愛する家族や大好きな友達の適性だから、ないし好きだからといった要素を全て無視した場合、純粋に好きと思える季節を敢えて挙げるならば、春と秋。
で、それらの要素も考慮した場合は、リリーのこともあって今現在は春が1番ではあるものの、何だかんだ言って秋も比肩するレベルで好きなことには変わりない。
夏や冬に関しては、暑過ぎたり寒過ぎたりとかで長く続くとなると正直困るけど、好きな部分も沢山ある。
季節特有の食べ物をサニーたちやチルノ一行や魔理沙たちと食べ、遊びで遊ぶサイクルがこれから何十年も続くのだと思うと、凄く暖かい気持ちになるしね。
ちなみに、季節の変わり目である梅雨の時期、恵みの水の供給って意味ではなくては困るものだけど、はっきり言って好きじゃない。湿気とカビ対策が面倒、洗濯物が乾きにくいとかもそうだけど、1番は嫌な記憶を思い出してしまうから。
要するに、あの人たちと同じ軒の下で暮らさざるを得なかったからで、純粋に梅雨の時期が嫌なのかと問われれば、そういう訳ではないかもって答えるかな。
ただし、今世の場合同じ軒の下で暮らしているのはサニー、スター、ルナの3人。きっと、その内梅雨の時期も夏や冬と同じくらい、好きな季節って思える日が来るんだろうなぁ。
「穣子さまと静葉さまは、春はあんまり?」
「いいや、私は普通かな。その言葉に当てはまるのは冬よ。静葉姉さまと同じで、気分がどんよりしちゃってね」
「そうなんだ。凄い寒いもんね、冬って」
「我が世の秋の後だからってのもあるわ。リリーちゃんが、春終わりにしょんぼりするのと似たような感じ」
「そうそう! だから、あの春の森に初めて入った時なんか、私もう大興奮しちゃった! 春ですよーって何回も叫びたくなるくらい!」
「実際叫んでたもんね、リリー。サニーのことぶんぶん振り回してたの、私覚えてるもん」
で、何故こんなことを改めて考えているのかといえば、穣子さまから「メノちゃんは四季の中で何が好きなの?」と、リリーやラルバ、静葉さまと楓擬きの木の側で休んでいた時に尋ねられたから。
向こうの方から聞いてきたからとはいえ、秋姉妹や秋の妖精さんたちの前で如何にして春が好きなのかをどーんと語って大丈夫なのかなって、正直僕は思った。
けど同時に、その質問に嘘をつく方がどう考えても失礼だろうと思っていたから、全部正直に答えている。悪口を言いたいと思っちゃう程に、嫌悪感を持っているって訳じゃないからね。
「ちなみに、今日で全部の季節の場所コンプリートですよー!」
「あら、そうなの? ということは、常に冬の場所も?」
「はいっ! 凄く寒くて冷たくて、ラルバとクラピが早く出たがってましたけど!」
「2人のことを考えれば、私と穣子以上に属性と環境の相性が悪いし、まあ当然だわ」
現に、僕の答えとお話を聞いてからも穣子さまはニコニコしているし、静葉さまや秋の妖精さんたちもさっきまでと何も態度が変わっていない。むしろ、そこから色々と会話を発展させてすらくれている。
まあ、僕が生まれる遥か昔からサニーたちやチルノ一行と交流があって、時間が大きく空いても顔を会わせれば会話が弾む程だし、考えるまでもなかったよねって感じだったけど。
(えへへ。待ってないとは思うけど、もうちょっとだけ待っててね)
今はまだ、そこまで交流がある訳じゃないというか、今日が初対面な静葉さまに穣子さま。だから、大事な場所にはまだ招待するつもりはない。
しかし、ほんの一瞬でも今日が初対面だったという事実を忘れるくらい、遊んでいて楽しい神様の2人。つまり、僕との相性がピースの愛する家族であるへカーティアさんと、最低でも匹敵するくらいに良いということ。
うん。もう少し、友達としての関係を深めてから招待してみよう。僕が作った訳じゃないからあれだけど、その時は妖精大庭園を気に入ってくれると嬉しいなぁ。
「すんすん……びゃっ。ねえ、ラルバ。ラルバから、カメちゃんの匂いがしない?」
「わわっ! 確かに凄い匂いがする……あっ、居た!」
なんて考えていた刹那、足をバタバタさせたりして遊んでいた隣のラルバの首筋から、嗅ぎ覚えのある強烈な匂い……僕はカメちゃんと呼んでいる、カメムシの匂いがした。秋から初冬にかけて沢山出る、あの虫さんである。
その匂いの強さたるや、小さな瓶や箱みたいな場所に閉じ込めてちょっかいを出すと、自分の出す匂いが充満したせいで、死んでしまうことがあるくらい。実際にやったことは勿論なく、ネットの世界などからの又聞きだ。
勿論、妖精大樹とその近辺でも出る。洗濯物とかに引っ付いてて、気づかなくて着た時のあの臭さはまさに究極、そりゃあ諸刃の剣にもなるよね。
「え、カメちゃん……? 何それうわっ、くさ!! 顔の前に出さないで!」
「ごめんごめん! にしても、メノはカメムシのことをカメちゃんって呼ぶんだねー。何か可愛いから、私も採用しようかな?」
「姿はともかく、匂いは強烈過ぎて全然可愛くないわ。というか、リリーよく素手で摘まめるよね」
「しかし、カメムシねぇ……秋に限らずだけど、果物を育てる上で注意すべき昆虫の1つよ。メノちゃんも知っておいて損はないわ」
「へぇ。やっぱり、何かを育てるのって、僕が想像もつかないくらいに大変なんだろうなぁ。これだけを気をつけてれば、絶対に大丈夫って訳じゃないだろうから」
案の定、その正体は茶色のカメムシ。リリーがカメちゃんを素手で摘まんだせいか、虫慣れしている妖精のラルバでも顔をしかめるくらいに匂いを強く放っている。
そういえば、リグルは虫が大好きって言ってて自身も蛍の妖怪さん、その上で程度の能力も蟲を操るっていうまさにおあつらえ向きなんだけど、こういう強烈な匂いの虫さんも含めてなのかな。
ああでも、ゲジゲジとか蜘蛛とかスズメバチみたいな、何かと見た目が不快だったり危ない虫さんのこともニコニコしながら語ってたし、普通に含まれてそうだ。匂いそのものに関しては、まあ別だろうけどね。
「うひゃあ、やっぱりしつこく残ってる……お願い、メノ。いつものあれで匂い取って」
「分かった……えいっ! すんすん……あれ? 何でまだ匂い残……あ、ラルバ! 足の裏で踏んでる!」
「うげっ、くっついてるじゃん……よし、今度こそ取ったから大丈夫なはず!」
「それっ! すんすん……うん、今度はバッチリ匂いも取れてる!」
「本当だ! ありがとう、メノ」
「えへへ。どういたしまして、ラルバ。必要な時はもっと頼ってね」
ちなみに、ありとあらゆる『汚れ』や『匂い』を消すことが可能な僕の併せ技は、こんなに強いカメちゃんの匂いでも妖力や気力が続く限り、綺麗に消すことが可能。ラルバも知っているから、今こうして頼ってもらえた訳だ。
(愛する家族に大好きな友達から頼りにされる……うふふっ。嬉しい、幸せ!)
今日みたいな感じで僕が何かをしてあげる度に、それが大好きな友達の役に少しでも立った結果、心から喜んでもらえる光景。
今まで数えきれない程見てきたけど、何度見ても初めての時と変わらぬ心地良さを覚える。
いや、それは違うか。見ていく内に、初めての時より感じる心地よさがほんの少しずつ強くなっていくと表した方が、正しいかもしれない。
「ぎゅーっ! えへっ、つーかまえた! 大好きよ、メノ!」
「ふふっ。さっきも大分はしゃいだけど、それとこれとは話は別だわー」
「んぇ……?」
すると、ラルバやリリーたちと楽しく話していて、周りに全く意識を割いていなかったせいだろうか。唐突に目の前に現れては、抱きついてきたサニーとスターに、殆んど何の反応も返せない。
まあ、雨の日ならともかく能力を使われて全力で隠れられれば、例え意識を集中させてても見つけることは難しい。それに、よく見たら大ちゃんも含めた皆が一緒に居るみたいだから、見つける難しさに拍車がかかるのも至極当然か。
「サニー、スター! 僕もお返しっ! ぎゅーっ!」
「わわ! ありがとね、メノ!」
「ふふっ。私とサニーにも、お返しもらっちゃったわー」
そして、数秒もすればサニーのお日さまのような暖かさと香り、スターのほんのりとした暖かさと自然の香りが、僕を幸せな現実へと引き戻す。勿論、引き戻された後はすぐに僕も、同じように抱き返してあげた。
わざわざ能力を使って隠れた上で、大ちゃんの能力を借りてまでこうしてきたということは、よっぽど僕に抱きつきたかったということだと判断できるから。
もしくは、僕をびっくりさせたいとか単純に喜ばせたいって、チルノたちと遊んでる最中唐突に舞い降りてきたのかもしれない。まあ何にせよ、僕にとってはご褒美以外の何物でもないけどね。
「ふぅ、作戦大成功! よかったわねー、サニー」
「えっへん! 最高の出来映えよ!」
「羽の色……メノちゃんも凄く嬉しそう。というか、嬉し過ぎてまたふにゃふにゃだよ」
で、そこにきゃっきゃ喜ぶチルノ一行や秋の妖精さんたちが加われば、もう幸せ過ぎてふにゃふにゃ。何とか、瀬戸際で立っているのが精一杯なくらい力が入らない。
しかも、こんな状況下でも穣子さまや静葉さまは平常どころか、気を遣っていつの間にか少し離れ、翡翠の妖精さんやへカーティアさんと一緒に見守る体勢を整えてくれてる。1度目と、全く同じように。
「穣子さまに静葉さまたち。その、2度もごめん」
「私は大丈夫だからね、メノちゃん!」
「気にしなくていいわ。楽しい時は、案外そんなものよ」
「「「うん、きにしないでー!」」」
本当に申し訳ないと思ってる。この後すぐでも後日になっても、必ず2度も蚊帳の外にしてしまったことへの釣り合いは取るから、今は僕をこの幸せに浸からせて。
勿論、静葉さまたち以外の対象となる皆にも同様だ。どのような形でも、釣り合いは取らなければなるまい。
「メノ。その、今話しかけてもいい……?」
「えっ? 勿論いいに決まってるよ、ルナ! どんなお話でもお願い事でも大歓迎! 今の僕なら何だって叶えられる!」
「何だって? じゃあ、霊夢に弾幕ごっこで勝てとかでもいけるのか?」
「あっ、ごめんチルノ。例えルナのお願いでも、それは無理……ハンデつけてもらっても、無理じゃないかなぁ」
「ふふ。それはそうと、チルノちゃん。ルナちゃんが喋りたがってるから、割り込まない方がいいと思うよ」
「おう、確かにそうだな! ルナ、ごめん」
なんて考えていたら、今の今まで静かにこの様子を伺っていたルナが妙に遠慮がちというか、ちょっぴり恥ずかしがりながら話しかけてきた。
少し前までならまだしも、今はもうやめているから遠慮する必要性は薄い。それに、普段から僕たちとスキンシップをやるのも、やってるところを見るのも恥ずかしがる性格でもないから、この振る舞いは実に不思議である。
まあ、わざわざどうして遠慮してるのとか、恥ずかしがってるのかなんて聞いたりはしないけども。
「えへ。えっと、また私もぎゅーってしていい? サニーやスターみたいに」
そんな感じで思考しつつ、どんな話がルナの口から出てくるのかなとも思いながら待っていると、結果は至極単純なお願いの言葉だった。であれば、殊更恥ずかしがってた意味が分からなくなる。
誰もが外でやってるかって言えば違うし、ここならともかく人里の通りのど真ん中とかでやれば、目を引きやすくなるかもしれないけどね。
(あっ!)
しかし、ここまで考えたところで僕はハッとした。ルナは、とても静かで仲間思い、1歩後ろに下がって様子を伺う慎重な性格の妖精さん。
それを考えれば、このような状況下では僕やサニーやスターに遠慮し、声をかけない選択を取るのは至極当然の流れじゃないのかと。
加えて、恥ずかしがる云々に関しても僕の早とちりで、本当は単にこの場の雰囲気が心地よくて幸せだという思いが、表情に出ていただけなんじゃないかと。
「僕が断ると思う? じゃあ、僕の方からぎゅーってするね」
であれば、そこまで僕に抱きつきたいと思ってくれてるなんて、家族冥利に尽きる。当然、ルナがそこまで望むのならば喜んで受け入れるつもりだ。
美味しい食べ物や飲み物、トランプやかるたなどの娯楽がなくても、それさえやれば余裕で生きていける程の活力を得られるから。
「わっ……えへへ。メノ、ありがとう」
「どういたしまして。むしろ、僕の方こそありがとう。ルナ」
という訳で、ルナからの返答を聞く前に僕の方からいつも幸せをありがとう、心の底から大好きだよという思いを込めて抱きついたところ、その羽がパタパタと忙しなくはためいた。声色からも、込めた思いを受け取ってくれたことが分かる。
位置関係的に表情は見えないけど、多分月明かりのように辺りを照らしてくれるような、優しくて温かみのある笑顔になってくれているだろう。
(うーん……?)
にしても、今日は普段よりも純粋な力が強いだけでなく、遥かに温かく幸せな気持ちが込められているように思えるのは何故だろうか。
よく考えたら、今こうしてぎゅーっと抱き合ってるルナのみならず、サニーやスターと抱き合った時も同じだったなぁ。理想郷でわいわい遊んでて、盛り上がっている影響が大きいのかな。
「さて、正直名残惜しさはまだあるけれど……流石にもうやめよう。いくら何でも限度がある」
「そうだね、ルナ。皆が待ってくれてるもの」
まあ、理由なんて何だっていいや。愛する家族のサニーたちが、僕がもらったのと同等以上の幸せを享受することができているのならば。
(正直、自信はないけれど……頑張らなきゃ)
ああ、そうだ。二度あることは三度あるってことわざがあるくらいだし、今度こそ一緒に遊んでた他の皆を蚊帳の外としないように、サニーたち共々気をつけなきゃね。
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