最初はさつまいもを少し分けてもらうだけのつもりだったけど、その場の流れで優しい秋姉妹のお誘いを受け、妖精さんたちが大勢集まる焼き芋大会に参加することとなった僕たち妖精軍団。
とは言うものの、美味しい焼き芋にするために必要な工程や材料である落ち葉集めとかは、準備が1番楽しいと思っているかの如き一部の秋の妖精さんたちがやってくれている故に、殆んどやることがなかった。
結果として、時折自発的に秋の妖精さんや穣子さまのお手伝いはするんだけど、美味しいところだけを持っていく形になってしまったのである。
しかし、それについては秋姉妹や秋の妖精さんが認めてくれていること、感謝は当然しつつも変に申し訳なさを感じる必要はない。
「ひゃっ、熱々ね! でも、ほくほくであっま~い! このお芋、皮ごと食べてもとっても美味しいわよ! ルナ!」
「幸せそうだね、サニー。スターはどう……うん、言うまでもなかった」
「はふっはふっ……ん、ルナ? 沢山あるんだから、お腹いっぱいになるまで食べなきゃもったいないわー。勿論、メノも同じよ」
「わっ、大きなお芋……ふふ、スターが食べちゃえばいいのに」
「私もう3個も食べちゃってるよ、スター。このお芋、ばくばくいきたくなる甘さだから」
「なんだ、ルナも結構食べてたんだ……で、大丈夫なの?」
「……まあ、正直ギリギリかも。気づいたら手がお芋に伸びるくらいだし」
あつあつでほくほくな焼き芋を、本当に美味しく食べるサニーたちにチルノ一行、それを片手に相変わらず仲良さげに会話をしながら食べている、翡翠の妖精さんとヘカーティアさん。
無論、僕自身も焼き芋の甘みを噛みしめながら、タイミングを見計らってちょくちょく会話に参加しているけれど、言葉や仕草の節々から幸せオーラが出ていて実に暖かい。物理的に。
で、ここに見ていて一緒に遊べば楽しいと思い、僕たちの周りに集まってくる大勢の秋の妖精さんが加わっている訳だ。
僕はもとより、サニーたちやチルノ一行、ヘカーティアさんが知らない妖精さんばかりなものの、性格と雰囲気がほぼ合致しているお陰で驚く程馴染みが早い子たちが。
これだけ僕や皆にとって居心地が良いのに、不必要な思い込みで気分を落として自分のみならず、全員を巻き込む真似などしようものなら、数時間の反省会では全然足りなくなってしまうんだもの。
「きゃはは! 忠告しようと思ってたら、もう手遅れだったぜ!」
「お腹いっぱいか近い時に、思い切り走ったり飛び回ったりし続けると、脇腹痛くなったり気持ち悪くなるものね!」
「経験者は語るってやつだね、サニーちゃん。まあ、クラピちゃんと私も含めて、皆経験者なんだけどね。メノちゃんは、そんな経験ある?」
「僕? えへへ、何度かね。直近だと、鬼ごっこの前にスターの手作りお菓子を沢山だったかな。美味し過ぎて我慢できなかったの」
「スターちゃんのお菓子かぁ……うんうん、それは我慢できないよ」
どんよりした気持ちになるのが僕1人だけなら、まあ我慢はできる。何だかんだ、楽しくわいわい幸せそうに遊んでいる皆の様子を見て、きゃっきゃとあげられる声を聞いたりしている内に、そんな気持ちなんて吹き飛んで消えるから。
しかし、現実は違う。とっても優しい皆のことだから、僕のどんより気分が解消されるよりも圧倒的な光の速さで気づいて、どうしたのって気遣ってくれる。
そうなれば、水を差した上に嫌が応でもせっかくの楽しく幸せな気分に楔が打ち込まれることになってしまうし、最悪の場合は理想郷大探検が台無しになることであろう。
今日が最終日やその前日などではなく、打ち込まれた楔を引き抜いてできた穴を塞ぐだけの余裕があれば、話は違ってくるけれども。
「それにしても、メノは秋の妖精たちに大人気だね! きっと、優しくて穏やかな性格だからだわ!」
「メノちゃんって、全然怒らないどころかイライラしたりすらしないもん。それに、自分の気持ちよりも家族や友達の方を当たり前のように優先する感じ」
「でも、ここ最近はあれやりたいこれやりたい、何々をやって欲しいって言ってくれるようになったよな! 元気になってるようで嬉しい限りだぜ!」
「おう! そうだな、チルノ!」
にしても、リリーが言うように秋の妖精さんは、僕の周りに目に見えて1番多く集まってきているような気がするというか、実際に集まってきている。
ちなみに、僕自身には正直心当たりはなかった。いや、強いて言うなら理想郷の主をやってるところだろうけど、それなら他の場所に住む妖精さんたちでも似たような展開が何度も起こるはず。
それなのに、ここ以外でこんな現象に遭遇した記憶はない。大体はチルノやピースと同じか若干劣る程度、たまに少し多いかもって思うくらいだったからだ。
つまり、僕が翡翠の妖精さんに任されて理想郷の主をやっているというのは一切関係なく、他に何かしら原因が存在するのを示している。
「それなりにこう、嬉しいことではあるんだけどなぁ。ねえ、何でだと思う? サニー」
「えっ、私に聞かれても分からないわ! 気になるなら、当人たちに聞いてみたらどう?」
「知らない妖精ばかりだけど理想郷出身の妖精だし、今のメノなら絶対大丈夫。勇気を出して」
「人里で友達作れるくらいだものねー。私たちの家に招いた時と比べたら、本当に元気になってくれて嬉しいわー……ぎゅーっ!」
「あ、ふにゃあぁぁ……」
当人たちに聞いてみればとサニーやルナに言われたのも相まって、じゃあちょっと聞いてみようかって思った刹那、スターに抱きつかれ頬擦りされたのが幸せ過ぎて、その考えは全部消えた。
悪い意味が含まれているならともかく、好意的に見られているのなら理由なんて別にどうだっていいじゃないかって。
それよりも、秋らしくひんやりした空気の中でスターの体温を感じながら、自分の足で立つ力すら奪われるくらいの、ぽかぽかする心地よさと幸せを可能な限り堪能し続けていたい。
というか、例え今が梅雨時だろうと真夏の昼間だろうと、お風呂上がりであろうと関係ない。じめじめだったりひたすらに熱い不快感よりも、僕にとってそれは優先事項なんだから。
「メノったら、凄いふにゃふにゃになって可愛い……ひゃっ! もうっ、頬擦りのお返しよー!」
「2人とも、本当にじゃれ合い楽しそうね! 私も混ぜて!」
「サニー、先駆けはズルい。私の入るスペースも作っといてよ!」
しかし、僕ばかりが心地よさを感じ続け、幸せに浸るばかりでは絶対に駄目だ。スターは勿論のこと、サニーやルナにも同じかそれ以上に心地よく、幸せになってもらわなきゃ。
何故なら、初めて僕の見る世界に鮮やかな色を吹き込み、ボロボロだった心を治し、幻想郷で生きるとてつもなく大きな意味を与えてくれた、愛する家族なんだもの。
そして、魔理沙やチルノを筆頭に、僕と仲良しな友達になってくれた優しい皆にも、もらった幸せに応じた幸せを返していかなければならない。僕が生きている限りは永遠に、無制限に、ずっと。
「おー、また始まったぞ。この4人、本当に仲良しだな!」
「メノちゃんが来てから、サニーちゃんたちの結束力が一気に強くなったもんね。それにしても、この様子だとしばらく続きそうかも」
「メノが来る前から仲良し妖精3人組だったんだもの。相性ばっちりなメノが加わったら、こうもなるよ」
と、サニーとルナまで混ざってきた幸福感で、より働きにくくなった頭で思考を巡らせていた最中、ふと僕は正気に戻った。というか、サニーたちも正気に戻っている。
大好きなチルノ一行や翡翠の妖精さん、ピースの愛する家族のヘカーティアさんといった皆のことは当然として、僕たちを焼き芋大会という名前の遊びの輪に入れてくれた、神様の秋姉妹や秋の妖精さん殆んど全く考えていない。
チルノの一言に端を発した、他の皆の会話がはっきりと僕たちの耳に届いたからである。
(やっちゃった……)
確かに、サニーたちの幸せは第一に考えるべきではある。だけど、大好きで優しい皆をそっちのけにしてまで得るそれは、果たして本当に『幸せ』なのだろうか。
どう考えても、気づかぬ内に心をじわりじわりと追い詰めていくだけの、ただの苦しい自滅行為に他ならない。例えそれが、確固たる意思を持った行為ではなかったとしても、気づいた時にダメージとなる。
「きゃはは! 誰も気にしてないから大丈夫大丈夫!」
「うんうん。それを言ったら、私だって似たようなことしてる!」
「春真っ盛りの時とかね。流石にそこまではいかなくても私だって同じだし、そもそも妖精なら大なり小なりそういう傾向あるわ」
「よかったぁ……皆、ありがと」
「私もつい高ぶっちゃったわ。メノとじゃれ合うの、楽しいからねー」
「可愛らしい反応返してくれるものね! 例えば、羽をくすぐったりした時とか、ぎゅーってした時!」
「うんうん。まあ、くすぐりの方はしょっちゅうだとメノが疲れるから、程々にしないと」
なお、正気に戻ってすぐ焦って謝り倒す僕たちを見るピースたちの目は、もうしょうがないなぁと言わんばかりに温かかったし、翡翠の妖精さんとヘカーティアさん、秋の神様2人に秋の妖精さんたちもあんまりというか、全く気にしていなさそうに見えてほっとした。
というかもう、秋の妖精さんの一部はお腹いっぱいになったのか、純粋に焼き芋大会に飽きたのか、落ち葉の山にダイブして遊ぶわ砂風呂ならぬ紅葉風呂的なことをしてたりと、もう各々がやりたいことをやっている様子が見える。
(あはは……懐かれてるなぁ、静葉さま)
挙げ句の果てに、立派な紅葉の木を指差したり蹴ったりしながら、静葉さまに対して幹を蹴飛ばしてみて欲しいと強くリクエストする、好奇心旺盛な妖精さんまで現れる始末。ちなみに、静葉さまは意外だったのかちょっぴり引き気味だ。
何でも、幻想郷の紅葉などの木の葉の色づけから落葉までを司る静葉さまの落葉させる方法が、物理的に蹴りを入れるという方法らしい。
神様の力で蹴りなんか入れたら、僕が枯れた木の細枝を折るのと同じ感じでへし折れそうとは思ったけど、そこはまあ手加減とか特殊な神様的パワーでどうにかするんだろう。
木の葉の色づけは、特別な筆か何かで丁寧に1枚ずつ塗っていくらしいのに、静かだけど意外に豪快なところもある神様なんだなぁ。何かこう、ちょっと見てみたいかも。
「ほら、しろちゃんもみたそうにしてる! だからやって!」
「静葉姉さま。毎年やってることだし、頷いてあげたら? 嫌って訳じゃないんでしょ?」
「そんなに見たいの……? まあ、そこまで言うなら少しやるわ」
ちなみに、そんな秋の妖精さんたちの強力なリクエストは、心の中が丸出しだったらしい僕の存在や穣子さまの援護もあってか、叶えられることとなった。
さて、どんな感じで葉っぱが散るのかな。一気にぶわーって舞い散るのか、ひらりひらりと少しずつ枝から落ちていくのか、もっとこう違う感じで散るのか、僕も楽しみだ。
「すぅぅ……はっ、はっ! えいっ!」
「「「わわっ!?」」」
で、側にあったとっても大きいカエデ擬きの木の根元まで歩き、数秒立ち止まった後に一瞬で
蹴ってる時の様子を擬音で表すとしたら、『ドガッ』とか『ドゴッ』って感じかな。傷つくどころか、へし折れたり足の形にくり貫かれてもおかしくはない感じだったから、サニーたちもチルノ一行も思わず視線が釘付けだ。
しかし、そこは僕が想像もできない程の遥か昔、幻想郷ができるよりもずっとずっと前からこのやり方を続けてきた静葉さま。へし折れもくり貫かれもしなければ、蹴った場所にできた跡も自然にできたものと言える程度には小さかった。
これも、僕が想像していた巧みな手加減ないし絶妙な神様的パワーの賜物なのだろう。
「わぁぁ……葉っぱと一緒に舞ってるみたい! やってることは豪快だけど」
「ふふっ。これを見ると、冬の訪れを間近に感じるの。ここじゃずっと秋だけどねー」
「ちなみに、本来はもっと静かにやることなのよ! だから、こうはっきり目にする機会って意外と少ないわ!」
「つまり、ここに来れば1年中そんな光景が見れるかもってこと。正確には、初秋から立冬前後までは幻想郷でだけど」
「そっかぁ。今年は皆と、幻想郷で見れるといいなぁ」
「見れるわよ、きっと。だから楽しみにしててね、メノ!」
が、蹴飛ばしていく度に発生する現象そのものは、決して小さくはない。
蹴られたカエデ擬きの木の生命力の流れが、川の急流のようになると同時に、強めの風に吹かれたかのように枝葉が揺れて爽やかな音を奏でると、ひらりひらりと様々な色の葉っぱが自然な形で舞い散っていく。
偶然か必然か、ひんやりしているものの心地よい強さの風が吹いたお陰で、より一層静葉さまがカエデの木と織り成す『落葉の舞』が、とても美しく見えるのだ。
「ふぅ。さてと、今回はここ――」
「わぁぁぁ! すごい、すごいよ!!」
「きれいならくよう、みせてくれてありがとーね! またこんどおねがい!」
「そう、よかったわ。ただ、恥ずかしがり屋でないここの木の葉とて、毎日舞い踊れば疲れは溜まる。貴女たちなら分かるでしょうけど、やるとしても……まあ、時々ね」
「「「はーい!!」」」
そして、静葉さまが見せたこの落葉の舞はサニーたちのみならず、初見の秋の妖精さんたちからの好評も当たり前のように得ていた。
ここの自然の具現化たる妖精さんたちがそう言うならば、この散らせ方で全く問題がないどころか、むしろそうして欲しいと木々に言われたも同然である。
というか、豊穣を司る穣子さまと同じくらいもっとこの場所に居て欲しいって言われているような、そんな気すらしている。まあ、落ち葉は大地を豊かにするって言うし、間接的に穣子さまと同じことをしているも同然だもんね。
「いやー、今日は特別に凄かったわね! 良いもの見れたわ!」
「これ、何も知らない状態で見たら変な誤解しそうだよね。知ってる私たちだからいいものの」
「そう。それもあるから、普通は静かにやってるのよねー」
「うんうん! 私とは季節違いだけど、秋の妖精たちが喜ぶのも分かるくらいの腕前だわー!」
当たり前だけど、これは静葉さまがやったからこそできたことである。仮に、全く同じか似たような能力を持っただけの誰かがこれをやろうとしても、上手く行く訳がないだろう。
ああでも、理想郷限定なら翡翠の妖精さんができそうだけど、果たしてどうだろうか。そう思って聞いてみたら、同じやり方で同じ効率を出してやるのは不可能って答えが返ってきた。
「流石は秋を司ると言われる幻想郷の神の1柱、こと同季節に関わる事象なら右に出る者は居ませんね」とか、「穣子様と共に、この場所の管理者をお願いしたいくらいです。どうでしょうか?」ってべた褒めしつつ言ってたけど、僕も同意見である。
(まあ、そりゃそうだよね)
ただし、幻想郷の秋の神様という役割がある静葉さまは、褒めてくれるのは嬉しいとしつつも、専属はごめんなさいとやんわり断っていた。
同様に、穣子さまもただの八百万の神の内の1人である自分を、そこまで高く評価してくれる点は嬉しいとしつつも、常秋の大丘陵の管理者はごめんなさいと断りを入れている。
相当懐いたのか、ずっと一緒に遊びたがっていた一部の秋の妖精さんたちは少ししょんぼりしていたけど、そこはまあ致し方ないことだと諦めてもらうしかない。
時々ではあるけれど、この場所に足を運びに来てくれるみたいだし、もしどうしても頼みにくいとかがあるなら、僕を通してお願いしてあげてもいいからさ。だって、こんなに僕やサニーたちに優しくしてくれてるんだもの。
それに、お願いする相手である静葉さまや穣子さまも僕やサニーたちに優しいし、こっちから話しかけにいくことくらい、余裕綽々とまではいかなくても普通にできるんだから。
「メノちゃん。静葉姉さま共々、これからもよろしくね」
「えへへ……うん! こちらこそよろしくね、穣子さま」
友達の印としてか、僕の家でもある理想郷にこれから度々お邪魔するつもりだからか、目線を合わせて手を差し出してきた穣子さまと握手しながら、そんなことを僕は思った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。評価や感想をしてくださっている方々には、心より感謝いたします。