幸せ四妖精   作:松雨

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宵闇と蛍の妖怪

 商店街に足を踏み入れ、みすちーの移動式屋台がある場所に行こうとした時にルーミアとリグルに会った、僕たち5人。そこから色々と話を聞いてみれば、どうやら目的地も一緒らしい。

 

 本来は、その後に別の場所を見て回るつもりみたいだけど、せっかく会ったんだからとチルノと大ちゃんの一声により、今日の人里巡りに同行することが満場一致で決定した。

 

 みすちーと同じで、しばらく一緒に遊ぶどころかお話すらしていないのだから、これはいい機会。ついでに後日、沢山遊ぶ約束とかも取り付けたいな。

 

「うひゃあ。これ全部みすちーの屋台目当ての来客か? 凄いな!」

「本当にね。こんなに大勢のお客さん、1人で対応するの大変そう」

「それはそうと、私たちが座るところがなきゃ後回しに……あっ、あそことかどう? 少し遠くなっちゃうけど」

「おぉ。よく見つけたな、ラルバ!」

「だね。早く行って座らないと、席が取られちゃう」

 

 でも、みすちーへ直接お誘いをかけようというその考えは、屋台がある場所に足を踏み入れた瞬間というか、屋台周りにお客さんたちが大勢集まっている光景が目に見えた時から、無理そうだと実感できてしまう。

 

 それの実行即ち、僕で例えるなら紅魔館で大勢のメイド妖精さんたちのご飯をいつものペースで作りつつ、サニーたちと楽しくお話をして過ごすようなもの。

 料理のクオリティーと満足度を無視していいならまだしも、誰かに食べてもらうために作る以上そんなことはできないのだから、至極当然のことである。

 

 初めて会ったあの日、僕やサニーたちが八ツ目鰻を食べ、美味しい美味しいと喜ぶ姿を見て嬉しそうにするみすちーが、わざわざしようと思ってその選択肢を選ぶ訳がないんだから。

 

「あっ、皆いらっしゃい! メノも、久しぶりに会えて嬉しいわ!」

「えへへ、僕もだよ。それにしても、やっぱりみすちーは凄いなぁ。忙し過ぎて大変でしょ?」

「まあね。でも、嬉しい悲鳴ってやつよ。それに、食材とかお酒切れたら閉めればいいだけだし、ある意味人里でお店やってる人間よりは楽かも」

 

 それで、ラルバが見つけてくれた席に着いてから、手書きのメニュー表を見ながらあれこれ皆と談笑していると、割とすぐにみすちーが気づいて声をかけてくれた。

 

 咲夜や調理担当の古株メイド妖精さんは当然、僕やスターだってある程度は慣れているけど、それにしたって1人で全てをこなすのは身体をこれでもかとこき使わなきゃ、ほぼ確実に無理。

 だからこそ、待ち時間が相当かかりますって注意書きが、メニュー表にどんと記されているのだろうし。

 

 それを考えたら、事前の仕込みとかもあるにせよ料理作りや接客に悩殺されている中、この早さで気づけるのは凄いこと。同じ料理作りを得意とする者として、元からみすちーに対する尊敬の気持ちはあったけど、更に1つ段階を上げた。

 

「ところで、皆は何を食べたいとか飲みたいとか決めてる? できれば決まってると嬉しいわ」

「あたいと大ちゃんは八ツ目鰻と麦茶! ラルバとリリーは焼き鳥と水で、リグルとルーミアは八ツ目鰻と水だけど、メノは……決まった?」

「……うん、焼き鳥かな。えっと、飲み物は玄米茶でいい?」

「勿論いいわ! 注意書きの通りにかなり時間はかかるけど、のんびり待ってて」

 

 と同時に、頼もうとした料理を煮物から焼き鳥へ変えることに決めた。僕たちの頼む料理の種類を抑えることで、みすちーが少し楽になるかもと考えたからである。

 

 仮に、僕がこんな理由で食べたい料理を変えただなんて知ったなら、恐らくチルノ一行はこう思うだろう。サニーたちとの約束を破り、自分を抑えに抑えて無理をしていないかと。

 

 みすちーだって、常識の範囲内なら気にすることはないとか、だから好きなものを頼んでも大丈夫とか言って、優しく気を遣ってくれる。

 

(……うーん)

 

 しかし、僕的には無理をしているという感覚はない。全くと言っていい程にない。

 それに、念のため心の中でウルに聞いてみたら「実質問題ないよっ!」とのことだし、無意識に負担を積み上げていたって心配はしなくてよさそう。

 

 だけど、実質ということはつまり、僕ですら気づけないレベルではあるものの、負担自体は感じていたって事実を提示されたということ。僕自身と皆の幸せのバランスを保つように、より一層意識して頑張らないとね。

 

「皆お酒飲んで酔っぱらって、わいわい騒いで楽しそうだね。博麗神社の宴会みたい」

「確かにね、ラルバちゃん。そう言えば、メノちゃんってあの日以降、家でもお酒飲んでる?」

「大体はお茶とか水飲んでるけど、たまにお酒を飲むことはあるよ。そんなに沢山って訳じゃないけどね」

 

 注文を受けたみすちーが急ぎ足で屋台の方に戻った後は、周りの人たちがお酒を飲んで楽しそうなのもあってか話題はお酒、それも何故だか僕の飲酒に関して。

 

(まさか、ここまでお酒を飲む頻度が増えるなんてなぁ……)

 

 紅魔館で初めてレミリアに勧められ、高級そうなワインを飲んでみて以降、それなりに日本酒やビールを飲む機会はあった。家でサニーたちに勧められたり、家でのプチお酒パーティーとかの雰囲気に触発されるなどして。

 

 とはいえ、それは本当にたまにであり、飲む時も小さめなコップやグラスの半分以下という非常に少ない量ではある。

 周りの大好きな友達や、愛する家族へ甘えたい衝動を我慢できなくなるくらいに酔う量を毎日かつ毎回飲んでたら、色々な面で堪ったものではなくなりそうだもの。

 

「へー。日本酒とかビール?」

「そうだよ。まあ、そもそもお酒はそこまでって感じなんだけど、日本酒の方は強いて選ぶなら甘口の方。度数だっけ? それはまあ低め」

「それ分かる。私も、辛い日本酒は苦手だし」

「ビールの方は、爽やかな苦味のあるやつ以外はあんまり。お酒を飲むんだったら、やっぱり紅魔館のワインかなぁ」

「あれ、ぶとうの甘味と香りが強くて美味しいよな! 酔いやすくもあるんだけど!」

「うんうん。そう考えると、メノちゃんってお酒に本当に強い方なんだなぁ」

 

 そもそもの話、冬のお泊まり会以前はお酒を飲むことに興味を抱くどころか、お酒という言葉自体が微塵とまでは言い過ぎかもしれないけど、そう言ってもいいのではと思う程度には湧いていなかった。

 

 以降だって、味の好みだったり同じ量のお茶とかに比べて基本値段が高かったり、他にもある様々な理由から興味があまり湧かず、さほど手が伸びたりはしていない。チルノ一行だってそれを察していたのか、飲んでみないかとは声かけしてこなかったし。

 

 まあ、何だかんだ言ったけれど、1番の理由はサニーたちですらお泊まり会以前は全く、それ以降でさえ勧めてきた回数は指で数えられる程度しかなかったのが大きいかな。

 

「そう。そのお陰で、あのぽかぽか心地よさを味わえたんだよね。今でもはっきり覚えてる」

「お酒は人の本性を露にするって言うけれど、メノちゃんは本当に甘えん坊だったよね。いつもより凄い積極的だったし、ちょっとびっくり」

「確かにな! あれは、甘えん坊って言葉の上が欲しくなるくらいだったぜ!」

 

 でも、今は違う。お酒への興味関心が少しではあるものの、増してきている感覚がある。

 

 理由は言わずもがな、チルノ一行とルーミア、リグルが僕とお酒のお話をするのを楽しそうにしているから。

 

 であるならば、味の好みだとか値段の問題などはわざわざ考えるまでもない些細なものだけど、これからチルノ一行と人里を巡っていくってことを考えれば、お酒を飲むのは今じゃない。

 

 だけど、もし今日この場にサニーたちも連れてきていたとしたならば、恐らくはもっと興味関心が高まっていただろう。で、後の事とかは何も考えず、この場で日本酒とかビールを酔うまで飲んで、皆で仲良く酔っ払い妖精集団と化していたかも。

 

 挙げ句、散々はしゃぎ散らして周りの大人の人間さんとか、場合によってはこの騒ぎの話を聞き付けた霊夢辺りに全員まとめて捕まって、何を馬鹿なことをしてるのかとお説教される流れに落ち着くって感じかな。

 

「チルノ、メノってそんなに甘えん坊なのかー?」

「いやまあ、1度遊びに行った時の様子を見れば分かるけど、そこまで?」

「おう! あたいたちにもそうだったけど、特にサニーたちに対しては凄かったぞ! まあ、心を救ってくれた家族だから当然だけど!」

「へぇ、そうなんだ。いつか、メノも含めた皆でお酒とかワインも入れたパーティーをやれば見れ……あっ、メノのお誕生日会あるじゃん」

「魔理沙が主催だったっけ。確かにそこなら、メノの全力甘えん坊姿が見れそうだなー」

「ふふっ。リグルちゃんもルーミアちゃんも、そんなにメノちゃんの全力甘えん坊姿が気になるの?」

「そりゃあ、チルノと大ちゃんがそう言うんだから当然でしょ」

「完全に酔っ払ったサニーとかリリーみたいに、面白――」

「はいはい、そこまでですよー! それ以上口にするなら、流石の私でも怒っちゃうわ!」

 

 にしても、チルノが色々と興味をそそるような身振り手振りをしながらお話をしたとはいえ、リグルとルーミアがそこまで僕の酔ってる時の姿を見たがるなんてびっくりだ。

 

 しかし、同時に嬉しくもある。お酒を飲んで僕が酔っ払っている姿を1度見せるだけで、友達の2人を楽しくさせて笑顔にすることができると、はっきり示された訳だから。

 

 正直言ってしまえば、今すぐにでも日本酒なりビールなりを頼んで飲み、あの日くらいに酔ってみせたい。そして、興味津々なリグルやルーミアだけでなく、チルノ一行を笑わせて楽しい気分にさせてあげたい。

 

 そうすれば、僕自身も同じかそれ以上に幸せで楽しい気分に浸ることができる。

 

「お誕生日会、もっともーっと楽しみになってきた……!」

「私もですよー!」

「なんだなんだ、気が早いな! まあ、気持ちは痛い程分かるけど!」

「それって、私とルーミアも参加していいやつ? 付き合い短いし……」

「えっ? いいに決まってるというか、むしろお願いしたいくらい。だって、僕と2人はお友達だもの」

「わははは! だったら、とびきりなお祝いにしなきゃ駄目だなー!」

 

 でも、今はそのためにお酒を飲むべき時ではない。これからチルノ一行と人里巡りをするのに、僕が酔っていては皆に迷惑をかけてしまうから。

 

 多少騒がしくなる程度ならまだしも、誘った当人がお酒の飲み過ぎによって甘えん坊精神を全力で発揮した挙げ句、人里巡りが強制終了という事態が起きようものなら、もはや論外。

 

 結果、帰った後にサニーやスター、ルナからのお説教フルコースという罰が確定するのである。下手すれば、時間が経ってからリグルやルーミアに飛び火する可能性すらあるんだから、然るべき時まで我慢しよう。

 

 そもそも、既にこの場に居る皆は楽しそうだし、幸せそうでもある。殊更、こんな行為をする必要性は薄まっていく訳である。

 

「お待たせ、皆! 今作った分で食材がほぼ枯渇したから、おかわりはないの。ごめんね」

「謝ることなんてないよ、みすちー。ピースもそう思わない?」

「おうよ! そんなことより、早く食べようぜ! いい匂いが漂ってる中で待ち続けたお陰で、ちょっとお腹空いてきちゃっ……あはっ。今、メノと大ちゃんのお腹の音がぐぅぅって鳴った!」

「「……!」」

 

 と、そんなこんなでルーミアが何か言おうとして、それをリリーが割と必死になって止めるという光景を見ながら考えていると、テーブルにお願いした料理と飲み物が手早く置かれたのに気づく。

 

 あの時の記憶に違わない香りと見た目の、美味しそうな八ツ目鰻。

 秘伝らしいタレが塗られた、食欲をそそる香りで絶妙な焼き加減の焼き鳥。

 

 僕が食べるのは焼き鳥だけど、もしお腹が空いてて仕方がない時であれば、高確率で八ツ目鰻も頼んでいた。もしくは、食材が枯渇していなければ焼き鳥のおかわりをしていただろう。

 

 だって、ピースが言ったようにこんないい匂いの漂う場所で、1時間くらい皆と一緒に楽しく待ってたら、何だかちょっぴりお腹が空いてきちゃったんだもの。下手したら、焼き鳥1つだけじゃ足りないかも。

 

 しかし、だからといってすぐに他の食事処に向かい、ご飯を頼んで食べたりはしない。寄るとしたら、人里巡りをし続けて本格的に僕や皆の食べたい欲求が高まってきた、そのタイミングでかな。

 

「あわわ……私とメノちゃん、皆に注目されてる……!」

「大ちゃん。とにかく、一緒に食べよ?」

 

 チルノたちだけじゃなく、席が近かった他のお客さんたちにお腹の音を聞かれて恥ずかしいと思いながら、僕はほかほかの焼き鳥を口に運んだ。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。
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