天王寺璃奈は悩んでいた。たまたま手に入ったアミューズメント施設、ジョイポリス。
その券が手元にあった。だがしかし璃奈は表情が上手く出せないし、たった一言友達になってほしいとか、一緒に行こうとか。その一歩を踏み出せない。
「あ、ジョイポリスの券じゃん!」
急に現れた宮下愛という人物に璃奈は固まる。上級生、怖い。
「怖くないよ! 一緒に行こう!」
心が読まれてる、怖い。
でも、初めて人と繋がることができた。こんな自分でも変われるんだと、だったら変わってやるぞと。それが天王寺璃奈の一歩である。
☆
「オラオラァ! 悪い子はいねぇかぁ!!」
「りなりー来てるよ!」
「わかってる!」
「うわぁ、助けて勘助君!?」
「汚物は消毒じゃあ!!」
「あれこんなゲームだっけ?」
璃奈、侑、歩夢、愛、勘助の5人はジョイポリスに来ていた。新しいアトラクションに興奮する歩夢とゲーム上手いと愛、璃奈、勘助の三人を褒める侑。勘助は最初女子だけで行けばいいと言っていたが、5人まで行けたので所持者の璃奈以外で2年生組で行くことになった。
せつ菜は生徒会で行けなかったので、もしせつ菜がいれば勘助は抜けていたと自分で言ったが、それでもみんなは誘おうとしていたらしい。
勘助が少しばかりお手洗いに言った後、璃奈にこう言われた。
「あ、私ライブする。勘助さんお願い」
「急だなおい!? どうした?」
「あはは……実はさっきね……」
侑がテンパっている勘助に説明する。勘助がお手洗い中璃奈の同級生にあったらしい。
なんでも、ジョイポリスではスクールアイドルのライブが流行ってると聞いて、璃奈自身もみんなと繋がりたいと啖呵を切ったらしい。後にかすみに話すと驚いていたが、勘助が璃奈の決意を聞いて完全了承。来週の土曜までに曲を作ると約束した。
「映像は自分で作れるけどパフォーマンスは自信ない。だから教えてほしい」
「私も曲は作れるが、璃奈さんに合った曲を作るからどんなのがいいか教えてくれ。歌い方とか私としずくさんで教える」
「結局みんな手伝うんじゃん」
彼方の一言に当然ですと勘助が返す。そしてエマの指導の下柔軟やしずくと勘助の発声練習、かすみのMCの練習。など厳しい修行でもあったが、璃奈もしっかりと付いていった。
「今回できない、やらないは無しだから」
そう言って真剣に練習に励んだ。
「よし、もう一回だ3,2,1,」
チガウスガタ チガウワタシ
だけどどうして 同じ気持ち
「……少し違う」
「違う?」
「なのにどうして、オナジキモチって感じのほうがデジタル的」
「なるほど。じゃあこうか」
チガウスガタ チガウワタシ
なのにどうして、オナジキモチ!!
「繋がってる実感はいいか?」
「うんそこに、分け合う温もりありがとう、にしたい」
「音合うかな、ちょっと早口になるが頼むわ」
「うん、ありがとう勘助さん」
そしてだいぶいい感じにまとまってきた所で事件は起こった。
「私は……変われない」
いつからか練習に来ない璃奈がそこにはいた。連絡も途絶えて音沙汰もなくなっていた。
勘助は緊急軍議を開きみんなを集め話し合うことにした。
「連絡がつかないのなら仕方ないんじゃない?」
「でも、りな子のライブは明日じゃ……」
「来ないなら仕方ないな」
「勘助さん!?」
勘助の言葉に待ったをかけるせつ菜だが、来ないなら話しようもないと勘助は集合場所から出て言った。
もともと軍議を開いたのは勘助だったが本人がいないのがまずかった、連絡も取れないならどうすることもできない。よってこんな行動をとった。
その後、不安になっていたのはかすみだけでなく果林もこんな話をしていたが、心配でうずうずしていたのは勘助以外にバレた。
☆
誰も使っていない教室で璃奈はいた。家に籠ることも考えたが、少しばかり罪悪感もあったのでここに来ていた。
「ここなら誰も……」
言葉を発する前にドアが開いた。とっさに段ボールに隠れる璃奈。うっすらと見ると勘助の姿がそこにあった。
どうしてここにと思っていると勘助は一人で話していた。
「やれるな、ユニコーン」
エレキギターと話した勘助はそのままアンプなしで弾いたその曲は……
「これって……私の曲」
はずむ ココロ!
飛ぶような テンション!
さぁ Connectしよ!
全力だった、まるで璃奈がそこにいるか分かっているかのように段ボールに眼を向けてエレキをかき鳴らして璃奈の曲を歌っている。一曲歌いきると勘助はエレキギターに対して礼を言った。
「……これは俺の独り言だが、男ってのは感受性があまりないらしい」
「簡単に言うと男は女性に比べて表情の変化が少ないんだとよ……俺もたまに誤解される」
それでも、と勘助は続けて俺はお前のほうがわかりやすいと思うぞと言った。
「……どういうこと?」
「おう、璃奈さんそこにいたのか探したぞ」
まさしく今見つけたかのように振舞う勘助、曰く自分が話してるのは段ボールであり璃奈ではないということだった。
「どうしてここが?」
「桃色の髪が一瞬見えてな、ノリと勢いで来ちまった」
「……練習さぼってごめんなさい」
「別にいいさ、私も昔、ギター弾きたくない時もあった」
謝るならみんなに謝ってくれと言いながら璃奈の名を呼んで今度は眼をしっかり見て伝えた。
「俺はな璃奈、お前のライブみたいよ」
「え?」
「せっかく歌詞を二人で作ったんだ、歌わないほうがもったいねぇよ」
「今は初めてだから出来ないことばかりでも、いつかできるようになるから。初ライブ見せてくれよ」
「でも……私やっぱり自分の気持ちを伝えるのできないよ」
「無理なら俺も出ようか? 覆面かぶってよ。聞いて驚け、俺も初ライブなんだ。怖いよ、震えが止まらないよ」
「嘘でしょ?」
「本当です」
璃奈はあり得ない眼で情けない声を放つ勘助を見た、こんなにプロ並みに上手い人間が初ライブであることに驚きを隠せなかった、そんな顔を見て勘助は動揺してるなと指摘した。
「どうだ? 俺なら愛さんほどじゃないけど璃奈さんの気持ちわかるぜ?」
「それにだ、君の表情は生まれつきかもしれない。言わば偶然のものだ」
「それでも! 君がスクールアイドルをやりたいと言って同好会に入り、みんなと練習して今回できない、やらないは無しだからと言ったのは偶然か? 違うだろ。君の決意だ」
はっとなって気が付く。確かに自分の表情は動かなくてもスクールアイドルになりたいと言ったのはほかでもない自分、ライブをすると言ったのも自分である。
「大丈夫、表情以外でできることを探して、次までに表情を鍛える逃げだって策の一個だ」
「璃奈さん、安心しな。君はしっかり変われてるよ」
「……勘助さん」
「見つけた璃奈ちゃん!」
「遅いぞ侑さん」
「カンスケなんでりなりー見つけたのにメッセージしてくれないの!?」
「あ、ごめん愛さんギター弾いてたらつい忘れてた」
侑が見つけに来てくれたのは勘助のおかげであった。アンプにつなげないと音が小さいエレキだが、勘助が爆音で歌っていたせいで外まで響いていたらしい。そのおかげで勘助と璃奈を見つけられたらしい。
「ありがとう、みんな。もう逃げない」
「おう、頑張れ」
事は済んだかのように勘助は侑にバトンを渡す。そしてその翌日、璃奈が作り上げた璃奈ちゃんボード(機械版)でライブは大成功。同級生との会話は璃奈ちゃんボード(紙)で会話が出来たらしい。
しばらくして勘助と璃奈は二人で話す機会があった。
「よぉ、璃奈ちゃん最近調子いいな」
「勘助さん、この前はありがとう。璃奈ちゃんボード『にっこりん』」
「ならよかったそれじゃあ私は授業あるから」
そして別れようとする勘助の袖をそっと掴む。勘助がどうしたのかを聞くと伝えたいことがある、しゃがんでほしいと言われた。
「しゃがむ? なんか話しずらい内容でも……」
勘助が言葉を言う前に璃奈が勘助に近づいて言葉を止めた左頬に柔らかい感触、それが璃奈の唇だと気が付くのに数秒かかった。そして勘助の耳に一言。
「また、呼び捨てでもいいよ」
そう言って璃奈は小走りに走っていった。その時勘助が璃奈と違う方向に歩いてせつ菜とすれ違ったのだが勘助の耳が真っ赤になっていたことを疑問に思うせつ菜なのだった。
「……ずるいよ、あんなの。反則だ、ちくしょう……」
璃奈ちゃんボード「Vサイン」