第1話 出会い
「あの野郎、絶対許さねぇからな」
幼馴染である女の子と言い争った翌日、彼は叔父のバイト先の鎌倉から珍しく列車で登校しなければならなかったのも響いている。
「急な予定は仕方ないとして、ここから学園まで1時間以上かかるぞ……」
勘助は寮住まいである。登校する学校は虹ヶ咲学園という学園だがお台場辺りに立地しておりバイト先の鎌倉までは1時間以上かかる。いつもは叔父に車で送迎してもらうのだが、今回は急な用のため、叔父のバイト先に寝泊まりして早起きしながら電車に飛び込んだ。
駅から学園までの道をあまり慣れていない勘助は少し途方に暮れながら携帯のマップアプリを開く。
「痛い!?」
「……あ?」
少し、いやかなり揺れただろうか、満員近くなっており座るところもなかったので、つり革で我慢していた勘助だが、揺れた拍子に隣の男にぶつかったようだ。しかしぶつかったのは体ではなく……
「ああ、すみません。どうやら私のギターがぶつかったみたいで」
「い、いえお気になさらず……」
勘助はギターを二本肩に担いでいる。叔父から直してもらったギターといつも持っているギターをそれぞれの肩に担いでいたのでそのうちの一つが直撃してしまった。勘助は謝ったのだが男性は何とも言えないような言葉で濁した。
そこで勘助は、たまたま開いていた席をお詫びですと前置きを置いて男に勧めてあげた。それに対しても男は不機嫌になりながらも渋々といった形で座っていったことにも納得がいかない。
「なんで席譲って渋られなければいけねぇんだ?」
男が座ったのが勘助の青い目と声の威圧でビビっていたことを彼は知らなかった。
☆
「ありがとうございました」
「はい?」
駅を降りて着いた目的地で、勘助は大きい赤リボンでポニーテールをまとめていた女の子にお礼を言われた。まったくもって何の話か分からない勘助はどういう話か聞いてみた。
「触られていたんです……あの男の人に」
それだけで納得がいった、あの男はただの痴漢だったのだ。どうやらお尻を触られていて怖くて声が出なかったところを勘助が助けたと。少女の目にはそう映っていた。
それでも勘助は偶々だという。納得しながらも最後まで気づかなかったのも事実で、何なら勘助も少し怒りで男を脅していたかもしれんからどちらも悪い人間には変わりないと。
「面白い人ですね」
「事実だからな」
女の子はそれでも退かぬ精神で、少し媚びることをした。何かお礼がしたいと。勘助は断ろうとしたが、一瞬、たった一瞬頼みごとがあったのを思い出す。それを少女は見逃さなかった。
「何をすればいいですか?」
「私の心が読めるのか?」
「演劇部ですから、人の顔くらいは」
勘助は納得しながらも、少し悩み答える。
「聞かぬは一生の恥か……すまないがここから虹ヶ咲学園まで行きたいのだが、教えてほしいのだ」
「虹ヶ咲学園ですか? いいですよ」
簡単に了承した少女は聞けばその学園の生徒だったらしい。
「そういえば名前言ってなかったですね、虹ヶ咲学園1年の国際交流学科の
桜坂と書いて「おうさか」と呼ぶと付け加えながらしずくは勘助に名乗る。勘助もそれに次いで自らを名乗った。
「虹ヶ咲学園2年普通科の山本勘助だ。勘助でいい」
彼曰く、虹ヶ咲学園はマンモス校であるので山本だけなら数十人以上はいる可能性があるので下の名で呼んでもらったほうが楽だと。それに便乗してしずくも桜坂が紛らわしいのもあって下の名で呼んでもらうようにしてもらった。
☆
「ほう、演劇はなかなか奥が深いのだな。ミュージカルしかわからなかった」
「ミュージカルは有名ですからね、それ以外のエチュード……即興劇も魅力ですよ、あまりやらないですけど」
同じ学校なのもあり二人は話しながら虹ヶ咲学園に向かうことにした、勘助には女の子と話す態勢は幼馴染しかなかったので、そこで養われた聞く力をもってしずくの話に相槌を打ち、時に質問して会話が尽きないようにした。
自分の眼のことも言った。勘助の母がもともと目が青く遺伝してオッドアイになったと。
そしてしばらく話を聞くとしずくは少しして謝った。
「すみません、自分のことばかり」
「いや、私も音楽には興味もあるし演劇もいつかは見たいと思っていたところだからな。問題ない」
勘助はお世辞はあまり言わない主義である。基本は真実を話し嘘はあまりつかぬ主義であった。しずくも演劇で養った人間観察をしながら勘助の顔を見て事実だと安心する。そこでしずくはふと気になったことを言った。
「勘助さんはなぜギターを両肩に?」
「ああ、モードや気分によってな」
勘助が言う。自分のギターはアコースティックギターとエレキギターの2種類あり弾き語り用と練習用などで使い分けていると。そしてちょうどエレキギターの修理が終わったので寮に持っていく予定だったことを話した。
「なるほど、ギターお好きなんですか?」
「親父の影響、後、幼馴染のため」
「幼馴染?」
「ああ、元々スクールアイドルの幼馴染のために曲を作ってたんだが……」
スクールアイドル。今世間人気の部活動の一種としてあげられるもの。昔はあまり認知されてなかったが、今となっては爆発的なブームを巻き起こしているエンターテインメントコンテンツ的なあれである。
スクールアイドルと聞いたしずくの顔が少し曇ったことを勘助は見逃さなかった。
「元々スクールアイドルと演劇部、兼部してたんですけど、解散しまして」
「……元々スクールアイドルだったのか?」
頷くしずくだが、勘助の幼馴染と同じスクールアイドルなのであればしずくの名前は出るはずだ。勘助は自分の幼馴染も元スクールアイドルだったと言いながらしずくの言葉を待ったが、もしかするとスクールアイドル部が数種類あるのも可能性があったのでこの話は無しにした。
よくあることである。虹ヶ咲学園はマンモス校なので漫画・アニメ部もあれば漫画・アニメ研究会など同じ種類でもいくつかのものに派生したりするので幼馴染のスクールアイドルがしずく同じとは限らないのだ。
「……お、着いたな」
「あ、本当だ」
「世話になったありがとう」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
しばらく話してからようやく虹ヶ咲学園に到着した二人。勘助は助かったと礼を言ってしずくと別れたのだった。
そして授業後勘助がすぐに聞いた話ではスクールアイドル同好会は一つしかなかったという不思議な話だった。