「おばあちゃん、来たよー!」
「おや? あんたたち、久しぶりだね。いらっしゃい」
商店街でたまたま見かけた、由緒ありそうな着物のお店へおしゃれを楽しむため、意気揚々と入っていった僕たち。
そうしたら、奥の方から出てきた店主であろうおばあちゃんがルナの呼びかけを聞くなり、結構親しげな感じで寄ってきたから驚いた。サニーたちも割とニコニコで親しげなのを鑑みるに、よっぽど長い付き合いだったみたい。
であれば、間違いなく安心できる人間さんだ。今までサニーやスター、ルナが親しげにしていた人妖さんの中で仲良くできなかったり、少しすら嫌だなあと思ったことはないもの。
「おばあちゃん、久しぶり! またお世話になるわー」
「お土産もあるわよ! 虹色に輝くキノコ!」
「サニー、それ絶対お土産に選ぶものじゃなくない……?」
「イタズラ好きなあんたのことだ。絶対にロクでもないキノコだろうし、遠慮しとくよ」
「えー。甘くて辛くて苦くて酸っぱくてしょっぱいだけの、無害なキノコよー」
「全く……やっぱり駄目な奴じゃないか。うちのじい様や里の連中に食わせるつもりかい?」
「今日はやらないわ! 今日はね、新しい大好きな家族のメノと、人里巡りをするって夢を叶えている途中だもの!」
「ふむ、だろうねぇ……まあ、くれるというならもらってはおこう」
見た目や声、口調や雰囲気はちょっぴり怖めな白髪のおばあちゃん。でも、性格は愛する家族3人とのやり取りの様子を観察していれば、優しくて面白い人なんだろうなぁ。後、イタズラするのが好きかもしれない人。
それに、さっき僕たちが入る前にお店から出てきた、お母さんらしき女の人と小さな女の子だって、表情がとてもニコニコだったし、ちらっと耳に入ってきた会話の中でも性格に言及していたから、まず間違いはないだろう。
見た目とかがちょっぴり怖いからお話しをしないって選択は、人里じゃ損することが多そう。
このおばあちゃんを含めて、人里の人間さんに僕の方から話しかけるってチャレンジを、ほんの少しはしてみてもいいかもしれない。
「ところで、私たちの着物は今すぐ着れる?」
「勿論さね。大切な
「流石は着物屋のおばあちゃんだわ! それと後、いつものお金! かなり遅れちゃってごめんなさい!」
「ははっ、気にしなくてもいいさ。あんなのが居ちゃあ、来たくても来れんだろう。私があんたの立場なら、きっと来てない」
「そうそう。居なくなってくれて、本当に清々したもの」
それで、サニーたちはこのお店に入った時すぐ、人里巡りに着ていく着物を決めていたらしい。カウンターのすぐ後ろの、背中に羽を通すための穴がある3つの子供サイズの着物を指差している。
どうやら、サニーと店主のおばあちゃんの発言からして、あれはもう既にサニーたちのものらしい。それでも僕の家じゃなくてここに置いてあるのは、普段滅多に着るものじゃないのとこの着物屋さんが、普段の管理もしてくれているからなんだろう。
(皆の着物、すっごく可愛いなぁ……いいなぁ……)
暖色系で統一されてて、太陽やひまわりの刺繍がある元気で可愛い系の着物がサニー。
晴れの日の夜空を思わせる青色系がメインで、星々やツキミソウの刺繍がある、落ち着いた可愛さの着物がスター。
月光のように白と黄色が程よく調和した色で、月や月下美人の刺繍がある、より落ち着いた可愛さの着物がルナが着るみたい。
僕から見て全く違和感のない愛する家族のイメージ通りの着物を、こうしてとっても気に入る着物を用意できるなんて、昔からこのおばあちゃんはサニーたちのことを、よく見てくれているということ。
こうやって、サニーたちを幸せにしてくれているのであれば、僕としても深く感謝しなきゃならない。
「さてと……メノ。あんたも着物を探しているんだね?」
「ひゃい! あわわ……変な声出しちゃった」
「ふむふむ。あんたはパッと見、ルナが1番体格的に似ているねぇ。サニーやスターとも相当似ているが」
「あっ……えっと、うん。そう言われること、僕結構多いの」
そうしたら、サニーとお話ししてた店主のおばあちゃんが僕の方を向いて、こう話しかけてきた。着物屋さんに来る目的と言ったら、普通は自分の着たい着物を探して着ることだから、お店の人としては当然と言えよう。
「それに、羽の大きさもそこまで変わらない。サニーとスターの予備は少し調整が必要だが、もしよければルナと同じ着物類なら今すぐにでも――」
「わぁ……本当!? ルナとお揃い……えへへ」
「うぉう。随分とまあ、がっついてくるねぇ。そんなにルナのことが好きかい」
「うん! ルナは大好きだし、サニーとスターも大好き! 僕の命だもん!」
なお、サニーやスター、ルナが僕を大好きな家族って紹介してくれたからか、はたまたこっちの方がいいと判断したからなのか、初対面でありながらまるで前から親しかったみたいに、気軽に接してきている。
だからといって、会話の返しにぎこちないところがない訳じゃないけれど、今の僕は無敵に近いし、おばあちゃんの優しさとかも相まって、そんなことは殆んど気になることもなくお話しできている。
いずれは、普通の状態の時でも今くらいの感じで、親しげにお話しができるようにはなりたいなぁ。そうすれば、僕も楽しみつつサニーたちにも喜んでもらえるだろうし。
まあ、ルナと同じ着物を着るって食い気味に言った今と同じテンションは、お祭りの時ならまだしも普段からだと相手が疲れるから、自制はしなきゃ。
「初めて会った時に着せた下着と洋服も私のだったけど、着物も下着含めて私のやつと同じかぁ。嬉しいけど、そんなにすぐ決めて大丈夫? 私たち以外ので可愛い着物とか、他にもいくつかあるみたいよ?」
「うん。最初は自分なりのおしゃれをするつもりだったけど、ルナたちの可愛い着物を見たらどれかがいいって思ったの」
「ふふっ、嬉しいこと言ってくれるよね。メノ」
「一生懸命、私たちなりにデザインとか考えたものね!」
「それに、今日は着物選びメインじゃないし、早く決めて色々回るべきかなって」
「確かにね。似合ってもいるだろうから、そう言う意味でもルナの着物が1番いいわー」
ちなみに、サニーたちだって早く着物に着替えたいだろうに、僕を気遣って一緒に着物選びに付き合ってくれていた。
ただまあ、サニーたちの着物を見た瞬間にびびっと来て他の着物が目に入らなくなったのと、ルナと同じ着物が1番早く着ることができるという理由で、もう既に終わっているんだけど。
(早く着替えて、サニーたちと人里巡りしなきゃ!)
正直、ちょっと待てばサニーやスターの予備の着物も着れるなら、そっちも着てみたいなって思いはある。まあ、今日以降も人里に来る機会なんて沢山あるんだし、特に焦る必要とかはないよね。
今日の主役はサニーたちであり、僕の気持ちはあくまでも二の次なんだから。
「ルナ、着るのまで手伝ってくれてありがと。自分だって着替えたいはずなのに」
「どういたしまして。えっと、何かこう変な感じとかしない?」
「うん、全然大丈夫だよ。それにしても、着物を着ることを楽観視し過ぎてた。必要なものも多いけど、着る手順も結構複雑だし……僕、ちゃんと覚えられるのかな?」
「まあ、気持ちは分かるわ。私だって、上手に着たり着させられるかっていったら正直不安だもの。もし、見えないところが変になってたらごめんね」
「ふふっ。気にしないから謝らないで、ルナ。ありがと」
そして、選び終えたならば当然着替えに行く訳で、おばあちゃんに一言伝えてから更衣室を借りたんだけど、そこでもルナが僕のお着替えを手伝ってくれたため、初めてでありながらまあまあいい感じに着ること自体はできた。
とはいえ、普通の洋服を身につけるのとは訳が違う着物。ルナが手伝ってくれても僕が初心者なせいで、結構長い時間がかかって申し訳ない。
でも、これはこれで初めての経験だったし、ルナも何だかんだで楽しんでくれたみたいだから、僕としてはホッとひと安心かな。
「わぁぁ……お待たせ! サニーもスターも、すっごく可愛い! 似合ってる! えっと、うーん……凄く可愛い!」
ルナは1人で着替えを頑張るというので、先に更衣室のカーテンを開けて出たんだけど、サニーとスターの方が早かったらしい。
既に着替えを終えて、椅子に座りながらのんびり待っていたので、即座に駆け寄って褒めに褒めた。
聞く人が聞けば一つ一つの仕草が大袈裟かつ、お世辞を言っているように聞こえるかもしれないけど、僕としては全てが本心。この言葉に一切の嘘や偽りはない。
なので、サニーとスターが喜んでくれさえすれば、他の誰かにどう思われようが別にいいのである。関係ないんだし。
「えへへ。そんなにキラキラした瞳で褒められると私、とっても照れちゃうわ!」
「同じこと言うくらいだもんねー。それよりも、メノだって十分可愛いと思うわー。ルナと本当の姉妹妖精みたい」
「にへへぇ。嬉し過ぎて、顔がどうしてもにやけちゃう!」
「これが運命って奴だねぇ。メノとルナ、本当にそっくりだよ」
「ふふっ、おばあちゃんもお墨付きをくれたわね!」
そうしたら、2人は喜んでくれるだけでなく逆に僕の……というよりはルナの予備の着物なんだけど、それを着ている僕を可愛いって褒め返してくれたのだから、もう嬉しくて堪らない。
この一言だけで、1日分のエネルギーをもらったような感覚すら覚える程には。
(よかったぁ……)
なお、そんなやり取りをサニーやスターとしている間に、お客さんが何人か居たことに気がついてちょっぴり焦ったけど、邪魔にはなってなかったらしくてほっとした。
とはいうものの、僕の姿で驚かせちゃったのはごめんね。よく見れば分かるけれど、ルナの格好をすれば一瞬でも誤解する人妖さんが出るくらいには、そっくりになるみたいだから。
「サニーにスターにメノ、お待たせ。大分時間を使っちゃったし、早く人里巡りの続きと行こう」
「ええ! ルナも無事に可愛くなったことだし、お祭り気分のまま出発進行ー!」
お客さんたちの邪魔にならないよう、隅っこで更に15分近く待てば、ルナも着替えを終えて更衣室から出てきたので、ルンルン気分のままに着物屋さんから出発した。
勿論、出る間際に全員でちゃんとお礼はしているし、脱いで併せ技ど綺麗にした皆の洋服や下着を置かせてもらう分の対価とかも、取りに来た時に払う約束もしている。ちなみに、お金とかじゃなくていいらしい。
(きっと高いだろうなぁ、特注品の着物)
何度も言うけど、今日はサニーたちのために人里巡りをするって目的がある以上、言おうとしてたこと思い出しても戻るのは憚られる。
いつか僕の着物を作ってってお願いを、おばあちゃんにするというお願いを。
単純に可愛い自分の着物が欲しくなったのもあるけれど、1番はそれを着た僕の姿をサニーたちに見せ、チルノ一行を含めた僕の大好きな友達に見せて、可愛いと褒めてもらいたいからって理由が大きい。
もし、その時が来たら……皆は、メノ可愛いってニコニコしながら褒めてくれるかな。それとも、イメージが持ててなくてびっくりするのかな。
「随分と賑わってきたわ。今日って何かイベントあったのかしら?」
「どうなんだろ? 単純に、外に出てきてる人間さんが多いだけかもよ。スター」
「まあ、楽しければ何だっていいわ! ところで、次はどこに行く? 寺子屋? それとも田んぼ?」
「寺子屋でしょ。ていうかサニー、何で田んぼ? 選択肢が訳分からないんだけど、お米作りでもやりたくなった?」
しかし、全てがルナとのお揃いだからにしたって、着物を着るだけでこうまで気分が暖かい方に変わるものなのか。
いや、勿論それもあるんだけど、愛する家族3人が着物姿でルンルンだから余計にいい気分なんだろうなぁ。サニーなんか、今日があまりにも幸せ過ぎるからか、何故か田んぼに行こうだなんて言い始めるし。
着物姿で田んぼに行ったって、できることは遠くからお仕事をする人間さんや、周りの風景を見て雰囲気を味わうくらいだけど、僕はそれでも別にいい。
「言ってみただけ! 反対意見もないみたいだし、寺子屋で決まりね! 私たちとメノの登場で、わっと驚かせてやりましょ!」
「私たちのこと噂になってるし、いささか目立ち過ぎじゃ……まあ、楽しめればいっかー」
「えへへ。そうだね、スター……びゃっ!?」
「あわわわ、メノの足踏んじゃった……ごめん。痛かったよね」
「うん。踏まれてびっくりしたけど、痛みはちょっとだけだから大丈夫。ほら、もう治ったよ」
まあでも、流石に選択肢に寺子屋があれば、そっちに行くのが道理ではあるかな。僕の魔法と能力で、いくら汚れようとも綺麗にできるとはいえ、着物姿で行くには不向きな場所だもの。
ゆゆさんの着てる着物みたいに、弾幕ごっことかができるくらいに特別丈夫な作りになってれば別かもしれないけど、きっとなっていないだろうから。
(え? 何今の……)
すると、そんなことを考えていた僕の頭に、正体不明の何かがこつんと当たったような感触がしたせいで、思考が途切れた。
サニーやスター、ルナとのお話に結構夢中になってたから全然気がつかなかったし、3人の方も何が起きたのか分からないみたいで、どうしたのと僕に聞きたげな表情をしてる。
感触的に固くはなく、当たった時の速さもそこまでじゃなかったのか、強化状態故に防御力が高かったお陰か痛くはなかったけど、それはそれとして何が当たったのかは知りたいな。
「これ、至って普通のボールだね。ちょっと柔らかめの、当たっても怪我しなさそうなやつ」
「不意打ちで飛んでくるボールとか、イタズラかと思ったわ。まあ、もしそうなら固いとか爆発したりとか、ネバネバとかしてるはずだから違うわねー」
「もうっ、スターじゃないんだから……メノ、大丈夫? 痛くなかった?」
「心配ありがと、サニー。軽くこつんって感じだったから、全然大丈夫」
なお、その何かの正体はルナも言うように、ただの固くはないボール。僕やサニーたちくらいの見た目の子供たちが、友達同士で集まって遊ぶ時に使いそうな感じのやつだ。
空気を入れたばかりなのか、地面に軽く落としたらそこそこ跳ねる状態だったし、誰かが思い切り蹴飛ばしたら想像以上に飛んじゃったってところかな。
「なら安心ね! ところで、そのボールどうする? 持っててもしょうがないでしょ?」
「うん。取り敢えず、大人の人間さんにでも渡そうかなって。持ち主が探してる様子とかも、多分なさそうだし」
「なら、落とし物を預けるところがあるわ。人里巡りも兼ねて、一旦そこに行くわよ!」
それにしても、飛んできたこのボールはどうしよう。誰かが近くで探してたら困るよねってことで念のため辺りを歩きながら見回しつつ、耳も澄ませてみたはいいものの、実際に探しているような声とか足音は聞こえなかった。
そもそも、これだけ沢山の人間さんで賑わう場所で、ピンポイントで目的の人間さんの声や足音を耳で拾い、姿を目で見つけるのはいかに僕でも難しい。
うん。しょうがないからサニーが言ってるように、落とし物を預ける場所に持ってって置いてこよう。何だかんだで、それが1番時間もかからなくて簡単だから。
「あ、あのっ……白い妖精のお姉ちゃん! それ……」
「なあに? もしかして、君のボール?」
「うん、ぼくのボールだよ! 嘘じゃないもん!」
ただまあ、それは前方向から駆け足で僕の方に近づき声をかけてきた、僕やサニーたちより少し小さい男の子の登場によって、行かなくてもよくなるのだけど。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。