私がファインとシャカールを所持していないため、言葉遣い等に違和感がありましたらご了承ください。
「学園の外のラーメン屋ぁ?」
休み時間、ファインモーションから声をかけられたエアシャカールは、ファインの口から出た言葉に疑問を返した。
「駅前とかにあるラーメン屋のはなしじゃねェのか?」
「違うんだよ、シャカール!この学園のそばに、夜だけやってるラーメン屋があるみたいなの!」
「夜だけ…?そんなラーメン屋あったか…?」
シャカールは、自身の記憶の中からこの辺りにあるラーメン屋の情報を引っ張り出す。しかし、ファインの言った内容に適合する情報は出てこない。
シャカールは更に情報を集めるため、質問方法を変えてみる。
「そもそも、その情報誰から聞いたんだ?」
「ゴールドシップから!学園の外、裏の方に空き地があるでしょ?あそこでやってるって。」
「よりによってアイツかよ…。学園裏の空き地ってなると…多分屋台か?それならオレが知らねェのも納得はいく。」
「屋台!私、屋台のラーメン屋は行ったことないなぁ」
ファインは話だけ聞いているラーメン屋の屋台を想像する。前にネットで見た福岡の中洲にあるような屋台なのか、それとも昔のアニメに出てくるようなタイプの屋台なのか。はたまた、これらとは違う知らないタイプの屋台か。それらを考えるたび、ファインの中に実際に見てみたいという欲求がふつふつと沸いてくる。
それと同時に、ラーメンも食べたくなってきた。
「ねぇシャカール、今晩お話の屋台に行ってみない?」
「今晩?何でオレが…」
「屋台って中々行ける機会ないでしょ?シャカールにとっても貴重な経験になるんじゃないかなって」
ファインの言葉に、シャカールはしばし考える。現状シャカールにとって、知りもしない屋台に行くことは特段利益になり得ない。だがしかし、行ってみることで予想しなかった利益が得られることがあるのも事実。考えた末、シャカールはファインに話しかける。
「分かった、オレも行く。店は何時からやってんだ?」
「19時からだって。空き地までそんなに時間かからないし、18時50分くらいに正門集合にする?」
「ああ、それでいい。んじゃ、この話はまた夜だな。」
「うん!じゃあ夜によろしくね!」
ファインとシャカールは一旦ここで別れ、各々トレーニングを行うためトレーナーのもとへと向かった。
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時は過ぎ時刻は18時50分。
正門前に集合したシャカールとファインは、学園の裏にある空き地に向けて歩き出す。
「一体どんな屋台なんだろう?結構大きいのかな?」
「屋台なら、そこまでデカくはねェだろ。…お、あれか。」
空き地に近づいたシャカールとファインは、そこに今までその場所で見たことの無かった屋台を見つける。
その屋台は古いアニメやマンガで出てくるような屋台の客席を長くしたような形をしており、木組みが落ち着いた雰囲気を醸し出している。
『修練』の文字が書かれた赤い暖簾の隙間からは、少し光が漏れていた。
「…すげェ名前だな…。」
「そうだね、不思議な名前。ね、とりあえず入ってみようよ。」
「…そうだな。」
2人は暖簾をくぐり、屋台の中に入る。カウンターの中には、黒い服を着て頭にタオルを巻いた、無愛想な表情の店主が立っていた。
「いらっしゃい。2人かい?好きなところに座ってくれ。」
店主の言葉に従い、2人はカウンターの席につく。席についた2人の前に、店主はスッとメニュー表を差し出した。
「お嬢ちゃん達、うちの店は初めてか。うちは一人1杯、替え玉1つまでにさせてもらってるんだ。その代わり、トッピングとかおつまみ…軽くつまめるものは色々置いてる。店にあるもんなら、可能な限り対応するぞ。」
(…ふぅん、顧客を増やす点で個人の注文出来る数を制限するのは合理的だ。それで出てくる不満に対しても、それ以外の利点でカバー出来てる。顧客満足の点もしっかり抑えて商売してるのが分かるな。)
店主の言葉に、シャカールは感心する。
隣に座るファインはその言葉を聞きつつ、楽しそうにメニュー表を覗いていた。
「ふふ、どれも美味しそう!どれにしようかな~。背脂醤油もいいけど…うん、私は一番シンプルな中華そばにしようかな!にんじんトッピングで!シャカールは?」
「オレも同じもんで…いや、オレの方はもう1個トッピング追加だ。梅干しも付けてくれ。」
「分かった。梅干しは乗っけるか?」
「いや、別添えで頼む。」
2人のオーダーを聞くと、店主はしゃがんでカウンター下を覗き、調理の準備をする。
すると、ファインがシャカールにコソコソと話してきた。
「シャカール、トッピングの梅干しなんてよく見つけたね。私はラーメンに梅干しは経験ないけど…どんな味なんだろう?」
「オレだって経験はねェ。だが、わざわざメニューに入れるって事は、店主が自信持って客に出せるもんって事だろ。それに、梅干し自体身体に良いから摂って損はねェしな。」
2人の会話をよそに、材料を準備し終えた店主は調理に入る。
まず火で熱したフライパンにごま油を入れ、そこに斜め切りにしたにんじんを10枚投入する。
さっと炒めた後、フライパンに少し水を入れて蓋を閉め、蒸し焼きのような状態にする。
その間にカウンター下から麺を取り出して網に入れて茹で始め、丼を用意してお湯で丼を温める。
梅干しを小皿に出したあと、丼のお湯を捨てカエシと出汁でスープを作る。
茹で上がった麺を湯切りしスープに投入したあと、チャーシュー2枚と味玉をトッピングしたら、先程蒸し焼きにしていたにんじんを5枚トッピングする。
最後に海苔を盛り付け、店主は2人にラーメンと小皿の梅干しを差し出した。
「中華そばのにんじんトッピングお待ち。これは別添えの梅干しだ。」
「わぁ!ありがとうございます!」
「…あざす。」
ファインはニコニコしながら、シャカールは普段通りの感じで、店主からラーメンを受け取る。
ファインは箸を手に取り、一口チュルリと啜る。
「…!魚介系の強い出汁の風味とカエシに入ってる醤油の香ばしさがフワッとして…美味しい!にんじんも程よく食感があって、すごく甘くなってる!」
透き通ったスープから伝わる強い旨味、そしてそれが絡んだ麺と蒸し焼きにしたにんじんにファインは舌鼓を打つ。
その隣でシャカールも麺を啜る。
(確かに美味ェ…このスープ、煮干し系の出汁か。にんじんを油で炒めてからトッピング、チャーシューは適度な脂身でタンパク質やビタミンも摂取できる部位、抗酸化作用を持ち高い栄養価の梅干し…)
「いや、すげェな…。スープもそうだが、ラーメン全体としての完成度が高い。旨さだけじゃねェ、栄養価もしっかり考えた上でラーメンが構成されてる。」
シャカールはラーメンを見つめながら、店主のラーメンを褒める。その呟きを聞いて、店主は微笑んだ。
「この店は立地もあって、君たちみたいなウマ娘の学生さんも来るからな。アスリートにとって、ラーメンは普通に作ると栄養価の面で良くない。だから、少しでも身体に良くて美味いものを出せるようにしたんだ。」
「なるほど!他の店だとあまり見ない梅干しも、その一環なんですか?」
「ああ。それもあるし、ラーメンに合わせると味が変化して美味しいからメニューに入れたんだ。」
ファインの質問に、店主は笑顔で答える。
店主が師匠から口酸っぱく言われていた、『客に対して自分が何が出来るかを考えろ』という言葉。修行中は漠然と認識していたそれは、独り立ちし店を構えてから本質を知った。
日々暗中摸索しながら客に触れ合い、客層や立地等を分析して、店主は今の方向性を見出した。
そして、今でも店主は常にそれをし続けている。
それを店主の雰囲気から感じ取ったシャカールは、ポツリと言葉をこぼす。
「…Goodやbetterじゃねェ、常にベストを追求し、少しずつでも行動して改善していく考え方か。オレ達のレースやトレーニングに対する考え方と似てるな。」
「そうだね。その上で、ラーメンで言う美味しさや素材といったミクロな部分だけじゃなくて、全体をマクロで見た上で目の行きにくい視点を探り出す。そうすることで、想定できていなかった改善方法が見つかるかもしれない。…面白い考え方だね、シャカール。」
「そうだな…」
ファインはシャカールからの返答に微笑み、再び丼の麺を啜り始める。
(時たまこういう出会いがあるからこそ、考えに反して行動してみるのも悪くねェ。今日は思わぬ収穫だったな…)
そんな事を考えながら、シャカールも再び麺を啜り始めるのだった。
明日は桜花賞…
今年はどんな牝馬が台頭してくるのでしょうか…