ人里巡りをやると言ったのだ。

 

 同じ週に紫さんとの対談があるから、初の人里巡りは次の週にでもして欲しいっていう、僕の精神的負担を鑑みてしてくれたレミリアのお願いすらも、はっきりお断りできるくらいの幸せを。

 

 そして、僕の返答を聞いた愛する家族の3人は、それはもう大層喜んでくれた。特にサニーは、嬉しさのあまりチルノに抱きついてわんわん泣くくらいに。

 

「ふぅぅ……楽しかった! えへへ、僕とっても幸せ!」

「私もよ、メノ! でも、これから更なる幸せが待ってると思うと、ワクワクするわ!」

 

 で、それ故に全員強化形態になるレベルで高ぶり、眠れなくなったことで夜中から理想郷の外に出かけ、前座として人里の上空で飛んで遊ぶことになったんだけど、これがまあ楽しいのなんの。

 

 僕たちの力を合わせたキラキラで模様を描いたり、サニーに言われて全力全開で飛んでみたり、終いには出来不出来とかは関係なく一緒にダンスを踊ってみたりとか、高ぶりが極まり過ぎて人里巡りがおまけと化しかける。

 

 ルナの「いつ止めるのこれ……」って言葉のお陰で、何とか理性を取り戻して止められたけど、察しの通り強化形態と言えどクタクタだ。全力で長時間遊び続けていれば、至極当然の話だろう。

 

「ふふっ……全く、おてんば妖精たちだこと。前座でクタクタになってどうするのよ」

「何時間も飛び続けるだなんて、余程楽しかったんですね。サニーちゃんたち」

「あはは……本当、面目ないわ! ちゃんと理性を働かせていればよかったのに」

「右に同じく、僕も本当に恥ずかしいよ。いいところで止められなくて」

 

 で、がっつりした休憩も兼ねて何となく紅魔館に寄り、何やら門前で話し込んでた美鈴やレミリアにお願いして中に入れてもらったんだけど、普通に笑われた。

 

 そりゃあ、あれだけ絶対に行くんだって息巻いてた人里巡りをやった後ならともかく、強化形態が解けていないとはいえその前からクタクタになってれば、おてんば扱いされもするよね。

 

 無論、これに関しては後悔なんて全くない。レミリアや美鈴も含め、サニーたちとおやつを食べたりやってきた遊びのお話しをしながら休憩しているだけで、幸せの供給によってみるみる回復していってるから。

 

 サニーとスター、ルナだってこのまま人里巡りがおまけどころか、下手したらおじゃんになりかけたことにはヒヤヒヤしてても、僕の提案に乗って遊んだこと自体は全く後悔していなさそうだ。

 

 そるにもし、そのせいでおじゃんになっていたとしても、僕は明日も使うつもりでいた。皆に頭を下げてでも、僕に恒久の幸せを贈ってくれたサニーたちの叶えたい夢を、是が非でも叶えてあげたいから。

 

「まあ、楽しかったならいいじゃないの。それはそうと、前座でこれ程高ぶるならメインはもっと高ぶって、凄いことになるのは間違いなさそうねぇ」

「うんうん。今度は1日中、はっちゃけられるレベルで高ぶるかも」

「だねー。そうなったら、次の日はグロッキーかもしれないわ」

「反動とか凄いものね! でも、これで夢が叶うなら安いもの……よっ!」

「にゃっ!? サニー……もうっ、くすぐったいって!」

「あらあら……程々にしなさいよ? またクタクタになっても、私も美鈴も責任は取れないからね」

「流石に大丈夫だとは思いますが……いや、やっぱり大丈夫ではないかも?」

 

 部屋の窓から外をちらっと見てみたら、もう日が昇り始めているお陰か、それなりに明るくなっている。

 チクタクと音を立ててる壁掛け時計が指す時間は午前5時50分、起きている人自体はそれなりに居ても、人里のお店とか食事処が開くにはまだ早そう。

 

 これが幻想郷でなく、前世で居た外の世界であればコンビニみたいな、24時間営業ないしそれに類するお店があったかもしれないけど、別にそこまでは求めてない。

 

(妖精になった当初は勿論、妖精になる前は全然考えられなかったなぁ……こんなこと)

 

 サニーは、商店街とか食事処を抜きにしたって、初めてなら散歩するだけでも色々なものを見れて楽しいと。

 スターは、行きつけの駄菓子屋なら朝早くから開いてるし、そこのお兄さんとおばあちゃん相手なら、人里の人間との会話に慣れるにはちょうどいいって。

 ルナは、紅魔館の大図書館には流石に劣れど、様々なジャンルの本が揃っている貸本屋さんがとってもいいところで、今の小鈴って店番の人も本にイタズラしなきゃ普通に優しいって言ってくれた。

 

 人里に昔から何度も行ったことのある3人からこういう話を聞いて、知らない場所で知らない人たちが大勢居るってところを差し引いても、普通に楽しそうな場所だって思えている自分が居るのだから。

 

「よし、ふっかーつ! さあ、早く3人で人里巡りに出発しましょー!」

 

 休憩を始めてからおよそ2時間、外もすっかり明るくなってメイド妖精さんたちも元気にお仕事を始めたり、普通にそっちのけで遊び出すようになった頃、サニーが急に立ち上がった。

 

 で、間髪入れずにこう言ったと思ったら、レミリアの部屋のドアを壊すのかと言わんばかりの勢いで開け、そのまま走って出ていってしまったのである。

 

 この時間なら、確かに開いているお店もそれなりにあるだろうし、人の動きだって活発になりつつあるから気持ちは分かる。とはいうものの、僕たちを置いて行かれたら何というか、ちょっぴり困る。

 

「あ、ちょっと……サニー!? もう、理性云々って話はどこ行ったのよ!」

「あちゃー、やっぱり駄目だったねー。まあ、私も正直限界近いし、人のこと言えないけど!」

「わわっ!? えっと……レミリア、美鈴! 休憩させてくれてありがと!」

「どういたしまして。人里、楽しんできなさいな!」

「いってらっしゃい、メノウちゃん!」

 

 ということで、せっかく休憩場所を用意してくれたレミリアと美鈴にはごめんだけど、サニーを追いかけるルナやスターのすぐ後を追って、僕も部屋を走って後にしていく。

 

(……ごめんね、メイド妖精さん)

 

 わざわざ言わずとも分かるはずだけど、こんな感じでドタドタ走る僕たち4人の姿は、メイド妖精さんたちの目にとってもつきやすい。

 故に、これを追いかけっこや鬼ごっこだと勘違いした妖精さんが出てくるのも、無理はないのである。

 

 普段であれば、恐らく一緒に遊びに付き合っていただろうけど、今日はあいにくサニーたちの夢を叶える特別な日。申し訳ないけど、このまま外に出ていくつもりだ。

 

「もうっ! サニーったら、私とルナはもとよりメノも置いていっちゃうだなんて駄目でしょー」

「気持ちは痛い程分かるけど、少しは落ち着いて。ね?」

「ええ。私としたことが、またやっちゃったわ……メノ、ごめんなさい」

「僕なら全然大丈夫。それよりも、皆で人里へレッツゴー……だよ!」

「「「おーっ!!」」」

 

 そして、そのまま庭から館の門前まで駆け抜けたところで、ようやくサニーに追い付いた僕たちは早速、四妖精の夜光お絵かきショーをやっていた時に勝るとも劣らないテンションで飛び上がり、再び人里方面へと向かう。

 

 ただし、人里へ直接降り立つようなことはしない。初めてで慣れていない僕が一緒なのと、恐らく夜中のあれで良くも悪くも更に注目されている可能性が高いから。

 故に、少し離れたところに降り立ち歩いて向かい、門番さんに声をかけてから中に入る予定だとスターは言っていた。

 

(レミリアたちと、メイド妖精さんたちのお陰でもあるんだろうなぁ)

 

 ちなみに、人里の門番をやる人間さんは妖精や子供にはほぼ全員優しく、優しくない人だって酷くいじめたり理由もなしに怒鳴ったりはしてこないらしい。

 

 仲良くなれるかどうかは相性の問題もあるからともかく、()()()じゃなければ全然いい。

 そうすれば、サニーとスターとルナが余計なことに気を取られず、僕との人里巡りをするって夢を叶えて幸せになってくれるはずなんだもの。

 

「そこの暇人お兄さん! 家族総出で遊びに来たわよ!」

「ん? 何だよお子様サニー、えらいご機嫌じゃねえか……ああ、そういうことかい」

「ええ、そういうことよ! じゃあね!」

「おう。まあ、楽しんでいきな」

 

 そうして、ちょっと離れた整備されてる道に降り立って、お煎餅食べながら暇そうに椅子に座ってた男の人にサニーが声をかけると、何の問題もなく中に入ることができた。

 

(わぁ……えへへ)

 

 で、その時にサニーは勿論のこと、スターやルナの真似をして通る時にちょっぴりドキドキしながらも手を振ってみたら、思いの外普通に手を振り返してくれた。

 

 僕のことを邪険にすることもなく、かといって申し訳なくなるくらいに気を遣うでもなく、ただ1人の妖精ないし子供として扱ってくれた門番のお兄さん。

 

 ホッとひと安心すると同時に、何だかちょっぴり嬉しくなった。僕でも、サニーたちと一緒に人里で楽しく遊んでいいって認められたみたいで。

 

 ただし、あの人たちが来る前に刷られた、僕の姿込みでの解説コーナー入りの文さんの新聞という存在の影響もあってか、やはり注目度合いはかなり高い。

 

 レミリア含む大好きな友達の尽力のお陰で、悪い意味合いでの注目は大きく削られているとはいえ、()()()()()()健在ではある。

 

「皆、やっぱりメノに興味津々なのね! ちょっぴり心配だったけど、これで安心して人里巡りを楽しめるわ!」

「うん、嫌な思いをしないで済むって意味ではそうだねー。ただ、ずっと見られてて落ち着けないかも?」

「私たちはまあ慣れたものだけど……大丈夫? 辛くない?」

「大丈夫だよ、ルナ! 落ち着かないっていうのは確かにあるけど、そんなの別に大したことないもの!」

「ならいいけど。もし辛くなったら、ちゃんと言って」

「はーい!」

 

 でも、そこまで行ったらないも同然って断言してもいいと、人里巡りを楽しむ障壁にはなり得ないと考えている。

 

 さっきのお煎餅食べてた門番のお兄さんのような、僕が居ようと関係ないって平常運転な人間さんが、少なくなさそうだったから。

 

 人里の町並みとか賑わう雰囲気など、サニーたちとお話しながら見て感じていく内に、もっと見聞きして体験してみたいって思いが生じてきたから。

 

 そもそもの話、強化形態の影響などによる気分の高ぶりやウルの守護で、精神防御がより強固なものになっているから。

 

 僕個人に限定してみても、自信をもってさっと挙げられる理由がこれだけあるのだ。

 

「メノ! ここのもこもこわたあめ、とっても美味しいわ! ほら、食べてみて!」

「もぐもぐ……わぁ、甘い! ふわふわ! えへへぇ~」

「えっと……こっちのりんご味の飴玉も美味しいよ。メノ」

「あっ、いつぞや咲夜にもらった美味しいやつ! ここの飴玉だったんだね、ルナ!」

「楽しそうねー。じゃあ私は……これ!」

「ひゃ!? あっ、芋虫のびっくり箱……生きてるかと思ったよ、もうっ」

「それ、新しいイタズラグッズかしら? いつの間に買ったのよ、スター」

「わたあめもぐもぐしてる時よー。私の分もあるよね?」

「勿論よ! はい、スターの分!」

 

 しかし、それ以上にサニーもスターもルナも、僕と人里巡りをするって夢が叶ってとっても嬉しそうで幸せそうなのが、理由としては大きかった。もはや、圧倒的と言える程に。

 

 趣味でやってる人間さんの、気まぐれ屋台でサニーが買ったもこもこわたあめとルナに渡されたりんご飴を食べてニコニコ、スターが買ってた本物の芋虫そっくりのおもちゃが出てくるびっくり箱に驚いて、わたわたする。

 

 これだけで、愛する家族に幸せを贈ることができるだなんて、とても手軽で安いものと言えよう。

 

「毎度のことだけど、いつも僕ってサニーたちに幸せにしてもらってるよね。今日だってそうだもの」

「メノが幸せなら、私たちも幸せだからいいのよ! メノもほら、私たちが幸せなら幸せでしょ? それと同じ!」

「うんうん。こんなに長く、強化形態が解ける兆しすらないなんて何十年……いや、100年単位であるかないかだし」

「そう考えると、メノのお誕生日会の時も間違いなくこうなるから、凄いハイペースだわー」

「えへへ……うん。そうだね、スター」

 

 勿論、僕が今まで贈ってもらった幸せに比べれば、今日贈ることができた幸せはまだまだ少ない。荒廃していた今までの生活が一気に甦るどころか、より一層充実させてくれた数々の贈り物に比べれば、まさしく月とすっぽんだから。

 

 そして、サニーたちからの贈り物は今後も無償で、僕が居る限りはいつまでも増え続けるだろう。ならば、僕もそんなサニーたちに常に感謝の思いを持ちつつ、幸せの恩返しを何百何千年とし続けていくだけである。

 

「ごちそうさま! さあ、次はどこに行こうかしら? 候補が多過ぎて、全然決められないわ!」

「なら、先に寺子屋行きましょー。鈴奈庵(すずなあん)でもいいけど、ルナはどうしたい?」

「私? 鈴奈庵の方は貸本屋さんだし、借りた本を持ち歩きながらってのも何だかなぁ。寺子屋もいいけれど……うん。メノが決めて」

「えっ、僕が決めちゃっていいの? ルナ」

「いいよ。何なら、今挙がった候補じゃなくてもいい」

 

 とまあ、こんな感じで最初にふらっと立ち寄った屋台やお土産屋さんを軽く堪能してからは、里歩きをしながら次の行き先を話し合ったんだけど、何だかんだで僕の意思でいいと任されることになる。

 

 ルナだけでなく、サニーもスターも僕が好きなところでいいし、しばらくただお散歩しながら人里の人間さんとお話しするとか、そんなでもいいってニコニコしながら任せてくれたのだ。

 

 僕と一緒に人里で何かをして楽しむという、抱いていた夢そのままの状況に持ち込めている時点で、皆半分くらいは満足したのかもしれない。

 

(うーん……ど、どうしたらいいのかな……?)

 

 さて、そうなるとどこにしようかが迷う。学校に相当する寺子屋も、小さな町の図書館みたいな鈴奈庵も、人里の散歩も、商店街や本格的な食事処も、サニーたちが一緒なら全てが同じくらい魅力的に思えてくるから。

 

 人里のお散歩ならば、基本はその場の流れに身を任せていれば済むから楽なんだけど、本当にそれでいいのかな。僕だけが楽しくて、サニーたち3人の内誰かないし全員がそうではないってことに、いつの間にかなったりしちゃえば、とっても怖い。

 

「……ねえ、ルナ。僕みたいな妖精でも、着物でおしゃれってできるのかな?」

「あー、ここなら大丈夫。やりたいならできるよ、メノ」

「お金ならたっぷり持ってきたからね! 安心して楽しめるわ!」

「ちなみに、幽々子の着物もこのお店仕立てよー」

 

 なお、僕の心の中で巣食っていたこの迷いは、商店街に入ってすぐ左側にあった着物のお店から、嬉しそうにお母さんと一緒に出てくる女の子を見て、一瞬で吹き飛ぶこととなった。




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