許せなかった…ヴラド3世が罪人格だなんて… 作:ナマハゲィータ
笮融と黒鋭隊が対峙して居る頃、院外の簡易基地にて一人の少女が拘束されていた。
「この拘束解いてくれないの〜?知ってる事は話したじゃん。」
「黙れ。あんな事聞かされて拘束しないわけには行かないだろ。いつ我々に牙を剥くか分からんからな。」
彼女は拘束に対する抗議を近くの黒鋭隊隊員にするが、彼は警戒心を剥き出しにして返した。
こうなったのは彼女…ジャック・ケッチの廻り者が自身を庇った母親の死を受けて覚悟を決め黒鋭隊に自分が知ってる事を話したのが原因だった。
まず彼女は彼らの前で輪廻の枝によって廻り者となりそこから自分が知ってる事を話した。
そこで白道教の下で拷問を行っていた事も話してしまったのが問題だった。
彼女としては洗脳下ではあるが自身の過ちを白状しただけなのだが彼らからしたら廻り者が一般人に被害を与えたという話になりその凶暴性、危険性が浮かんでくる。
故に自分達に危害が加えられないように拘束した。
即射殺されなかったのは廻り者とはいえ母親が殺害されるのを防げなかった負目とその慟哭する姿を可哀想だと思ったからである。
中々に甘い判断である。
そうして拘束された彼女は暇なのでこうして隊員らに話しかけているのだ。
とそんな時に外で女性の悲鳴が聞こえたため隊員らは皆その声がした場所へ向かい彼女は一人になった。
「…アタシも気になるけどまぁ動かないほうが良いよねえ。アタシ少なくともあの犬頭に復讐するまでは死にたくないもん。」
彼女は悲鳴の原因が何か気になったが彼女自身の願いの為に今は黙っている事にした。
隊員が辿り着いた場所には一人の女が蹲り震えておりそれを他の隊員が必死に声を掛けて何があったか尋ねていた。
他の隊員から聞いた話では院内でフラフラの彼女を保護しここまで連れて来たが突然発狂したとの事であった。
その発狂のタイミングは部隊の一つが虚無僧のような格好の廻り者と接触し今まさに発砲の許可を出す直前だったらしい。
明らかに関連性があるのだが肝心の彼女は泣きじゃくり何も話せない状況だった。
そうこうするうちにその廻り者が話した内容がこちらにも伝えられた。
「俺を殺せばその女も死ぬ。傷つけたら女も傷つく。その女の顔に羽みたいなタトゥーが刻まれてるだろ?それが俺の才能『比翼心中』の影響下にある事の証明だ。だからこのまま俺を素通ししな?それとも民間人殺してでも俺を殺すか?」
その内容はこちらを舐めているものであった。
聞いたところ奴の力は自身が殺害された時に羽のタトゥーが付いている人間も一緒に死ぬという物らしい。
もちろんハッタリの可能性もあるが事実だった場合守るべき国民を一人犠牲にすることになる。
イヤらしくも有効な手であり実際隊員達は手も出せず素通しするしかない。
因みに傷つけたら女性も傷つくというのはブラフだ。
さて平井権八にはもう一つ才能行使がある。
それは『百三十人斬り』
必ず相手の不意をついて攻撃出来るというものであり、刀で人を斬れば斬るほどその切れ味が上がるという効果もついている。
これによって彼の刀は鉄の塊を軽く一刀両断出来るほどの切れ味となっており、不意打ちで黒鋭隊の装備ごと隊員の1人を真っ二つにして殺害していた。
そんな彼は自身の比翼が居る場所へコソコソと向かっていた。
彼女が居るとはいえ敵陣に堂々と乗り込むものではないし調子に乗って拘束されてしまったら何の意味もない。
故に追ってくる連中を角などを使い撒きつつ『百三十人斬り』で殺していき近づくのは不可能だと認識させていた。
(いくら奴らが身体能力に自信があるとは言え必ず不意をつける俺の刀はそう簡単には避けられねえ。ご自慢の銃さえ封じたならお前らは怖くないんだよ!)
何度目かの奇襲を成功させ本人の気分は最高であった。
また彼は知らないがこのとき隊員の多くは笮融の方へ向かっていたのもあり彼を邪魔する隊員は来なくなったのも彼がウキウキな理由である。
(おい俺の比翼、俺は今非常に気持ち良すぎて自殺してもいいかなとか思ってる。それが嫌なら俺と同じ廻り者の女を解放するように訴えるんだな!)
そんな彼は最高の気分そのまま自身の道連れ相手にした女にこう要求した。
側から見たら拘束されている女を解放しようとするかのように聞こえるが実態は拘束されたままでは殺しにくいという理由である。
さて女を通じてそう要求されて一番困ったのはジャック・ケッチの廻り者である。
「いやアタシそいつらの仲間じゃないんだけど。明らかにアタシの命を狙ってる側でしょ。」
彼女は明らかに自分を殺す為に解放しろと言ってるように感じ抗議していたが隊員達はそう思わない者の方が多かった。
なんせあの泣き崩れ悲しむ場面を見た隊員ばかりではないからだ。
「そんな事分からないだろ?お前本当は母親が」
「それ以上言ったら死ぬより恐ろしい目に合わせるよ?」
ただ一人の隊員が不用意な発言をしてしまいそれにキレた彼女はなんと拘束具を破壊し斧をその隊員に突きつけた。
正に一触即発といった状況だが黒鋭隊側の監視付きでの解放となった。
そんな彼女の側に女がやってきてケッチを誘導していく。
(あー…この人があの悲鳴の人か。明らかに怯えているしアタシをこうやって誘導するって事はやっぱ脅されてるのかな?」
そう言いながら彼女の言う通りに進んでいると院内に入っていきたどり着いたのは地下駐車場であった。
あからさまに奇襲しますと言ってるような場所でありケッチは当然警戒するが突然虚無僧の格好をした男が現れ刀を振りかぶっていた。
(⁉︎警戒していたのに完全に不意を突かれた!)
だが彼女は廻り者となり強化された身体能力でギリギリでかわし頬が切られるくらいで済んだ。
「やっぱ廻り者相手じゃあ一回じゃあ決められないか。」
そういう彼が切った柱を見ると真っ二つになっていた。
彼女が武器を構えると彼はそれを見て嘲笑う。
「おいおい分かってるのか?『比翼心中』で俺とそこの女は結ばれてるんだ!俺を殺したらそいつも死ぬぞ?」
それを聞いてケッチは尚も止まらない。
それを見た女は縋りついて止めようとするも間に合わない。
平井権八もまたそれを止める気は無かった。
彼は慢心していた人質を取れば自分に危害は加えられないし仮に死んでも彼が見初め一方的に関係を結んだ女と一緒に死ねるならそれでも良かった。
故に彼女の行動も人質を顧みない冷酷な行動にしか見えなかった。
だから間違えた。
彼女が全力で振った斧は無抵抗の平井の肩に食い込み…そこで止まった。
「ギャアアアアア!!」
平井は絶叫を上げのたうち回る。
一方で女は自身の体に何もない事に驚いていた。
「なっ…なんで。あんなん明らかに人を殺せる一撃だっだだろ…!!」
「アタシの才能はどんな一撃でも人を殺せないんだ。死なない分その威力は痛みとしてアンタに残るけど。」
「あっ…。あああ。」
平井は絶望していた。
彼の『比翼心中』は自身が死なないと発動しない。
故にどれだけ痛ぶっても殺せない彼女とは相性が悪すぎた。
破れかぶれで彼女を斬ろうとするも斬られた肩の痛みでまともに刀も触れないかった。
こうなってはいかに不意打ちできても余裕で対応できてしまう。
「さあて彼女にかけた呪いを解きなさい。じゃないとこの拷問は一生続くよ?」
その宣告はまるで悪魔のようであった。
絶望に失禁した平井権八は3回ほど斧で体を抉られたのち『比翼心中』を解除した。
駐車場の外で待機していた隊員達が見たのは安堵の表情をした女を連れ廻り者と思われるズタボロの男を引きずったジャック・ケッチの姿であった。
また基地では笮融も別の廻り者の協力を得て討伐したという情報、白鳥由栄を見失ったという情報も届いた。
これにより病院での戦闘は終結した。