10歳前後の人間の子供と幻想郷の妖精は、精神的に似通っている部分が沢山ある。勿論、似通っているってだけで完全に同じって訳ではないけど。
だからこそ、寺子屋の子供たちとは時折喧嘩したりイタズラし合ったりとかしながらも、私たち三妖精は仲良くわいわい遊ぶことができているのだ。
そして、メノも近い将来同じになりそうだって私は思ってるし、サニーやルナとも意見が一致している。
びっくりさせるイタズラを成功させた後、全ての汚れを綺麗に消し去るあの併せ技を、迷いなく皆に使う。
で、それを凄いと思った子供たちに囲まれて話しかけられていた時の、雰囲気に圧倒されつつも嬉しそうに会話をするメノの様子を見ればまあ、当然の意見一致かしら。
「久しぶりだったし、もうちょっとだけお話してたかったわね! スター」
「まあねー。でも、農業体験をするからって言われれば、仕方ないわ。無理強いする訳にもいかないし」
「皆とのお話、楽しかったなぁ。正直、あんなに褒めてくれるなんて全然思ってなかったから……えへへ。あっという間に時間経っちゃったね」
「うんうん、本当に楽しかったしね。メノも、いずれは仲良くなれそうでよかった」
とまあ、寺子屋の子供たちとの楽しいやり取りについて考えながら、次に私たちが人里巡りで向かうのは貸本屋の鈴奈庵。少しばかり一息つきたいって、ルナのリクエストがあったから。
家族大好きなメノは言わずもがな、サニーも「ずっと動き回ってると疲れるものね!」と言い、このリクエストを即刻了承してくれた。
強化形態の高ぶりで忘れそうになるけれど、ルナは私やサニーと比べれば大人しめで、普段は静かなところで本を読んだりコーヒーを飲みながら、日々をのんびり過ごすことを好む妖精。
ここ最近は理想郷の大探検もあって、皆でわいわいするって時間が多いし、今日だって何だかんだのんびり休息を取る時間を取っていないから、少し長めに取ってあげるのは当たり前よね。
「それにしても、今日の私たちって気づけば動きっぱなしよねー。サニー」
「確かにそうね、スター! 強化形態で高ぶってるし、無意識に休憩をもったいなく感じてたのかも?」
「なるほど。ルナがリクエストしてくれなきゃ、ギリギリまで休憩せずにいたかもだわ」
「私的にはまだまだ動く余裕はあるけど、メノのこともあるでしょ?」
「「あー……それはそうね!」」
そういえば、このルナの性格を知った当初のレミリアから、仲良し家族で居たいならあまり連れ出したりしない方がいいわよと、ちゃんと見てあげなさいって、忠告されたことがあったっけ。
私やサニーが妖精だから優しい言い方だったけど、これが妖精じゃなかったら多分裏で凄く怒られてたか、最悪の場合は実力で脅されてたって美鈴に耳打ちされた時は、ちょっとひやってしたわ。
ちなみに、結果から言うとルナ本人が色々と説明してくれてた時の表情や仕草と、私やサニーが嘘つきの目をしていなかった点が信用され、逆に他人の私が疑ってごめんなさいと謝られることで解決している。
こっちが逆にレミリアの目を見れば、本当に心の底から妖精という種族を、家族のルナの心を第一に考えてくれてるからこその問いかけだと理解してたし、別に謝られなくてもよかったけど。
「たのもー! 小鈴、居るわよね!」
「光の三妖精改め、光の四妖精見参よー!」
「サニーもスターも、貸本屋に来るテンションじゃないって……」
「あはは……流石、元気っ子筆頭格の2人だね。ルナ」
そんなこんなで、特段寄り道とかすることもなく鈴奈庵へと到着した私たち4人。ルナに言われたように、貸本屋でのテンションではないのは分かってるけど、やはりというべきかこの高ぶりを抑えるのは難しい。
何度でも言えるけど、今日は長年の妖精生活の中でも一二を争う程の思い出となる、メノとの初人里巡りの日。しかも、今のところメノは人里巡りを楽しんでくれているのだから、尚更難しいと私は断言しよう。
「ほら、小鈴。お客さん来たよ」
「はーい。いらっしゃい、サニーちゃん……!? あぁ、一瞬ルナちゃんが1人増えたかと思ったわ。あの白い子、メノウちゃんでしょ?」
「ええ! やっぱり、小鈴もルナそっくりって思った?」
「うん、思った思った。姉妹って言われれば納得できちゃうくらいにはね」
「高ぶる今はともかく、普段の性格も間違いなく私そっくりだし、うん。納得」
「静かだけど、かなり甘えん坊なルナって感じだもんねー」
ちなみに、メノはルナの着ている服や下着をそのまま着ることができるくらい、体格がピッタリな妖精である。容姿も割と似ている方なので、服装を似せると阿求とお茶をしていた小鈴のように、見た瞬間はびっくりする場合がまあまあ多い。
勿論、本気で誰かを狙ってびっくりさせようと思ったら、魔法を使わない場合はアリスや紅魔館の服飾メイド妖精に、使う場合は魔理沙やパチュリー、フランといった魔法のエキスパートに協力を依頼する必要があるけど。
なお、阿求の方はメノを見ても特にびっくりしたり、何かしら反応を示す様子はなかった。人里巡りをしてから随分と時間も経ってるっぽいし、私たちがメノを連れ人里で遊んでいる情報が既に行き渡ってても納得かしら。
「こんにちは。私、本居小鈴。この貸本屋、鈴奈庵でいつも店番やってるんだー」
「わぁっ、こんにちは。えっと……その、そんなに僕とお話ししたかったの?」
「うん! それはそうと、本は好き?」
「ルナと一緒に、いつも絵本とか小説を読んだりするくらい。1人でも読むけどね」
「本当? 私も好きなんだ~。よろしくね、メノウちゃん」
そして、小鈴の妖精かと言わんばかりの好奇心旺盛な性格からして、噂の種であるメノに食い気味に話しかけるのは予想はできたこと。故に、本来ならばさりげなく私なりサニーかスターが間に入り、あまりグイグイ来ないようにしている。
しかし、今日は違う。強化形態故の高揚感に助けられているお陰で、寺子屋の子供たちや慧音を筆頭に、初対面の人妖に話しかけられてもいつもみたいな緊張を見せる素振りがない。
私やサニーやルナが一緒に居なくても、短時間であれば1人でもお出かけできそうだと、錯覚してしまいそうなくらいにはニッコニコなのだ。
「うん、よろしくね。えっと……小鈴お姉ちゃん? 小鈴さん?」
「サニーちゃんたちの家族だし、小鈴でいいよ」
「分かった! えへへ……あのさ、小鈴。僕とお友達になるのは、嫌?」
「えっ、嫌じゃないけど。色々と聞きたいこととか知りたいこととかあるし、むしろ私の方からお願いしようかな!」
「わぁ……うん! えへへ、どんなお話しようかなぁ……」
加えて、小鈴との相性が余程よかったらしい。満面の笑みで自分から、友達になりたいという意思が強いと分かる言葉をかけていたのだから、間に入るなんて真似はしようとすら思わない。
あのメノが人里で、私たちを直接介さずに友達を作ろうとしているのだ。例えばそう、メノを傷つけるような悪意を持った人間、上手いこと利用して酷いことをさせようとする人間とかでなければ、いくらでも作って欲しいわね。
何だったら、私たちが知らない友達をいつの間にか作ってくれても嬉しい。だけど、それは1人お出かけが安心してできるようになってから。
この様子を見る限りでは、それくらい簡単にできそうだと思うかもしれないけど、私の感覚ではまだ早い気がしてならない。少なくともしばらくは、誰か1人は一緒に着いていってもらわないと不安で仕方ないわ。
「メノと小鈴、相性がかなり良いみたいでよかったわー。ねえ、阿求」
「それは確かに……ただ、人里のトラブルメーカーが1人増えないかが心配です」
「小鈴次第かしら。メノ1人だと大人しい……? いや、イタズラの好みの傾向が私に似てるっぽいし、将来はどうかしら!」
「スター、それ絶対駄目なやつ……まあ、メノが元気ならいっか」
「そうね! イタズラ四妖精の面目躍如よ!」
「あぁ……やっぱり、駄目みたいですね」
小鈴は、私たちのようにイタズラするのが大好きってタイプじゃない。
ただ、その分危機感が人間の割には薄くて、やっちゃ駄目ってことでも自分が面白そうって強く思えばやりたくなる、やっぱり妖精向きの性格だ。
(メノ、幸せそうでよかったわ。私も、あなたが幸せなら幸せよー)
一方で、メノはまさしく私たちのようにイタズラするのが大好きってタイプの、妖精らしい妖精だ。サニーやルナというよりは、どちらかといえば私寄りな感じ。
とはいえ、前世の頃に心に負った傷がそのまま残ってるし、私やサニーやルナから甘やかされる方が断トツで好きだから、今のところはそこまでやっている訳ではない。
まあ、魔理沙に激辛お饅頭を食べさせたり、落とし穴を作って私を嵌めたりと、ここ最近でイタズラの段階を一気にすっ飛ばしているし、その内頻度も上がるわね。間違いなく。
「うおっ。貸本屋の割にやけに賑やかだと思ったら、そういうことだったか」
「へぇ。一応聞くけど、理想郷の探検は終わったの?」
「まだよ! 色々あって、今日1日メノと皆で人里巡りをしてるだけ! ちなみに、チルノたちは快く送り出してくれたわよ!」
「でしょうね。メノが人里に居る時点で分かるわ」
「ああ。そうかぁ……めでたいな。ちょっと泣けてくるぜ」
なんて考えながら、メノと小鈴の仲良さそうに話す様子をサニーたちや阿求と見つつ、置いてあったお煎餅を食べていた刹那、中に入ってきた魔理沙と霊夢に声をかけられた。
そうしつつも、ルナと同じ着物姿のメノにびっくりしたらしい。2人の視線が、時折そっちの方を向いていたから。
とはいったものの、人里に強化形態で居れば今の格好なんて、びっくりする要素としては圧倒的に小さいか。
(ふふっ、幸せが大爆発しそうだわ)
で、当然魔理沙や霊夢という、私たちに次ぐ家族認定している人間が2人も側に来れば、メノが気づかないはずがない。予想通り、小鈴との話が途切れたほんの一瞬、2人の方を見て呆けたような顔をして固まっている。
この後はきっと、霊夢と魔理沙に抱きついてただひたすらに甘え出すって展開になるだろう。自分が想定していないタイミングで、家族や家族認定している誰かと出会った時に、メノが見せる仕草そのまんまだから。
直近の例で言えば、紅魔館のメイドの仕事終わりのタイミング、疲れきってた日にサプライズでサニーやルナがお出迎えに来た時。
もしくは、仕事の途中で同じく魔理沙と一緒に、サニーやルナがサプライズで遊びに来たすぐ後、私が今想像している展開通りになっている。
勿論、毎回そうなるって訳じゃないけども、確率としてはそこそこ高い。言い方はあれだけど、ある種の本能的な行動ってやつだ。
「それにしても、遂にそこまで行ったのね、メノ――」
「霊夢だぁ! ぎゅーっ!」
「おっと、急に飛びついて来たら危ないわよ? 私だからいいものの」
「えへへ、ごめんね。大好きな霊夢が目の前に居るって分かったら、我慢できなくて」
「そう……ふふっ。全くもう、あんたは本当に甘えん坊なんだから」
ほら、やっぱり。首を傾げてどうしたのかと尋ねる小鈴を無視して、キラキラしている光の跡を引きながら霊夢に思い切り抱きつく。
それで、メノに抱きつかれた霊夢も当然のことと言わんばかりに、一言をかけてから高いたかーいをしてあげたり、優しく抱き返しつつ頭を撫でてあげていた。無論、メノは大喜びである。
「にへへ……魔理沙にも、ぎゅーっ!」
「おう、楽しそうだな。小鈴とは友達になったのか?」
「そうだよっ! 理想郷のこととか、僕自身のこととか色々とお話ししてたの!」
「そうか。お前が元気になってくれると私も幸せになれるから、どんどん幸せになってくれよな。メノ」
しばらく霊夢の暖かさを堪能すると、今度は隣の魔理沙にも遠慮なく抱きつくけど、彼女は私たち家族以外では1番付き合いが長く、何をしたらメノが喜ぶかを熟知している。
故に、慣れた手つきで霊夢と同じことをしてあげるだけでなく、優しい言葉を沢山かけてくれたものだから、メノは更にニッコニコ。羽から放たれている白黄色の大地の光を押し退け、いつもの桜色の光が辺りをほんのり照らしていく程。
ついでに、そんなメノを間近で見れている私とサニー、いつの間にかよく分からない内容の小説を読んでいたルナも、ニッコニコである。阿求も阿求で微笑ましいと思ってるのか、表情は穏やかだ。
「うん! あ……小鈴放置しちゃったの、ごめんね」
「いいよいいよ、気にしないで。メノウちゃん」
「本当? えへっ、小鈴は優しいんだね。僕の友達、優しい人妖さんばっかりだぁ」
更に、微塵も悪意がなかったにせよ、結果的にメノに無視されることとなってしまった小鈴が少し心配だったものの、それも杞憂に終わったっぽくてほっとひと安心。
むしろ、暖かい笑みを浮かべながら見ててくれていたけど、小鈴自身が両親のことを好いているが故に、気持ちが理解できたってことかしらね。
「それもね、サニーとスターとルナが、僕の家族になってくれたお陰。えへへ、大好き……いいや、
「ふふっ、はっきり言ったわねー。ちょっと恥ずかしいけど、凄く嬉しいわ!」
「私もよ、メノ! これからもずっと、一緒に家族で居ましょうね!」
「右に同じく。サニーとスター、メノとの日常は私にとってかけがえのないものだから!」
そうしたら、今度は私たち家族に対して順繰りに甘えてきたと思えば、関係のない誰かに聞かれるのも厭わずに、大きな声ではっきりと愛してると言ってきたものだから、ちょっとびっくりした。
無論、妖精大樹でなら何度か言われたことはあるし、日記にも愛する家族云々とはびっしり書いてあるのを知っているから、それ自体は嬉しいけど驚く程ではない。今まで絶対外で言わなかったのに、遂に今日言われたってことへの驚きである。
(もうっ……照れるじゃないの)
ちょうどあの時までは、新しく愛する妖精の家族が1人増えるだなんて思いもしなかった。命ある限り、サニーやルナと色々ありながらも楽しく幸せに過ごしていく、そんな日々が続いていくとだけ思っていた。
だけど、実際はそうではない。本当に偶然、ただの妖精の気まぐれであの遺跡だと思っていた理想郷に探検しに行ったことがきっかけで、メノに出会った。本当、あの時の私たちは素晴らしい選択をしたのだと、自画自賛したくなる。
勿論、行かなければメノの存在を知らなかった訳なんだし、そっちの未来を選んでいればこんなことは思わなかった。間違いなく、確実に、絶対に。
しかし、今の私たちは気まぐれで行った方の未来を選んでいる。であれば、もうメノの居ない生活は想像すらできなくなるのも、当然の摂理であると断言できるわ。
「にゃっ! スター……ちょっと、力強いよ……?」
「私がもっと、メノをぎゅーってしたくなったの。ねっ、いいでしょ?」
「あ……うん、うん!」
サニーの頬に頬擦りしてから、再び私に近寄ってきて抱きついてくるメノを抱き返しながら、私は心の中で家族全員がいつまでも一緒で居られるように、強く願うのであった。
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