「ユニコォォォォォォォォォォォォォン!!」
「勘助さん演奏前に叫ばないでください」
音楽科の授業中、課題披露をしていた勘助だったが、いつもの癖で叫んだ結果少しばかり減点を食らったことがあった。
これで音楽科の成績トップ争いは思わぬ形でミア・テイラーに軍配が上がる。勘助はすぐに悔しさをあらわにしたと言う(諸説あり)
閑話休題
「いやぁ、久々に笑っちゃったよぉ!!」
「笑わないでください薫子先生」
課題終わり後、教室を出た勘助だが、途中で音楽科の教育実習生、三船薫子に眼をつけられ世間話ついでに笑われていた。
本来合同文化祭中なので授業はないはずだが、勘助曰く、珍しく一つ課題を忘れていたらしく、追試と言うような感じで一人で課題をさせられたのだ。実技だったのですぐに終わったのはいいが、これが筆記だったら早く終われなかった。だが、実技のせいで今この人に笑われている。
「いやぁ、ごめんごめん。ところで勘助が最近誰かと付き合ったって聞いたけど本当?」
「なんで先生がそんなこと……」
知っているのかと最後まで言う前に、あざ笑うかのように笑顔と八重歯を向けた実行委員を思い出す。それは紛れもなく、三船栞子だった。
真面目そうなふりして結局女子は恋バナが好きなのかと少し文句を言いながら、璃奈と付き合っていることを伝える。
軽く特徴を言ったら薫子もそんな子がいたなと、思い出してくれたようだ。
「なんだ、てっきり栞子が彼氏作ったと思ったのに」
「こんな将来安定しないシンガーソングライターと栞子さんが付き合えるわけないでしょうよ」
「学生のうちは収入とか気にしなくていいの、それに、お互い話しやすいとか、一緒にいても疲れないっていうのが長続きの秘訣よ」
「勘助と栞子、あんたたち意外と至る所で話してるじゃない。だから相性的には栞子も悪くないんじゃない?」
「確かに栞子さんは良い子ですけど、家族の中で部屋にセミ放り投げるのは私の母だけで充分です」
「それって間接的に私をディスってない?」
やっと気づきましたかと勘助はさっき笑った仕返しをするが、その瞬間教育実習生といえども、教師に人生初のチョークスリーパーを食らったのは、例えお釣りをもらっても許せなかった。
「そこまで妹を推すならスクールアイドルさせればいいのでは? 栞子さんってスクールアイドルやらないんですか?」
「あぁ……やりたいっていってたけどね」
薫子の反応を見てしまった、地雷だったかと勘助は薫子の表情から心で舌を打つ。どうやら薫子自身がスクールアイドルをしていたのだが、ふがいない結果で終わり、栞子をがっかりさせてしまったのだとか。
勘助はそれを聞きながらもそれでもと言った。
「あいつがやりたいって思ってくれたら、薫子先生もうれしいのでは?」
勘助の言葉に一瞬だったが、薫子は小さく頷いた。
☆
「というわけでやらねぇか?」
「お断りします。私の適性はスクールアイドルを応援することだけですから」
勘助の言葉に返ってきた言葉はこの一言だった。無理にとは言わないけどと勘助は言ったが、少しだけ引っかかった。
「まぁ、栞子さんがそういうならそれでいいか」
「ところで勘助さん、ここの演出の時のトラブル解決方法ですが……」
「そこは璃奈に任せよう、機械ならあいつの独壇場だ」
勘助と栞子がこうして話す回数が増えたのは、合同文化祭の実行委員と枠組みとしては実行委員に当てはまるが全てのプログラムや学校への指示、連絡、対応兼生徒会長補佐の複数が入り混じった大隊長の座を与えられた勘助が原因でもある。
そのせいで一部の生徒から勘助と付き合っているのは璃奈じゃなく栞子だという派閥がひっそりといたが、同好会メンバーが、主に愛のコミュニケーション能力のおかげで誤解を解けたので、たまに愛に小っちゃい女の子のアニメや漫画のキャラ画像を出力して渡しているのは別の話。
愛曰く、自分の璃奈が取られたとギャン泣きしたのも別の話である。
☆
「今日から一週間スクールアイドルフェスティバルか、なんだかワクワクしてきたな」
「いらっしゃいませこんにちは。って3回言った方がいい?」
「ブックなオフか」
ついに始まったフェスティバルでも璃奈と勘助はいつも通りだった。違うところを上げると、二人の距離がかなり近いのと、勘助も璃奈も冷静に言葉を発しているがフェスティバルの楽しみと初めての恋人との距離に迷って心臓が激しく高鳴っていることくらいだ。
侑はみんなで歌う曲を作ると言ってしばらく籠った。勘助も手伝おうとしたが、勘助はマネージャー兼エンターテイナーとして両立をしなければならず、今回の歌も勘助に少し歌うことを参加してほしいとのことで侑が作詞も作曲も大まかに手掛けることになったのだ。
「しかし侑さんもピアノ上手くなったよな」
「勘助さんもギターは前よりも格段に上手い」
「璃奈たちだって歌もダンスも昔の倍以上の速度で成長してるよ」
最初はぶつかり合ってなくなってしまったスクールアイドル同好会。それでも今はこんなイベントが出来る場所まで成長した。決して楽ではなかったが、それでも楽しかったから、みんなと支えあったからやってこれた。
「なぁ璃奈、俺さ、かすみさんと菜々としずくさんに礼を言いたいんだ」
「かすみちゃんに? それにせつ菜さんにしずくちゃんも……」
元々勘助とかすみが出会わなければ同好会を復活できなかった、しずくと会わなかったら果林やエマ、彼方サイドと合流した時男である勘助に不信感があったと思う。
せつ菜の正体をわかっていて言わなかった勘助を真っ先に許したのは他でもないしずくだったから。
幼馴染のせつ菜にも世話になったし、果林や彼方、エマの3年生達からは優しさとプライドの高さ、歩夢と侑には幼馴染の大切さなどを学んだと勘助は言う。
もはや3人どころじゃなくて全員だと突っ込みを入れた璃奈に対しても自分の支えになっていたと語った。
「人は弱いから託す、そのバトンはいつか次につながって、大きな夢や希望となる」
「俺もみんなに託したいな、自由で、楽しく、人を魅了できるシンガーソングライターの夢を……」
「勘助さんなら出来るよ」
ありがとうとお礼を言って、勘助は璃奈ちゃんボードがやりたいと言って、璃奈から画用紙と大きなマーカーペンを貰い自画像を描いたのだが……
「これ何? ゴミ処理場?」
「……俺の自画像だよ」
勘助が書いたものは丸、三角、四角、バツで書いたよくわからない物体だった。勘助は絵が壊滅的だということを、璃奈はこの日同好会1早く知った。勘助の数少ない弱点である。
☆
フェスティバルはさほどトラブルなく行われた、色んなスクールアイドルが出場して、笑顔と勇気を与え、夢をかなえて言った。
勘助もスクールアイドルほどでないが、集まった軽音部や、スクールアイドルを知らずとも来てくれた客、スクールアイドルを応援してもなお勘助の演奏に魅了されたファンと共にライブを盛り上げた。
璃奈も璃奈で1年生組とミアを引き連れて、フェスティバルに来ていた。
「……ねぇ、璃奈。あいつ何者?」
「あいつって?」
ミアが言うあいつ……山本勘助だった。結論から言うとミアはほんの少しとは口では言うが勘助の演奏が頭から離れなかった。
「こんなの初めてなんだ。テイラー家であるこの僕が、ただの日本人のアマチュアの演奏に心奪われるなんて」
「勘助さんは化け物」
「は?」
突然の璃奈の罵倒か誉め言葉か分からないセリフに呆気にとられた、璃奈は紫苑女学院のハンバーガーを食べながらミアに言う。
「勘助さんはお父さんがすごいだけで自分は大したことないって言ってた。それでも、努力するって。そのためには、自分の考えを一からリセットして、自分と他人に向き合って演奏するって」
「……無茶苦茶だよ、つまりあいつはあれか? 自分と相手の長所と短所を把握して強引に長所だけを伸ばしたのか?」
「うん。だから化け物」
ありえない話だとミアは言う。人間というものは人の振り見て我が振り直せという言葉があるくらい、自分の短所を認め、克服するのが一番困難である。
勘助はそれを成し遂げた。何ならもっと悪いところと良いところを見つけてさらに能力を伸ばしていく。
勘助は嘘が嫌いで真っすぐで、隠し事を苦手とするいわば、バカ真面目。だが、思考は柔軟で他者を思いやり、自分だけでなく他社の考えも認め取り入れるもはや人間の域を超えたニュータイプに近かった。
「勘助さんも楽な道じゃなかった。それでも! 勘助さんには私たちが、私たちには勘助さんがいた。お互い助け合って成長した人は、そう簡単に超えることはできない」
ミアの眼を見てはっきりと話す璃奈、その言葉には重みがありミアに苦い顔をさせるには充分な威圧だった。
「お互いの助け……成長……ふん、くだらない」
ミアは強がってでも否定する言葉しかこの場には持ち合わせていなかった。
「ちなみに勘助さんが本気出したら私たちみたいな背が低い人は踏みつぶされるよ」
「どういうこと?」
「勘助さんこぶし大の石ころを利き手じゃないほうで軽く握りつぶせるから。璃奈ちゃんボード『ガクガクブルブル』」
「monster!?」
☆
「ぜひ深淵をのぞいてみたいわ」
「我が深淵に咲く花を貴様の魔眼と言えども、ひとえに見ることは出来ぬ」
「ねぇ、何話してるの? 勘助君と紫苑女の子……」
「私たちの思考回路とか成長の秘密が知りたいそうですが、そう簡単にものにされても困るから、いつでも相手になるって言ってます」
「ごめん全然わからない」
「私たちは演劇とアニメのおかげで言葉がわかるんですよね」
勘助と紫苑女の生徒同士の会話に入れない侑だが、せつ菜としずくが翻訳してくれた。
「我が同胞もいつか貴方たちの宴の終焉を見届けたいと願っているわ」
「ならば砕いて見せよう。我らに終焉など無い。ここからがプロローグだ。そして、うぬらの力も束ね、ともに闇の力をこの世界に包み込ませようぞ」
「私たちのステージをこのフェスティバルの最後まで見たいと、彼女は言ってますね」
「いや違う、フェスティバルの最後が終わりじゃない。これからが私たちのスタートだから一緒にお互い頑張りましょうと……流石勘助さんです。私も演技の練習として勘助さんの振る舞いを身につけなければ」
「だからなんでわかるの!?」
紫苑女学院の
「え!? 薫子先生紫苑女だったんですか?」
「そうよ、こっちが妹の栞子」
「可愛い!」
「愛ちゃん鼻血!?」
紫苑女の展示室で歴代のスクールアイドルを見ていた中で勘助と侑は三船薫子が紫苑女のスクールだったことを知る。妹の小さい栞子に愛が興奮して鼻血を出したのだが、ギリギリ致命傷は避けた。
「懐かしいわね」
「なんか私教師にときめきました。栞子さんも可愛いな」
「勘助さんって愛さんと同じロリコン?」
違うと勘助は信じたい。璃奈を好きになったのも小っちゃくて可愛いからとかではないはずだ、いや、璃奈は可愛いがと悩みまくる勘助を尻目に薫子は言う。
「これは姉の勘なんだけど多分栞子もスクールアイドルをやりたい気持ちは変わってないと思う」
そんな言葉に勘助は栞子の事を考えて、璃奈に腰を叩かれるのだった。
「またほかの女の子助けようとしてる」
「でも、璃奈も止めないだろ」
「うん、それが勘助さんのいいところ。それじゃあ……」
これより軍議を開始する。そんな二人の言葉が重なった。