「お疲れ様です、栞子さん」
「せつ……菜々会長お疲れ様です」
フェスティバルが終わり後片付けをしに生徒会室に来た菜々。そこにはすでに栞子が来ていた。ふと目をやると一冊本が握られていたので何の本か聞いてみた。
「手荷物検査で来場者から一時没収したものです。コミケ? だかの帰りに寄ったそうで本が出てきたのですが、いかがわしい本だけを集めて少しの間同意のもと預かることにしたのです」
そう言って栞子が1つの大きな段ボールを菜々に見せる。中身はいろいろあるが、栞子の持っていたR指定本……つまりエロ同人を見て菜々が言う。
「栞子さん」
「なんでしょうか?」
「そういう作品のセリフで、私の(自主規制)に君の(自主規制)が入っちゃってるぅ、気持ちいいぃって実況風景で言われるとなんか萎えません?」
「言ってることはわかりませんが、貴方がこうした本を大量に所持しているのがわかりました」
まさか生徒会室に隠してるとか無いですよねという栞子に対して、口笛を吹いて対処するとんでもない生徒会長がいたと栞子は勘助に話したそうだ。勘助の頭を抱える材料が増えた。
☆
「嵐珠さんが国に帰る!?」
勘助に届いた知らせは思いもよらぬものだった。侑がミアと話しているとミアのもとにこんなメッセージが送られてきた。
やりたいことやったから香港に帰るわと。
「それでミアさんは?」
「ランジュちゃんと話をするって」
栞子も聞いてなかったと、急に連絡が来たと勘助に言う。
「嵐珠さんは栞子さんの幼馴染だよな? そんな淡泊な関係でいいのかよ」
「嫌ですよ、私だってランジュは大切な幼馴染です」
「だよねぇ」
栞子の言葉に侑も頷く。結局エマたちがランジュに直接聞いたが、何の手掛かりもなかったそうだ。
それから少し経って、勘助は璃奈に話をする。
「璃奈、確かミアさんと仲よかったよな?」
「うん。ミアちゃんもランジュさんのことも心配。ミアちゃんもランジュちゃんの曲を作ってるって」
璃奈から勘助は事のあらましを聞いた、ミアは昔、テイラー家として舞台に上がり、歌おうとしたが、大勢の客の期待感や責任感で押しつぶされ歌えなかった。だからこそミアはせめて作曲家として終わるわけにはいかないと、そう言っていたらしい。
「俺の過去の別次元……亜種みたいな感じだな、道理で考えが違っても引き寄せられるわけだぜ……それで結果は?」
勘助の言葉に璃奈が首を振るあの後曲が出来たと喜びランジュに見せに行ったが、自分では歌えないと言って突き返したらしい。
「これは私の曲じゃないって……ねぇ勘助さん、どうしたらいいかな?」
「……俺が言っても逆効果の気がするが」
「それでも、来てほしい」
仕方ねぇ、いつか師匠になる人だ。顔と出来たら船くらいは出しに行くか。と言って璃奈の言葉に協力することになる。
☆
「璃奈? どうし……」
「ミアちゃん、来て」
璃奈がミアを尋ねに行き、ミアが部屋から来た。言葉を終える前に合わせたい人がいると璃奈は言って、ミアの手を引いた。
女子寮から出て少し歩くとそこにいたのは勘助。
「悪いな、私は女子寮に入れないんでね、連れてきてもらった」
「……何の用?」
「ランジュの曲作るんだってな。璃奈から聞いたよ」
「放っておいてくれ、これは僕の問題だ」
「確かにミアさんと嵐珠さんの問題かもしれない。それでも私だって、嵐珠さんには日本でもう少しパフォーマンスをしてほしいし、ミアさんにもここで曲を作ってほしいと思っている」
勘助は本心で語る、ミアは少し苦い顔をしたが、ため息を一つ吐いた。
「ミアちゃんはミアちゃんだよ。ミアちゃんはどうしたいの?」
「僕はランジュに、残ってほしい」
「曲を作るのはあくまでミアさんだが、実際一人で嵐珠さんの心を掴むことが出来なかった。ならば俺にも託してくれ」
「君に?」
「この前みたいに二人三脚でやろう。一人がダメなら二人、それでもダメなら私はミアさんのために12人、俺含めて連れてきて協力してやろう」
勘助と栞子、そして侑を含めたスクールアイドル同好会のメンバーを勘助は連れてくるつもりでいた。ミアはどうしてそこまでするのか問うと勘助は笑顔で言う。
「師匠の悩みは弟子の悩みだ」
「その話は断ったはずだけど」
「冗談。でも俺はなミア、正直嵐珠さんだけでなく、ミアさんの歌も聞きたいなって」
「僕の歌?」
「私も聞きたい!」
「無理だよ僕には……」
「無理だったのはテイラー家の環境だろ、虹ヶ咲の環境ならもしかしたらいけるんじゃないか?」
勘助の言葉にはっとする。確かにテイラー家の時は緊張などに押しつぶされたが、虹ヶ咲ならきっとプレッシャー無くミアの望むものが手に入ると少しばかり思い、そして言ってみる。
「僕は……歌いたい、歌って伝えたいんだ」
「夢を叶えるのがスクールアイドルだよ」
「璃奈の言う通りだな、バックアップは任せてくれ、お前は興味ないかもしれないが、俺はこう見えてミアの次に成績もいい。ミアの助けくらいにはなれるさ。もちろん赤点ときめき緑も協力させる」
遠回しに侑をバカにするがミアには面白かったようだ。
「勘助、ミアさんだろ。僕は3年生だ」
「悪いな。言葉を熱くしちまったら最後、だが、情熱が熱くなっちまったら最高なんだ」
☆
「そうか、勘助も僕と同じだったんだ」
「類は似てる、でも、ミアさんのほうがすごい」
「僕も前は、正直勘助の歌嫌いだった。アマチュアの癖にこの僕が心を奪われるなんてってムカついた」
「でも、今ならわかる、自分の夢や、やりたいことを仲間と君は叶えて言ったんだな」
「ああ、ミアさんも今そのスタートラインに立っている」
ミアと勘助は曲を作りながら話す。寮にいるときは勘助は差し入れとUSBをエマたちに届けてもらい、休み時間にはミアとこうして雑談しながら真剣に曲を作った。
「あ、ミアさんちょっと明日からバイト忙しくて来れないけど、USB渡すからそれ使ってくれ」
「何かあるの?」
「嫌な予感のための保険だ」
「What?」
「気にしなくていい、サポートも頑張る」
「無茶だけはするなよ」
「ミアさんにはいわれたくない」
☆
「え!? ランジュちゃんが今日の夜に帰る!?」
栞子が慌てて同好会に来たと思ったらこのようなことを言い出した。ランジュが帰国を今日の夜にという事実にみんな驚きを隠せない。
「もう空港だと思いますけど私どうしてもランジュに伝えたいことがあるんです!」
栞子の言葉にせつ菜も肯定する。それでも一番気がかりなのがランジュもそうなのだが……
「こんな時に勘助先輩はどこに行ったんですか!」
「勘助さんはやることがあるって。ランジュさんのために出来ることをしてるらしいよ」
勘助はこの場にいなかった。というか数日同好会に来ず、今日は学校を休むと同好会のメッセージに残しそのまま音沙汰なし。一応せつ菜がランジュの帰国の話を伝えるが、既読はつかない。
「ミアチがランジュのために曲を作ってるんだよ!」
愛も叫びながら栞子に説明する。その瞬間、せつ菜の携帯が鳴った。
名を見ると勘助からだ、すかさずスピーカーにしてつなげる。
勘助がもしもしと言った瞬間、かすみがどこにいるんだと大声で叫び勘助も困惑する。しずくがそれを制して勘助の言葉を待つ。だが勘助の言葉はその場のメンバーを仰天させる一言だった。
『俺は今から嵐珠さんを止めに行く。みんなも早く来ないと俺も台湾に行かないといけないから、よろしく頼む』
☆
ショウ・ランジュは空港に来ていた、少し時間があるが便が来る予定だと空港を歩く。その時ランジュの正面から歩いてくる見覚えのある人影が一人現れた。
「学校はどうしたの」
「サボった」
「悪い子ね」
「大事な幼馴染に急に帰るっていうほうが悪い子だと思うが」
勘助の言葉に何しに来たと、少し強く言う。勘助は静かに笑うと一枚の紙を見せた。そこに書かれていたのは
「台湾行きのチケット?」
「安心しろ。あるつて……まぁ、空港で買ったもんだ。あんたのを奪ってはいない」
勘助の言葉にランジュが財布を見ると自分のチケットがあった、つまり彼は自分でチケットを買ったということ。どういうつもりだとランジュが言う。
「嵐珠さん、このまま帰国したらスクールアイドルは出来ても曲を作る奴いないだろ? ミアさんはここに残るしな。だから交換留学みたいに俺が嵐珠さんの曲を作ろうかと思って」
我ながらとんでもない策だと思う。わざわざ10万ほどする空港のチケットを買ってまで嵐珠の動揺を誘って時間稼ぎなんて、貧乏学生がすることじゃないと心の中で笑った。
「あなた、意味わかって言ってるの?」
「わかるさ、俺も実は中国語を少しだけ勉強したんだ、嵐珠さんの専属パートナーになれば観光案内とか任せられる、嵐珠さんはスクールアイドルに集中できる。お互い良い関係だと思うが?」
「どうしてそこまで」
「ランジュ!」
ランジュが振り返ると栞子や同好会のみんながいた。ランジュは勘助をにらんでこれが目的かと、言った。
「悪いけどどんなに曲を聞かせてもらっても答えはNOよ」
「それなら俺も飛行機に乗ろう」
「え? ……本気だったの!?」
「持ったいねぇじゃんチケット。どうするよ、お前が行けば俺も台湾に行く、お前が留まれば俺はこのチケットをキャンセルして破り捨てる」
伸るか、反るかと勘助が言ったところでミアが息を切らしてこっちに来た。
「ショウ・ランジュというものがあきらめるなんてらしくないだろ!」
「どんな曲を作っても私には……」
「これは君の曲じゃない」
ランジュにきっぱり告げる。勘助はすぐさまミアからデータを貰い携帯につなげた。
礼を言ったミアに勘助は笑うそして、
「これは僕の曲だ。僕の夢をあきらめるのはおしまいにする」
ミアは立ち上がる、自分の夢を掴むために……
☆
「なるほどこのチケットを買うために叔父さんの家で学校を休んでバイトを……勘助さん反省文の準備はよろしいですか?」
「無論だ。そんなもの嵐珠さんが戻ってきたのを考えてもお釣りがでる」
「本当にとんでもない人ですね貴方は」
「私はスクールアイドルの味方だ」
ランジュは孤独だった、相手の気持ちも分からずみんな離れて言ったと彼女は言う、同好会の信頼関係が羨ましかったとも。
それをミアが制した。
「その腑抜けた目で見てみろよ。僕が頼んだだけじゃここまで集まらないし、勘助も高いお金を払ってチケットを無駄にはしないだろ」
そう言ってランジュをたしなめた。ランジュの真っすぐな言葉に救われた人もいると侑もそう言って、栞子もランジュを抱きしめた。
「お前ら全員心の友だぜ」
「勘助さん、一人でまた解決しようとしてたから正座。璃奈ちゃんボード『激昂』」
「すみませんでした」
ようこそ、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会へ鐘嵐珠。