特別に憧れる少女が阿良々木暦と出会った物語   作:波岡 蓮

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なわかウィーズル 其ノ承

003

 

「ん、あれ?」

 

 それから30分程して、任された仕事を終わらせた僕と七五三掛(しめかけ)は例の学習塾跡に向かったのだが、そこでひとつ想定外の事があった。

 

「忍野さん、いませんね……」

 

 そう。忍野がどこにもいなかったのである。まあ、あいつだっていつでもここにいる訳ではないだろう。食べ物や日用品を買いに行ったりもするだろうし、何か怪異譚の蒐集に出かけたりもするだろう。

 

「どうする?忍野が帰ってくるのを待つか?」

「んー……いや、どうしましょう……」

 

 悩んでうんうん唸っている七五三掛を横目に、僕は廊下の隅━━正確には、そこに蹲る小さな人影に目を向けた。

 長い金髪にゴーグル付きのヘルメットを被った八歳くらいの見た目の幼女が━━━━忍野(しのぶ)が、そこにはいた。

 

「……まあ、知ってるわけねえか」

「?何か言いましたか?」

「いや、何でもない」

 

 吸血鬼の成れの果て。

 美しき鬼の搾りかす。

 なんて、そんな事を言ったところでどうにもならないのだけれど。

 七五三掛にその辺りの事情を説明する必要も無いし、何より一言も話さない忍に聞いたところで何の意味もないだろう。

 

「……ところで、お前が忍野に相談したかった事ってなんだったんだ?」

 

 目線を戻し、そういえば、と聞く。結局、ここに来るまでそれについて一言も聞いていなかったからだ。

 

「ん、それ聞いちゃいます?」

「あ、悪い。あんまり他人には聞かれたくないやつだったか?」

「んーと、別にそういう訳じゃ無いんですけどね……」

 

 なにやら悩んでいる様子の七五三掛。

 

「言いたくないんなら別にそれでもいいぜ。そんなに真剣に聞いた訳では無いから」

「うーん……阿良々木さん。あなたって、自分を紳士だと自信を持って言えますか?」

「紳士?はっはっは、何を言い出すかと思えばそんな事か。僕は世界で一番紳士的だとの呼び声高い男だぜ、安心してくれ」

「そうですか、なら良かったです。何やら羽川さんのスカートを捲ったり戦場ヶ原さんを裸にひん剥いたりしたという噂を聞いたので、少し不安だったんですけど」

「待て、その噂はどこで流れてるんだ!?誰から聞いた!?」

「あとこれは女の勘なんですけど、阿良々木さんって将来的に幼女のあばら骨や少女の胸や童女の足の裏を愛でてそうですよね」

「どんな犯罪者だ、そいつは!僕がそんな事をしそうな奴に見えるのか!?」

 

 幼女に少女に童女って。一体誰がそんな悪逆非道を成すというのだ。

 それに羽川や戦場ヶ原の件がどこから漏れたのかは知らないが、どうして妙に歪んだ形で噂になってるんだよ……とんだ危険人物じゃねえか。

 

「とにかく、阿良々木さんは現時点では紳士的だと信じていいんですよね?」

「あ、ああ。頼むから信じてくれ。あと、その噂については後で詳しく聞かせてもらうぞ」

「じゃあ……ちょっとすみません。少しだけ、後ろ向いててもらってもいいですか?」

「?いいけど、なんでだ?」

 

 言いつつ、くるりと後ろをむく。

 少しの間、しゅるり、しゅるりと衣擦れの音が響く。

 

「……あの、七五三掛さん?もしかしてですけど……」

「はい、もうこっち向いていいですよ」

 

 嫌な予感がする。

 この感覚、何故か前にも味わったような━━━━━━

 

「これが、私の相談したい事です」

 

 振り返ると、恥ずかしそうな顔の七五三掛が壁を背に立っていた。

 立って、裸を晒していた。

 いや、正確には裸ではない。淡い水色のブラとパンツだけは残していたので、半裸という方が正しいのだろうが━━━━━━━

 

「なんでここで脱いでんだよ!」

「だ、だってこうしないとよく見えないんですもん!私だってこんな貧相な体見せつけたかないですよ!」

 

 予想外だった。一見普通そうに見えた七五三掛に、こんな露出趣味があったとは。反射的に手で目を覆ってしまった。

 ていうか、なんで僕はこの短期間のうちに何回もクラスメイトの半裸姿を見ているんだよ。字面だけなら夢のようだが、実際にその場面に立ち会うと困惑と驚愕が勝る。

 

「違います、そんな趣味ありません!よく見てください、私が見せたいのはそこじゃなくて……」

 

 恐る恐る、翳していた手を退けてみると、そこには。

 

「…………なんだよ、これ」

 

 七五三掛の体には━━腕も、脚も、腹も、肩も、胸も、手も、足も━━首から上を除くありとあらゆる場所に、まるで鋭い刃物で切られたような無数の傷がついていた。

 ほとんどは浅い傷のようで既に瘡蓋(かさぶた)となっているが、中にはかなり深く切ったのか、変色した傷跡となっているものもあった。更には大きなガーゼを当てられている部分もあり、じんわりと赤色が滲んでいる所も見受けられる。

 痛々しい、どころか。

 見ているだけなのに、存在しない傷を感じてこちらの体まで疼き出すようだった。

 

 特殊メイクではないだろう。僕はあの悪夢のような春休みで、傷を大小問わず散々見てきたから分かる。分かってしまう。

 これは正真正銘、七五三掛を(さいな)み続ける傷なのだと。

 

「な、なあ。こういうのって、警察とかの仕事じゃないのか?」

「……これをやったのが人間なら、そうですね……でも、これは人間に付けられた傷じゃあありません」

「じゃあ……お前が相談したい事って」

「はい」

 

 問うと、七五三掛はするりと流れるように、その問いを予想していたように答えた。

 

「私を襲う鎌鼬(かまいたち)を、退治して欲しいんです」

 

 

 004

 

「私が初めて鎌鼬に遭ったのは、1ヶ月と少しくらい前━━春休みが終わって新学期になる、その直前でした。

「いつも通り陸上部の練習が終わって、家までの道を歩いていた時です。

「私の家はちょっと遠くにあって、行き帰りは基本的に一人なんですよ。その日も一人で歩いてました━━そうしたら、いきなり強い風が吹いて。

「目の前に、()()()がいたんです。鎌鼬、とは言いましたけど、見た目だけなら人間みたいでした。

「じゃあなんで鎌鼬って分かったのか、ですか。

「だってそいつ、()()()()()()()()()()()()()

「手ぶらで急に現れて━━なのに気付いた時には、もう切られた後でした。

「最初に切られたのは、ちょうどこの辺ですね。右肩、右脇腹、左脚。

「もう今はただの傷跡になってますけど━━最初の方は酷いものでしたよ。シャワーすらろくに入れないんですから。

「……ええ、はい。今もです。毎日ではないですけど、頻繁に切られて。それでつい最近、偶然忍野さんと知り合って、何とかしてもらおうと思ってたんです。

「鎌鼬を退治して欲しかったんです。

 

「助けてもらおうと、思ってたんです。




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