「リリーちゃん。サニーちゃんたち、人里巡り楽しんでるかな?」
「きっと存分に楽しんでるよ、大ちゃん。昨日、あれだけ喜んでたサニーたちのことを考えてみて」
今日も今日とて楽しい大探検、妖精大庭園の原っぱエリアでそよ風を浴びながら、自由行動ということで夕焼け空の中でピクニックをしていた私と大ちゃんの話題は、もっぱら人里巡りへ行ったサニーたちについてだった。
これが、いつもの3人で遊びに行っただけならば、特にここまで話題にすることもなかっただろう。特段、珍しいことでもなかったから。
しかし、今日の人里巡りはメノが一緒。今までのことを考えると、それだけで十分過ぎる話題になり得る。
「あはは、確かに。チルノちゃんに抱きつきながら大泣きして喜んでたサニーちゃん、目がうるうるしてたスターちゃんとルナちゃんが、楽しんでない訳ないもんね」
「そうそう。まあ、何だかんだ1番楽しんでるのはメノだと私は思ってるわー」
「ふふっ、まあね。メノちゃん、家族の幸せが自分の幸せっていうくらいの、優しい妖精さんだもん。自分から、人里に行こうって誘うくらい高ぶってるなら尚更楽しいだろうなぁ」
正直言っちゃえば、私もメノとの人里巡りは楽しみにしていたことの1つ。今日、サニーたちと一緒に行きたいって気持ちも結構強かったし、大ちゃんも他の皆も同じような感じだった。
でも、クラピが思い出にしてやらなきゃ駄目って言ったのを聞いて、私も含めた皆は納得している。サニーとスターとルナにとっても、メノにとっても、お互いに初めての人里巡りは一生に1度しか訪れない、特別な一時だもんねって。
「まるで、私があの森で高ぶってた時みたいに幸せですよー! えへへ」
「えっ、リリーちゃん? 急にどうかしたの?」
「サニーたちみたいに、春を大好きって言ってくれたメノが人里で幸せそうに遊ぶ姿を想像したら、何か嬉しくなってねー」
「うん、私も分かるよ。リリーちゃんの気持ち」
ふふっ。今頃、どんな感じで人里巡りを楽しんでるのかな。私たちが寝ている内に出発したって守護妖精さんは言ってたし、間違いなくどんちゃん騒ぎしてるよね。
もしかしたら、その高ぶる気分のままにイタズラとかもしちゃって、人里の人間さんたちに怒られちゃうなんてことがあるかも。でも、今日ならそれすら楽しく幸せな思い出の一幕として残りそう。
まさしく、真なる春の到来。私のことのように、とっても喜ばしい限りである。
(いつでも行けるんだから、焦らない焦らない)
さてと、それはそれとしてメノと人里で遊びたいって気持ちは、今も変わらない。明日とか明後日辺りに、一緒に人里行こうって誘いたいくらいに。
でも、とっても大切なお仕事があるから、それが終わって何日か経つまでは誘いたくても誘えない。理想郷の主妖精として、紫さんとお話をするっていうお仕事が。
家族や友達には底抜けに優しいメノのことだから、それでも私が誘えば人里巡りをしてくれそうだし、心から楽しんでもくれるだろう。
だけど、そのせいで見えない疲れみたいなのが溜まって、紫さんとの対談で一気に爆発して、体調を悪くさせたりトラウマを再発させてしまえば、私に大切な友達で居る権利はなくなる。
クラピやラルバも同じように思ってるって考えれば、2人のためにもやっぱりここは後にしなきゃ。
「ひっ、ひぅ、うぇぇぇん……ありがとぉぉぉ……!!」
「サニー、気持ちは痛い程分かるわ。メノにあんなこと言われちゃ、嬉しいに決まってるから」
「うんうん。それにしても、まさかサニーが泣きじゃくって、メノがよしよしする側に回るなんて、私全く思ってなかった」
「確かにねー。こういう時って、大体メノがよしよしされる側だもの」
そんな風に、自分の心に芽生える逸る思いに耐えながらいた時、サニーの泣きじゃくる声が私と大ちゃんの後ろから聞こえてきた。振り向くと、メノに抱きつきながら羽をぶるぶるさせてる姿が目に入る。
ぽかぽかなお日さまとほぼ同じ光を発してるから、沢山遊んできたのもあってちょっと暑そうだけど、メノは決して離れようとしていない。むしろ、自分も抱き返すくらいには幸せそうだ。
微笑ましく側で見守ってるスターやルナも、よく見たら目がうるうるしてるし、きっと夢を叶えられて嬉しくなり過ぎちゃったんだろうね。
「もう、サニーったら……あっ。えへへ、ただいま」
「お帰り、メノちゃん。サニーちゃん、ずっとこんな感じ?」
「ううん、ずっとじゃないよ。えっとね……高ぶる気分のままに、今までの感謝の言葉とか色々言ってたらこうなっちゃった」
「そっかぁ。抱いてた感情が、メノちゃんのお陰でどっと溢れたんだね」
「うん。ちなみに、サニーが泣きじゃくってるからあれだけど、私とスターも正直泣きそう」
「というか、普通に泣けてきてるわー。ルナ」
皆で美味しいものを食べて、皆でどんちゃん騒ぎを楽しんで、皆でお馬鹿なことをして、イタズラをして笑い合う。
全部、私たちにとっては別に新鮮味のないことだけど、メノが一緒に居るだけでも、それは新鮮味のある楽しいものへと変化していくのだ。
勿論、一緒にやり続けてしばらくすれば、これら全てが1つまた1つと新鮮味がないものへと変わっていく訳である。
「メノ! 私も、あなたがお友達になってくれて嬉しい。新しい、それでいて心地よい永久の春の始まりですよー! えへへ」
「わわっ……えっ、永久の春? リリーが、僕を永久の春って言ってくれた……ぐすっ、うぅぅ……」
「ありゃ。結局、メノも大泣きね。ところで、ルナの目から涙が出てるわー」
「ふふ、スターの目からも涙出てる。私たち、サニーとメノに見事に釣られちゃったね。えへ」
確かに、言葉だけを聞けばあまりよくないことかもしれない。新鮮味のあった頃と比べれば、熱量が小さくなっているってことだから。
でも、メノが私たちに馴染んでいって、いい意味で空気のような存在と化していく確たる証拠と捉えれば、決して悪い変化じゃない。それに、新鮮味がなくなったからといって、全部がつまらなくなるって訳でもない。
もしも、本当につまらなくなっているとしたならば、今頃サニーたちやチルノ、大ちゃんやラルバ、紅魔館のメイド妖精軍団と仲良く妖精友達として遊んではいない……いや、最初から友達にすらなっていない。
妖精以外にも仲良くしている、霊夢さんや魔理沙さんを筆頭とした人妖たちにも、これと同じであると断言しよう。
そういう意味では、メノが一緒であることに新鮮味がなくなっていってくれると、私としてはとっても嬉しい限り。
「なんだなんだ、いつの間に戻ってきてたの? というか、メノとサニーが凄い泣きじゃくってるけど……」
「きゃはは、よっぽど楽しんできたみたいだな! メノなんか、羽のキラキラが神々しいし!」
「あはっ! やっぱり、今日はあたいたちが一緒に行かなくてよかったぜ! リリーもそう思うでしょ?」
「思いますよー! それはそれとして、一緒に行っても楽しんではくれそう!」
「サニーちゃんたちも、最初は一緒に行こう的な雰囲気だったもんね」
で、これだけサニーとメノが抱き合いながら大声で泣きじゃくっていれば、近場で遊んでいたラルバやクラピ、チルノも気になってこっちに来るよね。
なお、1歩離れたところで私たちが遊ぶ様子をじっと見守ってくれてるへカーティアさんは、これよこれと言いたげな雰囲気を出しながら、笑顔でうんうんと頷いてる。
クラピのお陰か、妖精に対する好感度が神様の中で1番高いって有名な神様だから、この反応も普通に納得できる。
ちなみに、現状の幻想郷に住む全住人の中で1番、妖精に対する好感度と妖精からの好感度が高いのは言わずもがな、満場一致でレミリアさんだ。その流れで、紅魔館の住人も相当好感度が高くなっている。
大小様々な妖精の軍団に囲まれてもみくちゃにされたり、美鈴たちがイタズラの対象に挙げられたり、困った時の駆け込み寺として紅魔館が周知されたりしてる。何なら、一部の妖精からは英雄呼ばわりされたりしてるっけ。
かくいう私も、紅魔館の住人……特に、レミリアさんと美鈴には凄くよくしてもらってる。昔、とある森の奥地で妖怪に襲われて食べられそうになった時、どこからともなく助けに来てくれて本当に嬉しかったなぁ。
妖精にとっては本当に危ないところだったから、好奇心で近づいちゃ駄目でしょって、一緒に居たラルバ共々結構長く怒られちゃったけど。
「あぁ……何度見ても、心暖まる素晴らしい光景。できることなら、消えてしまったあの子たちもここに混ぜてあげたかった……リリー様?」
「守護妖精さん、こうやってぎゅーってやると、メノみたいにとっても喜んでくれますよね! もっともっと幸せに、もっともっと元気になって! えへへ」
「おっ? じゃあ、あたいもやる! 大ちゃんもやろう!」
「いいけど……チルノちゃん、冷気を抑えるのは忘れないで。私もそうだけど、皆が凍っちゃうよ」
「おう! 分かってるぜ!」
「本当に分かってるのかしらねー、チルノ」
「スター。そこは流石に分かってると思うわ」
それで、守護妖精さんの方は大切な異世界の妖精さんたちと、慕ってた主妖精さんを皆失ったって辛い過去の持ち主だからか、サニーとメノ程じゃなくてもさっきからずっと泣いている。
何回も、メノからもらったハンカチで拭ってさえ、頬を伝い続けるくらいには泣いていた。
(守護妖精さんが大好きだった、異世界の妖精たち。叶うのなら、もう1度会わせてあげたいけど……)
異世界の妖精も幻想郷の妖精も、生まれた世界が違うだけで同じ特性を持っているって、守護妖精さんはそう言っていた。自然さえあればどんな怪我をしようとも1回休みで復活できるのも、自然が1度なくなれば消えてしまうのも、同じ。
世界を渡ったからといって、都合よく消えちゃった妖精たちがそのまま復活するなんてことは、きっとあり得ない。だからこそ、少しでも守護妖精さんの心の傷が治ってくれるように、私たちがニコニコしといてあげないとね。
「ぐすっ……あ。メノ、皆が面白そうなことをやってるわ!」
「んえ? わぁ、皆でおしくらまんじゅう……違うかも? まあ、なんだっていいや。えへへ、僕とサニーも参加させてー!」
「「「ふぎゃっ!?」」」
なんて考えていたら、さっきまでわんわん泣いていたはずのサニーとメノが、2人で勢いよく守護妖精さんに抱きつこうと突撃してきたものだから、こらえきれずに皆で仲良く転んじゃった。
で、そのすぐ後に静観していたっぽいスターとルナも我慢できなくなったのか、私やラルバの上に乗っかるチルノと大ちゃんに更に乗っかる形で突撃してきたものだから、もう重圧が凄い。
端から見たら、守護妖精さんに一斉に襲いかかってるみたいだろう。ちょっと力を入れるだけで、私たちを風に吹かれる木の葉のように弾き飛ばせる力の差があるってところが、普通の妖精を相手にするのと違うところかな。
(よかったぁ。えへへ、満開の桜みたいに幸せそう!)
ちなみに、当の守護妖精さんは1番下敷きになってる状態なんだけど、全く嫌がっていない。私の思いがはっきり伝わったのか、むしろ夢見心地な気分だって言いたげだ。
とはいうものの、ずっと下敷きのままだと流石に嫌になるだろうし、そもそも私たちの方が先にぎゅうぎゅう過ぎて限界が来そうだから、いいところで切り上げよう。
動くに動けないから、私やラルバの上に乗っかってるサニーたちに声をかけないとね。
「ありがとうございます。お陰様で、もやもやしていた心が晴れ渡りました」
「えへへ。途中から妖精のすし詰めみたいになっちゃったけど、喜んでもらえたならよかったですよー!」
「うん。そうだね、リリー。僕の幸せも、ちょっとは分けられたかな?」
「ふふっ。メノのことが好きなんだから、心配はいらないでしょ。それにしても、皆土埃だらけね!」
「確かにねー。まあ、いくら汚れようと全然気にならないけど。ほら」
「わっ、強化形態だからかな。メノ、さっと片手を振っただけで全部綺麗にしちゃった」
とまあ、そんなこんなでサニーたちにどいてもらった後は、うってかわって晴れやかな表情になった守護妖精さんと皆との、楽しいお話の続きが始まった。
さっきはサニーとメノが泣きじゃくってたり、守護妖精さん云々で聞けなかったけど、サニーたちが人里でどんなことをして楽しんだのかとか、そういう話も含めて。
「強化形態の高ぶりがあるってだけじゃ説明がつかない……やっぱり、そういうことだよね? サニー」
「ええ! あくまでも、最後の一押しをしてくれただけだわ! とっても高い最後の壁を、乗り越えるだけの一押しを!」
「とはいえ、これで油断しちゃ駄目よー。ゆっくり焦らず、普通の時でも大丈夫なようになるまではね。まあ、そうなっても油断はしない方がいいけど」
「うんうん。まさしく、スターの言う通り」
そうしたら、メノに人里の人間のお友達ができたなんて言われたものだから、私も皆もびっくりした。誰なのか聞いたところ、あの小鈴らしい。
しかも、向こうからじゃなくて自分から声をかけていたみたいで、その時のかけ方も「僕とお友達になるのは、嫌?」と、ちょっぴり不安そうな感じだったっていうんだから、余計にびっくり。
初対面の小鈴に対して、多少であれ何かこう親しみを感じていて、嫌われたくなかったってことだもの。性格とかが、ぴったりだったってことかな。
勿論、サニーたちと一緒に寺子屋の子供を驚かせるイタズラをしたり、声をかけてきた大人の人にも緊張しながら応対してたところとかも、ちょっと前のメノからは想像もつかないくらい、びっくりすることである。
「メノウ様。お時間できたら、私ともお出かけしましょうね」
「わぁぁ……うん! 僕と2人きり? それとも、皆と一緒?」
「どちらでも。ああでも、皆様がご一緒だと賑やかで、幸せで、とても楽しそうなので、やはり後者でしょうか。メノウ様も、きっとそちらの方が幸せでしょうから」
「分かった!」
是非とも、メノにはこのまま元気になっていって、毎日を楽しく幸せに過ごしていって欲しい。
そうすれば、家族のサニーたちや仲良しなチルノたちは当然として、同じく仲良しな私も一緒に幸せになることができるから。
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