前々より計画されていた、理想郷の主たるメノウと幻想郷を創造した賢者の1人である紫の、面と向かって行われた対話。
身内の三妖精、お姉さまや私などの身近な友人が側に居て安心できたのもあってか、変なトラブルなどもなく無事に終わらせることができている。
ただし、集まった面子が面子故に途中で何度も会話が脱線したり、当のメノウが蚊帳の外になりかけるなど、雰囲気はほぼいつも通り。
結果として、お姉さま主催の紅魔館プチパーティーか何かに、霊夢や魔理沙たち、紫が混じっただけの普通に楽しいだけの時間を過ごした感じになってはいた。けどまあ、対話さえ上手く行けば形式などどうでもいいわ。
「案外呆気なく終わったわね、対話。あの盛り上がり的には、パーティーとも言えるけれど」
「確かにね。まあ、目的が目的だからこうなるのも当然っちゃ当然か」
「後はそう、2人の相性は良くも悪くもって感じかしら。いや、若干無意識に警戒してる節があったのを考えると、悪い方?」
「うーん、それってあの子と親しい面々から胡散臭いとかなんとか、色々聞いてたからって理由の方が大きいと思うわ。それ抜きだと、やはり良くも悪くもって感じ」
「まあ、メノウにとっての絶対的な物事の判断基準が、家族や大好きな友達なのよね。変な輩が忍び寄ってこない限りは、それでも大丈夫なのだけど」
ちなみに、対話が終わってからすぐここに集まっていた全員が帰った後、私とお姉さまはこの場に残って片付けをしつつも、姉妹同士の込み入った会話を続けている。
内容は、雑談以外だと今日のメノウと紫の対話に関連したものが殆んど。紅魔館にとって重要な事柄の1つなのだから、まあ当然の話ね。
(まあ、これは最高に悲観的な予想だけどね)
私としては、2人が今後個人的かつ良好な友人関係を築くかどうかはさておいて、現時点では特筆すべき懸念事項はないと判断している。唯一の懸念点だった直近の守護者とのトラブルも、既に解決済みだから尚更。
ただし、それは表面かつ短期的な視点で見た時の話。もっと深く、なおかつ長命種族基準での
何せ、一大勢力の主としてメノウと紫を比べてみた場合、どう考えても後者の方が秘めたる力の量と質の格が圧倒的に上。何だったら、幻想郷を作ったのは紫1人ではない上、全員がメノウを余裕で大幅に上回っている。
つまるところ、万が一何かがあった時に外部からの助けがなかった場合、理想郷に盤面をひっくり返す強力無比な切り札が守護者や守護霊のウル以外に存在しないのであれば、成す術もない。
「それ故に、私たちがしっかり見守っておいてあげなきゃだめだわ、フラン。あの子、書面上はともかく実質館に住み込みじゃないだけの、うちの
「うん。それにしても、メノウはよくやった方だわ。一組織や勢力の主として必要な
確かに、メノウはその手の事柄に対する経験不足が甚だしい上に、前世込みでの人生経験すら足りていない。私やお姉さま基準にはなるけど、あの性格や能力も向いているとは言いにくかった。
どちらかといえば、誰かに仕えるなりしてその主を陰から支え、日常をよりよいものにする方に優れているタイプだから。
それでも、武力さえ強かったら使いどころさえ誤らなければ割とどうにもなるけど、実際は妖精という種族の基本限界値の低さが、他者の武力による現状変更を容易にしている状況下。
お姉さまの影響か、昔よりも幻想郷での種族的なヒエラルキーは上がっているにせよ、相当不利であろう。
「まあねぇ。一方で、他者の日常生活や精神的な充実度を上げる経験とそれを支える能力の高さは、議論の余地なく玄人よ。スターと同様にノーゼやスフェ、咲夜の代わりを丸投げしても安心できるくらいに」
「能力を得た経緯を考えれば複雑だけども、結果として自身が生き抜くための『力』にはなった。巡りめぐって、足りない経験を下から支えられるだけの力にも」
「ええ。一緒に居ると心地よい、または何かしら得になると思わせることができるのも、主として必要な要素の1つだもの」
「そう、お姉さまみたいにね」
「あら。ありがとう、ふふっ……嬉しいわ」
とはいっても、メノウの場合はその能力が普通よりも明らかに強力なため、全てではないにしろその不利を打ち消せている。お姉さまを筆頭に、自発的に助けてあげたいと思わせることができている強力な人妖が、相当多いからだ。
そして、例えお姉さまレベルに強くなくたって、メノウが困ってる時に助けてあげようとして動いてくれる友人も、幻想郷に生まれてから1年未満の割には多い。
あれか。前世で友人どころかまともな家族すらおらず、当時は猫のぬいぐるみに憑いていたウル以外敵ばかりだった運命が何故か綺麗に反転、今度は逆に味方ばかりとなったということね。
「とても穏やかで臆病、怒るどころか自己主張すらあまりしないけど、思いやりのある大人しい子」
「もしかして、メノウのこと? ふふっ、最近はどんどん妖精らしくなってきてるわよね」
「確かに。もしかすれば、その内お騒がせ組に入るかも?」
「シャーネットたちはうちのメイドたちの中でも格別よ、フラン」
「まあ、それもそうかしら。あのメノウが嬉々としてイタズラ敢行するとは想像が……」
前世では敵を作りやすい性格だったり、立ち振る舞いをしていたとかではないはずなのに、最低限の釣り合いすら取れていないのは明らかにおかしい。
その上、幻想郷にまで例のあいつらが恐らく幻想入りといった形で出現しては、第2の生を破壊されかけてしまう。メノウに絡み付く悪しき運命が、そう易々とお前を幸せにさせて堪るかと仕向けた出来事かのようだった。
しかし、そんな未来は私はもとより、妖精大好きかつ身内思いなお姉さまが許さない。文字通り、死にもの狂いで望まぬ未来を打ち砕こうと動くだろう。
様々な要因から紫や幻想郷の重鎮と対立しようが、異世界ないし外部からの侵略者が来訪しようが、緩やかな滅びの道が目の前に見えていようが関係ない。もう既に、理想郷から何人もの妖精をメイドとして、メノウや守護者公認で雇い入れているのだ。
「いや、スターが関われば別問題? サニーやルナでも同じね」
「あー……そういえば、好きなイタズラの性質が私に似てるって当の本人が嬉しそうに言ってたわ。万が一、シャーネット以下同郷の妖精たちと共鳴しようものなら、大惨事確定よ」
「確かにそうね。でもまあ、あのメノウが三妖精というかスター並みにはっちゃけるって想像が正直つかないわ。本当にスターそっくりなの?」
「身内が嬉々として言うなら、ほぼそうなんじゃないかしら。私個人的には、半信半疑だけれど」
「最近はめっきりなくなったけど、たまに危険物を使ったりしてたものね。スターは」
わざわざ言うまでもないけど、その妖精たちは個人差こそあれメイドの仕事自体は真剣に頑張れるし、能力も平均して高い。が、種族としての妖精の例に漏れずイタズラ大好きな上に、メノウ程の持続力はない。
しばしば迷い込んだ蝶々などの昆虫や鳥を追いかけたり、廊下でうたた寝をしていたり、果てはバケツの水を廊下で撒いてはしゃいだりと、やりたい放題していると聞く。
頻度や規模こそお騒がせ組には劣っているみたいだけど、ノーゼやスフェ辺りはともかく、メノウやスターが時折苦笑いしているのも当然であろう。
にしても、何をどうしたら廊下でバケツの水撒きをやろうという、突拍子もない発想が出てくるのだろうか。モリオン辺りが入れ知恵したのか、スターないし三妖精辺りが囁いたとかかしら。
今度顔を会わせたら、直接聞いてみよう。そこまで重要なことでもないし、忘れたら忘れたで別にいいわ。
(お姉さま、2人が居るからってタガが外れかけてるのかしら……?)
だが、それでさえ現在のメイド長たる咲夜や、二大妖精長級の活躍をするスターやメノウの支えにより、忙しさは1~3年程前と比べてさえ大きく緩和されている。
お姉さまが理想郷出身の妖精を一層招き入れるなどして、メイド妖精の数がかなり増えてはいるものの、それでも忙しさは緩和された状態を保っているのだ。
何だかんだ、後始末も散々はしゃいだ後に自分たちでやっているか、やらせているみたいだからね。
加えて、当人たちの明るく元気かつ優しい性格もあり、多少の呆れこそあれそこまで館の雰囲気が悪くなることもない。そもそも、それを許容できないなら妖精をメイドとしてお姉さまが雇う訳がないのだけど。
(……咲夜だけに、その役目は任せられないわね)
さて。それはそうとして、これ以上お姉さまがメイド妖精を増やし続けないように、私がストッパーにならないと。
このままの勢いで行くと、その内一体何のためにメノウやスターを雇われメイド妖精として雇ったのか、分からなくなりそうだったから。
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「よっ、お帰り……ん? 何か、心ここに在らずって感じだな!」
「メノちゃんの表情、ポワポワーってしてるよね。泣き腫らした跡もあるし……」
大好きな皆のサポートを受けつつ、紫さんとの対話を途中の流れも結果も望む物を得られた僕。
それだけでも十分なのに、対話が終わってから魔理沙にご褒美をもらったお陰で、今の僕はぷかぷか幸せの大海原に浮かんでいた。
普段の5割増しで甘えさせてくれた上に、いつも大切に身につけているあのとんがり帽子を、僕へプレゼントしてくれたからである。
(えへへ、えへへ……魔理沙の帽子……!)
結局思いつかなくていつもみたいになったし、あげた帽子は今日洗濯したばかりとはいえ身につけてたやつな上に、使い込んだような跡もある、汚くはないだけのお古。
というか、よく考えなくてもお前にとっちゃ、サイズが大きくて被りにくいこの帽子がご褒美でいいのかと、渡してくれた時に複雑な表情をしていた。
当然、食い気味にいいに決まってるでしょとすぐに返事を返す。何だったら、これがお誕生日プレゼントを兼ねててもいいどころか、それでもなお余りある程に嬉しい贈り物だとやかましいくらいに熱弁して、実際にそういうことにしてもらったっけ。
「そういえばメノ、魔理沙の帽子ぎゅってしてるわー」
「もしかしなくても、これがポワポワーってしてる理由だよな! あたいはそう思うぜ!」
家にいくつか替えがあるとはいえ、ここまで何度も直しながら大切に使っていた帽子。
つまり、色々な思い出が詰まった至高の一品であり、これを惜しげもなくあげられる程、魔理沙にとって僕は大切ということになるのだ。
こんなにもよくしてもらっている立場で、お古だから嫌だなんて一瞬でも僕が思う訳ないだろう。万が一思ってしまったものなら、それは僕の性根が腐っているということに他ならない。
お前との友達なんか辞めてやると言われても、罵倒されたりとかしても、致し方ないレベルで。
「ええ! まさしく、ピースの言う通り! 対話のご褒美兼、誕生日プレゼントとして魔理沙がくれたのよ!」
「誕生日プレゼント? あー、そりゃメノにとっちゃもう堪らないよな!」
「本当、魔理沙のお陰で私たちの誕生日プレゼントのハードルが高くなったわー。どうしようかしら?」
「そんなに気にしなくてもいいんじゃないかな。スターちゃん」
「というか、帽子の使い方違うの気になるんだけど……もはや抱き枕的な感じで、くしゃってなってる」
「魔理沙も被るんじゃなくて、こんな使い方されるなんてきっと予想外だわ。まあ、知ったとて気にはしないだろうけど」
それはそうと、こうして帰って来た僕を軽く労って、かと思えばいつものようにわいわい騒ぎ始めたりと、望ましい反応を見せてくれる皆が大好きだ。
ちょっと落ち着いてきたかなと思ったら、これがあまりにも嬉しくて、幸せで、心と身体がまた帽子をもらった時みたいにポワポワしてくる。いや、もしかしたら相乗効果でその時以上かもしれない。
だって、皆にただいまって挨拶するとか、労ったりしてくれてありがとうみたいなお礼の言葉どころか、たった1文字すら口に出せない。かろうじて出来ることと言ったら、頭の中である程度の思考を巡らせたり、サニーたちと一緒に歩いたりする程度くらいかな。
「にしても、魔理沙の帽子1つでこれかぁ」
こんな風に思考を巡らせていた最中、ふとラルバがこう呟いたのが僕の耳に聞こえてくる。ちらっと視線を向けたら、何かこう不思議そうな感じを醸し出しつつ、僕の方をじっと見ていた。
相手が魔理沙かつ、当人にとって大切なものの譲渡だったとはいえ、たった1つもらっただけでこうなった。というか今も、強化形態になる寸前。
であれば、他の皆からもらい続けたら強化形態は確実、お誕生日会本番となったら想像もつかない程に凄いことになるんだろうと、ラルバが興味関心を持つのも全くおかしな話ではない。
何なら、サニーたちやチルノ一行が同じように思っていたっておかしくはないだろう。
(……その1つが、とてつもないインパクトを与えてくれたんだよ。ラルバ)
で、実際にラルバがこう考えてるという前提で話を進めていくけど、まさしくその通りである。
強化形態になってはしゃぐ、高ぶる気分のままにイタズラ祭りを開く、幸せのあまり訳も分からず泣きじゃくったりする、甘えさせて欲しいとしつこいくらいに要求する……うん、考えてもきりがないや。
「相手が家族や友達だったなら、何をやっても喜ぶの究極形ね! 本当、魔理沙は上手くやったわ!」
「さっきも言ったけど、ハードル高くなり過ぎよー。ルナ、何かいいアイディアない?」
「本人が居る前でする相談じゃないでしょ、スター。でもまあ、うーん……苦じゃないけど、やっぱり悩ましいよね」
勿論、プレゼントをもらう寸前の気分だったり、その日の体調の良し悪しによっては、ある程度変わることは間違いない。
だけど、それはあくまでもある
プレゼントちょうだいと厚かましくお願いしたり、何かしらの手段で強制とかした訳でもないのに、皆が僕のために貴重な時間と手間を惜しまず、使ってくれてるんだもの。
「よしっ! なら、あたいたちは編み物も追加するぞ! 大探検終わったら、アリス
「チルノちゃん? お菓子作りの練習だけでいっぱいいっぱいなんだけど……」
「何故に編み物? 真剣に取り組むつもりなのは分かるけどさ、数打ちゃ当たる的な感じになってない?」
「メノって編み物もそれなりにできるから、結構大変になりそう。だけど、やるとなったら頑張りますよー!」
であれば、僕には皆のこの無償の愛情に対して、同様に無償で何かしらの形で報いる必要性が生じてくる。普段のそれに対する恩返しとは、また別枠で。
しかし、どういった形で報いればいいのだろう。サニーたちは勿論のこと、チルノ一行も何したって大抵は喜んでくれる妖精さんだから、とても悩んでしまう。
(すぅ……はぁ……よしっ!)
でも、こうしてサニーたちやチルノ一行への恩返しのために、頭をフルで使って必死に考える行為は大変ではあっても、苦痛では決してない。
むしろ、思いついたことを実行したら喜んでもらえるかもしれないと思うと、さっきまで抱いていた悩みが急速に霧散していく程には、暖かい幸せが訪れてくる。
「ふぅぅ……無理しないでね、皆」
「「「あっ、喋った!!」」」
「……ぶふっ」
でも、今すぐにはいい案が思いつかなそうだ。皆の愛情と同等かそれ以上の価値を持つ恩返しができるように、ゆっくり落ち着いた時間ができた時に考えることとしよう。
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