カノジョ欲しい!
俺こと
とはいえ、ルックス、運動能力、中の下。際立った才能も特にない。
学校の成績はそこそこだが、単に勉強時間をとっているだけで、地頭はそんなでもない。
そして、中学は結局彼女なし。
ああ、誰か俺を好きになってくれる子いないだろうか?その子を世界で一番好きになる自信がある。
高校入り、今度こそはと意気込みネットで彼女の作り方などで勉強したが、
中々合いそうな子はいず、上手くいかなかった。
もう良いや、一生独身で良いやと思いながら高校生活1年目は過ぎ去った。
だが、これまでの話は全部過去の事、俺は今、鼻歌を歌いながら高校2年春の通学路を弾む足取りで歩いている。
それまでの外の景色がモノクロから細部までくっきり見えるカラーに変わった気分だ。
それは、彼女が出来たから。
人生初めての事でかなり、舞い上がっている。
こちらから告白では無く、女子の方から。
相手は同じ小学校だったが、高校で再び再会した同い年の女子。
学科は別科で今まで気づかなかった。
小学の頃の学童保育で1人孤立していたその子に声を掛けたのがきっかけだったらしい。
俺は周りの不快な出来事も、以前ほど気にならなくなった。
それは、物事の多くを肯定的な見方が出来るようになったから、それもこれも彼女のおかげだ。
自分を肯定してくれる彼女がいるから、俺も他人を肯定する勇気を持てた。俺にそんな勇気をくれた彼女に心から感謝したい。
その彼女と放課後の図書室で待ち合わせしているのだが、まだ来ない・・・約束は18時のはずだが・・・。彼女は俺と違い、部活動しているから、一緒に下校は部活終わりを待たねばならない。
「はくどーくん」
「・・・!?」
うなじに凍り付くような冷たい感触が這う。
背後から俺を驚かそうと・・・缶ジュースか、それを片手に無邪気に笑うティーン誌の表紙に出てもおかしくない美少女が俺の彼女、
「別の出入り口から入ってきたな?驚かすなよ、ははは・・・」
晴香が俺を驚かそうと気配を消して、近づいてきてたのは途中から分かったが、そんな事より今でもたまにこんな美少女に告白されるなんて、夢、もしくは騙されていて、あと少し経ったら実は仲間内での賭けで揶揄われてただけなんていう、絶望が待っていないか不安になる。
「あはは、びっくりした?待たせてごめんね。練習が思ったより長引いちゃって。これお詫びのジュースで御座います。お納めください」
「ああ、苦しゅうない、大義であった・・・いや、俺も今来たところさ」
「ふふふ、この状況で今来たところはないでしょ?」
「・・・・・・」
机の上の教科書類が散らばっていて、一目瞭然な事に互いに笑い合う。
自習室から一緒にでた俺達は夕焼けの廊下を並んで歩く。
窓から差し込む紅い光とあかね雲・・・そして、照らされる彼女が綺麗だ。
二人の話題はその日の学校であった事やテレビや漫画の話、それを借りて読んだ互いの感想などだ。
最近だと俺達の他に、俺の男友達2人加えた4人でチームを組んでるスプラ2の話題と色々だ。
「でね、最近部長や先生に良く褒められるの」
「どんな?」
「芝居に深みが出てきたって。ただの大根からよく味の染みた大根になってきたって」
「良かったじゃないか?ステップアップしてて、次は三ッ星店の大根だな」
「あはは、そうね。って、あたしはまだ大根なんかーい!」
「がんばれ、がんばれ!」
晴香は演劇部に所属している。なんでも離婚した母親が女優だったらしくその影響を受けたとの事だ。本人曰く下手の横好きの事。だが見学で見たその熱意は並ではなかった。
そうこう話している内に、校門に辿り着いた。
俺達は付き合い始めて約2週間。
互いの距離の詰め方は晴香に任せていた。男の自分からするのは女子には脅威になる事もあるだろうと思っての事だ。
俺がそこから2,3歩前に進んでもそれまで並んで歩いていた晴香が立ち止まり、困ったような恥ずかし気な頬を紅く染めた上目遣いでこちらを見据えてくる。
夕陽も手伝い、彼女の普段の美しさが何倍にも見える・・・ああ、この世で一番綺麗ではないだろうか?
俺は彼女に近づき、内心の動揺を隠して息が掛かる距離で見つめ合った。
「どうした?」
俺が疑問を口にすると、晴香がおもむろに俺の手をつないできた。
一瞬、驚いたが直ぐに握り返し、心臓が飛び出る位の嬉しさと緊張で、流石にこれ以上平静を装えない。
学校の登下校で、手をつないで帰る付き合っている奴らを見た事があるが、知り合いがいる中でそこまでは俺は出来ない。
「人目がつくところなら、手ぇ離すからな」
「うん」
晴香が嬉しそうで、なによりだ。これでも俺を騙しているなら、彼女は女スパイになれるだろうな、よく知らないが。
「その・・・ごめんね。手をつなぐの本当は嫌かな?ああ、本当に嫌ならすぐに離すから・・・でも、あたし男の子とこういう関係になるの初めてだから。緊張しちゃって・・・」
「いや、そんな事ない。ただ、人目のある所だとな・・・無い所ならいくらでもつないでも」
「人目のない・・・ところ・・・っ~~~~~~~!」
瞬間、ただでさえ紅かった晴香の頬がマグマのように沸騰した。
つないだ手からも体温の上がりを感じる。
「・・・?ああ!人目のないといっても、無理してとかじゃなくてだな。・・・深い意味はないぞ、晴香こそ一体何考えたんだ!」
「ええ、ああ。そ、そうだよね。二人きりでする事なんて、いくらでもあるよね?お芝居の稽古付き合ってもらったり、勉強教えてもらったり、ね?」
「そ、そうそう・・・」
晴香も俺も平静を装えない、ただ、繋がれた手はそのままだ。しばらく歩いてお互い少し落ち着いてから晴香は演技が良くなったと褒められた話をしてきた。
「それってね、やっぱり博道くんのおかげだと思うの」
「俺?」
「だって博道くんと付き合い始めてから、毎日がとっても楽しいだもん。世界が今までとは比べ物にならないくらいキラキラしてて、心の中から今まで知らなかった優しい気持ちがあふれてくるの。今までの自分にはなかった力が湧いてくるの・・・あたし知らなかった。この広い世界に自分を強く想ってくれる人がいることが、こんなにもうれしくって、頼もしいことだったなんて。だから、ありがとう博道くん。あたしを好きになってくれて。あたしも、博道くんのこと、だいすき!」
「・・・・・・・・・・・・」
喜びと恥ずかしさと正の色んな感情がごちゃ混ぜになり、嬉し涙を堪えるのに必死になった。
・・・よくわかった。
俺は晴香に出会うためにこの世にうまれてきたんだ。
俺という人間をこんな真っすぐに受けて止めてくれる女の子が他にいるはずがない。
もう晴香しかかんがえられない。
その日、晴香は駅まで別れるまでずっと寄り添ってくれた。
俺にとってのこの時間は、間違いなく17年間の人生で最高の時だった。
そして、ああ・・・まさしくこのあとだったんだ。
晴香以外に考えられないという今しがた感じた確信。
そんなすべてをひっくり返す奴と出逢ったのは。