ちょっぴりではありながらも、お腹が空いてきてはいたのもあってか、僕がみすちーの屋台で頼んだ焼き鳥は凄く美味しいと感じる一品であった。
どのくらい凄かったかというと、焼き鳥の材料があの時点でまだあった場合、頼むのは1つだけにしておこうって事前の決意を最初からなかったことにしていたくらい。
食レポの能力があったならば、きっとどう美味しいのかをベラベラ事細かく喋り続け、大ちゃん辺りに引かれていたかも。今くらいの、簡単な感想しか言えない程度でちょうどよかったかも。
「ふぅ。あー、美味しかったよな! ところで、あたいたちの分までお金を出してくれたけど、本当にいいの?」
「えへへ、うん。大好きなピースたちの笑顔を見れて、幸せにすることができたから。そのためにお金を使う時が来たならば、迷いなく使える」
「きゃはは! ありがとうな、メノ!」
「それじゃあ、次は私たちが奢りますよー! という訳で、お土産屋さんでも行く?」
「考えても仕方ないし、ひとまず奢る云々は置いておいて気の向くままに、立ち寄ってみるのもいいんじゃない? お金を使うところが全てじゃないぞー」
「ふふっ。皆が行きたいところなら、僕はどこでもいいよ」
なお、僕と同じ焼き鳥を頼んだラルバとリリーも、八ツ目鰻を頼んだ他の皆も、同じく口に入れた瞬間に羽をパタパタさせたり、目を輝かせながら美味しい美味しいとニッコニコだった。
改めて思うけど、僕たち以外のお客さんの料理とかお酒、麦茶などの飲み物の用意を1人でしなければならない中、スターや霊夢、妖夢や咲夜といった凄い料理人たちにも引けを取らないレベルなのは本当に凄い。
もし、僕がみすちーの立場に置かれたとして、果たして同じようにできるだろうか。
いや、同じ大勢相手でも紅魔館のメイド妖精の皆とかならともかく、少なくとも大勢の顔も声も全く知らない人たちを相手に、こんな状況で美味しい料理を振る舞えるとは、到底思えない。
(みすちー。きっと、頑張ったから疲れてるよね。ゆっくり休めてるかな……?)
しかも、友達のよしみなのかと一瞬勘ぐってしまう程に料理や飲み物の価格が安いのだから、むしろ人気が出ない方が不思議に思えてきてしまう。
ちなみに、それでいて半ば趣味の領域にある移動屋台の展開も続けられる程度には、お金の方の余裕もちゃんとあるらしい。リグルが、はっきりとそう言っていた。
まあ、みすちー程の料理の腕と愛想の良さならば、人に恐れられるはずの妖怪さんという点を加味したところで、何らおかしなことではないよね。
「えっと……メノちゃんが、この間サニーちゃんたちと行ったことがある場所でも?」
「勿論だよ。大ちゃん含め、他の皆が本当にそこに行きたいと思っているのなら、どこへでも」
「ふーん、だったら寺子屋でいいんじゃない? あたいたちと一緒に、授業受けてみるのもいい体験になるかも」
「チルノちゃん。急にそんな話をしても、慧音先生困っちゃうと思う」
「そっかぁ。なら、鈴奈庵で読書とか」
「えー。せっかくメノが居るんだから、わいわいしたいな」
「あはは。この調子だと、全然決まらなそうだね。いっそのこと、お散歩を続けることにする?」
「うーん……流石にそれは退屈だぞー、ラルバ」
さてと。あれから30分近くかけて、頼んだ屋台料理を綺麗に全て食べ終えたはいいものの、次はどうしよう。食べ終わったら次どこに行こうって相談よりも、お酒のお話とかの方ばかりに集中しちゃって、殆んど話題に上がらなかったのだ。
もう食事をしないのに、構わずじっと座ってるのは迷惑になるしということで、取り敢えず人里を歩き回りながらいる今も、いいアイディアが浮かばない。皆も同じみたいで、話題が変わりそうになかった。
じゃあ、人里に拘らないでもいいじゃないかって考えが一瞬頭をよぎったけど、皆の意見が完全一致していない以上絶対に駄目だ。決して僕から、それを口にしてはいけない。
「おー? 何かあっちで、面白そうなことしてる子供……メイドの妖精たちも居るぞー」
「どれどれ? 本当だ。にらめっこ大会かな? くすぐりバトルしてる子も居るっぽいけど」
「にらめっこだったら確か、スフェが凄い強いっけ。というか、くすぐり大会メノ全然駄目だよな!」
なんてことを考えながら商店街を抜けて、長屋とか一戸建ての日本家屋が建ち並ぶエリアに足を踏み入れてしばらく経った時、ルーミアがにらめっこやくすぐりバトルをして遊んでいる子供たちを見つけた。
集中してよく見て聞いてみれば、単純に遊んでいるのではなくて誰が1番にらめっこで強いのかという、本気の勝負をしていることが分かる。僕たちで言うところの弾幕ごっこ的な感じかな。
「おーい、あたいたちも入れてー!」
「チルノちゃん、ちょっと待って! 普通に声をかけようよー!」
「わっ、チルノちゃん……妖精軍団の皆!? ルーミアちゃんにリグルちゃん、メノちゃんも居る!」
若干、散歩ばかりで退屈という空気が漂い始めていたところに、弾幕ごっことかではなくともそれに比肩する、楽しそうな遊びをしている人里の子供たちに、紅魔館のメイド妖精さん……スフェたちの登場。
そりゃあ、テンションが上がるのも無理はない。今のチルノにとって、あれは僕でいうところのサニーたちがきゃっきゃして楽しそうにしてる様子、それに匹敵するんだもの。
「あれ、メノちゃん? サニーちゃんたちが居ないけど、能力で隠れてる……いや、理由がないかぁ」
「へぇ、そんなことあるんだね……ねえ、メノウ。サニーたちはどうしたの? 喧嘩とかじゃないとは思うけど……」
で、チルノや大ちゃんの後を追って皆が遊んでいるところまで行ったんだけど、数人のメイド妖精さんや子供たちが2人とやり取りしている中、僕の方は戸惑い気味なスフェとノーゼに話しかけられた。
二大妖精長にとって僕は、サニーたち3人の内の1人ないし全員と一緒に居るイメージが大きかったらしい。
まあ、確かにその通りである。勿論、サニーたち以外の友達だけと外出することもあるけれど、お互いの行動をずっと見合ったり報告し合ったりしてる訳じゃないから、尚更イメージは固定されるだろう。
(ノーゼ……)
さてと。こんなことを考えている間があるならば、2人の戸惑いと心配を解いてあげなきゃ。ノーゼとか特に、口ではこう言ってても僕とサニーたち、ないしチルノ一行の内の誰かが喧嘩とかしたかもって考えが、頭から離れていかないって顔してるもの。
「ただのお留守番だよ。えっと……4日前に、僕とサニーたちで初めて人里巡りをしてね。今日は、そのお返しでチルノたちと来てるの」
「あー、そういうこと。理解した……ほっ」
「うふふ。メノちゃんが凄くキラキラできゃっきゃしてたって、館で噂になってるよー!」
「きゃはは! そりゃ、強化形態の発現のきっかけがきっかけだもんな!」
「えへへ。スター曰く、あれで不完全みたいだけどね」
そうして、サニーたちと喧嘩なんてする訳ないよと思いつつ3人ともここに居ない理由を告げれば、ノーゼの不安そうな表情が和らいで楽しそうにしてる時の表情に戻った。スフェも心なしか、笑顔が輝きを増しているように感じる。
よかった。これで元の表情に戻らなかったり、心配のあまり余計に不安そうな表情になっちゃったら、せっかくの雰囲気をぶち壊したことになってたんだから。
(そりゃあ、妖精さんたちがあの子たちを好く訳だよ)
なお、この状況に置いてきぼりを食らわせることになってしまった方の、里の子供たちの反応が気になっていたんだけれど、横目で見て少し耳を澄ませてみた限りでは、僕たちの突然の登場に驚きこそすれ不満などの感情を露にはしていない。
むしろ、数秒後には遊ぶ相手が増えたとか何とかでニコニコしてくれるくらいだったから、ほっとひと安心である。
(ん……?)
なんて考えながら、さて僕も高ぶる気分と溢れる勇気を出し、子供たちに話しかけに行こうと1歩を踏み出した刹那、僕が履いてる長袖ワンピースの背中側が誰かに1回引っ張られた。グイグイって来る感じじゃなくて、指で摘まんで引っ張った時くらいの弱さって感じで。
もしくは、何かに引っかかったとも言え……いや、違う。場所柄建物とか物は多いけど狭い訳でもないし、位置関係的に背中の羽に感触がいかないはずがないから、やっぱり誰かに引っ張られたんだろうなぁ。
「わっ……なあに? 僕に用事?」
引っ張られた方向である後ろに振り返ると、そこに居たのは僕よりも小さな背丈の男の子。それも、どことなく雰囲気が普段のルナにそっくりな里の人間さんだったから、ちょっとびっくりした。
見た目で判断するならば、外の世界で言うところの幼稚園や保育園の年長さん、大きくても小学校入りたてくらいかな。
にしても、どんな理由で僕の服を引っ張っていたのだろう。尋ねてみたんだけど、こっちをじっと見つめるばかりで喋らないから、余計に分からないや。
僕と遊びたいのか、ちょっかいを出して反応を見たかったのか、単なる興味関心故にやったことなのか、はたまた僕が想像できないような理由があるのかな。
少なくとも、悪意だったり変な意味合いがないことだけは分かったから、不安とか嫌悪感みたいなのはないけれどね。
「ん? ひゃっ……羽の感触が気になるの……?」
こんな風に思考を巡らすことを優先して、この男の子から数秒とはいえ注意を逸らしたのがよくなかったらしい。再び僕の背後に回ると、若干遠慮がちに羽をつんつん触り始めたのである。
なるほど。この子にとっては僕は初めて見る妖精かつ、羽の形状や文様が他の妖精さんにはない珍しいもの。何なら、ぼんやり光ってたりする上、その色も僕の気分とかでコロコロ変わるのだし、その流れで感触とかも気にはなりそう。
(……)
この男の子は、大半の妖精さんと同じかそれ以上に理性を働かせるのが、見た目通りであれば難しいお年頃。
僕が怖く、威圧的な見た目や雰囲気の相手とかならまだしも、現実はちょっと大きいだけの妖精の女の子であるため、ひとたび抱いた好奇心が強ければ我慢できないのも無理はない。
むしろ、いきなりガッと全力で来ないだけ、我慢できている方ではなかろうか。
「メノちゃんの羽に興味津々だね、この子。ルナちゃんと同じくらいに大人しめだけど、好奇心は妖精並に旺盛なのかな」
「かも! となれば、飛んでる時のキラキラとか出してあげたら、もっと嬉しくなりそう!」
「あ、ちょ……ぶふっ。大ちゃん、チルノ……?」
それはそうと、男の子のつんつん度合いが絶妙過ぎて地味にくすぐったい。しかも、何か大ちゃんとチルノが便乗してつんつんというか、がっつりくすぐり始めてきた。
普通の妖精さんであれば、ちょっとくすぐったいかもって感じる程度の力。しかし、くすぐり攻撃に相変わらず弱い僕にとってはかなり強く、耐えようとする意思を持たなければ耐えられない。
いや、その意思を持っていてさえ耐えるのは大変かな。
流石に、初めてあうんに全力のくすぐり攻撃を受けた時とか、魔理沙にイタズラの仕返しとしてくすぐられた時、サニーたちとお家でじゃれあってる時程笑いがこみ上げてくる訳じゃないんだけどね。
「びゃっ!? は、羽の根元……ひゃは、ふひゃはははは!」
「あっ。そこ、メノちゃんが1番弱いところ……にしても、相変わらずだなぁ」
「あうんみたいに、妖気流しながらこちょこちょしてなくてもこれだもんな! ていうか、あれはあたいとかでも耐え続けるの無理!」
「まあねぇ」
と思っていたら、チルノや大ちゃんが遠慮なく僕の羽を触ってくすぐっているのを見て、単に自分もやってみたいと思ったのかな。それとも、僕の反応が面白そうだと思ったのかもしれない。
さっきまで遠慮がちにつんつんする程度だった男の子が、遠慮なく羽の根元をくすぐり始めたのだ。
瞬間、身体の中心からさっきまでとは比べるのもおこがましいくらいに、笑いがこみ上げてきてしまう。
雰囲気ルナ似の男の子1人だけなら、まだギリギリいけたかもしれないけど、僕をよく知るチルノと大ちゃん2人もノリで加わっている以上、耐えるなんて無理難題。
例えるなら、本気の霊夢や魔理沙に弾幕ごっこで勝てと言われるようなものなのだ。チルノやピースですら勝てない相手に、その2人に勝てた試しのない僕が勝てるかどうかは、推して知るべしである。
(やっぱり無理ぃ……! この男の子1人だけならギリギリ耐えれるとか思った僕は、底抜けの馬鹿だったかも……!)
というか今思ったけど、チルノと大ちゃんに引けを取らないくらいにくすぐるのが上手い。
チルノたちや今居るメイド妖精さんたちでなくとも、他の妖精さんとよくこうして遊ぶからか。それとも、そういう才能みたいなものがこの男の子にはあったのか。
兄弟姉妹とのじゃれ合いでやり続けた結果、他種族相手でもその技術を発揮できるようになった可能性だってあり得る。何にせよ、このままだとやられてばかりでノックアウトされてしまうだろう。
「ぼ、僕だって……やられてばかりじゃないよ……そこ!」
「あぅ……ひっ、ひゃっっはははは……!!」
「メノが反撃を始めましたよー! でも、チルノと大ちゃんも加わって3対1だからか、やっぱりキツいみたい!」
「流石に数で押されると……おっ? 今度はどさくさに紛れて、スフェが大ちゃんに脇の下くすぐり攻撃を仕掛けたぞ! あたいも混ざろうかな?」
「そう思ったら、触発された人里の子供たちが似たようなことやり始めて……随分カオスなことになってる。大人たちもドン引きよ」
「にらめっこ大会はどっか行ったなー。まあ、そりゃそうかー」
そう思ったからか、半ば反射的に男の子へのくすぐり攻撃を行った僕だけど、付け焼き刃の反撃がくすぐりのプロフェッショナルに通じる訳もない。
人数も3人だから、すぐに倍返しにしてやると言わんばかりの反撃を食らい、また最初の展開へと逆戻りとなるのであった。
(あー、全然駄目だ。くすぐられてばかりだぁ……)
正直言ってしまうなら、僕は早々に降参したい。初対面の男の子はともかく、チルノや大ちゃんを筆頭としたくすぐりバトル参加組の皆がこの上なく楽しそうなのは嬉しいけど、それ以上に色々限界が近いから。
もし、笑い声以外を発するだけの余裕があるならば、強く降参の意を示せていた。でも、実際はそうではない。
(はひ、ひい、ひぃ……けほっ……ちょ、流石にもう降参させ……え、ちょっ)
ほら。心の中では何とか言葉にできているというのに、くすぐられ続けているせいで身体が全くではなくても、あんまり言うことを聞いてくれないんだもの。
しかも、このタイミングで騒ぎを聞きつけたのか、更に何人もの子供たちや妖精さんが来てしまうものだから堪らない。
ついさっきまで何とかなってた心の中ですら、噴水が如くこみ上げる笑いのせいで段々と、纏まらなくなってきたのである。
このままでは、笑い過ぎて疲れて気絶ないしウルの出現による強制終了という事態もあり得るだろう。
「随分とまあ、騒がしいと思って来てみたら……楽しそうね。メノウ」
「「「……わぁっ!」」」
だけど、それはお花畑の妖精さんに抱き着かれながらいた、正直外に居るとは考えもしなかった吸血鬼さん……フランの登場によって、辛くも回避できることとなった。
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