「さて、今日もデストロイモード起動するか」
「そういえばそのアコースティックギターって右利きだよね?」
今日も今日とて同好会の歌を作るために練習する勘助に対して侑が疑問を聞く。アコースティックギターが右利きでエレキギターが左利き用ならば、勘助は普段両利きなのかと。
「難しいな。例えば、皿あらうとかフライパン持つなら簡単動作だから右手だが、文字を書くとかなら左手なんだよ。両利きでいいんかね、そういうのは」
「それなら確かなんか名前があったけど両利きでいいと思うよ。あ、後さ、デストロイモードってなんかカッコいい響きだけど、左のエレキはそういうの無いの?」
「そもそもデストロイモードとか無いよそんなの」
「嘘でしょ!?」
「昔せつ菜がアニメの決め台詞にはまったから、私も言ってるだけだよ。デストロイモードはアコギ、ユニコォォォォォォォォォォォォォン!! はレフティーエレキ」
「ユニコォォォォォォォォォォォォォン!!」
「せつ菜ちゃん!?」
「また敵となるか、ユニコーン!」
「優木せつ菜、あんただけは堕とす!」
「仲いいよね、せつ菜ちゃんと勘助君って」
「そりゃ幼馴染ですから。勘助さんが中学のころ勝手に持ってきたギターで棒高跳びして操虫棍だ! とか言ってた時になぜか私まで先生に怒られたのはいい思い出です」
「草むらに寝転がって泥だらけになって菜々の母さんにバレないように家で洗濯して証拠隠滅したよな」
「あれは心臓止まるくらい怖かったです。よく隠し通したと思います」
「せつ菜ちゃんの走るダンプカーは勘助君譲りだったか」
「誰がダンプカーですか!?」
「お前だよ」
「勘助君もたいがいだよ」
☆
「私は皆さんの理想のスクールアイドルを演じたいと思っているんです」
そんなことを言っていたのはこれから主演を務める桜坂しずくである。これからの合同公演での主演ということで張り切っていたが、そのあとに思いもよらない知らせが起こった。
「自分をさらけ出してほしかったからしずくなら適任かと思ったんだけど……」
演劇部長に言われた桜坂しずくが降板だと。それに対してしずくもあきらめないことを告げてこの話は終わった。
「しずくさんの様子が変?」
「うん、なんか元気ない」
「しず子どうしたんだろう」
それから少し経って、璃奈やかすみから勘助はしずくの話を聞いた。
1年生の同級生から聞いたところ主役を降ろされたと言っていたらしい。
「ふむ、まぁ、理由はそれなんだろうが、根本的な理由があるのかもしれない」
「根本的な理由?」
勘助は主役を降ろされたことに悩んでいるのは確定だと告げながらも、それ以外で何か問題がある可能性があると指摘する。
「主役を降ろされたことだけにショックならもう一度オーディションで役を完璧にすればいいが、もしその降ろされた理由とかで悩んでいるのだとしたら主役復帰は難しいかもな」
「原因が主役だけではないってことですか?」
「あくまで予想だ。とはいえこっちも何かあれば聞いてみるよ。二人はしずくさんを支えてやってくれ」
そう言って勘助は会話を終了した。
☆
後日勘助は璃奈とかすみからしずくを出かけた話を聞いた。その時に璃奈が思ったことを勘助に言った。
「なるほど、古い演劇に興味があった素振りか」
「うん、しずくちゃん昔の映画のポスターを見てたからそうなのかなって」
「後、自分が桜坂しずくを忘れられるからって……勘助さんどうしよう」
不安そうになる璃奈に勘助はそっと頭をなでて分かったとお礼を言った。
「しずくさんはきっと自分を出すのが怖いんじゃないかな」
「ちょっとわかるかも……私も素顔見せるのまだ怖いし」
「璃奈さんは成長してるよ、最近私の前でボード出さないじゃん」
「勘助さんだから」
「そっか……まぁ、私がどうこうできる話じゃねぇけどやるか」
「出陣だ。しずくさんと話してくる」
「勘助さんありがとう。好き」
「やめろよ、照れるだろ」
☆
「デストロイモード起動」
ある空き教室で勘助はアコースティックギターを弾いていた、その弾き語りに対して一つ声が聞こえる。
「どうしてここにいるんですか? 勘助さん」
しずくの声だった。勘助は、空き教室でアコギの練習をしようとしたらしずくがいたと言った。最初はしずくが机に伏していたら、勘助が来て隣良いかと強引に座ったのだ。気にせずアコギを弾きまくる勘助にしずくは少し不機嫌になる。
「空き教室はみんなのもんだ、別にいいだろ」
勘助はしずくの眼を見ずに気にせず演奏する。そして演奏が終わり、今度はユニコーンという名のレフティーエレキを構えた瞬間しずくが声を出した。
「……何も言わないんですか?」
「話は聞いてるが、私が何か言うことはできない」
「……聞いてたんですね」
「自分が嫌か?」
勘助の言葉に言葉を詰まらせながらもはいと肯定した。
「じゃあ私が声をかけられないな。ユニコーンだのデストロイモードなどと言ってギター構えて、好き勝手歌いまくってる人間が自分を出すのが嫌だという人間にできるアドバイスはねぇよ」
言われてみれば確かにそうだとしずくは少し笑う。それに安心した勘助は言葉を続ける。
「……しずくさんは、毎日可愛い可愛いって言ってるかすみさんをどう思う? バカだけどスクールアイドルを真剣に愛している人間だが」
「……個性的でかすみさんらしいと思います」
「じゃあせつ菜は? アニオタでスクールアイドルが大好きで走るダンプカーみたいなやつ」
「……元気で勢いのあることがせつ菜さんらしくていいと思います」
それじゃあ。と、勘助は確信を帯びた質問をする。
「俺の仲間に演劇が大好きな奴がいるんだ、スクールアイドルで表現力を身に着けて演劇もスクールアイドル両立する一生懸命で努力家な人間だ。そいつはどう思う」
「……それは……」
「どうしたなぜ詰まる? その人らしいからいいですねでいいんじゃないのか?」
意地悪な質問をしたと思っているが、勘助はしずくが自分をさらけ出さないのは一度過去に個性を否定されたことにあるのではないかと考えた。故にしずくのことを質問で出した。
「変な人間は少なからず存在する。歴史にやけに詳しいとかゲームが上手すぎるとかユニコォォォォォォォォォォォォォン!! って叫んでギター弾くやつとか、様々だ」
「でも、そいつらは変な子だというのを言葉変えると個性的で良いって言える」
「演劇が好きでもアニメが好きでも、少なからず俺や同好会のみんなは否定しないと思うがな」
「……っ!」
「しずく、俺はお前の趣味好きだぞ」
「え?」
「今度、舞台か映画に招待してくれ、喜んで行かせてもらおう」
そう言って勘助は時間だと言って、バトンタッチを申し込んだ。その瞬間ドアが開いて出てきたのは……
「勘助先輩……しず子」
「後は頼むぞ部長、しずくは頑固だ」
「はい、わかってます」
そう言ってしずくの下に行ったかすみはしずくの眼を見た。
「かすみさん、私いい子の振りをしていたら楽になってた」
「だからこそ、私は自分をさらけ出すことできないよ……」
「しず子、何甘っちょろいこと言ってんだぁ!!」
しずくに全力でデコピンをした後かすみはしずくに言う。
「かすみんはね、しず子の事が好きだったんだよ!」
「え!?」
「ふぁ!?」
中須かすみの告白に聞いてた勘助としずくが声を上げる。それでもかすみは続けた。
「かすみんの事可愛いって言って! しず子はどう思ってるの!」
「……可愛いんじゃないかな?」
「私は桜坂しずくのこと大好きだから!!」
盛大な告白の後、かすみはオーディション合格しろと言って出て言った。しばらくしてしずくも勘助も笑ってしまったがそれでもしずくの表情は柔らかかったという。
「よかったなしずくさん」
「……ええ、勘助さんもありがとうございます」
「私は何もしてないよ。かすみが告ってくれたから」
「なんだか恥ずかしいですね……」
そしてしずくは勘助の眼を見て礼を言った。
「2度も助けてくれてありがとうございました」
「君は一人ではない、君の演劇を見届ける権利が……いや義務が私たちにはあるよ」
そうして二人は笑ったのだった。
☆
ある日の休日1年生組と勘助で映画を見に行くことになった。映画はしずくのイチオシである。
「俺も一緒でよかったのか?」
「ええ、やっぱり勘助さんにも付き合ってほしいです。約束しましたから」
「私楽しみ。璃奈ちゃんボード『わくわく』」
「かすみんも楽しみだよ!」
しばらく話しているとふいにしずくが、言った。
「あ、かすみさん、この前の私への告白の件だけど」
「あ、あれは忘れてって言ったじゃん!」
「ううん。せっかく言ってくれたから私も誠心誠意返さないと」
「璃奈さん私たちはこっち行くか」
「うん。璃奈ちゃんボード『回避性能』」
そう言って勘助と璃奈は少し離れる。しずくはかすみの眼をしっかり見て言葉を言おうとするが、璃奈と勘助は蚊帳の外だった。と思ったが……
「ごめんなさい。私勘助さんが好きなの。痴漢から助けてもらった時も今回のことも踏まえて勘助さんの事好きになっちゃった。だからかすみさんの気持ちにはこたえられません!」
え? という言葉が3つ出てきた後、しずくが勘助に抱き着いた瞬間、顔を赤らめる男と、私も。と抱き着くピンク髪、アイドルは恋愛禁止だと大声で叫ぶかすみの姿がそこにあった。勘助が避難したところは蚊帳どころか敵地のど真ん中である。
「というわけで負けないよ、璃奈さん」
「うん。璃奈ちゃんボード『ならば受けて立つまで』」
「かすみさん助けて」
「かすみんに言わないでくださいよぉ!」
勘助に対しての恋愛視線が1つから2つになった!