「大探検も、今日で終わりねー」
あの紫さんとの対話から3日後、理想郷の大探検最終日の快晴かつ昼間の一時。
常に強い秋の気配を漂わせ、緑や黄色や緋色の葉がなる木々が生える常秋の大丘陵という場所にて、実質紅葉狩りのようなことをして楽しんでいた最中、スターが少し寂しそうな声で呟く。
今日も合わせれば、僕たちが理想郷の大探検をしていた期間は合計で2週間。サニーたちや大好きな妖精友達の皆と一緒にわいわい過ごしたこの時間は、本当の長さはともかく体感では相当短い感じすら覚える程に濃かった。
対話を除けば途中で2度外出し、気分転換をしたのも大きいだろう。
1度目は、夢だった家族水入らずの唯一無二な人里巡り。寺子屋の慧音先生、僕が友達となった小鈴やその親友の阿求を含む人たちとの交流、挙げればきりがない程に楽しくて幸せな一時ばかりだったなぁ。
何より終わった後、サニーが大泣きして僕に抱きついてきて、スターやルナもうるうるする程の喜びを見せてくれたのだ。これを幸せと言わずして、何が幸せと言えるのだろうか。
2度目はついこの間、サニーたちは途中参加だったけど、最終的に妖精軍団勢揃いとなった人里巡り。ロゼネルの件も含めて合流する前も色々とあったけど、合流した後も負けず劣らず色々とあったっけ。
(余韻が残って仕方ないんだろうなぁ、スター)
常に多大なる幸せという名の暖かさに浸り、どんな悩み事も吹き飛ぶ新鮮味のある楽しさを感じれていた、この理想郷大探検。僕や他の皆だって似たり寄ったりなんだから、スターが寂しがってもっと探検していたいと考えるのも、無理はない。
「おう、確かに終わりだな! あっという間だった!」
「もっと伸ばせるものなら伸ばしたいわね! まあ、流石に無理なんだけど!」
「そうそう。スターとメノは紅魔館のメイドだし、そうでなくてもずっと居ると楽しみが薄れちゃう」
「本当、何で楽しい時間は早く過ぎるんだろうね。秘密基地で1人でぼーっとしてる時とか、全然時間過ぎないしさ」
「うんうん。やっぱり、退屈は私たちの最大の敵だわー」
で、その呟きを聞いたチルノやサニー、ルナやラルバもスターに同調し、ピースもまさしくその通りと言わんばかりに、2人で首を縦に振って頷いてた。
僕やスターと同じか、似たような思いを大なり小なり抱いている上で、大風の大森林や常夏の湖岸、蒼氷の渓谷など皆にとってこの上ない適性環境を、常時維持できる場所という大きな要素が加わる。
うん、そりゃそうだ。体調がかなり悪いとか、一緒に居るメンバーの誰かと喧嘩したとか最初から仲が悪かったり、理想郷の探検や人里巡り以上にやりたいことが別にあったとかでないのなら、チルノたちも楽しく幸せな気分になってくれるよね。
「スターたちにとってもというか、他の長命種にとっても大分大きな敵よん。だから、理想郷という新しい外の存在は幻想郷にとって、適度な刺激になるわ」
「右に同じく。しかし、退屈を感じるということはすなわち、心と身体の安寧が高いレベルで得られているということを表す、一種の証明。私には、羨ましく思えてなりません」
「確かにそうねぇ。そういう意味では、貴女も退屈を
「おう! あたいもご主人様と一緒に、応援してるぜ!」
「私も一生懸命、応援しますよー! えへへ」
後はそう、何だかんだピースに付き添う形であの日以降ずっと居たヘカーティアさんと、相変わらず一緒に側で見守ってくれてる翡翠の妖精さんが、相応に仲良さそうな感じなのも嬉しい。
そういう知識や技術はもとより、力も求められる水準に達しているとは言えない僕の代わりに理想郷の環境を維持し、住んでいる妖精さんや動植物を守っていくという大仕事。これを毎日、休むことなく安定的に行っているからである。
しかも、僕が何かお手伝いをする必要があるかと尋ねれば、「今まで通りに元気で幸せな一時を過ごして下されば、それで大丈夫です」と、言外に気にしないでいいよと頭をよしよししながら言ってくれたのだ。
嬉しいしありがたいことではあるんだけど、たまに無理をしていないかって心配にはなる。いつもは逆に無理しがちで、サニーたちを含めた皆から心配される側の僕が何をって話ではあるけれど。
(……)
とはいえ、実際には僕が抱くこの不安感は完全なる杞憂である。
小休憩とかを全く取らない訳ではないし、妖精さんだから食事に関しては生命維持の観点から心配要らないとして、夜中になればちゃんと本格的な睡眠も取っている。
不眠不休で働いた結果いざという時に動けません、守るべき主に要らぬ心配と負担をかけました、判断ミスでかえって事態を悪化させました。
このような事態になろうものなら、守護者として失格もいいところですからって、サニーから聞かれた時にはっきりと答えていたし。
そもそもの話、気力はともかくとして純粋な体力の多さは僕たちを凌駕している。比較対象となるのは、まさしくレミリアを筆頭とした大妖怪さんたちか、霊夢に魔理沙に咲夜くらいなものだ。
「僕が翡翠の妖精さんくらいに強ければ、もっと負担を減らせてたのかな」
「メノウ様、もう私は十分です。まさしく最強の主であるからこそ、ここまで負担を減らすことができているんですよ」
「はーっはっは! 最強師匠のあたいが見込んだだけはあるな!」
「チルノちゃん。確かに、妖精の中では最強だけど……というか、これ多分意味合い違うと思うよ」
「誰かを支えて幸せにするって能力じゃ、メノは妖精最強。であれば、守護妖精の最強って言葉に含まれる意味合いは、こっちだと思うわ!」
「レミリアとかもう、ニッコニコだもんねー」
一方で、精神面に関しては身体面よりも遥かにとまでは言わないものの、相応に心配なところが残る。僕よりも遥かに酷い心の傷、これが今でも根深いと分かったから。
魂や意思を持たない精巧なロボットとかならともかく、翡翠の妖精さんは僕やサニーたちのように独立した魂や意思を持つ、1人の妖精の
しかも、その状態で妖精たちの理想郷の守護者としての役割を、何時なんどきでも全うしなければならないと、自分の意思よりも優先させるべきという重責を背負っている。
どう考えても、精神的な負担が大き過ぎる。いくら僕よりも遥かに強くたって、下手したら深海の底に沈む鉄塊が如く、精神が重く沈んでいきかねないレベルだ。
「えへへ。僕、ちゃんと翡翠の妖精さんの役に立ててた」
「だから言ったでしょ! メノは、ちゃんと支えになれてるって」
「そうそう。何も、直接的なお手伝いだけが支えになる訳じゃないし」
「料理で例えれば、お皿や調理器具の後片付けとかかしら。私これ、本当に面倒って思うことあるもの」
「サニー様方の言う通りです。大事なことなので、はっきりもう1度申し上げますが……メノウ様はその存在自体が尊きもの、幸せに生きていて下さるだけで
「……うん、分かった!」
だからこそ、僕は僕にできることを精一杯やって、翡翠の妖精さんには幻想郷で幸せになってもらわなきゃ。
何せ、大好きな友達でもあり、僕やサニーたちのために後ろから支えてくれる、家族同然の存在でもあるのだから。
(すんすん……これ、煙の匂い? 落ち葉が燃えてる?)
なんてことを考えていた刹那、僕の鼻に落ち葉とかが燃える時特有の匂いが、ほんのり漂ってきたことに気づく。恐らくは、誰かが焼き芋を作ってるのだろう。
僕やサニーたち、チルノ一行、翡翠の妖精さんにヘカーティアさん、誰も焼き芋を焼いている様子は見られないから、多分ここ生まれの妖精さんなんだろうなぁ。
(あっ、やっぱり。あの皮と中身の色……
そう思って、匂いのする方向をふと見てみたら、やっぱりというべきか大勢の妖精さんたちが集まって落ち葉を燃やしてた。
アルミホイルらしき銀色の何かを剥いで、中に入ってた熱々の焼き芋を食べてほくほく顔な妖精さんも居るから、焼き芋大会をやっているのは確実だ。
ただ、ヘカーティアさんよりは圧倒的に小さいものの、同じ神様的な雰囲気とオーラを出してる存在が2人ばかり居るけれど、皆に交じって普通に焼き芋大会をして楽しんでるっぽいから、別に気にしなくてもいいかな。
「メノウ、どうしたの?」
「えっと、あっちで焼き芋大会やってる妖精さんたちがね」
「あら、本当だわ。しかも、あの2人は……秋静葉に秋穣子。名前の通り、幻想郷の秋に強く関わる神様よん」
「あっ、そうなんだ……」
何せ、この理想郷は中枢たる妖精大庭園を除く全ての場所に、酷いことをしないって条件を守るならばいつでも好きな時に遊びに来ても大丈夫と、僕がそう決めたんだもの。
ちなみに、妖精大庭園は僕が赤の他人ないしそこまで親しくないと思っている人妖さんは、基本的に入れるつもりはない。
それこそ、種族が妖精であるか、僕とある程度仲良しで大切な友達か、ピースの家族であるヘカーティアさんみたいな、愛する家族や大好きな友達の大切な存在とかでもない限り。
(妖精さんたちにも優しいっぽいし、僕とかが声をかけても大丈夫……かな?)
というか、まさかあの2人が本当に神様、それも聞いたことのあるあの秋姉妹だなんてびっくりだ。物静かな性格らしい
この場所だけ常に同じ季節っていう、不可思議な要素に関してどう思ってるかは分からないけど。
「へぇ……道理で煙の匂いがすると思ったら、焼き芋大会をやってたのね! 秋の神様も一緒だなんて、随分豪華だわ!」
「そういえば、おととしの秋頃皆で妖怪の山でやったっけ。今年はメノちゃんも一緒にできそうだから嬉しいな、えへへ」
「ふふ。なんか、凄くお腹空いてきたわー」
「幻想郷じゃ、まだまだ秋は先の話。だけど、焼き芋はいつ食べても美味しいもの。という訳で、早速行ってみましょー!」
で、こんなやり取りを僕やヘカーティアさんが交わしていれば、当然僕以外の他の皆もあの光景に気づく。
次はどこで何をしようかって悩んでいたサニーとスター、元気っ娘筆頭格なチルノとピースの4人は、いい遊びを見つけたと言わんばかりにニコニコだ。これはもう、次は何をするかが決まったようなものであろう。
ただし、焼き芋大会なんて想定していなかった僕たちは、当然さつまいもは持ってきていない。僕の家にさつまいもがない訳じゃないけれど、妖精軍団の皆をカバーできる量は確かなかった。
どうしても焼き芋に拘るのならば、僕の家の分を全部持ってきた上で紅魔館とか白玉楼に出向いてお願いするか、少しでいいからそのお芋を分けてもらえないかと、神様である秋姉妹やあの妖精さんたちにお願いをすることは、言うまでもなく必須事項。
当然、僕たちにあげるということは自分たちの分が減るということだから、断られる可能性もある。紅魔館や白玉楼に関しても同じなので、その場合はバーベキューでもしようって妖精軍団の皆には提案しようかな。
サニーたちの了承さえ得られれば、おかわりは無理だけど軍団の全員が普通に1食味わう分くらいの量が、普通にあるもの。僕がゆゆさんと妖夢にご馳走するようになってから、サニーが前より沢山買ってくるかもらってきてくれたからね。
「あら、意外……でもないか。ほら、これが食べたかったのよね?」
すると、ある程度の距離にまで近づいた時にお姉さんの方、
先にヘカーティアさんに会ったお陰か、僕の目の前に居る静葉さんが神様って知ってても緊張感は比較的小さめ。しかし、神様特有の圧力みたいなのは感じるから、初対面なのも相まって緊張感自体はそこそこ大きめだ。
それはそうと、お芋を分けてくださいとお願いする前に、結構沢山持ってきて全部渡してもらえるとは、僕たちはなんてラッキーなのだろうか。
「えっと……うん。でも、静葉さまたちの大事なお芋、僕たちが食べたら少なくなっちゃう」
「私のこと知ってたんだ。勿論、遠慮なんて要らな――」
「ついでに、メノちゃんたちも焼き芋大会に加わらない? 楽しいよ!」
「穣子。メノちゃん相手にその勢いはちょっと……ここの主なんだしさ」
で、少し緊張しながらも静葉さまとお話をしていたんだけど、そのタイミングで妹さんの方……
ただ、妖精さんたちとも楽しく遊べる明るい性格の神様というだけあって、話しかけ方も大分積極的。勿論、怖いとか嫌とかではないしむしろ嬉しくもあるけれど、相手が相手なだけに戸惑いが隠せない。
何というか、初対面なのに妙に気に入られているような感じがする。サニーたちとは昔ながらの知り合いみたいだし、その関係なのかな。
「いいの!? やったわ! メノ、皆で楽しい焼き芋大会できるわ! ついでに紅葉狩りもするわよー!」
「わぁ……えへへ」
なお、穣子さまのお誘いはありがたく受けることを僕は決めていた。僕自身、楽しそうって思ったのも無論ある。
しかし、会話に割り込みをかけてきたサニーを筆頭に、皆が凄く嬉しそうなのが1番大きい。加えて、他の妖精さんたちも大歓迎と言わんばかりにきゃっきゃ、もう僕たちの周りに集まっては大盛り上がり、懸念すべき要素は微塵も存在していないのだ。
ほかほかお芋を分けてもらえるだけでよかったけど、自分たちで楽しんでいたところに僕たちを誘ってくれるなんて、秋姉妹も秋の妖精さんもなんて優しい人たちなのだろうか。どっちも人間さんじゃないけどね。
「えっと、是非お願いします。静葉さま、穣子さま」
「分かったわ。最初からそのつもりでこっちも誘った訳だしね」
「改まらなくていいのに。まあ、皆でとにかく楽しみましょう!」
「「「わーい!!」」」
ほくほくな焼き芋を僕たちにくれた上、焼き芋大会に誘ってくれた秋姉妹の2人にも、ニコニコで歓迎してくれた秋の妖精さんたちにも感謝をしながら、僕は先に駆けていったサニーの後を追いかけて行くのであった。
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