もし博道の覚悟が決まってたら。   作:聖獅

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でこぼこ×ブラザーズ

「福岡の修英館高校から転入してきました、佐藤時雨です。少し皆さんとスタートの時期がズレてしまいましたけど、仲間に入れてもらえると嬉しいです。よろしくお願いします」

 

 朝礼の時間。

 

 ・・・・・・ギリギリ間に合った。俺はさっきまで汗だくだったが、もう汗はひいた。      

 しかし危なかった、こんなに緊張したのは久しぶりだ。

 昨日義理の妹が訪問して来た時以来だ。

 まったく、朝の茶番劇が無ければ余裕を持って着いたのに、今までの時雨の育て方を考え直す必要がある。

 

 とにかく、時雨が黒板の前に立ち特進クラスの一堂に挨拶している、余り緊張はせずに流暢に話している、肝の座った妹だ。

 時雨は前の学校の服装を星雲の基準に合わせて改造している、そこまで厳格ではないので使いまわすことでの節約だ。

 そうえば、節々に贅沢をしない心がけがあった。

 母子家庭で、裕福ではないのだろう。

 家事スキルの高さもその辺が由来か。

 

 挨拶を済ませた後、先生は俺の隣の席に座るよう時雨に指示を出した。

 その時「義兄」であることの言及はなかった。あくまで出席番号順、という体だ。

 

 一時限目と二時限目の休み時間。

 時雨はさっそくクラスメイト達に囲まれて質問攻めに遭っていた。

 やいのやいのと、九州の名門、修英館高校とここ星雲との違い、全国クラスのエリート校と神奈川のちょっと頭のいい学校程度では格が違う。

 まぁ通りで俺の知らない単語も時雨から出てくる訳だ。

 しかしクラスの連中も全国トップクラス校だの、それがなんだってんだ。どこかの青い丸顔ロボットの兄妹で妹の方が出来が良いって?

 関係ない、落ちこぼれだって必死で努力すりゃエリートを超える事を証明してやる・・・ああ、それにしても眠い。

 とりあえず、俺と時雨の関係性に触れる奴はいない、佐藤の姓は多いからなぁ。

 その内話題は元居た学校から本人へと移った。

 

 その流れの中で、ある女子がこう言った。

 

「でもウチ、時雨ちゃんのことどーっかて見たことある気がすんのよね」

「あ、俺も。なんでだろ」

「ただのデジャブじゃね?」

「いやちげーって、確か演劇部にちょっと顔が似てる女子がいた気がするから、それだ!」

「あ!そうだそうだ!去年の文化祭に脇役で出てた大根だけど可愛い子、どおりでどっかで見た事あったわけだ」

 

 流石俺の彼女、可愛い大根と認識されている。だが不味い。時雨に瓜二つの晴香が繋がってしまった。

 これには時雨も興味深そうな顔で食いつく。

 

 彼らの話し声を聞いてて俺はハラハラしてきた。

 この分だと二人は思いのほか早く会ってしまう。

 これはやはりドッペルゲンガー、会えばどちらかが死ぬ!

 ・・・では無く、

 ふざけている場合じゃない!早く晴香に会って、時雨との今の同居理由を説明しなくては。

 後でバレた時が色々ややこしくなる!

 こんな事もあろうかと既に手は打ってある。晴香には昼休み会おうとメールし、了解を得ている。

 今慌てても仕方ない、緊張するが、この緊張感は・・・悪い方だな。

 ん?晴香からメール・・・

 『急な用事ができてお昼そっちに行けなくなりました><ゴメンナサイ』

 

 ・・・だーーーーーー!

 肝心な時に、ぐぬぬ。仕方ない、晴香の事だ理由があっての事だろう。溜息つきながら返事を返し、ならば先にあいつらに話さなくては。

 

 

 ーーー四時限目が終わり、同時に昼休みを告げる俺が為に鐘が鳴るや、離れた席にいる嫌味な位整った顔の友人・若林友衛(わかばやしともえ)に言った。

 

「トモエー、昼飯おごってくれー」

「なんでだよ?じゃ剛士の奴におごらせようぜ」

「そいつは良い考えだー」

 

 若林友衛・武田剛士(たけだたけし)。二人とも俺の中学からの仲間だ。

 武田剛士はどこぞの昼寝好きの少年とガキ大将のネーミングに似ている。ご両親は狙って名付けたのだろか?

 とにかく、剛士は普通科の2年。

 180㎝を超える身長と、制服の上からでも形がわかる隆起した筋肉。3度の飯よりプロテインが好きなウェイトリフティング部のエースだ。

 本人曰く、筋トレ始めたのは女子にモテる為だそうだが、のめりこみ過ぎた結果筋肉肥大しかえって異性を遠ざけた。好む女性もいるだろうがとりあえず、周りには多分いない。

 

 もう1人、若林友衛は俺と同じ特進2年。

 長身痩躯のモデル体型に、嫌味にならない程度に脱色した髪。この垢抜けさがモテる。

 それも男女区別なく、陰陽分け隔てなく、誰といる時も楽しそうにし、誰といる時間も楽しいものにするために努める。

 そんなよく言えば人気者、悪く言えば八方美人。時にはガツンと言えば良いと思う所も流してしまうのが、こいつの長所であり短所でもある。

 

 中学はもちろん、高校になってからも二人はしょっちゅう俺の家に来ては、親が出張でいないことを良い事に泊りで朝まで遊んでいくのだ、時々鬱陶しい。

 そんな間柄なので、この二人には時雨との関係を先に言う必要がある。

 

 そして、人気の無い学食外のテラス席で昨日家に帰ってから起きた愉快な出来事を全て話した。

 二人はそれを黙って聞いてくれる。

 そしてすべてを聞き終えた後、友衛は開口一番、

 

 「・・・きっつー」

 

 と、夏を控えた高い空を仰いだ。

 

「ハク、前世で何やらかしたんだよ?」

「まぁ色々やらかしたんだろうな、残念だが全く覚えてないんだなこれが。トモ、どこかに良い前世透視の人知らないか?だけどな、現状嘆いても仕方ない。それに、見た目クリソツでも中身は異次元程違うから、意識する事もない」

「確かに晴香ちゃんと違ってイイ性格してそうだね。時雨ちゃん」

「よくわかったな」

「あんな質問攻め本人は疲れるだけだろうに、すげぇ楽しそうに表情作ってたからね。周りの温度さげないよう受け答えだけじゃなく、顔までコントロールできるのは割と堂の入った猫かぶりでしょ」

 

 流石の人間観察力だ

 

「そうだな、母一人子一人で結構苦労してきたんだろうからな、それで身に着いた術かもな。とりあえず、俺達が兄妹になったの他に言うなよ。言ったら命は無いと思え」

「おーこわ、じゃあ口止め料にこの唐揚げもーらい」

「あ、お前それは後で食おうと取っておいたんだぞ、やめろ!」

 

 結局取られて、俺が憤慨していると話をはぐらかす為か急に真剣な顔で友衛は尋ねてきた。

 

「ところでこの一件、晴香ちゃんには教えるつもりなの?」

 

 彼らには晴香との仲は話している、他のクラスメイト達は余り知らない。あまりおおっぴらに馴れ合ったりしてないからだ。別に隠すつもりでもないが。

 

「そりゃな。黙ってても悪いからな、こういう事は先に言って変なしこりを後に残さないに限る」

「やめといたほうがいい」

 

 珍しく友衛は厳しい口調で否定してきた。

 

「なんでだ?聞こうか」

「話したところで、晴香ちゃんに余計な心配を増やすだけだ」

 

 ・・・ん?

 

「どういう意味だ?」

「彼女は良い子だからそりゃ話せばハクが悪くないのは分かってくれるよ。絶対お前を責めたりしない。でもそれは我慢出来るってだけで、不安に思わないとは違う。自分とそっくりな女が恋人と一緒に暮らしてる。自分が一人で家にいる間も、その女は恋人とずっと一緒にいる。そんなの耐えられないだろ」

「ふ~ん、そんなものかね」

「妹つっても昨日今日じゃん。例えハクが時雨ちゃんをどうとも思ってなかったとしても、晴香ちゃんからしたらどうなるか、ようやく手が繋がった程度の関係で、つらいだけの恋愛は続かないって」

 

 言われて、思う。

 俺は自分に非が無い事を示すことに固執して、晴香の気持ちを考えていなかったんじゃないかと。

 時雨のことを晴香に正直に伝えれば、俺自身は隠し事をするという後ろめたさからは解放される。だが、聞かされた晴香の気持ちはどうだ?

 もちろん、俺は時雨に異性として関心はない。

 だが、俺にその気がなくても、晴香がどう思うかは別問題だ。俺の言葉をただ信じて、一切の不安を抱かない。それだけの関係に、果たして俺達は至れているのか・・・?

 

「まあどうしても嘘つきたくないってんなら強制はしねぇけど、オレは今の段階で切り出すにはショックが大きすぎる問題だと思う。絶対に手術しないといけない病人がいたとしても、実際メスを入れるタイミングは患者の容態を見て判断するだろ。どんなことにも適切な時期ってモンはあるんじゃないか?」

「・・・・・・」

 

 晴香にしてみれば、最初から最後まで何一つ知らされないのが一番なのかもしれない。

 ただ現実的にそれは厳しい。

 俺と晴香が恋人という極めて親しい間柄である以上、いつかはバレる。

 

「トモありがとな・・・」

「おう、まぁ仕方ないって」

「・・・やっぱり俺は言う」

「あ・・・!?」

 

 友衛は鳩が豆鉄砲喰らった顔で驚いた。

 

「おい、俺の話聞いてたか?」

「ああ、その上でだ。なるほど知らぬが仏もあるだろうし、手術には患者が元気なって体力がある時とも言うだろ。だがな、早期の段階で摘出してたら大して痛みも無く、済むだろ?」

「いや、それは」

「前から言おうと思ってがお前は誰にでも優しく、上手い言葉で取り繕うからな。時には、返り血覚悟でバッサリ斬るのもやさしさじゃないのか?」

「なんだと・・・?」

 

 一瞬、友衛と俺はにらみ合う。

 

「お前ら喧嘩か!?ワシも混ぜろ!」

 

 それまで黙っていた、剛士が口を開く。

 

「今、お前らの中で男性ホルモンのテストステロンが増加しておる!適度の喧嘩は良いぞ!適度にテストステロンを増加させ、男らしくなり、ウジウジ悩まずにズバッと決断。これで解決じゃ!」

 

 俺は呆気に取られた、友衛もそのようだ。とはいえ剛士の言う事も一理ある。

 

「・・・ああ、まぁ良いや。ハクが言うなら言うで、オレは構わない・・・だけどな、オレが上辺だけの言葉で取り繕うだって?」

「そうだろうが、時には俺に対して言っているように相手の為に厳しい言葉の一つでも言ってみろ」

「おお!良いぞ、そうやって、互いの意見をぶつけてもっと喧嘩するんじゃ!」

 

 ここまでくると、剛士に乗せられて喧嘩するのは癪に障る、それは友衛も同じようで、お互いそれ以上言うのを止めた。

 

「剛士、少し黙っててくれ。もう良いよ」

「む?なんじゃ、つまらんのう」

 

 剛士はわざと言ったのか、本気で言ったのか、よくわからんが良い奴だ。

 

「ああ、だがハク、あの二人ホント似すぎじゃね?」

「ああ、あれはドッペルゲンガーだな」

「違うって、彼女らの細部やパーツ見たら他人の空似レベルじゃないだろ!もしかしたらーーー」

 

 と友衛が何か恐る恐る斬りだそうとした。まさか、時雨か晴香がどちらかの生霊とか言うじゃないだろうな?それは大問題だ。そう思ったその時だ。

 

「あ、博道さんだ!」

「し、時雨!?」

 

 余り今会いたくない相手が来てしまった。その人のうわさをすれば影が差すってどうしてこう的中するんだろう。

 

「何をそんなに驚いているんですか?お隣同士じゃないですか。えっと、そちらの方は・・・」

 

 友衛と剛士、時雨と互いに自己紹介を済ませた。

 

「あ、皆さんお食事中でしたね。ごめんなさい、おじゃましちゃって」

「いいよいいよ。時雨ちゃんも昼飯?このテーブルで良かったら座る?」

 

 友衛は時雨からそれとなく何か探りを入れようとしているのだろう。抜け目ない奴、だが一体何を?

 だがこの誘いに時雨は首を横に振って、言った。

 

「いえ。実は人探ししてまして、ああ、そうだ。武田さんは普通科の2年生ですよね。だったらちょっとお尋ねしたいんですけど、才川晴香という女子生徒を知りませんか?」

「時雨っ!!」

 

 瞬間、大きな声が時雨を呼んだ。それは俺のよく知る、俺の大好きな声だった。

 

 

 まさかーーーーやっぱり、そこには汗を滴らせながら肩で息をしている俺の恋人・才川晴香本人だった。

 

「はあ、はあ、・・・っし、時雨、ほんとうに、時雨なの?」

「・・・・・・姉さん」

 

 その後は晴香は泣きながら時雨に抱き着いた。

 

 ・・・・・・そうか、二人はひょっとすると生き別れの姉妹か?どおりで・・・ふぅ、これでドッペルゲンガーも生霊の件も杞憂だったな。

 そして、俺に時雨はちらりと目を向け、言った。

 

「ああ、すみません置いてけぼりにして。まぁ顔を見てもらえればわかるかもしれませんけど、実は私と姉、晴香さんは前の両親が離婚したときに離れ離れになった、双子の姉妹なんです」

 

 

「ぐすっ、ごめんね。顔合わせるなりいきなり取り乱しちゃって……」

「ううんいいよ。でもびっくりしたよ。私とそっくりの生徒がいるって聞いて、もしかしたらって思って探してたんだけど、ホントに姉さんだったんだね」

「あたしも、自分とそっくりな転校生の噂を聞いて、時雨が戻ってきたのかもって探したら本当に時雨で、たくさん話したい事、っ、があったんだけど、時雨の顔見たらもう、胸の中がいっぱいになっで、ぅぅぅ~~~~っ」

「もう泣かないで姉さん。姉さんは大きくなっても泣き虫のままだなぁ」

「……時雨、……元気でよかったぁ」

「うん。私も姉さんが元気そうで嬉しい」

 

 晴香にこんな一面もあったんだなと俺は微笑ましかった。

 仲睦まじく抱擁を交わす──姉妹。 幼いころ両親の離婚という破局に、一方的に引きはがされた絆。

 それが今奇跡的にめぐり逢ったのだ。

 本当に良かった。思わず目頭が熱くなった・・・が、

 

 

「さて……と、家族水入らずの邪魔をしたら悪いし、オレはこの辺で失礼する」

「おい、待てぇ失礼すんじゃねぇ。タケお前もだ。それぞれの今後の立ち回りも決めねぇとならねぇだろうが」

「立ち回りってなんだよ、知らねぇよ!お前晴香ちゃんにズバッと言うんだろ!さっさと言えよ!」

「この状況で言うのかよ!」

「言えよ!剛士、お前からも言ってやれ!」

「うーん。よく似た二人じゃな。まるで双子じゃ」

「お前、人の話聞いてたのかよ!?」

「ボケたんだよな?そうだよな?」

「あれっ!?もしかして、は、博道くん?」

 

 晴香はそれまで時雨しか認識してなかったのか、周辺視野が疎かだな、そんな所も可愛い。

 

「お、おっす、オラ博道」

「やだあたし、博道くんの前でこんなブス顔、・・・み、みないで」

 

 泣き顔を見られるのが恥ずかしいのだろう。

 晴香は顔をぽっと赤くして、時雨の後ろに隠れる。

 うむ、より可愛い(現実逃避)

 

「姉さん、博道さんと知り合いのなの?」

「う、うん。知り合い、というか・・・」

「あ、おい、晴香言うな!」

「え?なんで?」

 

 晴香が小首を傾げてたずねてくる。そんな可愛い顔で怪訝な顔しないでくれ、恥ずかしいからに決まってるだろうが。

 

「いや、あのだな。時雨も疲れているから、その話はまた今度にしよう」

「なんですか?博道さんと姉さんはどういう関係ですか?気になりますよ」

「もう~博道くん、照れてるのね?いずれ言う事だから・・・ね?そう、あたしたちは恋人、です」

 

え!?

 

 どこからかすごい声がでてきた・・・発信源を特定せよ!・・・わが妹だった・・・。

 なんとこの世の終わりみたいな声だった。

 

「あれ?そういう時雨はどうして博道くんのことしってるの?」

 

 ついに迎えた最終回、盛り上がってまいりました!・・・違う!とうとう決定的な質問がきた。

 そろそろ年貢の納め時だな・・・もう一回食いたかったなぁ、神田の藪蕎麦の熱いのを~などと現実逃避してる場合じゃない!仕方ない、遅かれ早かれ、ここでスパッと言うか・・・

 

「ああ、晴香ーー」

「私も特進だから、博道さんとは同じクラスなの」

「へぇ、時雨も特進なんだ!すごいなー昔から賢かったもんねー」

 

 ん?なぜ今、時雨は遮った?

 

「すみません。ちょっと姉妹二人積もる話もあるので、姉さんお借りしていきます」

「博道くん、ありがと。……今日はすっぽかしちゃってゴメンね」

「いや……いいよ。事情が事情だし……」

「ありがとう。この埋め合わせは、絶対にするからねっ」

 

 二人は手を振りながら食堂の中へ入っていく。

 中で食事をしながら話すつもりなんだろう。

 それを見送ったあと、俺は緊張から解放された反動で、息を吐き肩を落とす。

 

 

 

「はぁ~言うのが先送りになっただけだな・・・」

「あ~まぁ、さすがに今は言えないだろう・・・とはいえ、やっぱ頭いいわあの子。超えちゃいけない一線をちゃんと見極めてる」

「・・・そうかなぁ?」

「とにかく、言うにしたってタイミングぐらいは見計らったらいいだろ」

「・・・そうだな」

 

 もう今日は帰ろう。学校サボろう・・・と思ったが次の時間小テストだった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

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