幸せ四妖精   作:松雨

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今話の前半はパチュリー視点、後半は主人公視点です。


賢者との対話

「メノウちゃん、今日のお話大丈夫かなぁ」

 

 とある日の紅魔館の地下、レミィはおろか私ですら読み切れない多種多様な蔵書の揃う大図書館(私の部屋)に、こあの誰にともなく呟く声が聞こえる。強めな不安を覚え、メノウを心配しているというのが明確な声色。

 

 顔を向けた方向にちらっと見える表情も固く、その足取りも心なしか重そうに見える。心配度合いは、案の定それなりに高そうだ。

 

「こあ。あの子には、頼もしい味方が大勢居るじゃないの」

「あはは。そうですよね、パチュリー様」

「まあ、初めての試みではあるからね。一応、今まで貯めてきた幸せもあるから、味方の助けも加味すればそこまで酷いことにはならないでしょ」

 

 確かに、こあが心配する気持ちもよく分かる。何せ今日、メノウは紅魔館であの紫を相手に対話を行おうとしているんだもの。

 

 無論、言葉通りの対話を行うという訳ではない。家族の三妖精は言わずもがな、レミィやフランを筆頭に頼もしい友人が大勢同席し、手助けをしてくれる。

 

 メノウの代弁者となって会話の舵取りを握ったり、無理やり話の流れをぶった切るのはもとより、場合によっては実力行使による強制的な中断も視野に入るという。

 

 なるほど。だから、レミィはわざわざ対話の場所を上の会議室とかじゃなく地下、それもとびきり頑丈なフランの自室の一角に選んだ訳ね。

 

 戦闘用の攻撃魔法の試し打ち場故に雰囲気があれなのは、まあ仕方のないことかしら。

 

「しろちゃん……うん、きっとだいじょうぶ!」

「うひゃあ。わたしだったら、ぶるぶるがくがくしちゃうわ!」

「もし、変なこと言われて泣いてたりしたら、慰めてあげよーね! 怒るのは、レミリアさまたちの役目!」

 

 ちなみに今、本をめくる音や足音すら耳に入りやすいくらいには、ここは静か。故に、読書をしている私はともかくとして、相変わらず呑気なメイド妖精も本の整理をしていたこあの方へと、注目を向けるのである。

 

 うん、メノウの名前が出れば当然ね。今のあの子はもう立派な紅魔館の仲間であり、皆の友人なのだから。

 

「レミリアさまかぁ。しろちゃんだいすきだから、そんなことになったらぜったいにあばれるわ!」

「紅魔館が壊れそう! 最悪、爆発するかもね!」

「うぇぇ……そうしたら、どこでわたしたちくらせばいいの? しろちゃんのおうち?」

「そこしかないでしょ。そうしたら、しろちゃんびっくりするかな?」

「うん、びっくりすると思う!」

 

 にしても、聞こえてくるメイド妖精たちの会話内容がえらく不吉だけど、レミィの性格と力を考えたらあり得ないとは言い切れない。幻想郷を創った賢者の1人らしく、同等かそれ以上の力を持つ紫が相手ともなれば尚更。

 

 しかし、紫にはメノウと対立した際の明確なメリットが、私が想定し得る限りでは存在しない。逆に、デメリットであればいくつか想定が可能である。

 

 それに、仮に何らかの大きなメリットが存在している、または対立しないことによるデメリットが存在しているがために、対立することが確定していたとしよう。

 

 ならば、もっと前に行動に移しているはずだし、そもそも対話の場所が紅魔館の中で随一の物理・魔法耐性を持つフランの地下室。2人の姉妹喧嘩にすら耐え得る程と言えば、メイド妖精たちも納得がいくはず。

 

 となると、レミィと紫が対立した果てに紅魔館が爆発し、崩壊するというのは絶対にあり得ない。訂正して、そう言い切ろう。

 

「パチュリーさまはどうおもう? しろちゃんなかされたら、おこりたくなる?」

「怒るのは当然として、それよりも先に慰めてあげなきゃって気持ちが来るわ」

「私とかパチュリー様が慰めたところで、サニーちゃんたちのそれには劣りますけどね」

「そっかー……」

 

 正直あまり言いたくはないけれど、単純な力量や戦闘技術という面で見た場合どうしても、メノウは紫と比べ圧倒的格下と言わざるを得ない。

 

 にも関わらず、こうして対等に話をし合えるという展開に持ち込めているのも、理想郷の守護者を含む紫と同等か迫る程の実力者たちが、メノウを助けてあげているから。

 

 力量以外の、例えばその立ち振る舞いや穏やかな性格などといった要素が、レミィたちを惹き付ける魅力(圧倒的力量差を埋めるもの)として作用したのだ。

 

 しかし、前世では運が悪かったのか何なのか、その要素に目をつけたああいう手合いから、都合のいい手駒か何かとして扱われてしまったのだろう。考えるだけでも、不愉快で仕方ない。

 

 だけども、それがあったからこそメノウが幻想郷へと妖精として生まれ変わり、紆余曲折の果てに紅魔館に新しく心地よい風を吹かせてくれたと思うと、非常に複雑である。

 

「うん! じゃあわたし、なかせたひとにおこるのやめて、しろちゃんなぐさめてあげる!」

「それがいいわ。まあ、それ以前に泣かされる事態にならない方がいいと思うけれど」

「たしかに!」

「いや、先に気づこうよ……」

 

 それ故に、悪逆無道の限りを尽くしたなど、誰の目から見ても納得できる正当な理由がない限りは、何人たりともメノウから幸せになる権利を超長期ないし永久に奪い去り、精神的にも身体的にも苦しめる行為は許されない。

 

 もし、それをする輩が出てしまったとしたならば、逆にその輩が権利を剥奪され、場合によっては例の人間みたく遠回しに始末される末路を辿る。

 

 例え、それが結果的に未遂に終わったとしても、親しい面々はもとより妖精を筆頭に非難轟々、針のむしろに座らされているかのような時間を過ごす羽目になってしまう。

 

 紫にしろ他の人妖にしろ、懸命であるならばどう接すべきかを理解できると、私は信じている。

 

「ふんふふ~ん、お話頑張るよー!」

「まあなんだ。途中で辛くなったら、辛くなったって言えよ。私らが代わりに話をしてやるんだしさ」

「あはは、流石は魔理沙だわ! ところで、メノへのご褒美って何をあげるつもりなの?」

「ぶっちゃけ言うと、全く思い付かないんだよなぁ。何でも喜ぶ相手へのご褒美、相変わらず難しいぜ」

「別にいいんじゃないかしら。私はそう思うわよ、魔理沙」

 

 とまあ、こんな思考を巡らせつつメイド妖精たちの相手をしていた最中、さっきまで静かだった大図書館に、随分ご機嫌だと分かるメノウの声が響いた。

 

 視線を動かして見えた、三妖精や霊夢、魔理沙と一緒に居る彼女の顔と羽の光から、今日紫と対話をする妖精には見えない程にリラックスしていると分かる。

 

 以前までであれば、サニーたちないし家族同然に親しい面々の助けがあろうと、少なからず緊張感を感じさせる振る舞いをしたものだが、随分と強くなった。

 

 それに、何だかんだレミィ経由で聞いた件の話のインパクトに比べれば、紫との対話で感じるであろう緊張など小突かれる程度。1対1だったり、露骨に妖気で威圧されでもしない限り、精神的にどうこうなりはしないか。

 

「メノウ。貴女、本当に凄い妖精になったわね」

「ひゃっ! パチュリー……?」

「何だかんだ、パチュリー様も今日のメノウちゃんのお話のことが心配なの」

「妖精どころか並の人妖ですら荷が重い相手で、なおかつ初対面。安心できる要素が微塵もないしね。当然でしょ」

「わぁ……えへへ! ルナが手を握っててくれるから、きっと大丈夫。ありがと、心配してくれて」

「ええ、どういたしまして」

 

 しかし、何だかんだ大丈夫だろうと考えてみたはいいものの、私は正直対話が上手いこといくかが心配である。

 どういう話をするのかを事前に打ち合わたりなどせず、ぶっつけ本番で会話を交わす流れになるから。

 

(……)

 

 確かに、私が初めてメノウと会ったあの日に比べれば驚異的なレベルで、完璧ではないにせよ傷ついていた精神は回復している。

 

 三妖精を含め、非常に頼もしい味方が側に居てくれるのも相まって、並大抵のことでは決して動じない強さも手に入れている。

 

 しかし、その()()()()()()はあくまでも、メノウとの付き合いから私が手早く導き出したもの。毎日一緒な三妖精ならまだしも、そうでない以上自身の認識との相違から来るうっかり(トラブル)が全くないとは言いにくいし、全く付き合いのない紫なら事前調査込みでも尚更言いにくいわね。

 

 だからといって、そのうっかりが必ず起こる訳ではない。認識の相違によるトラブルを回避することは簡単ではないものの、気をつけていさえすれば大体どうにかなるものだ。

 

 妖怪の賢者の二つ名を持ち、魑魅魍魎が集う幻想郷を維持できるだけの力量と賢さがある紫ならば、その程度容易にやってのける。やはり、心配するだけ損かしらね。

 

「ねえ、他の皆は来て待ってるかな……?」

「ええ、紫以外はね。それと、文と幽々子と妖夢も居るわよ」

「本当!? じゃあ、急いで行かなきゃ!」

「あっ、ちょ……メノ! もう、待ってー!」

「あらあら。ふふっ、相変わらずね」

「この様子だと、対話も大丈夫そうですね~。どうか、上手くいきますように」

 

 自分たち以外の、仲良しで大好きな友人が先にもう待っていると知った瞬間に瞳を輝かせ、私からバッと離れて走っていくメノウを見ながら、対話が何事もなく終わるのを私とこあは願うのだった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 おととい、チルノの一言に端を発した皆の気遣いによって、愛する家族4人だけで行くことになった人里。もしも、誰かから思い出に残るかって聞かれたら、自信を持って永遠に残ると断言できるくらいには楽しかったし、幸せを感じることができた。

 

 人里の中を歩き回って、着物を着てきゃっきゃして、寺子屋の子供たちにイタズラして、鈴奈庵で小鈴と友達になって。

 その後も里の人間さんとお話をしたり、美味しいご飯やお菓子を食べてみたり、リクエストに答えて人里の上空を全力で飛んでみたりなど、とにかく色々やったっけ。

 

「ふふっ……にへへぇ~」

「今日も元気ね、メノ! まるで、これから大仕事をする妖精とは思えないわ!」

「おとといのことを想像でもしてるのかしら。それとも、魔理沙からのご褒美かしら?」

「どっちもじゃない? 何にせよ、始まる前から緊張でガチガチになるよりは、こっちの方が断然いい」

 

 しかし、それ以上に嬉しかったことがある。夢を叶えることができた嬉しさと幸せで感極まって、まるでいつぞやの僕みたいに泣きじゃくりながらサニーが抱きついてきたこと。

 スターとルナも、サニー程激しかった訳じゃないけど嬉しそうに泣いて、夢が叶ったと喜んでくれたこと。この2つだ。

 

 帰り際、人里の人間さんたちが大勢居る中での出来事だったから、注目を浴びてちょっぴり恥ずかしい気もしたけど、そんな気持ちはすぐに消える。で、恩返しができて幸せだって思いが代わりに湧いて出てきた。

 

 家族からの愛情という暖かいものを教えて、友達という存在の大切さと素晴らしさを説いたりと、幻想郷で僕に生きる意味を与えてくれたサニーとスター、そしてルナ。

 

 あの場では、この3人の気持ちが何よりも重要であり、大切にすべきものであったのだから当然であろう。まあ、あの場でなくても同じことなんだけど。

 

「こんにちは。元気でしたか? メノウ」

「うん、元気だったよ! えへへ、文さんも一緒に居てくれるんだぁ」

「はい。まあ、新聞のネタにするためっていうのと、レミリアさんからのリクエストがあったからという理由もありますが」

「うふふ。文の新聞程、影響力のあるメディアはない。メノウ含め、私の大切な妖精の家族を守るにはこの上ないもの」

「そうしたら、きっと私たちも更に有名になるわ!」

「我が家への来客が増えるかもねー。イタズラしてやろうかしら?」

「うん。まあ、それがチルノたちとかならまだしも、関わりのあまりない人妖とかばかりだと困るけど。ゆったりタイムが減っちゃうし」

 

 ちなみに、今日はサニーたちと一緒に紅魔館の地下、フランの部屋の一角にある練習場に来ている。遂に、僕と紫さんとの対話の日がやってきたのだ。

 

 しかし、まだ紫さんが来ていないって点を考慮に入れたとしても、緊張はあまりしていない。なんと言っても、僕のために家族や沢山の大好きな友達が集まってきてくれてるから。

 

(えへへぇ……僕のために、皆が来てくれるなんて……)

 

 元々お願いしていたレミリアとフラン、アリスと魔理沙、急にできたらしい用事を先送りにしてまで来てくれた霊夢。

 

 最近会えてなかった文さんに、休んでる僕やスターの代わりにメイドをしてくれてる妖夢、そんな妖夢を見に行くついでに立ち寄ってくれたというゆゆさん。

 

 ノーゼとスフェ、守護妖精さんも含めれば14人。おやつとか遊び道具も用意されてるし、ちょっとしたパーティーみたいだ。

 

「皆、僕のために大切な時間をありがとう。こう、何もかももらってばかりで……」

「ふふ。私、メノウにあげてばかりだなんて、今まで思ったことはないのだけど」

「確かに。前も言ったが、私もないぜ」

「そうね。少なくとも、1度か2度なら用事を後回しにしてもいいと思えるくらいには、ちゃんとお返ししてもらってると思うわよ」

「私で言えば美味しい料理とか、お菓子とかね。いつもご馳走様~」

 

 皆は優しいから、僕があげてばかりだって言っても否定してくれる。つまり、僕のお返しに満足してくれているということ。

 

 それに、今日みたいなやり取りはもう何度も交わしている。同じこと、何回やったか分からなくなるくらいに。

 

 例えばそう、皆が僕のお返しが自分の与えたものと釣り合っていないと、強い不満を抱いているのであればまだしも、そうではないどころかむしろ真逆なのに、こんなことばかり言ってれば流石に面倒がられそうだ。

 

 分かっているのに、どうして僕は同じことをやっちゃうんだろう。

 

「あはは。幽々子様、もう少しだけ遠慮しましょう。メノウちゃん、ここ最近いつも多めにストックしてくれてるみたいですし」

「美味いもんなぁ、メノの料理。スターのイタズラキノコでも美味くできるんじゃねえか?」

「それは……うーん……魔理沙。僕でも、多分無理」

「あんなゲテモノを美味しくするとか、誰であろうと絶対に無理ね! 断言してもいいわ!」

「右に同じく。スターにだって無理でしょ」

「そりゃそうよー。かろうじてできたとして、超激マズってところね」

「ははっ、マシにはできるんかい」

 

 でもまあ、今日に限って言えば僕の悪癖もそこまでじゃないか。理由は当然、ここに居る皆がお話を楽しむための材料の1つになってくれたもの。

 まるで、これから僕と紫さんとの対話が始まるとは思えないくらいに、賑やかで楽しいプチパーティーになってる。

 

 だけど、ずっと真剣な雰囲気のままだとサニーたちだって疲れる。レミリアとかは紅魔館の当主だし、霊夢や魔理沙も幻想郷の中で何かの会合だったりに出る経験があり、慣れているにしたって疲れない訳じゃない。

 

 だから、紫さんが来るまではこの雰囲気のままでいい。来てからは無理だろうけど、少しは気楽に行きたいな。

 

(対話かぁ……)

 

 それにしても、紫さんはいつ来るんだろうか。スターが「時間も決めておけばよかったわー。ごめんね」って言うし、サニーとルナもうんうんって頷いてたから、まだ少し待つことにはなりそう。

 

 もしかしたら、対話の場がプチパーティー会場になってるのも、ちょっぴり遊んで食べて楽しめるくらいの時間は待つのが分かっていたからかな。未来を見通すことができるレミリアなら、そのくらいのことは分かっていそうだ。

 

 まあ、仮に半日とか待たされることになったとしても、僕はサニーたちが居さえすれば全然平気。今日みたいに、大勢の大好きな友達が一緒であればまさに鬼に金棒、もっと長くたって大丈夫って言ってもいい。

 

「メノ。ほら、来るよ」

「わっ……」

 

 そんなこんなでレミリアに促され、ルナの側に身体を寄せて手を握りながら待つこと10分と少し、音もなく空に裂け目ができたのを僕たちは目にした。

 

 不規則に動いている大きな目玉が、目にできる範囲にびっしりと存在してる光景は気味が悪い。だけど、ルナが僕の手をぎゅっと握っててくれてるから、そこまで怖いとは思わなかった。

 

 で、少しずつチャックを開ける時みたいな感じで、その裂け目が大人の人が通れるくらいにまで大きくなると、中から長い金髪の女の人がすっと出てくる。皆から聞いていた通りの装いで、容姿で、雰囲気を持っている。

 

「あらあら……随分とまあ、手厚い歓迎ですこと」

「予想外の人選だったかしら? 紫」

「三妖精と守護妖精以外は、正直そうね。特に幽々子と文」

「食べ物の恨みが恐ろしいならば、その逆は然りよ~」

「ちなみに、会話の内容は私の新聞に載せますよ。紫さん」

「そう。まあ、そこは好きにしなさいな。秘匿すべき理由もないもの」

 

 ピリピリとした妖気を放ってるこの女の人が、八雲紫。幻想郷を作った賢者の1人で、多かれ少なかれ皆と接点がある妖怪さん。

 

 ルナが手を握り続けてくれてるのと、サニーとスターも寄ってきてくれてるのもあるのか、そこまで怖くはない。直感的にも、嫌な人とは思わなかった。

 

 ただ、みすちーたちや小鈴の時みたいに僕の方から話しかけたりしようとは、同じく思わなかった。お友達になりたいか、それともなりたくないかも分からなくなる。

 

 今はそういう雰囲気じゃないっていうのもあるけど、大好きな皆から聞いたお話がちょっと複雑だからかな。守護妖精さんなんか、やっぱり険しい表情になってるし。

 

「……初めまして、テルースメノウ。貴女と面と向かい話せる今日この時を、心待ちにしていましたわ」

「初めまして。えっと、僕の自己紹介は要る?」

「不要よ。したいと言うのであれば、特に止めはしないけれど」

「大丈夫。だから、このままお話を始めよう。紫さん」

 

 すると、さっきまで文さんやゆゆさんとお話ししていた紫さんが、一息入れた後に僕の方に視線を向けると、挨拶をしてきた。心待ちにしていたって言葉の通り、その表情は微笑みである。

 

 対話が始められる合図でもあるため、さっきまで談笑していた文さんとゆゆさんも含めて、この場の全員の表情が引き締まった。きっと、僕の表情も同じくらいに引き締まったものなんだろうなぁ。

 

「さてと。まずは、勝手に理想郷の最深部……妖精大庭園へと入ろうとした件について、改めて謝罪の意を。ごめんなさいね」

「あっ……」

「メノウ、大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ、レミリア。ちょっぴり予想外だっただけ」

 

 そうしたら、用意されてた席に座った紫さんが最初に発したのは、謝罪の言葉だった。守護妖精さんを通して知った、妖精大庭園へ勝手に入ろうとした出来事についての。

 

 どんな話をされるのか、どんな質問を受けるのか、色々と頭の中で考えてどう答えようかって考えを巡らせていた中でのこれだから、予想外過ぎて一瞬呆けてしまう。

 

 なお、守護妖精さんが知らぬ間に解決していてくれたこと、僕の大好きな皆が誰1人として傷ついていないこともあり、そこまで怒ったりする程に気にしてはいない。

 

 ただし、もう1度か2度同じようなことをしたら、流石に怒るというか嫌な気持ちにはなるかな。

 

「えっと、あまり気にしないで、紫さん。そうした理由は理解できるし、()()()()()()()……魔理沙や霊夢に次ぐ、家族同然の守護妖精さんたちを、傷つけていたりしてないもの」

「感謝しますわ、テルースメノウ」

「うふふ。でも、皆がびっくりしたのは事実だから、もうしないでね。あんまり繰り返されちゃうと、僕とっても困るから」

「無論よ。次にこういう機会があったなら、お伺いは立てましょう」

 

 そんなことを考えながら、この件を気にしていたらしい紫さんに伝えると、露骨にほっとした仕草を見せた。僕が考える以上に、直接謝っていなかったことを気にしていたのかも。

 

 でも、そこで霊夢が何か言いたげな感じの、いわゆるジト目で紫さんを見ていたのも気になる。胡散臭い妖怪さんって言っていたし、本当に気にしていたのか疑っているのかもしれない。

 

 まあ、どっちにせよこうやって謝ってくれたんだし、僕としてはもう言うことは何もないかな。それよりも、今日どんな話をしてくるのかを頭の中で想定して、上手に受け答えをできるようにする方が重要である。

 

「えへへ。ちなみに、そこ以外だったらまあ……普通に遊びに来るくらいならいいよ。魔理沙とか、来る度に妖精さんたちとよくきゃっきゃしてるって」

「あー。魔理沙って妖精に凄く懐かれるものね。理想郷の妖精からは特に」

「メノの影響を受けてる奴が多いからな。ていうか、霊夢も似たようなものだろ」

「最近はね。本当、あの妖精たちはイタズラに容赦ないんだから」

「なるほど……テルースメノウの生誕以降の出来事を考えれば、ある程度影響されるのも当然かしら」

 

 霊夢や魔理沙を筆頭に皆が頃合いを見計らい、ちょくちょく僕と紫さんの対話を助けてくれているけど、これじゃあ対話というよりただの顔合わせ会と言った方が正しい。

 

 だけどまあ、今は対話という言葉の正しい意味云々はどうでもいいことだ。これは想像だけど、実際に会って話をすることにより、僕が幻想郷にとって本当に大丈夫な存在か安心したいっていう、紫さんの目的を達成させる方が重要だから。

 

 想像通りだった場合、僕とのやり取りで少しでもいい印象を持ってもらえば、僕自身はともかく理想郷の皆やサニーたち、チルノを含む大好きな妖精友達にはより強固な安寧をプレゼントできる。

 

 僕たち妖精が吹けば飛ぶような、自分の力で安寧を勝ち取ることができる霊夢や魔理沙みたいに強い友達にだって、少なくとも損にはならない。

 

 であれば、僕が幻想郷にとって都合の悪い行動を起こす理由は存在しないし、これから生まれることもないだろう。

 

(……まあ、こんなことにはならないよね)

 

 無論、僕の大好きな友達や愛する家族3人、理想郷の皆を理不尽に傷つけて苦しめ、幸せになることが不可能となる世界に変化しない限りという、前提条件がついてくる。

 もしそうなった結果、皆が泣いたり、苦しんだり、極まって心が枯れてしまったとしたら、間違いなく自分が痛い目を見るよりも辛くて苦しくなるんだもの。

 

 大好きで大切な皆を守るためならば、幻想郷にとって都合の悪い存在となった結果として、最終的に自分の身を削ることになろうとも関係はない。

 

 そうなった場合、サニーとスターとルナは言わずもがな、他の大好きな皆の経験する辛さは極まってしまうだろうから、本当に最終手段となるけども。

 

「ところで、テルースメノウ。つかぬことを聞きたいのだけど、よろしいかしら?」

「つかぬこと……? うん」

 

 なんてことを考えていた刹那、何だかんだ座談会的な感じになっていたこの場の雰囲気が、紫さんが発した一言によって一気に引き戻されるのを僕は実感した。

 

 まるで、今までのやり取りは場の雰囲気を掴むか慣れるための前座であると言わんばかりに、じっと僕の方を見つめて問いかける紫さん。

 あの日、あの人たちについて伝えに来たレミリアがもし、精神的に万全だったらこういう感じだったんだろうなぁ。

 

(……)

 

 答えづらい、変な質問だったらどうしようとは思ったけど、そういう時はレミリアかフランにでも丸投げしちゃおうかな。だって、そうしてもいいって事前に許してもらえてるもの。

 

「貴女にとって、幻想郷はどんなところ? 勿論、何を言っても咎めるような真似はしないわ。固く約束しましょう」

 

 そうして、数秒の間を経て紫さんの口から出てきた言葉は、決して変な質問とかじゃなかった。でも、すぐに答えを出して言葉にするのが難しいような、そんな問いかけではあった。




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