EXステージ1 勘助、別時空に飛ぶ
「眠い」
「大丈夫? 勘助さん」
虹ヶ咲学園の校庭で昼ご飯を食べた勘助と璃奈。珍しく勘助は璃奈に眠気を訴えた。
最近の勘助は多忙である。勉強はともかく、同好会のライブの企画、生徒会庶務としての活動、そして最近増え始めた作詞作曲の仕事と勘助デビューシングルのレコーディングなど、人間業ではないスケジュールをこなしていた。
歩夢もロンドンから帰国してまた全員で行う同好会もなのもあり、侑に同好会、栞子に生徒会の役割を頼んでも勘助のこなす作業量が多いことに変わりはない。
要は単純に寝不足なのだ。璃奈も勘助を心配しながら、自分の膝に勘助の頭をのせて少し寝かせてあげた。
☆
「あれ、りなりー何作ってるの?」
「強制睡眠装置」
「何それ怖い」
同好会の休憩中勘助が生徒会にいる間、璃奈はものづくりをしていた。愛は怖がったが、最近勘助が眠れていないという話をしながら、機械に睡眠導入剤を入れた酸素ボンベのようなものをつなぎ合わせて眠りやすくする装置を作っていたのだ。
「法の範囲超えてません?」
せつ菜の言葉に確かにと笑う愛、それでも璃奈は真剣に、深く眠らせて疲れを取りながら、楽しい夢も見させられる現代科学ではありえない装置を作り続けていた。そして完成したのが……
「勘助さん出来た。強制睡眠装置」
「何それ怖い」
愛と同じ反応だったのはネーミングが恐ろしいからである。ある日の同好会で璃奈の研究お披露目会がされた。
今日は勘助も珍しくオフで同好会もなかったのだが、璃奈がみんなを集めて研究の試作をさせたかったらしい。
みんなも合意の上で集まり、睡眠について説明する璃奈に興味津々だ。
「ちなみに何の夢を見ているかはこのモニターで分かる」
「へぇ、面白そうね」
「ランジュが興味津々なのはわかりますが危険性はないのでしょうか?」
「そのための試験体」
璃奈の言葉に恐怖を覚えるメンバーだが、勘助だけは眠くてそれどころじゃないらしい。
「なんにせよ眠れるならいい。璃奈がせっかく作ってくれたんだ、一番は私でいいか?」
「大丈夫なの、勘助君?」
「問題あればそのボンベ外せばいいんだから大丈夫だよ」
歩夢の心配に勘助はさっさと解決策を言いながら、早速ソファーに横たわる。
璃奈が装置をつけて、勘助に確認を取りながら、準備を進める。
「これで後はスイッチを押せば眠れるはず。タイミングは勘助さんに任せる」
「分かった、それじゃあちょっくら眠るわ」
「気を付けてくださいね、勘助さん」
「戻ってくるよ、必ず」
「勘助君それ死亡フラグ」
侑の言葉に勘助は笑いながらスイッチを押した。
「リンクスタート!」
勘助が少し危ない発言をしたがすぐに眠りにつく。みんなは勘助が眠った後、どんな夢を見ているのかモニターで確認すると……
「え!? ……歩夢?」
「なんで勘助君の家に私がいるの?」
そこに映っていたのは勘助の幼馴染だと言って、寝ていた勘助を本人の部屋で起こす歩夢だった。
☆
ここはどこだろうかと勘助は思う。璃奈の実験から目を覚ました勘助。目を覚ましたから実験は失敗かと思ったのだが、どうにも自分のいる場所に見当がつかない。そこは同好会の部屋でなく、ちゃんとした家だった。
何より驚いたのは、少し元気のない上原歩夢が勘助を起こしに部屋に入ってきたこと、話を聞くと勘助の幼馴染は自分だと言っていつも起こしているという歩夢だった。
「ここは、夢の中なのか?」
「もう、まだ寝ぼけてるの? ほら、早く顔を洗って、私が作ったご飯食べてよ」
そういう歩夢だが、表情は少し暗かった。多くのことに疑問を思いながら勘助は下に降りて顔を洗うのだった。
「……美味しい」
「そう? ありがとう勘助君」
勘助の言葉に少し笑顔になる歩夢。やはり様子がおかしいので聞いてみることにした。
「なぁ、歩夢さん」
「もう、今日はどうしたの? いつもなら歩夢ちゃんって言ってくれるのに」
そういえばこの世界線は幼馴染だったなと夢の中にいることを再確認する。璃奈の実験は成功のようだ。
とても呼びづらかったが、勘助は頑張って歩夢ちゃんと言って、何かあったのかと話を聞いた。
歩夢は噓でしょう。と一言言ってそこまで寝ぼけていると思っている勘助を本気で心配し、勘助に説明した。
「昨日せつ菜ちゃんが生徒化選挙で三船さんに負けちゃったから同好会が廃部になっちゃうかもしれないんだよ? 寝ぼけてるのか、ショックで記憶が飛んだのか分からないけどしっかりしてよ」
「……なんだと?」
勘助は耳を疑った、三船で学生、そして生徒会長と言えば栞子しかいない。歩夢曰く、せつ菜と……中川菜々と生徒会選挙で争って、栞子が菜々をコテンパンに暴言に近い言葉で負かせた挙句、生徒会長としてみんなの適性を重んじると言いながらみんなはスクールアイドルの適性ではなくほかに適性があるだのなんだの言って、同好会を廃部にすると言ったらしい。
本気で訳の分からなかった勘助だが、これは一大事だと今一度考えてとりあえず話を聞き続けた。今もせつ菜は泣いていて、同好会も雲行きが怪しくなっているらしい。
「夢にもかかわらずなんか放っておけないのは何なんだろうな」
「え?」
「安心しろ歩夢。俺が何とかする」
こうしてトラブルに見舞われるのはいつぶりだろうか、特に同好会関係のトラブルはせつ菜以来だと思う。いや、ヤンデレ化した歩夢さん以来か? はたまたスクールアイドルフェスティバルの時か……いったいいつぶりかも忘れてしまったが、勘助は再び立ち上がることを決意した。もしかするとここは夢ではなく別の時空なのではないかと思いながら。
それでも夢だろうが、別時空だろうが、何だろうが関係ない。勘助は、自分はスクールアイドル同好会のマネージャーだと歩夢に言って、こう答えた。
「取り戻してやる。絶対に」
「今日の勘助君……やっぱり変」
「気にすんな、菜々、璃奈ごめん……俺は行くよ」
「勘助君ってせつ菜ちゃん達とそこまで仲良かったっけ?」
「え? 俺嫌われてんの?」
そう言うわけじゃない。と歩夢が言ったが、勘助はどうせ夢だと言うことで一人称を俺と言うことにした。
☆
「私はそんなことしません! 私は……私……ワタシハソンナコトシマセン」
「栞子ちゃんが壊れた!?」
「璃奈ちゃん勘助君は!?」
「……だめ、起きない」
「ってことは勘助君は……」
「もしかしたら、ここの世界の問題を解決しないと起きないのかもしれない」
「そんな……」
現在の同好会で波乱が起きていた。璃奈の言葉に不安と驚きの声が混じる。
モニターに映った話を聞いた栞子は自分を認められずに壊れ、勘助も侑の言葉で装置を取ったが起きず、璃奈は侑に実験の失敗を告げた後、みんなに謝ってこの実験はやめるといった。
みんなは勘助のために作ったことを知っていたので、やりすぎたということ以外は責めなかった。重たい空気が流れる中、せつ菜が口を開く。
「こうなってしまったのなら仕方ありません。勘助さんがこの問題を解決してくれるのを祈るしかないです」
そう言って少し涙を見せながら、せめてこれだけでもと、勘助の隣に愛用のユニコーンを隣に置いて、勘助の手を持ちながら祈ることしか出来なかった。