「ねえ、リリー! チルノたちと一緒に僕と人里行こ!」
「わぁっ……メノ? え、人里?」
紫さんとの対話も無事に終わり、魔理沙からのご褒美兼誕生日プレゼントももらい、幸せな気分のままに迎えた翌日の朝方。
スターの作った軽めの朝ご飯を一緒に食べて少し経った後に、周りの妖精さんたちと遊んでいたリリーや他のチルノ一行のところへ駆け寄った僕は、食い気味にこう声をかけていた。
(どれだけ喜んでくれるかな……?)
この間、サニーたちと一緒に行ったばかりなのもあってか、僕自身は行こうとは考えもしなかった。もし遊びに行くならば、緋色の大丘陵と呼ばれている秋の気配が強い場所にしようかと思っていた。
しかし、殆んど無意識の状態であったのだろう。人里の話題が一瞬出たことも相まって、食事中に「メノと行きたいなぁ」と呟いていたのを聞く。
その瞬間、だったらその希望を叶えてあげると同時、チルノ一行からもらった愛情の恩返しを兼ねて人里に行こうという気持ちが芽生えたのだ。無論、僕の気持ちは後回しにしようと即座に決めている。
僕にとっては、サニーたちは言わずもがなチルノ一行の笑顔や幸せの方が、自分の命と同等以上に尊いと考えている。勿論、自分の命を即捨てるような真似はしないけど、この場合ならどちらを優先すべきかは推して知るべし。
「うふふ。そう、人里。リリー、僕と行きたいなぁってボソッと言ってたんだよ」
「えぇ、本当に……? まあとにかく、メノ。ここ最近とっても頑張ってるけど、無理してない?」
「大丈夫。サニー、スター、ルナが止めてこないのが何よりの証拠だから」
「そうなんだー……えへっ。メノ、大好きですよー!」
「わわっ! リリー……」
なお、サニーたちは今回はお留守番。前回の人里巡りではチルノたちにお留守番してもらったし、今回は逆にお留守番でも大丈夫かと尋ねたら、サニーには「勿論いいわよ!」とニッコニコで了承してもらえている。
加えて、ルナからは「のんびりゆったり待ってるから、楽しんできて」と、スターからは「メノが幸せならそれでよし」や「帰ってきたら、お話たっぷり聞かせてねー」と、追加で言葉までかけてもらえた。ありがたい気遣い以外の何者でもない。
ちなみになんだけど、ヘカーティアさんや翡翠の妖精さんにもサニーたちの見守り役としてお留守番をお願いし、既に了承済みだ。
「ごめん。メノに人里に誘われたのが嬉しくて、つい……」
「えへへ。僕も、リリーたちに喜んでもらえて嬉しいよ」
絶対にあり得ないと分かっていながら、サニーたちが僕から仲間外れにされたのかもと思うのではという、特段酷い僕の被害妄想。
本当にそういうつもりだったならともかく、実際にはしっかり納得させられる訳があるのだから、尚更被害妄想の酷さが窺える。
しかし、ウルの力のお陰で大分和らいでいてさえこの有り様とは、ほとほと呆れ果てた。一体いつ、これを普通の人と同じかそれ以下に抑えられる日が来るのだろうか。
「ほら、チルノ! 大ちゃんたちも、せっかくメノから誘ってくれてるんだから、勿論行くよね?」
「おう! さて、そうと決まれば急いで出かける準備しなきゃだな!」
「ちょっと待って! 急がなくてもメノちゃんは逃げないよ……ああもう、チルノちゃーん!」
「きゃはは、いつも以上に慌ただしい2人だな! よっぽど嬉しいとみた!」
「大ちゃんに瞬間移動してもらえばすぐに終わったのに……走ってっちゃった」
「リリーくらい、楽しみにしてたってことかしら?」
ちなみに、高ぶってる僕みたいに飛びついてきたリリーはもとより、他のチルノ一行もこの話をするや否や、負けず劣らず喜んでくれた。リリーの凄い気迫にほぼ全員、ちょっぴり気圧されてはいるけども。
よかった。これで、僕からチルノ一行へ相応の
しかし、それはすぐに付加価値を伴った対価として、チルノ一行から僕に返ってくる。
いや、大好きな友達が楽しそうにわいわいがやがやと、人里のどこへ行こう何をしようとニコニコする光景そのものだから、特別な贈り物とかって言い表した方が正しいかな。
(うーん……)
さてと、そうと決まればどこへ行って何をしようか、一応ある程度は決めておこう。僕的には、チルノたちの作った流れに完全に身を任すつもりなんだけど、一応誘った身として何も考えないで丸投げするのはちょっと悪いし。
となると、この間サニーたちと人里巡りをした時に行ったことがない場所、時間的に断念した場所が優先候補になる。ただし、1度行った場所も候補にならない訳じゃない。
何故なら、たった1度行った程度で全部楽しみきって、もういいやと飽きれるような場所ではないから。2度3度、いやもっと多く長く行って遊ばなければそこまではいかないだろう。
「メノ、お金は持った? 後、手提げバックとハンカチと……あっ、髪の毛跳ねてるわ!」
「サニー、いつの間にメノのお母さんになったのー? いや、この場合は世話焼きなお姉ちゃんね!」
「スターとルナも同じとして……じゃあ、お母さん役は誰? 守護妖精さん?」
「それいいわね、リリー! ということで、今度おままごとでもやりましょ!」
「そうだね。でも、何だかんだでやるの忘れそうだって思うのは私だけ? こっちもこっちで、楽しく遊ぶだろうし」
そもそも、人里は楽しいとか楽しくないとか、飽きる飽きないとかって言葉だけで言い表すような場所ではない。
僕の愛する家族や大好きな友達の皆がわいわい楽しむためだったり、様々な理由から必要としている場所の1つなこと。
そして、色々と悪い意味で騒がせたあの人たちと、今世というか前世での関係者な僕のことを温かく受け入れてくれる人間さんが、とっても多い場所でもあるからだ。
強化形態ではない普通の状態な今でも、こうして行こうと思えるくらいにはいいところだもの。
だから、心や身体の支えであり、幻想郷で生きる意味を僕に与えた魔法の森の
「もう、サニーったら。えへへ、ありがと」
「どういたしまして! メノが幸せそうだと、私もとっても嬉しいわ!」
勿論、気になったことはなかったとは言えない。ただ、それも精々あの人たちの発狂の元となった僕を、戸惑いや警戒のためか何度もチラ見してきた人や、噂に関する話をしている人たちがまあそこそこ居たことくらいで、何ら大したことではない。
むしろ、あんなことがあってから時間も経たない内に僕が行けば、戸惑いも警戒もひそひそ話も至極当然、至って普通の反応だ。僕が人里の人間さんの立場だったら、きっと同じようなことをしていたと思うし。
レミリアの尽力があったことを鑑みても、直接的な排斥とか悪口が全く聞こえなかっただけ、人里の人間さんは寛大で優しいと実感できた1日であった。
「メノウ様、サニー様方のことはお任せください。私とヘカーティア様が、しっかりと見守っていますから」
「ピース。こっちは気にせず、存分に人里でメノウたちと遊んでくるといいわ。ちなみに、大探検が終わった後もしばらく一緒に居るわよん」
「うん、ありがとね。翡翠の妖精さん」
「わぁぁ……ご主人様大好きっ! あたい、沢山楽しんでくるぜ!」
それにしても、準備をしに行っただけなはずのチルノと大ちゃんは一体、何をしているんだろうか。
楽しそうにおままごとの相談とかをするサニーたちや、ヘカーティアさんに抱きつくピースを見ながらほっこりしてから、相当時間は経っているはずなのに。
呼びに行こうかとも考えたけど、そうはいっても時間に追われている訳じゃない。様子を見に行ってくれたウル曰く、「親友同士できゃっきゃしてる!」だけで緊急事態でもないらしかったし、もう少しだけ待っていよう。
他の皆も、僕に出発のタイミングとかは任せてくれてて、まだ待つだけの集中力もあるみたいだしね。
しかし、チルノと大ちゃんは本当に仲良しなんだなぁ。属性と環境の相性が本来は悪いってことを感じさせないレベルだし、もう家族と言ってもいいんじゃないかな。
「おーい、お待たせ! ごめんな!」
「メノちゃんたち、待たせてごめんね。ちょっとその、チルノちゃんと虫取りとかしてて……」
「きゃはは! 途中で気が散るのはよくあることだし、誰も気にしてない!」
「うん、僕もピースと同じだよ。大ちゃん」
なんてことを考えつつ、ニッコニコで僕にお花をプレゼントしてきたリリーと話をしていた最中、綺麗な蝶々が入った虫かごを持ったチルノと大ちゃんが、急ぎ目に飛んで駆け寄ってきたことに気づく。
何ともまあ、楽しそうで何よりである。ちなみにだけど、僕も含めて誰もそこそこ長く待たされたことを気にしてはいない。
気にする理由もない上に、仮に気にしてたとして色々言ったとしても、誰も得なんてしないんだから。
「さてと。じゃあ、出発しよっか」
ということで、人里巡りをする全員の準備が整ったのを確認した僕は、手を振って見送りしてくれてるサニーたちに手を振り返しながら、手持ちのベルを一振りして妖精大庭園から出発するのであった。
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「おう、また会ったなメノ。にしても、あいつら居ないのか……」
特段行きたがっていたリリーだけでなく、引けを取らないくらいにルンルン気分だったチルノたちと一緒に、心がぽかぽかな状態で目的地に到着した僕。
この間サニーたちと来た時みたいに、楽しく話をしながら中に入ろうとしたら、椅子に暇そうに座ってお饅頭を食べていたお兄さんから、名指しでこう話しかけられた。
外出先では、僕はサニーたちと常に一緒なんだと思っていたのか、周りに居るチルノたちを見て凄く意外そうな表情をしている。
文さんの新聞にそう書いてあったのか、僕を知る誰かから言伝で聞いたのか、はたまたこの間の人里巡りで印象がついたのか、何にせよ少なくともこのお兄さんの中ではそういうイメージが強いみたい。
「今日はお留守番だよ。僕がお願いしたの」
「マジ? まさか、喧嘩でもしたのか?」
「違いますよー、お兄さん! そもそも、本当に喧嘩してたらこんなことしてる場合じゃないです!」
「あー……まあ、それもそうか。羽の色も聞いてたのと違うしな」
とっても厳つい見た目で身体も大きいけど、声と話し方が優しいお兄さん。多分、最初はそのせいで周りの皆に怖がられちゃうけど、時間が経つにつれて良さが分かるタイプの人間さんだ。
最初の大きな関門さえ乗り越えられればの話だけど、特に僕やサニーたちのような妖精や、里の子供たちみたいな精神的に幼いような存在に懐かれやすいかもしれない。
いや、かもしれないじゃなくて、懐かれやすいってはっきり断言しよう。何故なら、会うのが2度目なだけなのに想像以上に会話がスムーズにできるし、居心地がいいって僕自身がそう実感しているんだもの。
(……えへへ。僕、本当に幸運な妖精だよなぁ)
それはそうと、自分で自分のことを精神的に幼いと言い表すのも、何だか結構変な感じではある。ただ、実際問題霊夢や魔理沙から「見た目相応の幼さね」「大多数の妖精と、そこの本質は変わらないと思うぜ」って評価を下されてるし、完全におかしいという訳ではないだろう。
というか、これが皆から優しく構ってもらいやすくなる要因の1つになると考えると、むしろ得ではないかとすら僕は思う。
「っと、そうだ。今日は規模は小さいが、商店街の方で屋台出店祭りやってるぜ。気になるんだったら、行ってみるといい」
で、幾ばくかのやり取りを交わしていく中で、もうお話は大丈夫そうって雰囲気が出てきたため皆で入ろうとすると、お兄さんが再び呼び止めてくると同時に、とある情報を1つ僕たちにくれた。
屋台出店祭りという、想像するだけでも絶対に楽しいであろうイベントの情報を。
「へー、みすちーが屋台出してるんだ。ちょっと気になる」
「メノちゃんはどう? 私も含めて皆行きたがってるけど、気が乗らないなら言って」
「絶対に行くよ、大ちゃん! 友達なのに、何やかんやであまり会えてないし……ねえ、これって友達なのかな……?」
「きゃはは! あんまり会えてなくても、心が繋がってれば友達だと思う! 逆に、心が繋がってなければ友達とは言えないってあたいは考えてる!」
「そっか……ピース、ありがと。お陰で心が少し軽くなってきたよ」
「おう、どういたしまして!」
しかも、詳しく尋ねてみたらそこには、あのみすちーがやっている移動式の屋台も出店しているというのだから、尚更行かねばならない。
八ツ目鰻は食べたことがあるし、食べるとしたら煮物やおでん辺りかなって思ったけど、スターの作った朝ご飯を軽くとはいえ食べているのを忘れてはいけない。沢山頼みたいのを我慢して、頼むのは1品くらいにしないと、高確率で食べきれなくて残す羽目になる。
そんな理由で残すなんて、腕によりをかけて作ってくれたみすちーに失礼だし、何より使われた食材たちに対しても同じくらい失礼だろう。
まあ、タッパーか何かで持ち帰って食べればいいかもしれないけど、それはそれで推奨できる行為じゃないし、無理して食べるのも同様に……うん、理由がそれだとやっぱり駄目だね。
作りたての美味しい料理を食べて欲しいっていう、みすちーの思いを無視することになるんだもの。
「すまねえな、無理に引き止めちまって。まあ楽しんでこいよ!」
「うん! ありがとね、門番のお兄さん!」
「おうよ! 存分に、メノたちと楽しんでくるぜ!」
「ありがとうございます! ところで、お兄さんもお仕事終わったら、お祭り行きませんか?」
「いや、俺は止めとくよ。こうしてる方が性に合う」
まるで呪文のように、1品だけにしなきゃと心の中で唱え続けながら、お兄さんに手を振り返しつつチルノたちと一緒に商店街の方へと、僕は歩みを進めていく。
(みすちーの屋台に行った後は、混ぜてもらうのも考えものかな? いや、仲良し同士だけで居たいかもしれないし……)
確かに、この間サニーたちと人里巡りをしに来た日よりは賑わっている。人の数もそうだけど、まるで妖精さんたちが集まる理想郷や紅魔館のように、賑やかさが凄い。
浴衣とか着物を着てスキップしたりしている親子、買ったわたあめを食べてニコニコしてる子供とモリオン一派、サッカーみたいな遊びで盛り上がってるお兄さんお姉さんたち、とっても楽しそうだ。
チルノとかリリー、ピースは凄く混ざりたそうにしてるけど、今は先にみすちーの屋台に行くのが先である。僕だけの意見だったら曲げれば済むけど、大ちゃんやラルバが特に行きたがってるんだもの。
「おー、チルノたちも来たのか……ん? メノも居るぞー」
なんてことを考えながら、人混みが更に凄くなった商店街の入り口に差し掛かった刹那、とっても聞き覚えのある声の持ち主……ルーミアが、リグルと一緒に向こうの方から歩いてくるのが、僕の目に見えた。
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