五月雨は
露か涙か
不如帰
わが名をあげよ
雲の上まで
室町幕府13代将軍の足利義輝の世辞の句を勘助は車の中で詠う。
勘助は初めて果林の事務所に行くため、学校に申請して休みをもらった。歩いていける距離ではあるが、ある者が勘助の初仕事だと言って、半休を取り運転手として送ってくれることになった。
勘助が口ずさんだ和歌に反応する人物はこの車の運転手だ。
「今日でお前ともお別れか、勘助」
「縁起でもないこと言わないでよ、叔父さん。いつか暇が出来たら鎌倉に戻ってくるよ、かならず」
「なんで断言できる?」
「同好会のメンバーが鎌倉から通っているからね」
「成る程な」
運転手である山本信繁。山本勘助の叔父である。もともと信繫は勘助の叔父ではなかった。
別の家系に生まれたとき両親を亡くし、引き取ってくれたのが山本家の人間だった。
信玄の父親、つまり、勘助の祖父が信繁を養子として迎えたのだ。しかし、信玄は信繫を弟のように可愛がってくれた。
だからこそ、信繫は信玄の息子である勘助にも自分の甥っことして可愛がった。故に勘助も信繫を信頼してるし、一緒に働かせてもらっている。
「……俺は金の事なんて気にすんなと言ったが、お前は頑固らしいな」
「確かに叔父さんのとこにも渡そうと思ってるけど、正直言うとお金は私の交際費だよ」
「彼女出来たんだっけか」
「うん、大人しくて表情を動かすのは苦手だけど、芯を持っていて自分の考えをはっきりと口で言える可愛い女の子、頼れる彼女だよ」
そうか。と一言。無言の空気が続くがやがて信繫は言葉を繋げる。
「俺はな、お前に自由に生きてほしい。信玄さんのようにお前の好きなことをして生きてほしいんだ。だから、自分の金は自分で使え。多かったら返金してやる」
「ははっ、ありがとう」
信繫は見た目が怖い。年を取ったせいで白髪の短髪になり、太陽に眼がやられたくないからとサングラス、市役所働きなので上下黒スーツの筋のような人だし、口数は少ない方である。
しかし、その言葉はとても相手を思い、発せられている。勘助も長い付き合いだからこそ、信繫の言葉にお礼を言った。
「おら、着いたぞ」
「助かったそれじゃ……」
勘助がドアを開けて去ろうとする前に信繫は勘助を止めた。どうしたのかを聞く前にはっきりとサングラスを取って眼を見て言う。
「頑張れ、お前なら信玄さんを超えられる」
そんな言葉に勘助は笑い、行ってきます。と笑顔で去っていった。
☆
年末にライブするのを決めたり、キャッチコピーを決めたり、ファーストライブの話を進めている間や、ランジュとミア、栞子がユニットを組む話をしてる中、勘助は仕事をしていた。
内容は撮影。プロフィールの写真ということで勘助のありのままの姿を出すために、勘助はギターを弾きながら撮影をした。
他にも少しポーズを取ったり、せっかくだからとレッスンにも参加させてもらうこともした。
「やっぱり大変だな」
そんなことを言いながら勘助は仕事内容を覚える。偶にすれ違う人が、勘助のことを知ってくれてるらしく、握手を求められた。
ふと、ポスターが目に入った。
「作曲コンクールか、参加できるか聞いてみるか」
山本勘助は後日、侑もそこに参加を考えているのを知りお互いに喜ぶのは別の話。
☆
「え? 侑さんが歩夢さんとの距離を置いてる? 歩夢さんが短期留学? んで彼方さんがラブリー遥さんしてる? そんなことになっているんですか?」
「そうなのだよぉ」
「と言うか彼方さんの件は自分で言います普通?」
勘助は彼方から話を聞いた。歩夢の留学の話や、彼方が遥を応援したいという話を聞いて、勘助は答える。
「彼方さんはやれることがあると思うのでいいですけど、歩夢さんは……まぁ言ってみろとしか」
「だよねぇ」
とりあえず彼方さんの話から解決するために勘助は璃奈から聞いた策、オンライン動画で応援メッセージを送るという荒業を成し遂げながら、ラブライブの予選に行く人を応援するということで解決した。
「我が恋人ながら機械に関しての策では負けるな」
「作戦の立て方は勘助さんのように周りを見て状況を把握するのが大事」
「だから、私は勘助さんの真似をしてるだけ」
「そうか……」
璃奈の話にはいつも自分がいるんだなと勘助は考えて璃奈の頭をなでた。
「あ、勘助さん昨日はお仕事お疲れ様」
「おう、ありがとう」
そういえば、歩夢さんたちは解決したのかな? と勘助は疑問に思ったが、彼方さんのおかげもあり歩夢の留学を侑に、侑も作曲コンクールに出る話を歩夢にして中をもっと強固なものにしたらしい。
侑はその反動でときめきが加速。勘助含む全員分のソロ曲を作るという至難の技を成し遂げた。勘助曰く侑の最強を初めて見たと言っていたらしい。同好会のメンバーでも驚きの声が上がった。
「あ、侑さんそんな荒業を成し遂げた侑さんにお願いがあるんだがいいか?」
「どうしたの勘助君?」
そんな侑の荒業を見て、勘助はみんなの前で告げる。
「今度のライブで、私とデュオを組んでくれないか?」
「え?」
「侑さんがいいんだ」
勘助のその言葉に侑だけでなく、みんなも2度目の驚きの声を上げた。