人類史の裏で悪いことする諸悪の根源系チート転生者   作:オスマン○帝国

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⚠️主人公はゲスクズ畜生外道です⚠️


1.人の不幸は何とやら

 

 アモーラ帝国首都、城壁都市ニトナトス

 

 天然の良港と水運を支える穏やかな河川を持ったこの都市は、陸海問わず貿易の中継点として、帝国と呼ばれる国の勃興期から数え数百年もの間、巨万の富を供給し続けていた。

 

 東西のあらゆる物がこの都市に集まり、金さえあれば何でも買えると商人達は口を揃えて言う。難攻不落と名高い城壁で周辺一帯を囲み、魔物や敵国の兵が入ってくるなぞ一度たりとてない安全神話。ここで生まれ育った人間は、一度も城壁の外に出ることもなく生涯を終えることも少なくなかった。

 

 まさしく、世界の中心地。

 

 世界とは、この都市を中心に回っているのだ。

 

────だが光があれば影ができるように、人々は栄光と繁栄だけを享受しているわけではない。

 

 大陸の中継点という土地柄、戦で国を追われた難民が大挙として集まり発生する食料危機や治安の悪化は避けて通れず、民衆の間に広がる貧富の差とそれに伴う教育格差は広がり続けている。一部の商人や特権階級の人間はこの世の春を謳歌しているが、下々の暮らしは決して良いとは言えなかった。

 

 そういった貧困層は奴隷として富裕層に身を売るか、スラムで犯罪紛いのことをして暮らすか、路地裏で物言わぬ屍となるかだが、この都市を抜け出したとしても待っているのは魔物に怯えながらの難民生活。近隣の都市も、何も持たない難民を受け入れるほどお人好しでも余裕があるわけでもない。結局、このニトナトスで生きて行くしかないという悪循環。

 

 繁栄と衰退。一部の栄光と、その裏に隠れた夥しい数の死体。

 

 誰が付けたか、清濁併せ持つこの都市を『混沌都市』と人々は呼ぶようになった。

 

 今日もまた、そんな都市の片隅で男が一人、朽ち果てるのを待つ。

  

 男は腕のいい職人であった。しかし、ミスによる怪我で職人としては死に、失職。頼れる親類も居なければ家族も居ない彼は職場を追い出された挙げ句家も財産も奪われ、今に至る。

 

 この都市では珍しくもないありふれた悲劇。

 

 怪我により労働奴隷としての価値も、犯罪を犯す度胸も無い男は、自身の無力さに打ちひしがれどうしようもない現実を前に、ただ神に祈るしかなす術を知らなかった。

 

 何故神は試練ばかりを自身に与えるのか。その疑問を神に問うためふと空を見上げた男の眼には、都市のあらゆる角度からでも視界に映る神を讃えた大聖堂。

 

 この都市を本拠地とする聖教会。その大聖堂は世界屈指の規模を誇る。貼られた金箔や、職人が丹精込めて作り上げたレリーフの数々は目も眩むような額の富を尽くしたものだ。

 

 輝かしかった過去の日々を走馬灯のように想起する。

 

 何度も親方に暴力を振るわれては泣きながら修行した丁稚奉公時代。修行を経た末に一人前と認められ、造り上げた数々の作品達。その中でもこの大聖堂の修復作業に職人として関わったことが一番の自慢であり、誇りであった。

 

────もう眠ってしまおう。

 

 過去の栄光を思い返してより一層虚しさを感じた男は、死という流れに身を委ねようとした。

 

 その時、生と死の狭間で緩んだ精神が、今まで抑圧され、必死に目を逸らし続けていた男の激しい怒りを目覚めさせる。

 

────なぜ自分が死ななければいけないのか。なぜ裏切った人間には罰が下されないのか。なぜ弱者救済を掲げる聖堂の連中は自分を助けないのか。

 

 輝かしい聖堂と、罪も無く惨めに朽ち果てる自分。この対比構造こそがこの世の真実であるかのように嘯く世界への、そんな理不尽に対しての怒りと疑問が男の思考を支配する。

 

────簡単な答えだ。神は、世界は俺を嫌っている。だからこんな酷い仕打ちができる。だったら俺も全て壊してやろう。誇りなんて腹の足しにもならない。名誉など捨ててしまえ。何もかも一切合切全てを燃やし、犯し、殺し尽くてやる。

 

 男は今際の際、この世全てを怨む修羅へと堕ちた。

 

 しかし、もう遅い。男にはもう幾ばくの命も残されていない。

 

 精悍だった肉体は栄養失調と怪我により枯れ木のような状態。あと数週間早ければ結果も違っただろう。その激情は世界を変えるだけの熱量を持っているが、それだけだ。

 

 現実は非情である。世を呪いながら死ぬ、特段珍しくもないこの世界の常。生物である以上、()()()を喰らわなければ死という理から逃れることはできないのだ。

 

 男にはその覚悟を決める時間があと少し、あと一歩だけ足りなかった。

 

 

 

 

 

 だがそんな理も、理を外れた存在には関係がない。

 

「いい感じのヤツ発見〜」

 

 死にゆく男の前に、今まで見てきた誰よりも大きな男が現れた。周辺地域ではまず見られない布を幾十にも重ねた民族衣装を魔導士のローブのように纏うこの大男は、薄暗い路地には似つかわしくない軽快な足取りで近付き、明日の天気を尋ねるような言葉の軽さで問い掛ける。

 

「なあ、お前。人類辞めたくないか?」

 

 少しでもまともな思考を残していたなら信用どころか聞く価値すらないだろう気狂いの言。しかし、男はその問いに疑問を挟む間も意味を考える時間も置かず、本能の命じるまま反射的に頷いた。

 

 側から見ればほんの僅かに首が動いただけだ。言葉は一切発していない。それが首肯であるとは判断できないであろう弱々しさ。だが大男には伝わったようだ。

 

 大男は、まるで罠に掛かった憐れな小動物を甚振る子どものように無邪気な、しかし悪意に満ち溢れた笑顔を浮かべる。

 

「やっぱ都市の魔物ってのはゾンビみたいな人型だよな。でもゾンビはまだ時代的に早いと思うし、お約束の人類同士の争いが起こる前に人類が滅びそうだし……よっしゃ決めた。お前は『吸血鬼』だ!吸血鬼なら知能も残っていい感じに自分で調整してくれるでしょ!はい決定!」

 

 瞬間、大男の右腕がボコボコと泡立ち、肥大化し、二股に別れる。見る者が見れば『竜の顎』とでも表現しただろう。それは男を文字通り喰らうために、大きく口を開く。

 

 男は後悔した。目の前に居る存在が人智を超えた化け物であることを理解したからだ。怒りに我を忘れ、浅慮な行動で今命を失おうとしているのだ。

 

────でもどうせ死ぬのなら、このまま野垂れ死のうが化け物に喰われようが一緒か。どうかこの化け物が、世界を滅ぼしますように。

 

 この日、一人の人間が消えた。

 

 だが誰も気付かないし、気にも留めようとしない。この混沌都市ではよくある話だからだ。男を知る者も、数日後には思い出すことすらしなくなるだろう。

 

 そんないつも通りの日々を送る都市の民の間に、奇妙な噂が流れる。

 

 曰く、血を抜かれた死体が毎朝見つかる、と。

 

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 

 チートを貰って中世っぽいファンタジー異世界に転生して、冴えない人生とはおさらばするという最早ネット小説界隈ではテンプレートと化した死んだ時に会える神様。

 

 そんなお約束通り俺は交通事故で一度死に、某真理君が居そうな真っ白な部屋で自分を神様だと名乗る上位的存在に出会った。曰く、チートやるから異世界に行け、と。

 

 その言葉を聞いた瞬間、人生で一番興奮したさ。本当にこんなことがあるんだと、宝くじに当たった気分だったね。

 

 前世での自分はもうすぐ三十路の冴えない独身サラリーマン。日々労働という苦役に苦しみながら、異世界転生モノ主人公達のお気楽そうな人生────ハードモード系異世界モノから目を逸らしつつ────を見て、「俺も異世界に転生して、何やっても褒められる承認欲求満たされ生活してぇ〜」と舐めたことを思ったことは一度や二度じゃない。

 

 当然俺みたいな人間には「チートは要らないです」なんて主人公の如き殊勝な心意気は無いわけで、俺は神様に促されるままチート有りでの異世界行きが即決定。新しい母の元、記憶を保持したまま産まれ直したのだが────

 

 

────服は獣皮!手には石槍!住んでる場所は竪穴住居!なまさかの石器時代スタイル。明らかに文明の『ぶ』の字も無い石器時代に産まれてしまった。

 

 こんな世界に産まれたもんだから、誕生から数年は死ぬほど後悔したさ。俺はチートを貰って肉体的には無敵に近いが感性は貧弱な現代人のままなのだ。まずい飯、ネット無しの環境、汚い家、これだけで簡単に音を上げる。

 

 だが貧弱現代人も役に立たなければ死ねというバイオレンスな価値観が強いこの時代の感性に当てられたからなのか、生まれて数年後には「いっちょ転生者らしいことやりますか」と一念発起。覚悟を決めたそれからは面白いぐらいに全てが上手くいった。

 

 狩猟方法に口を出したりトラップを自作したりなんかのテンプレ神童ムーブで大人達の信頼を勝ち取り、実績を作った俺は集落の大改装を決行。俺の入れ知恵によりさして時間も掛からず集落は急発展と文明開花を迎えた。

 

 何をやっても褒められ上手くいくので調子に乗った俺は効率のいい農耕作業を教えることから始まり、鉄の精錬、他の集落との争い、吸収合併、国の興り、王の選定。あれよあれよと僅かな期間で、周りがウホウホ石器時代をやっている中周辺一帯を治める巨大国家が爆誕。

 

 「また……何かやっちゃいましたか?」を繰り返した俺は遂に王にまでなってしまったのだった。

 

 それからの俺はこれまでと同じように現代知識で技術開発、異世界ということでやはり存在していた魔法の研究なんかを好き勝手に進め、文明を加速度的に進めていった。贔屓目を抜きにしても領土の大きさ以外はローマ帝国全盛期ぐらいのレベルに、一部魔法なんかの特定分野は現代以上に発展したと思う。

 

 チート能力で実質不老不死の俺はこうして末永〜く王を続け、国を繁栄に導きましたとさ。

 

 めでたしめでたし。

 

 

 

 

 そして建国から約300年。

 

 不老不死を再現した俺という不死身の王の統治により、この国は時代区分を考えれば地上の楽園のような場所となった。

 

 物に満ち溢れ今や飢餓の心配はほとんどない。上下水道完備の清潔な都市は300年前まで海と草原しかなかったとはとても思えないような発展ぶりだ。

 

 数十年前から研究され始めた『魔法』により、臣民の間では遠くない未来では空にすら人の手が届くらしい、という噂すら流れている。

 

 そんな希望に満ちた状態だ。この国に暮らす民衆はこれからさらに発展していくことを、王による統治を、楽園が続くことを信じて疑わなかっただろう。

 

 

 その頃にはもう、俺は国を発展させようという気はまったく無くなっていた。

 

 

 俺は王になった。おそらくこの世界で一番最初で一番裕福な人類だっただろう。望めば大概のモノが手に入るし、地位相応の贅沢もしていた。思えばそれがいけなかったのだ。

 

 蒸気機関、電気ガスの普及、航空機、インターネット、そしてこの世界特有の『魔法』。思いつく限りでもまだまだ発展させられる余地と、偉大な発明の元となる知識が俺にはあったし、国にも余力があった。

 

 だがそんなことをせずとも競争相手となる他国は影も形も存在しない。偶に襲ってくる侵略者は全員もれなく石器時代の蛮族のため人型の的にしかならず、敵たり得ない。外部からの刺激がゼロ、まるで無いのだ。ならばこれ以上の発展を求めたところで意味がないと気づいた。気がついてしまった。

 

 何を勝手な、と思うだろうが俺は現状に満足して(飽きて)しまったのだ。

 

 言ってしまえばゲームクリア前の燃え尽き症候群だな。

 

 前世の俺は某長の野望や某civなんかのストラテジーゲームで勝ち確定です!という状況になったらセーブだけして次のラウンドに行くような人間だった。RTA(リアルタイムアタック)のようにターン数を気にするような遊び方をしなければ、それ以上やっても時間の無駄だと思っていたからだ。

 

 まさか現実世界でもゲームのように無責任になるとは思わなかったが、300年という人類を超えた寿命はその程度の人間性を変化させるには充分だったようだ。

 

 毎日毎日飽きもせず俺に国の方針を聞いてくる臣下。

 現代知識を求めて独自の考えや思考を放棄した技術者達。

 何の疑問も持たず付いてくる民衆。

 それらにめんどうだからと変わらず接し続ける俺。

 

 いっそ能力を解除して死んでやろうか。そんな思考が頭を過ぎるほど暇と退屈で無気力な毎日にふと、俺がこの国から突然居なくなったらどうなるかという疑問が浮かんだ。

 

────見たい。

 

 自身で築き上げた国がもし俺という王を失ったらどのような末路を辿るのかたまらなく見たくなった。

 

 今以上に繁栄するのか。それともあっさりと崩壊するのか。

 

 考え出したら止まらなかった。日々の退屈と好奇心が頂点に達したある日、突き動かされるように誰にも何も告げず着の身着のまま国を出た。

 

 その頃、唯一絶対の王が失踪した国は蜂の巣を突いたような大騒ぎだ。国の行政に関わっていた上層部の人間達は血眼になって国中を駆け回り俺を探した。俺という御旗を失い、国の地盤が揺らいでいることを肌で感じ取ったのだろう。

 

 だがチート能力持ちの俺を見つけられるはずもなく、時間だけが過ぎる。

 

 喉元過ぎればなんとやら。俺が居なくなってから数年で、俺を探す人間の手はパッタリと途切れた。残った上層部が失踪したことを隠蔽したからだ。自分たちがトップに立ち、権力を自由に行使する快感を覚えたのだろう。300年前まで蛮族だった人種とは思えない政治的判断に感心したが、しばらくすると今まで高頻度で公の場に出ていた俺がいつまでも顔を出さないことを疑問に思う連中が出始める。

 

 数多の隠蔽工作の健闘虚しく、とうとう隠しきれなくなった上層部は俺が居なくなったことを公表した。だが失踪ではなく死んだことにしたらしい。それはそれは国を挙げての盛大な葬式を行なっていた。まあ、俺に生きていてもらったら困るしな。

 

 こうして上層部は一応の区切りだけを付けそのまま権力を握ったわけだ。しばらくはこの世の春を謳歌したことだろう。

 

 そして俺が失踪してから約10年。

 結論から言えば、あっさりと国は滅びた。

 

 当然っちゃ当然だ。所詮は俺の現代知識で無理矢理発展させただけの、ついこの間まで石器を持っていた元蛮族。歴史の積み重ねも無ければ前例もノウハウも経験も無い。そんな国が辿る末路など、火を見るより明らかだろう。

 

 平和だったのは最初の数年だけで、後は坂を転がり落ちるようだった。

 

 権力者の汚職に次ぐ汚職。悪法に次ぐ悪法。凄まじい早さで広がる貧富の差。綺麗に区画整備された街並みはモノの数年で荒れ果てたスラム街か自然に帰り、代わるように権力者達の住む家々は大きくなっていく。

 

 俺の視点だからこそ言えることだが、ある意味ここまで綺麗な末期国家はそうそう出てこないのでは、と思うほどの荒れっぷりだ。

 

 しばらくすれば墓穴ばかりを掘る行政に民衆は耐えかね、各地の都市で暴動が巻き起こった。権力者達の家に火を放ち、吊し上げ、そこら中に見るも無惨な死体の山を作り上げた。

 

 だが全ての諸悪の根源達を殺し尽くした民衆の怒りはそれでも治まらない。次の標的には俺の現代知識を継承していた知識層や技術者が選ばれた。

 

 これにより俺が数十年掛けて整備し、技術者達によって運用されていたインフラ設備が完全に機能を停止。全てを焼き払い、殺し尽くした民衆達だが、そこで初めて疑問が生じた。なぜ水道から水が流れていないのだ、と。しかし、彼らは自身らの行いを理解できなかった。理解できるような人間は全員殺したからだ。

 

 彼らは内戦で損耗したわずかな食料や水を求め、仲間内でもまた戦いを始めた。戦いに加わらなかった僅かな生き残りは安住の地を求めどこかへと去り、最後まで戦った人間の生き残りは結局全員餓死か周辺の蛮族に殺されるかだった。

 

 こうして、国家は終焉を迎えた。

 

 僅か10年。たったそれだけの時間で人類は元の狩猟時代に逆戻りし、俺が300年掛けて作り上げた国は分裂するでも弱体化するでもなく、綺麗さっぱりと名前すら残らず消えて無くなった。

 

 俺はそんな滅び行く自身の国を隠れ潜みながら眺め────

 

 

 

 

 

────この300年の中で最も清々しい良い気分だった。

 

 国を出た時点で何となくこうなることは分かってはいたのだ。だがここまで予想通り、思った通りの末路を辿るとは誰が想像できようか。

 

 絡み合った複数の不穏な要因達がまるでドミノ倒しのように連鎖し、国家を崩壊させていく様はある種の芸術性すら感じる。俺はこの国の首都があった今はもう誰も居ない破壊し尽くされた瓦礫の山で一人、一連の流れを思い出しては名作小説を読んだ後のような読後感に浸っていた。

 

 淡々と起こった出来事を綴るだけの歴史書なんかでは決して見ることの出来ない、末期国家と運命を共にする人々のリアル。様々な感情と想いを抱えながら一縷の希望に縋り、結局何も成せないまま朽ちて逝く無常のドラマ。それでも尚諦めない一部の人間達。

 

 前世の有名な海外芸術作品に、戦争を混沌とした表現で描いた絵画があった。俺はそれをただの下手な落書きとしか思えず、価値の一つも分からなかった。所詮は資産家が税率の軽い投資先として選び、箔付しただけだろう、と。

 

 だが今ならその絵に価値を付けた理由が分かる気がする。人類が混沌と善悪ぐちゃぐちゃに憎み合い、争い合う姿は美しくも滑稽で素晴らしかった。

 

 平和と平穏のなんと退屈なことか。

 叶うならば、もう一度あの光景を────いや、何度でも見ていたい。

 

 摩耗し擦り切れたとばかり思っていた俺の知的好奇心その他諸々の欲求達は、いつの間にか腐れ外道となって輝きを取り戻したようだ。

 

 だからこそ先の国家崩壊を見て、惜しい、と思う。

 

 魔法や魔力のような存在があるにも関わらず、まるで地球の歴史に記された国家達と同じような理由と展開で滅亡に至ったのだ。全く異世界らしくない。

 

 俺はゴブリンのスタンピードとか、ドラゴンに一夜で滅ぼされたとか、吸血鬼に都市まるごとゾンビ化させられたとか、そんなシナリオがあってもいいと思うのだ。

 

 しかし残念なことにこの世界には『魔物』や『魔獣』、『エルフ』や『ドワーフ』なんかの不思議生物は影も形もない。地球の動物と同じような進化をしてきたであろう人類と動物達が、同じような生態系を築いているだけだ。

 

 せっかくファンタジー要素があるのに、これから刻まれるであろう戦いの歴史が人類同士の戦記物だけじゃあ勿体ないだろう。故に惜しいのだ。俺は叶うならば化け物と争う人類も、人類同士で争い合う姿も、どちらも見てみたい。

 

 それこそが、今俺が生きている理由である。

 

 ならばどうするか。

 

 そうだ。自分で化け物を造ろう。

 

 俺は神様から『肉体改造』というチートを貰った。最初は能力使用時にSAN値を削るような肉塊が見え隠れするため後悔したが、今ではこれほど便利な能力は他に無いと確信している。それこそ、新種の化け物を造り出すことがまったく夢物語じゃないほどに。

 

 それでどんな能力なのかというと、読んで字の如く自身の肉体を好きなように改造できる能力だ。腕を増やすことも、臓器の位置を変えることも、皮膚を金属に変えることもできる。俺の不老不死も、古くなった細胞を物理的に取り替えているから可能なことだ。オマケに分裂した肉体を遠隔操作まで出来てしまう。まさに万能、まさにチート。

 

 だがこういったチート能力には何かしらの欠点や代償が付きもの。幸いにも俺の『肉体改造』は代償で何かを失うという能力ではなかったが、例に漏れず欠点が何個かあった。

 

 まず一つ目、他人の身体を自由に改造はできない。まあ、それが出来てしまえば戦ってる最中にいきなり爆散させたりできるし強すぎるわな。

 

 そして二つ目、切り離した肉体には自我を持たせられない。命令を出せば動かすことはできるのだが、それ単体ではただの肉塊と化すのだ。これも強すぎるが故の制約だろう。自分自身を無限に増やしていけばスペックそのままでチート転生者軍団が簡単に作れてしまう。

 

 一応抜け道として本体に脳みそを増やし、処理能力を向上させれば遠隔操作で似たようなことができるが、脳の容量が大きすぎて数体操作するぐらいが限界だ。数多の化け物を造るのに使う方法としては現実的でない。

 

 探せばまだあるのだろうが、ざっと挙げた感じではこんなもんだ。今までは俺個人が使うだけで何ら不自由はなかったが、新種の化け物を造ろうにも魔法はこの世界の仕様上生物なんか作れそうにないし、生物研究の設備なんかも当然ない。チート能力が唯一の頼みの綱な現状、この二つが最も憂慮すべき問題達である。

 

 まあでも、俺はアイデアを何とかして捻り出そうとするほど切羽詰まって急いでるわけではない。こういった万能すぎる能力は大体がどこかしらに抜け道があって、そこを悪用していくのが異能モノの常だ。根を詰め過ぎず、気長に待っていれば自ずとアイデアは浮かんでくるだろう。

 

 そしてグダグダとアイデアが降りてくるのを待つこと数年。寿命が無いことで時間感覚がバグって無駄な時間を浪費することに何ら躊躇いがない俺の脳内に突然、天啓が舞い降りる。

 

 善?は急げということでまず適当に、そこら辺にあった蛮族の集落から男女をペアで適当に捕まえる。

 

 捕まえた蛮族の身体には俺の身体から引きちぎった肉片を移植。切り離された肉片を俺が能力で遠隔操作し、蛮族の身体を喰らわせる。

 

 操作された肉片はその細胞一つ一つがパックマンのように蛮族の細胞を喰らい、増殖し、元々あった細胞を自身に置き換えさせる。そう時間も掛からず、蛮族の身体は全てが俺の細胞に置き換わるだろう。

 

 自分の肉体しか改造できない?

 増やした肉体には自我を持たせられない?

 

 だったら自我を持った他人の身体を自分のモノに置き換えて改造できるようにすればいいじゃない。

 

 要はこの蛮族達にはこれから異世界を彩る化け物達の下地────『種』になってもらう。みんなも好きだろう?化け物の正体が実は人間でしたというオチ。

 

 前世でそこそこ有名だった思考実験に肖って、人間テセウス実験とでも呼ぼうか。

 

 人権なぞ知ったことかというこの実験の成否は、細胞全てを俺のモノに置き換えた人間が自我を保ちながらチートによる改造を施せるようになるか否かにかかっている。こればっかりはやってみないと分からない。

 

 ソシャゲの新キャラガチャを回すような神妙な面持ちで泣き叫ぶ蛮族を眺めることしばらく。遂に細胞が蛮族の脳みそに到達し神経が切断されたのか糸が切れたように一瞬だけ意識を失ったが、部位が置換されただけなのですぐに戻る。自分の意識が一瞬途切れたことが不思議なのか、蛮族は頭に疑問符を浮かべたような表情だ。

 

 作業が完了した。

 

 自我の確認のために、軽めに引っ叩くと()()()()()ようだ。ちゃんと自我も残っているようで一安心。どうやらこの世界では構成パーツを全て置き換えても『テセウス』のままらしい。

 

 俺が思案していると、またギャーギャーと俺を非難するような言葉を発し始めた蛮族達。残念ながら俺の知らない言語なため何を言っているかは分からないが、まあロクなものではないだろう。

 

 あまりの五月蠅さから反射的に蛮族の口を閉じる命令をいつも肉片の遠隔操作をする時のように出した。すると脳からくる命令を無視した口がいきなり閉じ、蛮族の舌を噛み切る。期せずしてチートの影響下に入っていることも確認できたわけだ。

 

 口から血が溢れ出て悶える蛮族を尻目に、俺は喜びが抑えられずニヤニヤとしてしまう。チートのゴリ押しでしかなかったが、実験は成功した。

 

 あとはもう肉体の整形と脳を弄るだけで新種が誕生するわけだが、ここ数年で溜まった創作フラストレーションをぶつける魔物は既に決めている。

 

 やはり、最初の魔物といえばあいつだろう。

 

 まず脳の構造を弄り、共感能力、思考能力、記憶能力なんかを低下させ、その代わりに三大欲求を強く感じるようにする。 オスにはどんな生物相手だろうと繁殖できるよう托卵ならぬ托精子機能を付け、メスには早期出産機能と妊娠率増加のために排卵増加機能を付ける。悪食に耐えられるよう強靭な胃袋を付け、突き出した顎から牙を出し目を鋭く、背を低めに設定し肌を緑色にすれば、毎度お馴染みみんな大好き緑の妖精、ゴブリンの誕生だ。

 

 ファンタジーと言えばゴブリン。ゴブリンと言えばファンタジー。大体が愛すべき雑魚モブだが、世界を変えればカリスマ溢れる王様なんかをやったりと何かと忙しい種族だ。こいつが居なければ今時の異世界ファンタジーを語ることはできまい。

 

 そんな俺の個人的嗜好で蛮族ペアには悪いが、ここいら地域一帯のゴブリンアダムとゴブリンイヴになってもらった。まあオスと他の生物のメスで繁殖できるからアダムだけになるかもしれないけど、とりあえずは新種の完成だ。

 

 後は最悪死んでもいいよう、同じような工程で数ペアアダムとイブを作り、人類が少ない野山にリリース。これでそのうち素敵なスタンピードを見せてくれるだろう。

 

 さあ、次はゴブリンときたらオークとオーガだ。吸血鬼とかは人が増えてからだな。

 

 じゃんじゃん作っていこう。

 

 目指せファンタジー!

 

 

 

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