メノがチルノたちを連れて人里へ遊びに行ってしばらく経った頃、割と暇を持て余し始めていた私たち3人。じゃあ、皆が帰ってくるまで大探検でもすればいいじゃんって話にはなったものの、それはもう既にやった後だった。
私個人としては、読書やコーヒーブレイクなどの身体を動かさなくても楽しめる、静かで落ち着いた趣味がある。夜中であれば、その時々の気分によって変えるお菓子や飲み物を嗜みながら、月光浴をするのも同じく趣味。
皆でわいわいはしゃぐ遊びも好きではあるけど、それと比べて前者が相対的に好きなので、ここは我が家かつ私1人だけのことを考えるなら別に悩まない。
なんだけど、今はスターもサニーも気力は万全な上に、ここは妖精大樹じゃないから違う。
で、スターはともかくサニーは外出して元気よく遊びたがる傾向が私たち家族の中でも1番強く、読書なども嫌いではないけどすぐに飽きちゃう、生粋のアウトドア派。
現に、終わった後にそこそこ身体的な疲れが溜まった私やスターに向かって、「どうせなら、もう1度3人でやりましょ! まだ元気残ってるじゃないの!」と言ってきたくらいだもの。
無論、妖精の中ではインドア派な私とて、伊達にサニーと家族をやっていないし、スターだって同じ。
もう1回、大庭園巡りに付き合える程度の体力が残っているのも相まって、了承はしたのだ。
ただ、せっかくなら違うことをして遊びたい。瞬間、私の頭の中に閃きの光が迸ったのである。
「結局、お留守番できなかったねー。私たち」
「確かにそうね、スター! でもまあ、何だかんだでルナも私くらい我慢できてなかったっぽい? あんなドキドキな提案をしてくるぐらいだもの、間違いないわね!」
「うーん。まあ、あながち間違いじゃないわ」
「ふふっ……楽しそうで何よりです、ルナ様」
という訳で今、私たちはヘカーティアに声をかけてから、守護妖精も一緒に連れて人里へ遊びに来ていた。
勿論、ただ遊びに来た訳ではなく、適度に能力も使いつつできる限り長い間メノたちに声をかけられず遊ぶのと、時折メノたちの様子を確認しながらという、そんな少しドキドキな条件を課しながら。
とは言ったけれど、レミリアと並んで紅魔館の顔として認識されている、あの咲夜にそっくりな守護妖精を連れて遊んでれば、大分目立つ。
現に何回か、気になって声をかけてくる人間が出てきていると言えば、どれだけ目立っているかが分かるだろう。まともに遊べるのかって、聞いた人妖から思われそうな条件である。
「その背中の羽……あんたも妖精なのか」
「異なる世界の出身ではありますが、一応は。幻想郷の定義に則れば、細かな面では違うかもしれません」
「へぇ、世界は広いんだなぁ。で、この子らとはどんな関係なんだ?」
「仕え護るべき主たち、家族、友人……何にせよ、大切な存在であるのは間違いありませんね」
「えへへ。私たちのこと大切だって、スター!」
「よかったわねー、サニー。ルナもね」
「うん、それはそう」
しかし、サニーやスターはもとより、私も何やかんやでこのドキドキを楽しめているから、問題は全然ない。
それに、本来私たちは3人で理想郷にお留守番をしているはずの身、この程度の条件は至極当然。
何なら守護妖精も一緒な以上、ほぼ確実にメノたちの耳に入り、色々と考え事をさせることは間違いなしなんだし。
ともなれば、特段気にするであろうメノに対しては、あなたのせいでは決してないことを全力で伝えつつ、お誕生日会のプレゼントをより豪華にすると確約することで釣り合いを取る。お金とか手間暇とか、そんなことは考えない。
チルノ一行に対しても、遊びに行きた過ぎて我慢できなかったって正直に言って、ちゃんと謝ろう。例え、笑い飛ばして気にしないだろうと確信を持てていたとしても。
「よう、お前ら普通に居るじゃないか。留守番してるって聞いてたんだが、どういうこった?」
すると、私はもとよりサニーやスターも完全な不意打ちのタイミングで、後ろから話しかけられた。案の定、振り向いた先に居たのは魔理沙である。
(あー……うん。まあ、そりゃね)
人里のどこかで、メノや妖精軍団の皆と出会ったのだろう。で、私たちが居ない理由を色々と説明されて納得したところに、守護妖精と一緒に堂々と人里を闊歩する私たちを見つけて、頭の上に沢山疑問符が浮かんだってところかな。
魔理沙のことだ。説明をしないで立ち去ったとしても、この情報の相違にも何か訳が、とりわけ私たちがイタズラでも仕掛けようとしてるのかって、勝手に思ってはくれそう。
ただ、運命を見れるレミリアじゃあるまいし、私のその予想も絶対という訳ではない。再度会った時、会話の流れでメノたちに「あっちで三妖精に会ったぞ」って言わないとも限らない。
「ははっ、なるほどな。道理で、行動が妙に怪しかった訳だ」
「あら、そんなに怪しかった? 私たちもまだまだね!」
「サニー。魔理沙を完璧に騙せるレベルとか、それこそ緊急時でも冷静さを保てるような……例えば、霊夢とかレミリアくらいじゃないと無理。私たちの中だと、守護妖精ならいけるかも?」
「不可能ではないでしょうが、観察眼の鋭い勇者様クラスの魔理沙様相手ともなると――」
「おいおい、何で私をどうやったら騙せるかって話になるんだよ。イタズラでもする気か? ともかく、私の方からメノたちにはお前らのことは言わないでおくが……多分、すぐバレるぞ?」
「魔理沙、ありがとうねー。承知の上よー」
ということで、私たちがここで遊んでる諸々の理由を説明してみたら、特に深掘りしてくることもなく納得してくれた。この様子なら、魔理沙経由でメノたちに声をかけられることもないかな。
ちなみに、能力を使って警戒役をしてくれているはずのスターは、相変わらず楽しそうなまま。人里に居ることに気づかれてるかどうかはともかく、声をかけられずには済みそう。
まあ、常時私とサニーの能力で姿を隠し音を消している訳ではない以上、魔理沙がメノたちに声をかけようがかけまいが、近い内に私たち4人の存在が明るみに出て、いずれ必ず声をかけられる時が来る。
私はそう判断しているし、サニーもスターも何だかんだで察してる。つまるところ、結局は多少早いか遅いかの違いでしかない。
「じゃあ、私はそろそろ行くが……いっそのこと、やっぱり遊びたくなったから来たって声をかけてみるのを勧めるぜ。無理強いはしないがな」
で、魔理沙とは一緒に歩きながら楽しく会話を交わして、大通りとの分かれ道に来た時に別れたんだけど、去り際にふとこんな言葉を残していった。
(……サニーとスターは、どう思ってるかな?)
うん。メノならきっと、怒るとか不満を表明したりせず、むしろニッコニコで私たちを迎えてくれるだろう。自分でしたお願いのこと、それを私やサニー、スターが了承した事実を最初からなかったかのように扱って。
チルノ一行も一行で、やっぱり駄目だったかと笑いながら一緒に遊んでくれると、私は確信が持てている。メノと人里巡りができるなら、別にその辺は大丈夫ってスタンスだから。
だがしかし、今は私もサニーもスターも1度了承したメノのお願いをひっくり返してまで人里へ遊びに来ていて、少々気まずい身。にも関わらず、そこへ更に声をかけやっぱり一緒に遊ばせて欲しいとお願いするなんて、抵抗感がある。
でも、確かにもう声をかけてしまおうか、そんな気持ちが私やサニー、スターの心に芽生えてきているのもまた事実。さて、どうしたものかな。
「とにかく、こっそり後でもつけて……あっ」
「「あっ」」
皆して、似たようなことを考え過ぎていて、警戒を疎かにしていたからだろうか。魔理沙と別れてから割とすぐ、私たちの進んだ方の道の曲がり角から
どう考えても、少し前から私たちが居ると察知したが故の行動である。そして、琥珀色の瞳の輝き具合と羽の色や動きを鑑みるに、この状況をとても歓迎していることも分かる。
(わっ……!)
すると、メノは自分の1番近くに居た私の手をぎゅっと握るや否や、早くしてと言ってるような感じで引っ張り、遠目で待っているチルノ一行やリグル、ルーミアのところへと連れていったのである。
魔理沙のバレるぞ発言が、最速で現実と化した瞬間であった。予言者か何かなのかな。
「きゃはは、本当に居た! メノの耳はやっぱり凄いな!」
「ルナちゃん、やっぱり一緒に遊びたかったんだね。そう言ってくれればよかったのに。ふふっ」
「ルナというよりは、主にサニーの気もするけど……まあ、楽しければどうでもいいね。そんなこと」
「十分な時間楽しめてたし、大歓迎ですよー! あっ、守護妖精さんも人里楽しんでってくださいね!」
で、メノに連れてこられた私や後を追いかけてきたサニーとスター、守護妖精を見るチルノたちの様子は、メノにも勝るとも劣らない。
メノのお願いを聞き入れ、お留守番をするから行ってきていいと私たちが言った事実を認めつつ、そんなことは気にするなって感じの態度だ。
うん。やっぱり、長年仲良しな友達をやっているだけあって、私たち3人のことをよく分かっている。きっと、途中で一緒に遊びたくなるだろうってことが。
それでいて、皆の輪に混ざることについて話し合いとかをするまでもなく、二言目にはいいよと快く頷いてくれるという優しさを、私たちに見せてくれた。私もそうだし、サニーやスターも実にいい家族や友達を持ったものだよね。
「ねえ、ルナ」
「えっ」
そうしたら、ただ考え事をしていただけの私が、この楽しいはずの場にそぐわない表情なり仕草をしているように、はっきりと見えたのかもしれない。
メノの私を見る目が憂いを帯びたようなものになったと思えば、まるで大丈夫だよと言葉で直接伝えるが如く、いつもより優しくぎゅっと抱きついてきたのだ。
「メノ、大丈夫よ! 沢山遊んで疲れたせいで、ご飯何にしようって考えてるだけだもの!」
「ちょっと前まで、人里のおうどんの話ばかりだったしねー。確か、洋食だったらベーコントーストが食べたいとかなんとか……」
「なるほどな! でも、お腹いっぱい食べたら遊びに支障じゃない? さっき買ってきたおやき3個あるから、これくらいにしとけ! ルナ!」
「えっと、ちなみにサニーちゃんとスターちゃんは……?」
「大丈夫よ、大ちゃん! ラルバにもらってるわ!」
「もぐもぐもぐもぐ……美味しいっ! けどこの味、いつものとちょっと違うねー」
と同時に、
いや、気がしてくるなんて領域じゃない。私を見るこの瞳と羽の光の青系統色への変化は、間違いなく気にし始めている証拠。即気づいたサニーとスターが助け船を出してくれてるのだから、早急に乗ってあげなければ。
というか、仮にお願いの影響で私が過度な不安とかを抱いていたとしても、それは自業自得。故に、メノが気にする必要なんて微塵もないんだけどね。
ちなみに、サニーとスターみたいに暇をもて余す前までの私は、切り株での読書の傍らりんごやトースト、いつものコーヒーなどを食べて飲んでいたお陰で、そこまでお腹は空いていない。
「すんすん。美味しそうなほかほかおやき……メノ?」
で、ピースに渡されたおやきの袋から香るいい匂いを嗅いでたら、私の身体にかかる力が強くなった。いつも、メノが甘えたくなって抱きついてくる時の力だ。
顔を私に埋めているから瞳がどうとかは分からないけど、羽の色は清らかな水の如き無色透明、透き通った宝石のような茶色、鮮やかな桜色を行き来しているところから、不安は綺麗さっぱり消え去っていることが分かる。
「ぎゅーっ! じゃあ、一緒に遊ぼ! 翡翠の妖精さんも一緒……えへへっ! ロゼネルのこととか、色々伝えたいこととかもあるし!」
「ん? まあ、こんなにもメノの方からお願いされちゃあ、流石に断る訳にはいかないわね。ルナ!」
「うん。というか、断るどころかこっちからお願いするつもりだったよね、サニー。私とスターもだけど」
「守護妖精も居るから尚更よー。断るだなんてとんでもないわ」
ともなれば、メノたちと合流して一緒に賑やかな人里巡りをするって選択を私たちがするのも、至極当然の流れと言えよう。
ちょっと前まで頭の中でぐるぐる考えていたことなんて、元からなかったかのように消えてなくなった。
さてと、これから皆で何をしよう。人里が初めてな守護妖精が居るのならば、例によって有名どころから順繰りに巡ってみるのもいいかもしれない。
「ロゼネル? 人……いや、妖精の名前?」
それにしても、メノが発したロゼネルとは一体何のことを表した単語なのだろう。物というよりは、誰かの名前ではありそう。
ただし、人里の人間の誰かの名前という訳ではないはずだ。どちらかといえば、私たち妖精の命名規則が適用されている感じだから。
とはいえ、これが妖精だと断言できる証拠とかは何もない。レミリアやフラン、アリス辺りのようにフルネームが長い妖怪とかを、略して呼んでいる可能性だって少しはあるもの。
「お花畑の妖精さんだよ、ルナ。フランにね、お名前つけてもらえたんだって」
「あー……うん、なるほど」
「ロゼネルかぁ。ちゃんと覚えとかないとだわー」
「ふふっ、そうね! なんと言っても、仲良しな友達の名前だもの!」
なお、私の疑問は口に出した呟きを聞き取ったメノにより、すぐさま解決することとなる。ロゼネルとは、紅魔館に居る数多ものメイド妖精の1人、いつも綺麗なあの花畑を管理しているあの妖精にフランがつけた名前みたいだ。
どうやら、人里に遊びに来ていたタイミングでバッタリ遭遇、フランを置いてけぼりにする勢いで教えてもらえたとのこと。
(裸足で走り回るくらいだし、あの性格ならその後絶対叫んでるよね……きっと)
本当は、その後2人も一緒に遊ぼうと誘うつもりだったけど、お花畑の妖精……ロゼネルが、あまりにも興奮し過ぎたらしい。
人里の家の障子を壊した挙げ句、靴も履かず裸足で出ていったせいでフランが急いで追いかけていったため、頓挫したようである。
うん。そうなると、人里内にはもう居ないかな。外を裸足で走り回るメイド妖精と、それを追いかけるフランを一切見かけたりしていないもの。
「よかった、メノ。チルノたちも、楽しめてたみたいで」
「えへへ、うん! お願い聞いてくれてありがとね!」
「おう! お陰様であたい、大分満足したぜ! まあ、まだまだ遊ぶつもりではいるけどな!」
「そう! 私たちの元気はまだまだいっぱい、守護妖精さんのためにも、もう1度巡りますよー!」
正直、そんな面白そうな光景を見たかったって思いはある。迷惑をかけられた側にとってはたまったものじゃなさそうだけど。
でもまあ、代わりにメノやチルノたちが存分に楽しめていたと、私たちが来てからもそれは変わりそうにないって確信が持てたんだから、今日はよしとしよう。
(ふふっ……今日の夜は、皆揃って早寝になりそう)
さてと。大分賑やかな軍勢での人里巡り、体力と気力が続く限りは楽しんでいかなきゃね。
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