「この一手で詰みだ」
「……負けました。やはりお強いですね勘助さんは」
現在生徒会の仕事が片付いて、暇つぶしに前の合宿で提案された将棋を栞子と勘助は何回か指していた。何回かコテンパンにした勘助は、栞子から三船流にそろそろ敗北はないと言われ、そこまで言うならと刺したが、やはり軍配は勘助だった。
栞子には惜しかったぞ。と一言言って将棋道具を片付け、勘助の誘いに栞子も同好会へと向かうことになった。
「最近慣れたか? 同好会」
「はい、大変ですけど楽しいです」
「そっか」
最近入って間もない栞子だが、やはり楽しさの方が上回っているらしい。軽い世間話をしながら同好会の入り口をノックして扉を開ける。
お疲れ様というあいさつをしながら勘助たちは入ってきたのだが……
「あ、お父さんお帰りなさい」
「え? ……あ」
同好会には本来ない大きなピンク色の扉と、お父さんと口にする少女がいた。
誰だお前という勘助の声と、同好会のメンバー全員見つかったという声が同時に響いたのだった。
☆
お父さんと呼んだ少女は桃色の短髪で両眼の色が黒く、ギターを一本担いでいた。
少し灰色じみたパーカーにジーンズをはいた所謂ボーイッシュな感じを醸し出している。
勘助はひとまずこの状況の説明を求める。
「最近自分の技術力が怖くなってきた」
「やっぱりお前か璃奈」
元凶は彼の恋人だった。どうやら、しずくや同好会のみんなのためにここから鎌倉まで簡単に行けるワープゲート的なドアを発明したら、この子が扉から出てきたらしい。
「名付けてどこでも行けるDoor」
「危ないけど相変わらずとんでもないの作るよな。なんか彼氏の俺が見劣りするわ」
「勘助君がそれ言う?」
勘助のため息に、あれだけスチール缶を指先で潰したり、初舞台のギター演奏で100人近くのファンを作り上げたりする勘助も大概だとみんなは心の中で突っ込むが、侑が言葉で代弁してくれる。とりあえず勘助は少女から事情を聴くことを先決とした。
「貴方名前は? 私は山本勘助っていうんだが……」
「私は香奈。
「もしかしなくてもお父さんって私の事か?」
「うん、だってお母さんはこの人だもん。若くても雰囲気で分かるよ」
「それってりな子のこと?」
「そうだよかすみおばさん」
「おば!? かすみんはおばさんじゃ……」
そう言って璃奈を指差し、かすみの言葉に頷く少女。かすみが言葉を発するより先に勘助は質問をする。半分嫌な予感、もう半分はもしかしたらと興味本位で。
「お前……いや、香奈と言ったな。お前はまさか、俺と璃奈の……山本勘助と天王寺璃奈の娘か?」
「うん、そうだよ。えっと、そこの借りるよ。香奈ちゃんボード『にっこりん!』なんてね!」
急に同好会の机にあった画用紙に自分の似顔絵を描き、璃奈と同じようにボードを顔に構える彼女は屈託のない笑顔だった。
それと共に同好会から大きな叫びと驚きが聞こえたが……
☆
「ねぇねぇ、しずくおば……ああ、しずくさんかまだ若いし。お母さんって普段どんなことしてたの?」
「なんか、少し煮えくり返りそうですけど、嘘をついてる感じはしないので、璃奈さんと勘助さんの娘なら私もその時にはおばさんなんですね」
「時代が違うから呼び方も難しいんだよね。ごめんなさい」
「素直に謝るところ勘助さんに似てますね」
いまだに信じられない勘助含む同好会メンバーだが、演劇である程度人が分かる力を持つしずくが嘘は言っていないと考えたのもあり、信じることにした。それよりも香奈に対して興味を持つ人が多くいる。
「香奈さん大人になった勘助さんってどんな感じなんですか?」
「菜々おば……菜々さん、お父さんはギター弾いてるよ。偶にお仕事でミアって人と一緒に曲を作ったりして、帰ってこない時にお母さんが寂しくなってるけど、帰ってきたらお母さんと私のことを撫でてくれるんだ」
「やっぱり私もおばさんなんですね」
「確実にこいつの世代では同好会メンバー全員おばさんなんだ。腑に落ちないかもしれないが我慢してくれ」
「お父さんはのんきですね」
「せつ菜、俺だって混乱してるが、こいつのギター聞いたら信じるしかない」
「勘助さんの言う通り。璃奈ちゃんボード『信じる』」
勘助は香奈に軽くギター演奏をお願いしたが、ギターにフェンリルと名付けてたり、ピックを弾くパフォーマンスをしたりして演奏したのを見て、勘助はもう自分の娘で間違いないと思ってしまった。璃奈も璃奈で璃奈ちゃんボードを疾風のごとく切り替えるスピードを見たせいで、こいつできると、勘助と同じ気持ちになった。
「にしても、璃奈と俺の娘か……なんか恥ずかしさ半分嬉しさ半分だな」
「どういうこと勘助さん?」
「いやだって、用は俺と璃奈が結婚するってことだろ? そこは嬉しいんだが……その、こ、子供を……つく……るとか……恥ず……かしい」
「カンスケ顔真っ赤!? 大丈夫?」
「勘助さんは昔から私より保健体育苦手ですからね。中学の時、先生の説明だけで鼻血出して倒れたときは何事かと思いましたよ」
「お父さんその時からそうなんだ。大人になっても変わらないけど」
勘助はうぶだった。その後璃奈から勘助といつか子供作りたいなと、とどめを刺され実際に鼻血出してぶっ倒れた。勘助を相変わらずだと膝枕したのは香奈である。
「家にね、急にピンクのドアが現れたから、興味本位で入ったんだ」
「そしたらここにいた。璃奈お母さんだってすぐわかったし、みなさんも若いけど面影はしっかりあるから覚えてるんだ」
勿論父である勘助もすぐわかったと、目を覚まし恥ずかしがる父親を膝枕しながら彼女は答えた。
いい思い出になったと香奈は璃奈にお礼を言う。
「私、今バンド組んでるんだ。Unicornっていうお父さんのギターから取った名前」
「勘助のギターの名前とかセンスないわね」
果林の言葉に香奈含めてみんな苦笑しながらもどういうことだと突っ込む勘助。そして彼女は続ける。
「コンセプトは私たちのたった一つの望みっていうんだけどね。それで、私はバンドで活動していきたい。お父さんみたいに甘いものじゃないのはわかってるけど、それでもやりたいの」
香奈の言葉にみんなが真っすぐ彼女を見る。勘助は静かに口にする。
「香奈、それはお前が決めることだ」
「結局どれだけなりたいと言っても、それは己が決めること。バンドメンバーの意見もあるが、第一にお前がどうするか行動しなければ始まらん。だから俺には、ああそうかと、託すことしか出来ない」
「それでも、俺の意見が聞きたいのなら……たった一言だ」
いいんじゃねぇか? やってみろよ
勘助の言葉に眼を大きく開いて、笑った。
「やっぱりお父さんはお父さんだね。変わらない。今のお父さんにも同じことを言われたよ」
「膝枕されてる時点で俺の説得力ないけどな」
二人は笑う。そんなとき璃奈は聞いた。
「ねぇ、香奈ちゃん、私と勘助さんって仲いい?」
「うん、すっごく仲がいいよ。毎日お母さんが搾り取ってる」
「恥ずかしすぎるからみんなの前でそんなセンシティブな話しないで」
「大丈夫ですか香奈さん、エロ同人みたいに実況風なセリフでの交尾は萎えますよ」
「大丈夫。お母さん静かに喘いでるから」
「せつ菜、お前はいったいどんな同人誌持ってんだ」
「言ってる意味は少々わかりかねますが、この人はその手の本を大量に所持してると思います」
「幼馴染は脳内ピンクの元生徒会長か、ラノベタイトルじゃねぇか栞子さん何とかしてくれ」
「幼馴染として勘助さんに任せます」
誰も娘に夫婦の営みがバレてることに突っ込まないことを心で突っ込みながらも璃奈は恥ずかしそうにしながら笑うのだった。
☆
「それじゃあ、そろそろ帰るね」
「また会えたら会おうよ香奈ちゃん!」
「侑さんもまたね。後、偶に作曲してるときお父さんと距離近いからいつかお母さんの実験台にされるよ」
「さらっと怖いこと言わないで!?」
侑の突っ込みに笑いが起きる。結局、その後勘助と璃奈の娘と名乗る彼女はドアから帰っていったのだった。
その後、勘助と璃奈の距離が少しだけ、いや、かなり近くなったのは言うまでもない。