「勘助さん、私正体ばらします」
「お前が決めたのならいいんじゃねぇの。ただ、私にも協力させろよ」
「本当にYesマンですね」
「いいじゃねぇか、否定するよりよ」
「そういえば勘助さんってなんで私っていうんですか? 熱くなって俺って一人称戻るならずっと俺でいいと思うんですけど」
「面接で俺っていうやついるかよ、社会に困んねぇようにするためだ」
「本当に真面目ですね」
フェスティバル開催の前に勘助と菜々がする話は真面目な話だが、二人は座って飲み物を飲みながら、緩やかに会話をしていた。こんな距離感だからこそ、幼馴染も悪くないと勘助は思う。
そして……一通りの会話が終わり、静かになったところで勘助は菜々に告げる。
「なぁ、菜々。大事な話があるんだが」
「はい……なんでしょうか?」
「好きな人が出来た」
「……そうですか」
菜々は勘助の大事な話に静かに耳を傾けて、そして笑いながら、少し泣きながら幼馴染を祝福する。
☆
前夜祭でビデオが流れる。しばらくすると、生徒会長挨拶シーンにて中川菜々は発言した。
「こんにちは、生徒会長の中川菜々です。私は今回の出来事で私も助けられて、感謝するたびに、もう今の私は大好きを隠す必要がないんだって気づくことが出来ました」
「今回の最大の功労者である合同文化祭大隊長兼スクールアイドル同好会マネージャー、山本勘助さん並びに協力してくださった生徒の皆さんに心からお礼を申し上げます」
そう言って隣に映る勘助に礼をした。
「今回この合同文化祭が出来たのは中川菜々生徒会長並びに生徒の皆さんのおかげでございます。本当にありがとうございました」
勘助も菜々に礼をした。そして本題に映る。
「そういえば、菜々会長。どうやら貴方スクールアイドルに興味があると伺いましたが、やらないのですか?」
「ええ、やってみたいと思います。しかし何から始めればいいのか分からないのです」
急に始まる芝居に生徒たちも動揺する。それでもビデオは止まらない。
「お任せください、この山本勘助。我が幼馴染の頼みとなれば全力を尽くしましょうぞ」
そう言って勘助は菜々の髪留めをほどき、素早い動作で衣装を羽織らせて、軽くメイクを施した。菜々や同好会のみんなとの会話でメイク手順は完璧に覚えている。
ここまでで、察しのいい生徒は気が付いたのかもしれない、まさか、あの正体不明のスクールアイドルは……
そして勘助は菜々の眼鏡をはずしながら、声を出した。
「最後に私から貴方にスクールアイドルとしての名前を授けましょう」
「素敵ですね、どんな名前でしょうか?」
ここまでしてほとんどの生徒たちは疑問から確信に変わる。中川生徒会長の本当の正体を……
「今から貴方の名前は優木せつ菜。スクールアイドルになれる刹那の時間に勇気を、貴方に与えます!」
そして暗転、歩夢としずく、そして先ほどのせつ菜がA・ZU・NAというユニットとして登場した。
「まさか前座じゃなくてメインで俺がぶち込まれるなんてな」
本来この時間は勘助の番だったが、せつ菜の正体バレのタイミングと勘助の実力ならスクールアイドルに混ざってもおかしくないということでその次に出番を回された。
「緊張してる?」
「ああ……まぁそうだな……」
隣で璃奈が心配そうに勘助を見る。勘助は璃奈の眼を見て言った。
「演奏するのも久しぶりな気がするんだ。基礎連はやっていたが、事件があって、大隊長してからまともに弾いてないからな」
「大丈夫。出来るよ」
そう言って璃奈は勘助の左手を握った。勘助も、少し力が欲しいと言って璃奈に手を握ってもらう。数十秒経ってようやく、離す。そして笑う。
「璃奈、この前夜祭終わったら少し付き合ってもらう。だから、待っててくれ」
「うん。勘助さんの演奏聞いて待ってる」
「戻ってくるよ、必ず」
そう言って璃奈を抱きしめる。出番が来て客がざわついた、どうやら急に男が紛れ込むプログラムに驚きを隠せないようだ。
それでも勘助は前に出る。
俺のたった一つの願い。
可能性のギター。
希望と絆の象徴。
父さん、母さん、俺は……もう迷わない
「山本勘助です。私はスクールアイドルではありません。ですが、スクールアイドルを知らない方も楽しめるようにエンターテイナーとして演奏させていただきます」
「私の父は山本信玄、1年の伝説を作り上げた化け物です。そんな父を私はあまり尊敬しなかった」
「私を放って音楽をやったせいで指導者もいない私は全然ギターが上達しないから」
勘助の言葉に少し笑いが起こる。そして笑いが終わり次第改めて言う。
「結局父は私のギターが上達する前に亡くなりました。ですが、私は今この舞台に上がれるほど経験を積んだ」
「スクールアイドル関係ないから早く終われと思ってる人、そもそも私を知らん人、知ってるから楽しみな人、いっぱいいるでしょう」
「それでも! 今日はどんな人にでも見せてやる。山本勘助の名を伝説を、全てを」
そして勘助はピックを準備して宣戦布告する。
「安心しろよ、退屈なんてさせねえぜ」
「ユニコォォォォォォォォォォォォォン!!」
勘助の咆哮の瞬間、スローモーションより少し速い速度でワイヤーに繋がれたレフティーギターが勘助のもとに客席に大きな円を描いてブーメランのようにやってくる。
それを左手で取り、肩に一瞬で担いだ後は持ってたピックを親指で垂直に弾く。
一枚のピックは時にギターを演奏する道具になり、
時に人の心を打ちぬく弾丸となる。
弾いたピックを左手で受け止め全力で音をかき鳴らした。
今までのどの歌よりも圧巻だった。これが山本勘助かと言わしめるほどの高速ピッキングやビブラート。
全ての技で魅せる。
「……はっ、急に甥っ子が俺を呼んだかと思えば。何だよ、信玄さんよりやるじゃねぇか」
上下黒スーツサングラスをかけて白髪の短髪の5,60代ほどの男がボソッと声を上げた。勘助の叔父、
信繁は今日初めて知った、自分の甥がここまでのギターを弾いていたことを。
「信玄さん、安心しろ。貴方の息子はいつか貴方より高みに行く」
そんなことを呟いていたのは勘助は知らない。だからこそ、興味に来てくれるであろう信繫含むすべての人たちに全力を出す。
「ついてこいやお前らぁぁぁぁ!!」
そして勘助は前回を超える伝説を作り上げた。後に虹ヶ咲の伝説のギタリストとして学校から卒業式に表彰されるのだが、それはまた別の、もっと先のお話である。
☆
「よう、璃奈さんどうよ、俺の演奏は」
「化け物だった」
それは誉め言葉になるのかと勘助は苦笑する璃奈からしてみればすごいしか言えないし、表情にも出ないのでこんな言い方をしたが、最大限に褒めていた。
時間もそんなになかったのでと、勘助は璃奈を呼び、目を合わせる。
「璃奈さん、いや、璃奈でいいかもう」
「うん、そうして欲しい」
「……好きだ。俺でよければ共に歩んでほしい」
「普通に付き合ってくださいでいいのに」
「かっこつけたっていいだろ!?」
盛大な告白を足蹴にされた勘助だが、璃奈がそっと勘助の眼を見て言う。
「勘助さん。今日は、今この時だけはボードに頼らない。私も勘助さんが好き……です。付き合って……ください」
「敬語はいらねぇよ、もう恋人だろ」
「……勘助さんも私の一世一代の告白を足蹴にした。せっかく苦手な敬語つけたのに」
お互い様だとその後二人で眼を見て笑う。璃奈は表情には出てなかったが、勘助には、勘助だけにはその時の璃奈は笑っていたとはっきり思い出話としていえる自信があったのだった。
「そういえばせつ菜さん達は?」
「振ったよ」
「酷い人」
「嘘でしょ!?」
なんて冗談と言った璃奈は身長差で届かなかったので、勘助が突っ込みを入れた瞬間無防備になった左手にキスをした。
勘助もそれに気が付き、今度は勘助がしゃがんでから璃奈の口にキスをした。
メインヒロインは璃奈ちゃんにします。