もし博道の覚悟が決まってたら。   作:聖獅

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キス×コンセンサス

 俺の人生で両手両足の指二十本に入る程度に衝撃的な一日が過ぎた翌朝。

 

 昨日出来た妹、どこぞの昨日出来た妹アンドロイドではない・・・時雨が朝早く起きだし、台所で昨日作った味噌汁を鍋に掛けて、同じエプロンをつけて料理をしていた。

 俺は眠くて、起きずに半分寝ながら布団にくるまっていたがとうとう目が覚めた。

 

「あ、おはようございます。おにーさん」

「・・・・・・おはよう」

 

 窓から差し込む朝日より眩しい妹の笑顔・・・いや、昨日小悪魔、今日小天使。昨日本当で今日は嘘・・・その落差に貴様一体何者だ!と言いたくなる。

 

「昨日はちゃんと眠れましたか?襖一枚向こうの可愛い妹にドキドキして眠れなかったりしませんでしたか?」

「ああ・・・眠れなかった。お前の歯ぎしりといびきが凄くて・・・ふあ~あ・・・」

「・・・っ!?し、してませんよ!私みたいな美少女がする訳ないでしょ!」

「いや、歯ぎしりってな、原因の一つにストレスで無意識にするんだぞ。歯の摩耗防ぐならマウスピースだな。あといびきもな、舌の筋肉が衰えで喉に垂れ下がってなるんだ。

だから、顔背けるか。あとは寝ながらでも半意識で舌を垂れ下がらない感じにすることだな」

「そんなウンチク聞いてません!そんな事より、朝ごはんの準備を手伝ってください!」

 

 朝から時雨はぷりぷり怒っている、短気なんだな、きっとお腹が空いているんだな。

 言われて布団を片付けてテーブルを出した。

 メニューは、玄米、昨日の味噌汁、目玉焼きと千切りキャベツ。

 朝から湯気の立つ飯を食うなんて何年振りだろう。

 母親が生きていた頃以来かもしれない。

 

「・・・・・・ありがとう。こういうのも当番決めるか」

「昨日から思ってましたが、白いご飯はないんですか?」

「ん?玄米の方が栄養あるぞ。少し硬い方が良い」

「今時、そんな高校生いませんよ!」

「いや、探せばいるかもしれないぞ!」

「・・・もう、白いご飯も買いますからね?話が逸れてしまいましたが、おにーさんは一人の時朝ごはんはどうしていたんですか?」

「大体玄米、卵掛けご飯、野菜は適当に洗ってそのまま・・・後は沢庵とかにぼし、果物・・・」

「よくわかりました。栄養は取っても料理は最低限程度なんですね。台所は私には任せてください。では当番制ではなく分業にしましょう。私は炊事と洗濯。おにーさんはゴミ出しと皿洗い。どうです?」

「わかった。洗剤は石鹸洗剤で、あと電子レンジは使わないからな」

「・・・こだわり強いですね~」

「褒めても何も出ないぞ?」

 

 予想通りの月並みな台詞を時雨に返されてから朝食を頂く。

 それにしても、時雨は料理がうまい。クラスの他の女子達もこんな感じなんだろうか?

 自分が作った時と一味二味違う。将来きっと良い嫁さんになるだろう・・・余計な所さけ無ければ・・・とはいえ、結婚式で親族代表で俺がスピーチするかもしれない。そんな未来を思うと目頭が熱くなってくる。

 兄としての感慨に耽っていると、時雨が箸をおいて話しかけてきた。

 

「ところでおにーさん。登校前に大切なお話があります。」

「まさか結婚したい男でも出来たのか!?駄目だ、どこの馬の骨とも分からん奴に、娘の時雨は渡さん!」

「違います!朝からなにトンチンカンな話してるんですか!?真面目に聞いてください!良いですか?私も今日から星雲に通うんです」

 

 星雲・・・この地域でそう呼ばれる場所は一つだけ。俺が通う学校、神奈川県下ではそれなりに知られた名門私立だ。親父も通わせるの大変だろう。親も大変だ。お金を稼ぐ大変さは少しは分かる。

 

「そうか、じゃそういう事で」

「はい、そういう事で・・・もう!違います!クラスも一緒なんですよ。おにーさんも特進でしょ?」

「なぜバレた!?」

 

 星雲の特別進学クラスは1組しかない。たまに、普通科を見下しているクラスメイトもいる、困ったものだ。

 とにかく、特進に入って来るなら間違いなく残り二年間同じ組になる。

 

「時雨と同じクラスか・・・それは兄として負けていられない!」

「はい、私も負けませんよ・・・いや、違いますから!おにーさんさっきからわざと話を逸らそうしてません?」

「そ・・・そんな事ないぞ?」

「こっち見て言ってください!とにかく、私達が兄妹になった事は内緒にしたいんです」

「そうだな、家族でも赤の他人としてやり過ごす。俺達の年なら当然だな。時雨が恥ずかしがる気持ちもわかる。小さい頃はおにーちゃんと言って、後ろをくっついてた時雨が、成長したな・・・」

「・・・ちょっと、私と思ってたと違いますが、まぁそんなところです。・・・あと、存在しない記憶は無視します」

「任せろ時雨!仕事人のように俺達は一歩外に出れば赤の他人。全く知らない者同士。例えどちらかが捕まって死ぬことになったとしても、知らぬ存ぜぬを貫き通すからな、任せろ!」

「何一つ任せられません!誰がそこまで両極端な事言いましたか!?兄妹は言わずに、普通に接してくれてれば良いんです!」

「時雨・・・そろそろ行かないと遅刻するぞ」

「誰のせいだと思っているんですか!」

 

 仕方なく早めにご飯をかきこみ、ある事を俺は思い出した。

 

「そうだ、俺達が兄妹だということは口外法度の仕留人(しとめにん)だが、この家にしょっちゅう出入りしてる奴らには話しておきたい。もちろん言いふらしたら命はないとも」

 

 晴香の名前を出さなかったのは、時雨が俺に自分そっくりの彼女がいる事を知ったら、何となく気持ち悪がるだろうと察した兄心からだ。

 我ながら出来た兄だ。

 しかし時雨は少し不満そうな顔をした。

 

「・・・先程から物騒なワードがちらほらしてますが、それは置いておいて。ご友人、口は堅いんですか?」

「大丈夫だ、このことが漏れたら奴らに鼻からスパゲティを食べさせてやる」

「私を安心させようとしているからそう言う事をおっしゃるのか・・・、よくわかりませんが仕方ありませんね。いいですよ、ただしのお詫びとして私のほっぺたにおはようのキスをしてくれたら、ですけど」

 

 ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる時雨。

 困った妹だ。

 

「ばかやろー!」

「ひでぶっ!」

 

 俺は時雨のその頬を30%の力で引っぱたたいた。

 

「そんな事軽々しく言うんじゃない!」

「た、たたきましたね?母さんにもたたかれた事ないですのに!誰が平手でキスしてなんて言いました!」

「うるさい!」

「・・・アハッ。何をそんなに怒っているんですか?家族のほっぺにキスなんてただの挨拶じゃないですか。海外では普通の事なのに」

「待て、海外と言ってもアジア圏だとかはしていない所もあるぞ。欧米だって全ての国でしてる訳では無いと思うがな。だから海外全てでそういう事をしてる訳じゃない。そもそも俺は頬や口とか、どこかにするキスだろうが、恋人か夫婦同士のみで良いと思っている」

「・・・そんな事言って、ただ単に女の子のほっぺにキスする度胸がないだけなんでしょう?でも私のわがままを聞いてくれないなら、許可は出せませんねぇ?どーしますかぁ。弱いおにーさん?」

「安い挑発だな。しないといったらしない。大体男の俺からはしないぞ」

「?なんでですか?ヘタレだからですか」

「違う、男から積極的になると下手したらレイプだとかストーカーになりかねないだろう、中には女が誘っているとか勘違いする野郎もいるだろう」

「・・・では女の人から積極的になるのは、おにーさん的にOKなんですね?」

「ああ、そうだ。俺を組み伏せられる女なんて、そんなにいないだろう。大体好きでもない女なら特に反応しないから俺にレイプは無理だ」

 

 俺が笑っていると時雨の目があやしく光はじめた・・・なにかのモンスターでいたな、そんなのが確か。

 

「・・・おにーさん、吐いた唾は飲ませませんからな・・・ふふふ。先程のお話、私がおにーさんのほっぺにチューで手をうってあげます、ね♪」

「ど、どうした時雨?なぜ距離を詰めてくるんだ?おにーちゃんはそういう事良くないと思うぞ。じょ、冗談もほどほどにするんだ!」

「うふふ、悪ふざけばかりしてるおにーさんに言われたくありません・・・さぁ、大人しくしててくださいね。あまり時間はかけませんからね」

 

 俺は後ろに倒れた形で、時雨は両手で覆いかぶさって来る。しまった、そのまま体でかわせば良かったのに、間違って腕四つで組んでしまった・・・。

 おい、なんで目を閉じてキス顔になるんだ・・・どうでも良いが、女はなんで目を閉じても相手の口の位置が分かるんだ?

 いや、そんな事よりも冗談は顔だけにしろ、時雨!

 

 不味い、彼女がいるのに他の奴にキスを許したら俺は晴香に言って詫びなきゃいけない。最悪晴香に殴られたり、別れると言われても仕方ない。

 もうかなり近くまで顔が迫っている・・・捕まれている手の片方を回して、時雨を倒すか・・・。

 

「・・・・・・はうっ!?」

「・・・・・・・」

 

 俺は咄嗟に時雨を抱きしめた。その際時雨は何か変な声を出してたが、まあどうでも良い。死中に活を見出す、虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。

 互いの頬と頬がくっついたが、キスはされてないからセーフだ。ふぅ、危なかったぜ。

 

「お・・・おにーさん、私が悪かったです。もう何もしませんから・・・その、そろそろ離してくれませんか?」

 

 なにやら時雨の顔が赤い。いくらなんでもキスしようとしたのは時雨も実は照れ臭かったのではないか?まったく見栄っ張りの困った妹だ。

 

「大丈夫か時雨?」

「な、な、な、なんでもありません。だ、だいじょうぶです!・・・お、おおおおにーさん的には私とのハグはOKなんですか?」

「・・・まぁ余り誰かれ構わずハグしたいとは思わないが、キスするよりはマシだな。ついでに握手もそこまでしたいと思わん。日本は気を察知する文化だから、体は触れずに気で挨拶する、お辞儀はその一種だと・・・俺はそう思っている」

「そ・・・そうですよね、私もそうお、思います・・・。そうですよね、キスは好きな人とするものですよね。・・・優しい私は、さっきのでOKにしてあげます・・・ご友人に伝える件は・・・ご、ご随意に。おにーさんが必要と思った人になら良いです。不特定多数に広がらなければ良いです」

 

 それから時雨はよろよろと立ち上がり、自分の食器を片付け始めた。

 ・・・・・・なんだか素直になったな?反抗と従順の感情がいったりきたりで不安定な年頃か?謎だ。晴香ならもう少し判り易いんだがな~。ところで随意はどういう意味だ?今度調べてみるか・・・そんな事よりも不味い!本当に遅刻する!

 

 

 

 

 

 

 

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