許せなかった…ヴラド3世が罪人格だなんて… 作:ナマハゲィータ
「ウギャァァァァ⁈」
男は驚きと恐怖が混ざった絶叫をあげた。
その一方で俺は冷静に自分の才能について考えた。
(なんで彼奴があんなに絶叫をあげてるのかが分からない。まるで何かに手を貫かれたようだ。俺には見えてないだけで才能行使はされてるって事か?でも傷もないんだよな…)
惨状を目にしながら俺は驚くほどに冷静だった。むしろこの状況を見て心が躍るようだった。
「ウギャァ…痛え。テメェなんなんだよこれはぁ?」
「ん…ああ。忘れていたよ貴様の事。要するに私はそう言う存在だという事だ。」
「コ、コスプレじゃねえって事かよ⁈」
「今の状況を見ればわかるだろ?」
最初は騒がしかった奴も自分の状況と目の前の俺を見て顔を青くしていた。
この問答が非常に心地よい。
相手の恐怖する顔を見て浮かぶ感情がそれってのはおかしいだろうがとても気持ちが良い。これが俺のヴラド3世の才能って事なのか?
「た、助けてくれ…」
ついに奴は命乞いをして来た。
ただのコスプレのオッさんだと思っていた奴が自分の想像を超える存在だと分からせられたのだ。
「元々殺すつもりはない。そのつもりなら貴様はとっくに串刺しだからな。その腕は代償だ。分不相応な相手に挑んだことに対する代償だ。」
奴は怯えていたがこっちははなから殺す気はない。これで偉人の社に目をつけられたらたまったものではないからだ。
とりあえず指パッチンすると奴は驚いた表情を見せた。
「なっ串が消えた⁈でも血は流れてねぇ⁈」
「これは楔だよ。君が金輪際悪事を成さないようにね。もし悪事をなした場合は栓が外れ出血多量による失血死間違いなしだ」
「ヒィィィィ」
怯える奴の顔を見て何か満たされた気持ちになった。
そうか俺が求めていたのは恐怖なんだ、敵の戦意を喪失させる恐怖、俺の才能、一つは劣勢を挽回できる軍略、もう一つは相手の戦意を喪失させるほどの恐怖を与える事への渇望なんだと。
かといってそれを求めて才能を奮ったら罪人格一直線だ。
なんとか自分を律していきたいがそれは難しいだろうがせめてその対象は廻り者に留めたいなぁと思った。
とはいえ俺はただ指パッチンしただけだそれなのに串が消えたと奴は認識していた。
つまり奴は俺の才能行使という言葉と同時に右手が串に貫かれたと認識したようだ。
ヴラド3世、彼は内憂外患を恐怖でもって抑えようとした。
串刺し刑なんかはその代表例だろう。
大軍を率いたメフメト2世の撤退は本人の発病もあるが何より大量のオスマン帝国兵の串刺しの林を見た事により恐怖し戦意を喪失したのが原因とされている。
という事は俺の力は串刺しになったイメージを流す事で相手を恐怖させ戦意を喪失させるというものだと考えられる。
これが才能行使「悪魔公」なのだろうか。
(悪魔公って普通に蔑称ではとか、いやまあ無条件で使えるなら強いがこんなん絶対なにかしらの条件あるだろとかやっぱり実物の串出せた方が強いのでは?とか色々あるが。)
そうやって考え事をしていたらいつのまにか奴の背中が遠くなっていた。
これに懲りたら二度と親父狩りとかしないと良いんだが。
そうこうするうちに俺の姿は元のホームレスに戻っていた。とりあえずは完全な廻り者になるのを目標とするか。
「クソっ…クソがふざけやがって」
逃げた男は傷もついてない右腕を見ながら悪態をついていた。
喉元過ぎれば暑さを忘れるとは言うがヴラド3世から離れた事で恐怖は薄れ怒りが湧き上がっていた。
明らかに串で貫かれた筈の右手には傷はない。
タネは分からないがペテンにかけられたと考えた男は顔を真っ赤にして
「今度はもっとマシな連中連れてあの野郎をぶっ殺し…っ…え?」
ヴラド3世に対する恨み言を呟きながら路地裏を抜け自分の家に帰ろうとした。
しかしその途中で痛みを感じその場所を見るとそこから何かが刺さり血が吹き出していた。
「穢らわしいゴミめ。先の事で考えを変えるなら見逃すつもりだったがそうでないのならその命は不用よ。」
目の前には誰も居ないのに声だけ聞こえるという不気味な状況に声を出す事も出来ず男は息を引き取った。
「さてゴミ掃除は終わりだ。道雅めと会う約束も無し。ならばあの廻り者に一つ会うてみるのも一興か。」
そう語った廻り者はその場を後にする。
無論その姿を捉える者は誰も居なかった。