虹ヶ咲のシンガーソン軍師   作:初見さん

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番外編2 重箱

「Ah,Like it! I Love it! 彩り鮮やかな万華鏡……」

 

 山本勘助は昼休み、教室から出て歌いながら庭まで移動しようとしていた。

 毎日学食だと高いので、自炊した弁当を持って上機嫌で歩いていたのだが、廊下の曲がり角で鈍い音と共に自分が何かにぶつかる感覚と冷たい感覚がした。

 

「あ! す、すみません! 止まり切れなかったです!」

 

 ふと目線を下げると黒髪のショートヘアーに、口を開ければ少し見える八重歯を持つ少女がいた。それと同時に、自分が彼女とぶつかったことと、彼女のペットボトルが閉まりきっておらずお茶が勘助の制服に付着したと気が付いた。

 

「ごめん、私もしっかりと前を見てなかった」

 

 そう言って、彼女のことを気にかけて自分のことは気にしないでくれと去ろうとしたが、どうしてもお詫びをしたいという少女の言葉に折れ、一緒に昼食をとることになった。

 

 ☆

 

「本当に申し訳ございませんでした」

「構わないよ、ジュースならともかくお茶くらいなら洗濯すれば落ちる。あまり気にするなよ」

「そういうわけにもいきません」

「んじゃ、そこの自販で同じお茶買ってくれよ。それでチャラだ」

 

 ついでに一人で寂しいから昼ごはん一緒に食べようぜと、勘助が言うと少女は少し笑いながらお礼を言った。そういえばと勘助が自己紹介をしようとすると……

 

「2年普通科……いえ、今は音楽科でしたか、山本勘助さんですよね」

「知っているのか?」

「こう見えても生徒会に興味がありまして、中川生徒会長から生徒会の話のついでですが、あなたのことは伺ってます」

「スクールアイドルフェスティバルの前座ライブもお見事でした」

 

 彼女に言葉に少し照れながらお礼を言う勘助。そして少女も自分の名を教える。

 彼女の名は1年普通科、三船栞子(みふねしおりこ)。三船財閥という大きい家柄の次女だという。勘助も少しだけなら知識はあった。

 

「そういえば母さんが三船家の話をしてたな」

「貴方のお母様が?」

「ああ、縁も所縁もないと思うが、なんか知ってたぞ」

 

 少し疑問に思った栞子が勘助の名字を聞く。勘助の父が山本信玄であり、母は三条彩香という名だと言うと彼女は驚き勘助に説明した。

 

「三条家は三船家の師匠のような家系です」

「何? 師匠?」

 

 彼女の話によれば三条家は三船家が大事にしている日本舞踊の模範となっており、三船家の日本舞踊は三条家の技を継いでいるらしい。だが、勘助は納得いかなかった。

 

「私はロシアの血がほんの少しだけ流れている。目もオッドアイであるように、私の母はロシア人のクォーターだ。日本古来の家柄とは遠いと思うが」

「おそらく外国の血筋の方なども婿に入れることで多様性という点で三条家の地位を確立させたのでは? 現に三条家に家族としてでなく弟子としていろんな国籍の方がいたはずですよ」

「日本舞踊の弟子多国籍から取ってんのかよ」

 

 なるほど。外国の人も日本文化に興味のある人間は多数いる、厳しい修行ではあるが、おそらく自分の母方の祖父か祖母がロシア人で慣れない環境ながらも愛ゆえに婿になったのだろう。

 勘助からすれば感動的なお話である。だが、母親からそんな話は聞いたことがなかった。

 ただ、昔はお金持ちの家にいたけどノリと勢いで会社員をして家を出た話くらいの話だった。そのお金持ちの家が三条家というのなら少しは理解はできるかもしれない。

 納得はしてないが、話を理解した勘助はとりあえず栞子に伝える。

 

「まぁ、家柄では私と栞子さんは師弟関係だが、虹ヶ咲学園としてはただの先輩と後輩。つまり友達だ。気にせず飯でも食おうぜ」

「不思議な人ですね、初対面の私でも友達ですか?」

「同じ場所でこうして飯食うんだから友達でいいんだよ」

 

 ある程度の話とお詫びの話も終わったので弁当を二人で食べようとしたのだが、栞子は勘助の弁当を凝視していた。

 

「どうした、私の手作りだけど食うか?」

「い、いえ、つかぬ事お伺いしますが、それお昼ごはんでしょうか?」

「おう、私の昼ご飯だけど」

 

 栞子が見たのはおせちなどに使う3段ほどの重箱だった。1段目にご飯を詰め込み、2段目には魚やから揚げなどのたんぱく質。そして3段目にはトマトやレタス、玉ねぎなどで作ったサラダがこれでもかとぎっしりと入っていた。

 いや、お昼に食べる量じゃないだろと、栞子が突っ込むが勘助曰く普通とのこと。そして10分後に平らげた。

 

「ご馳走様」

「早すぎません!?」

「いつものことだ」

 

 呆気にとられる栞子を無視して買ってもらったお茶を飲む勘助。栞子も流石に恐怖した。

 

 ☆

 

「それじゃあまたどこかで」

「ええ、それではまた。今日は本当にすみませんでした」

「いいってことよ」

 

 そして二人は別れたのだが、それからまた栞子とすぐに会うことになるのは勘助も栞子も知らなかったのだった。

 

「あれ? 栞子さん? なんで同好会に?」

「あ、勘助さん。この予算案に不備があったので訂正をお願いしに参りました」

「あ、ごめんな。うちの部長に伝えとく。とりあえずこれでいいか?」

「勘助さんも書類関係は出来るんですね」

「まぁ、かすみ部長を手伝ってるしな」

「せつ菜ちゃん、璃奈ちゃん、しずくちゃん、また勘助君が女の子誑かしてる!」

 

 侑に人聞きの悪いことを言われるのも、3人に事情を話す羽目になるのも時間の問題である。

 

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