虹ヶ咲のシンガーソン軍師   作:初見さん

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第11話 ハルカナ 後編

「本当に来るとは思わなかったよ」

「どうしてこんなところに誘ったんですか?」

 

 近江遥は勘助にもらったメモの場所に来ていた。その場所は調理実習室である。あのメモには『暇なとき虹ヶ咲学園の調理実習室で待つ』と書かれており、遥は向かったのだ。

 勘助は勘助で初対面の人の、ましてや男の誘いは乗らんだろうと思いながら待っていたらしいが、遥は来た。

 そして勘助は遥をここに呼んだ理由を話す。

 

「遥さんは言ったよな、彼方さんが背負っているものを背負う番だと」

「はい、いいました」

「でも、スクールアイドルをやめたら彼方さんが悲しむし、私は君がスクールアイドルをしたいと考えてるほうに賭けている」

「その証拠は何ですか?」

「男の勘」

 

 だがそれでも、これからスクールアイドルをやりながらでもやらなくても彼方のものを背負うというならと勘助が言い、そして結論を出した。

 

「君に料理を覚えてもらう」

「……料理ですか?」

 

 この世に大切な衣食住。その中の「食」はとても大切な部類だと勘助は思っている。勘助曰く彼方さんが満足できる料理を作れれば家事分担をしてお互いの負担を分け合いながら二人でスクールアイドルが出来るという安直ながらもそこそこ的を得た話を持ち掛けた。

 

「君が料理できれば彼方さんが喜ぶし、負担も背負えるし、うまくいけば姉妹で役割分担すれば、二人でスクールアイドルが出来る。一石三丁だろ?」

「分担……」

「ほんとは家事全部教えられたらいいんだが、掃除洗濯は自分でやってみてくれ」

「……それはそうですけどどうしてそこまでしてくれるんですか?」

「私にも姉らしき人間がいたかもしれないからだ」

「え?」

 

 どういうことかと遥が聞く前に勘助は答えた。

 山本勘助の両親はなかなか子宝に恵まれなかったが、ある時母親の妊娠が発覚して大いに喜んだそうだ。その子が女の子と聞いていたので両親も楽しみにしていたそう。

 だが、産むことはかなわなかった。流産したのだ。幸い母親は無事だったが、赤子は死んでしまったらしい。それからしばらくして勘助を無事に出産したそうだが、両親からその話を聞くたびに自分に姉がいたら彼方や遥みたいになっていたのかもしれないと思ったりしたのだ。

 

「世間から見れば私は一人っ子だし、近江姉妹みたいに兄弟のいる人の気持ちはわからない」

「それでも! 私の姉になる予定だった人がいたとなれば、必然的に兄弟姉妹にも少なからず思うところがあるのだ。今はいないから無関係でもな」

「勘助さん……」

 

 遥はもちろん勘助の言った通りのことを思った。家族の問題になぜ勘助がかかわってくるのか、なぜ自分に対してここまでするのかと。それはきっと、生まれてこれなかった姉を思いながら自らをわざと弟として見て近江姉妹に思いを寄せたのだと確信した。

 

「勘助さん」

「なんだ?」

「料理を……教えてくれませんか?」

 

 遥の言葉に力強くうなずいた勘助だった。

 

 ☆

 

 そして、近江遥のライブ当日、思いもよらぬことが起こった。それは……

 

「どうしてお姉ちゃんが」

 

 近江遥の姉、近江彼方が遥のライブ前にゲリラライブを行っていたことだった。

 

「お姉ちゃん! 素敵なライブだった!」

「ごめんね、遥ちゃんのことわかってなかった」

 

 そして彼方が遥にお互い支えあおうと言った。スクールアイドル二人でやろうと言ってくれた。勘助から聞いた言葉と同じであった。だから遥は……

 

「お姉ちゃん、ありがとう。大好き!」

 

 そう言って姉妹の絆がまた再構築されたらしい。

 

 ☆

 

「お疲れ様です、彼方さん」

「お疲れ勘助君」

 

 それから少し経って部室で珍しく勘助と彼方の二人になった時軽くあいさつを交わした。

 

「って……あれ? ギター弾かないの?」

「寝てる人の前で弾けませんよ」

「同好会だから弾いてもいいよ、彼方ちゃんも目冴えちゃったから」

「そうですか」

 

 それじゃあと言って、右利きのデストロイモード(アコーステックギター)を起動して適当に歌いだす。

 

「……ありがとね勘助君」

「何がですか?」

 

 級にお礼を言われたが勘助はピッキングをやめずに彼方の声に耳を傾ける。どうやら勘助の料理教室のおかげで遥の料理がとてもおいしくなったのだとか。

 勘助は暇つぶしだと照れ臭そうに言ったが、彼方が勘助の眼をじっと見てそれでもとお礼を言ってくるので勘助もたじろいだ。

 

「そこまで言うなら……今度近江姉妹の料理頂きたいです、そこまで感謝してもらえるなら食べてみたいですし」

「いつでもOKだよぉ」

 

 間延びした声でそう答える彼方だが、いつもより声のトーンが上がっていたそうだった。

 

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