虹ヶ咲のシンガーソン軍師   作:初見さん

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第23話 即興劇へようこそ

「芸を仕る」

「芸?」

「今飲み切ったスチール缶が……小っちゃくなっちゃった」

「手で握りつぶしただけですよね!?」

 

 同好会でメンバーが集まっていない時、しずくと勘助は手持無沙汰だったので何かないかと模索していた。勘助がたまたまゴミ箱で見つけたスチール缶を、まるで色の水という名前のペットボトルのように簡単に握りつぶした。

 化け物じみた芸にしずくも苦笑いしながら突っ込みを入れる。その後も勘助はゴミ箱をすっきりさせるという名目で、アルミやスチール缶、ペットボトルを両手で2つ同時に握りつぶしコンパクトなサイズにして捨ててゴミ箱をすっきりさせた。因みに現実でやると良くないことなので真似はしないで欲しい。

 そんな勘助を見てしずくは少し不安になった。勘助は自分をどう思っているのかと。

 曲がりなりにも直球で告白したしずくである。勘助もそれを忘れてはいない。それでも、最近は璃奈と仲が良すぎるしせつ菜は幼馴染もあってよく話している。だからこそ自分が勘助との距離を置いて行かれるような気がした。

 

「どうしたしずくさん?」

 

 急に素で心配してきた勘助にしずくは決意をして話した。

 

「勘助さんは私の事、好きですか?」

「ああ、好きだよ」

 

 自分は告白された立場だが、どう返事してもしずくと自分の関係は大事な仲間になると勘助は言った。だからこそ、しずくは気が付いた。

 おそらく、自分は選ばれないだろうと。諦めたくはない、それでも勘助の声や表情はまるでしずくを大事な仲間としてしか見ていない。そういう風に見て取れた。

 

「……どっちが」

「え?」

「どっちが好きなんですか? 勘助さんは」

 

 勘助は言いずらそうに頬をかいて少し照れながら、しずくには教えると言って、その名を告げた。

 それでもしずくはそうですかと、目を閉じていつか略奪してやると高らかに宣言しやがった。

 

「話が全然良い方向に向かない」

「前田の理想のヒロインは勘助さんだけですし」

「前から思ってたけど誰だよ。前田」

 

 ☆

 

 文化祭とスクールアイドルフェスティバルの合同イベントに使う曲を決めていた。

 ユニット曲も入れるとかダジャレを言いまくるとかいろんな案が出てきたが、侑が愛にダジャレで笑いすぎてるのであまり集中できなかった。

 

「前夜祭企画を?」

「はい」

「面白そうだな」

「勘助君また肯定した」

 

 しずくから話があると言われた侑と勘助のマネージャーチームは、しずくから文化祭とスクールアイドルフェスティバルの合同前夜祭として同好会と演劇部で何かをしたいと言った。

 そこで出たのはしずく含めて歩夢とせつ菜の3人ユニットである。勘助も確かにユニットを組んでいないのはこの3人だけだと納得しながらしずくの言葉に耳を向ける。

 侑は驚いていたが、勘助はいつものように肯定をした。その後日、しずくと侑と勘助の三人は待ち合わせをして私服で出かけた。

 

「私服の先輩久しぶりです」

「私はそうだけど勘助君も?」

「私は鎌倉のバイト帰りにしずくさんと会うんだ。休日の朝も一応手伝ってるからいつも制服ではないんだよ」

「たまに遊びますもんね」

 

 なるほどと侑が理解しながら、さらっとデートじみたことをしていることに気が付くが、それを指摘すると少し気まずそうに勘助は頬をかく。

 深く聞いてみると、たったしずくが一言。フラれましたと。驚きながらも勘助の顔を見ると責められなかった。何かを決意したような、もう心に決めた人がいるというような眼、そんな勘助の態度もあってか侑はあまり口に出せなかった。

 

「ユウチャンハワタシノモノナノニ」

「歩夢さん怖いです」

 

 ちなみに、せつ菜と歩夢が尾行してることは一切知らない。ただのストーカー軍団だった。

 

「これお恥ずかしいんですが前回話した台本です」

 

 しずくが一冊のノートを見せてくれたので、勘助と侑は二人で見てみる。事細かな演出や描写が書かれていてとても読みやすかった。

 

「歌とお芝居のユニットをこれをベースにしたいと思っていまして」

「なんか禁忌って書いてる付箋あるんだけど」

「あ、しまったちょっとま……」

 

 待ってほしいというしずくの声よりも先に勘助と侑が見てしまった。そこに書かれていたのはほぼ18歳未満厳禁な膨大なエロシーン。

 突然の官能小説見られたしずくはおろか勘助と侑も顔を真っ赤にした。

 

「せつ菜と歩夢さんが……えっと、交尾してる」

「交尾言わないでください!」

「これ……すっごくいいよ!」

「正気かよ侑!?」

「歩夢が野獣のパターンも欲しい!」

 

 思わず勘助がさん付けを抜いてしまうほど衝撃な発言をした侑だが、それでも台本のクオリティが良いのは事実。それでも官能的なシーンはあれなので、これからしずくと出かけてこの健全な方の台本をもっと膨らますことにした。

 

「なんかすっごく仲良さそう。侑ちゃんとしずくちゃん」

「なんかすごく仲良さそうですね、しずくさんと勘助さん」

 

 嫉妬のストーカー組は隣の車両で探偵だから健全と言い訳をしながら尾行を続けていた。

 途中で転びそうな子供を助けたのもあり、結局しずく達に見つかることになるのだが、歩夢のヒーローショーを見に来たという言い訳により勘助たちも納得しながら一緒に参加することになった。

 

「頑張れジャッカル!」

「いけぇ! ジャッカル!」

 

 ヒーローショーはせつ菜と勘助が子供に紛れてめちゃくちゃ応援していた。せつ菜にアニメを進めたのは勘助だったので、勘助もこのアニメを必然的に知っていたのだ。ものすごく感動したというせつ菜の言葉に勘助が頷き、そのまま合流した遊園地で遊ぶことになった。

 ジェットコースターではせつ菜としずく、勘助が盛り上がり高いところで侑が悲鳴を上げ、ガラじゃないと恥ずかしがりながらメリーゴーランドに乗る勘助。

 お化け屋敷では侑が歩夢の後ろに隠れたが、以外にも悲鳴を上げてせつ菜の後ろに隠れた勘助がいた。

 

「ビビらせる系のホラーは苦手なんだよぉ」

「心霊写真とかは平気なんですけどね」

「意外ですね」

 

 その後大きなカップをみんなで全力で回し、しずくが酒飲みすぎた人のように吐き気を催していたが、その姿はワンカップを飲みまくった酒カスだったという。

 

「あ、そういえば私、今度虹ヶ咲で教育実習やるから」

「え!?」

 

 5人が遊んでる間に三船家の姉、三船薫子(みふねかおるこ)とその妹の三船栞子がそんな会話をしていたことを知る由もなかった。

 

「相変わらず切り替えの早さプロ並みだな」

「いつものことですから」

「そういえばしずくちゃんあの話歩夢たちにしたら?」

 

 せつ菜が生徒会の話を電話で終えたとき、侑の言葉に反応し、禁忌と書かれた場所以外のノートのページを見せてしずくは説明した。歩夢とせつ菜の3人で新ユニットを作りたいこと、今回のお出かけはその話をまとめるアイデアのためのお出かけであること。

 念のために、歩夢とせつ菜で妄想同人作品を作ったことを謝った。途中せつ菜が禁忌のページを開こうとしたので勘助、侑、しずくの3人で全力で止めた。

 

「私どうしても歩夢さんとせつ菜さんのカップリング……いえ、ステージが見たいんです!」

「おい前田本音漏れてるぞ」

「誰ですか前田さん」

 

 見知らぬ名前の人間を勘助が発したが、せつ菜の突っ込み飲みで不発に終わる。

 ユニットを組むイメージはなかったと言いつつも面白そうだというせつ菜と、

 

「侑ちゃん浮気じゃないよね?」

 

 と病みだした歩夢を尻目に勘助は少し笑いながらそろそろスクールアイドル展見に行くかと言った。

 いろんなアイドルやジャンルをみんなで見て、自由やときめきを感じた。途中でお土産ブースで爆買いしていた鐘嵐珠と合流しスクールアイドル展の感想を語り合った。

 

「音楽科の成績どうなのよ。中途半端にしないで自分の夢に向き合ったら?」

「貴方はそれに満たされても何も生みだしてない」

「嵐珠さん、それくらいにしておけ。侑さんも分かっているはずだ」

 

 ランジュの言葉に勘助が制するが、侑が彼女にお礼を言った。鐘嵐珠がそう言ってくれたから今前向きに頑張れていると。点数はギリギリだがもう少し自分のことを見ててほしいと真っすぐ伝えた。

 ランジュは侑の言葉に驚きながら帰っていったが、その後しずくがなぜか謝る。

 

「申し訳ありません、自分のしたいことを勝手に照らしてたのは私です」

「自分だけで満足してたんです」

「しずくさん……そう思うならやってみたらどうだ?」

「え? やるって?」

「そうですよ! やってみましょう! 自分だけ満足して本当に何も生み出せていないか答え合わせです!」

 

 勘助の言葉にせつ菜が同意する。しずくと歩夢は困惑しながら、せつ菜と勘助を見るのだった。

 スマホでカメラを準備した勘助は、せつ菜に合図を送ると、せつ菜が演劇のように語りだす。

 

「ここはダンスホール、タキシード姿の野獣のもとに、華やかなドレス姿の少女がやってくる」

 

 セリフは覚えてないが、即興劇を開始した。魔女に呪われた王子が獣になった設定で、勢いのままやってみた。

 

「今のあなたにできることを一歩一歩やっていけばいいと思う」

 

 アドリブだけで話が進む、勘助も無言でカメラを回す。カットなんてしなくても編集すれば劇になると考えた勘助は一切喋らず、ただ無言でカメラを回す。

 

「お久しぶりです、私は以前、貴方を野獣にした魔女!」

 

 面白いと勘助は思った。ドタバタしている二人の中にしずくも交じって一つの劇を作り上げる。たどたどしさはあっても、自由すぎるセリフで作り上げる舞台。

 型にはまらなくても面白いものが作れる。それは勘助の音楽も言えることだと思った。

 

「そうか……エチュードもいいもんなんだな」

 

 そう呟いてこの劇を最後までカメラの納め続けた勘助。侑も侑で拍手を送りながらこのエチュードという名の即興劇を楽しんだのだった。

 観覧車の中で勘助は口にする。

 

「今日はありがとう。みんなのおかげで私も何か掴めそうだ」

「私たちは何もしてないですけど……」

 

 しずくの言葉に歩夢とせつ菜が頷く。自分たちのユニットを考えただけなのになぜ勘助が礼を言うのか理解しがたかった。

 勘助はヒントを得れたのは3人の即興劇だという。固定概念にとらわれず、自由でも素晴らしいものが出来るというのを知れたんだと。そして、勘助はもう一度礼を言った。

 

「私も、出来る気がするんだ、今なら。もしかしたらだけど、ヒントやコツは掴めた」

 

 そう言って自身のギターに手をかけたところをここは観覧車の中だと4人に止められたのだった。本当にどこから出した?

 

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