時は数年前にさかのぼる。とある学校に一人の男の子がいた、彼は誰とも遊ばずただ一冊のノートに父から学んだギターのポイントや、自身で考えた歌の歌詞を書き連ねてギターの勉強を遊びの一環として楽しんでいた。
そんな少年がある日、一人の少女と出会う。
少女は不思議な人だった、自分と同じで机に向かいノートで勉強をしていたのだが、どうにも楽しそうに勉強をしていなかった。少年は学ぶことは楽しいことだと考えていたのもあって、その少女に声をかける。
「なんで、暗い顔して勉強してんの?」
少女は少年を一瞬見て、すぐノートに眼を落した、無言であったが少年は言葉を続ける。
「勉強って楽しくやるもんだぞ。楽しくねぇなら俺と他のことしようぜ」
良くも悪くもナンパ師のような口説く文句。少女は最初こそ嫌がったものの少年に手を引かれて、強引に外に出されたり、ギター演奏を聞かされたりした。
少女は本当は遊びたかったのだが、家庭が厳しく遊べなかったと言った。だから少年は考えた。
なら、自分が彼女を超えればいいと。
勉強で彼女を超えたら、彼女が成績が上がるように教えてあげたと偽って遊べばいいと小学生では考えられないことを彼はやってのけた。
そんな彼に少女も惹かれる。そして、彼が持ってきたスクールアイドルの雑誌にも興味を持つことになる。
「スクールアイドルやりたいです」
「やりゃいいじゃん。俺が曲作ってやるよ」
簡潔に簡単に驚くほどのスピードで決まった。彼女がスクールアイドルをして彼が曲や振り付けを考え彼女と共に二人三脚で夢を追いかけた。
「俺がお前を逃がすわけないだろ、優木せつ菜」
そうして今、彼は未だに彼女を応援し続けている。いつか彼女の大好きが、世界に伝わるのを信じて……
☆
「なるほど、優木せつ菜さんは生徒会長だったのですね」
「知られてしまったのなら仕方ない。死んでもらおう」
「お断りしますので、そのユニコーンさんをしまってください」
「今日のところは秘密にしてくれるなら見逃してやる。そういえば君のお姉さんにあったぞ、薫子先生だっけ。栞子さんの眼と八重歯が瓜二つだ」
「ああ見えて豪放磊落ですよ。部屋にセミ投げたりしてきますから」
「それ私も母さんにやられた。勉強に集中しろって」
「やはり三船家と三条家は血が濃いんでしょうか?」
「さぁ?」
勘助は同好会の部室に来た栞子と仲良く話していた。音楽科に教育実習生である栞子の姉の話を混ぜながら、楽しく話している。
一方で、現在優木せつ菜こと中川菜々は最大のピンチを迎えていた。生徒会の話をしている優木せつ菜を栞子が見てしまって、生徒会長の中川菜々が優木せつ菜だと栞子にバレてしまったのだ。
だが、歩夢としずくがカバーをする前に勘助がもう遅いと言わんばかりに正体をばらした。また、戸惑うせつ菜をよそに勘助と栞子が仲良く話している姿に歩夢としずくも驚いている。
「この事は内密に頼むぜ栞子さん」
「ええ、別にばらすつもりはないですよ。安心してください」
「中川菜々さんも優木せつ菜さんもそれぞれの適性がありますから」
適性という栞子の言葉に勘助は笑う。栞子の適性検査は信用できないと前回の占いの恨みを話したが、栞子もいつか証明されると言って互いに笑った。
「……私の正体はバレずに済みそうですね」
「私がせつ菜さんになり切って、せつ菜スカーレットストーム! をしなくてもよかったんですね」
「しずくさん、やり直しです」
「え?」
しずくのあまりの適当なスカーレットストームにせつ菜が苦情を入れて練習させられたのは別の話。
☆
「何? キャパオーバーだと?」
勘助と侑の声が少し違いながらも一致した。みんなのユニットやランジュのライブで有名になったこともあり、締め切り前に応募者が殺到。全てを行うのが困難になった。
参加者を抽選ということも考えたがいたたまれずやめた。勘助は顎に手をやると話を理解したと言った。外も急遽であったため申請場所もなくなり、ほぼ手詰まりだったという。ランジュも話を聞いて同好会の部室にやってきた中で話し合いが行われる。
「勘助先輩何か案はないんですか?」
「正直……まぁ、生徒会だより」
「それが出来ないから困ってるんですよ」
かすみと勘助が小さく会話してる中、文化祭のステージで意見が分かれているという話も聞いた。結局答えは出ないまま、話し合いは終わってしまった。
「……勘助さん、話がある」
「璃奈さん? どうしたよ」
「フェスの件」
「ああ、あれか」
璃奈がこっそりと勘助を呼び出して二人きりで話し合う。そして璃奈は一言勘助にはっきりと伝えた。
山本勘助にはこの状況を打開する策があるのではないかと。
「どうしてそう思う?」
「生徒会だよりってことは、考えを変えれば生徒会の意向によって策を練るって感じに聞こえた」
「教えて、勘助さん。私もどうにかしたい」
「それは無理だな」
勘助は首を振る。理由を聞くと勘助から帰ってきたのは意外な話だった。
生徒会の面子が立たないことと、この策は保険。それが理由だった。
「生徒会がまだ必死で考えてるのに、一般生徒である私の一か八かの策に乗られるわけがない。生徒会がお手上げになってから……はっきり言うと菜々が根を上げてしまった場合の保険なんだよ」
「だから、生徒会の面子のためにまだこの策の実行も提案もできないし、璃奈さんにも言えない。最悪私が何とか立ち回るさ」
勘助の言葉に少し俯いたが、すぐ勘助の方を向いたそれでも教えてほしいと。
勘助は璃奈になぜそこまでと疑問を抱くが、璃奈はすぐ言葉にした。
「勘助さん、独りよがりは一番勘助さんがやっちゃいけない。絶対ダメ。私たちみんなの問題はみんなで考えないとダメ。だから、教えてほしい」
はっとなる。勘助は隠し事が嫌いだった、だが、生徒会のことを考えるあまり、自分で隠し事をして自ら一瞬でもこの策のために一人で動こうとした心を璃奈に咎められたからだ。
勘助は笑う、俺も落ちたなと自虐しながら笑う。成長できたと思った勘助は、本当は誰かに成長させてもらっていたことに気が付いた。
「璃奈さんごめんなさい……俺も焦って何も見えてなかった」
「よく考えたらこの策も俺一人じゃ無理だわ」
「ありがとう璃奈さん、俺伝えるよ、だから璃奈さんも、協力頼めるかい?」
勘助の言葉に璃奈は勢いよく頷き、そして勘助は伝える。その策を。
それは、確実に詰みの一手を仕掛けられた問題に逆王手の詰みを仕掛けるほどの策。他の人では一瞬考えられない、それでも、みんなの力を信じたら解決できるそんな一手を勘助は伝えた。
「作戦名はな……学園領地拡大作戦だよ」