「勘助さん、お待たせしました!」
「おう、せつ菜……菜々? どっちがいい?」
「勘助さんの呼びたい方でいいですよ」
それなら。と勘助は菜々と呼ぶことにした。今日は菜々と幼馴染同士で遊ぶ約束をしていた。勘助は恋人である璃奈に話をして許可を得たので普通に二人きりで出かけている。
勘助が合図をして、菜々が勘助の手を繋ぐ、勘助は恋人のことを考えて少し顔を歪めたが、菜々が嬉しそうにしているのでこんなことで注意するのも気が引けたからスルーした。
「最初はどこ行くんだっけ?」
「アニメ屋に行きましょう! 新作のライトノベルが発売しているんです。勘助さんも璃奈さんと読むでしょう?」
「まぁ、そうだなそれじゃあ行こうか」
そうして到着したアニメの店。ライトノベルもあったが、スクールアイドルのグッズもあったので勘助は可能な限り買うことにした。
「私のも買ってくれるんですね」
「当たり前だ、幼馴染だからな」
「幼馴染……」
幼馴染という単語によくない反応をするが、勘助は少し首をかしげることしか出来なかった。
「おらぁ!」
「なんの! まだです!」
「ガラ空きじゃい!」
「しまった!? と見せかけて、よっと!」
「うおっと!?」
現在アニメの店から出た二人はジョイポリスに来ていた。勘助が菜々のボールを見逃したことで彼女に得点が入る。参ったと勘助は降参して負けた罰として飲み物を買って菜々に渡す。
「勘助さん、お願いがあるんですけどいいですか?」
「なんだ、負けたから少しは聞くぞ」
「一緒に撮りませんか?」
そう言って菜々が指差したのはプリクラだった。女子高生だからアミューズメント施設に来ればプリクラくらいは撮るよなと思った勘助だが、菜々が自らプリクラを提案するのは珍しい。
それでも勘助は思い出作りだと考え菜々の提案に乗った。
プリクラを取る際は、なんか機械に腕を組んだり、手を繋いだり、肩を組むことも提案されたが菜々はとてもうれしそうに勘助とその指示に従った。
「祝裏垢バレと書いておくか」
「な!? それは少し困ります! 勘助さんのとこにも祝男性スクールアイドル爆誕! って書きますよ!」
「それは困る!? 私はシンガーソングライターでいい!」
勘助の冗談に菜々も冗談で返す。結局菜々の提案によりカン×セツという勘助が知識にない言葉を菜々が書き、デコレーションは終わった。
「カン×セツってどういう意味だ?」
「とっても仲がいいってことですよ」
そう菜々が嬉しそうに答えたので、勘助もそれを信じて嬉しくなった。
「ほら菜々、食いな」
「勘助さん……もう私、お腹いっぱいです」
「なんだよスクールアイドルで運動して体力ある割には意外と少食だな」
「勘助さんの食べる量のほうがおかしいんですよ!?」
次に入った喫茶店では、勘助が過去にかすみたちが挑戦したジャンボパンケーキを菜々と二人で平らげた。ほぼ一人で食べた勘助に菜々がなぜ太らないのかと突っ込むが、勘助は涼しい顔で……
「オリバーポーズのおかげだ」
と胸を張った。男なので張る胸もないが、せつ菜から見ると、大胸筋が少し大きく見えたそうだ。
☆
「今日は楽しかったな」
「はい、久しぶりにこんなに遊びました」
夕方になり、勘助と菜々は帰り道を歩いていた。そういえば。と勘助は菜々に問う。
「今日は何かあったのか?」
「え?」
「いや、なんか幼馴染って言ったら少し顔つきが変わったからさ、なんかあったのかと」
菜々は少し俯いて、やはり勘助には敵わないと無理な笑顔を作って言った。
「不安なんです」
そう菜々が言って勘助は菜々と同じ言葉を疑問で返した。菜々曰、勘助が璃奈と付き合ってあまり菜々の相手をしなくなったこともあり、幼馴染として距離が離れてしまったと思ったらしい。
侑と歩夢は女性同士もあって仲がいいが、二人は男女。しかも、告白した側と振って違う人と付き合った側。
菜々は、勘助が璃奈とくっついたことに不満はない。少し残念だが、それでも今は璃奈と幸せになってほしいと考えていた。それでも、ずっと幼馴染として仲良くしたいと思う気持ちも膨らんできたのだ。
今回、実は璃奈にお願いして勘助と二人きりで出かけたのは勘助も今説明を聞いた。普段少し嫉妬する璃奈が今回聞き分けよかったのも菜々が先に話をしたからだった。
全てを聞いた勘助は静かに菜々の近くに歩み寄り……頭を撫でた。
「ごめんな、本当は抱きしめてやりたいんだが、璃奈に申し訳ないから頭撫でるだけで勘弁してくれ」
「勘助さん……」
「俺は最低だな。幼馴染だと口では言っても菜々の気持ちに寄り添えず彼女のことを優先してしまった」
「そんなことありません、私がわがままだったんです」
「俺もわがままだ。だから、同じだな」
そう言って勘助はやっぱり璃奈に後で謝る。と言って菜々を抱きしめた。
「菜々、俺は璃奈が好きでいつか結婚まで行きたいと思って今事務所の仕事とかやってる。だから、菜々の恋心には答えられん」
「はい、分かってますよ」
「それでも! お前は俺の大切な幼馴染中川菜々だ。お前が寂しくなったら璃奈に話してからお前のもとに向かうし、お前が悩んでいるときは璃奈に話して相談に乗る。お前が、俺といたいっていうなら、璃奈に話して一緒にいてやる」
「結局璃奈さん1番なんじゃないですか!? 私だけの勘助さんでいてくださいよ!」
「お前と二人の時は菜々だけの山本勘助でいるよ」
「本当ですね? 嘘じゃないんですね?」
「璃奈次第だがな」
勘助の言葉に深くため息をはいて、どうしてこんな男と幼馴染で好きになったのだろうと悪態をついた菜々。だが、上げた顔は晴れやかで……どこか嬉しそうだった。
「そうですよね、私が好きになった勘助さんは……常に皆さんのために動く勘助さんです。誰かを犠牲にして私のもとに来る勘助さんは勘助さんじゃないです」
「それは誉めてるのか?」
「ええ、皮肉にも」
そうして菜々はすぐ勘助に近づいて、頬にキスをした。呆気にとられる勘助に菜々はいたずらっ子のように笑い……
「私のことも大事にしてね、勘助君」
その言葉に勘助は少し懐かしい記憶を思い出す。
「どうして勘助さんは私のことを誘ってくれるんですか?」
「そりゃ、一緒にいて楽しいからだよ」
「……それじゃあ、私とずっといてくれますか?」
「もちろんだよ。菜々ちゃん」
「急にちゃん呼びしないでください。気持ち悪い」
「なんで罵倒されてんの!?」
「ふふっ、冗談です。これからも……よろしくね勘助君」
そうして勘助はあの時のように笑った。
「うん。絶対大事にするよ、菜々ちゃん」
「そういえば言ってなかったけどさ、俺の初恋って菜々だからな?」
「え!?」
「そりゃ、最初はガリ勉がいるなしか思ってなかったけど、菜々は俗世間を知らないだけで、教えてあげたら即堕ちしてたからさ、いい布教……話し相手になってくれた」
今布教相手と言わなかっただろうか。と菜々は言ったが勘助は続ける。
「菜々にアニメやマンガ。スクールアイドルを教えるたびに、嬉しそうに話を聞いてくれる菜々を見てな、悪いやつじゃないってのと同時に、やっぱり、一緒にいたいなって思ったんだ」
「中学から母さんが死んで、それどころじゃなかったけど、菜々はずっと慰めてくれただろ? まぁ、好きになるよな」
「じゃあ、私だけの勘助さんでいてくれてもよかったんじゃ……」
「ごめんなさい。スクールアイドル始めてから、付き合うのにやっぱ少し抵抗があってな。璃奈はそんなの関係なしにガンガン攻めてきたから俺の中の1番が変わってしまったんだ」
勘助の言葉にせつ菜は納得した。
確かに自分はスクールアイドルを全力でやる為に、勘助に手伝って貰っていたが、璃奈は勘助に手伝って貰うだけでなく、勘助のことを考えて、逆に支えてあげる立ち位置にいたのをせつ菜は知っていた。
だからこそ、璃奈に軍配が上がってしまったのだ。
「それを聞いたら納得もしますけど、悔しいですね」
「それでも、俺はせつ菜も好きだ。それを忘れないでくれ」
「……はい」
こうして、2人の幼馴染は恋人にはなれなくても、強固になった絆が生まれたのだった。
☆
「というわけで私は第二の妻です。璃奈さん、お覚悟」
「勘助さん、刺すよ?」
「酷い誤解だ、せつ菜諦めてくれ」
「ヤダ!」
その後、こんな爆弾発言をした菜々のせいで勘助が璃奈のご機嫌を取ることになったのは別の話。いや、今現在の話だ。