許せなかった…ヴラド3世が罪人格だなんて… 作:ナマハゲィータ
「しかし奴の炎は尽きないな。」
吹き筒を構え敵を見据えながら俺は零す。
罪人格とはいえ廻り者なのだから強力な力を持っているのはおかしくはないがとはいえ火力も可笑しいしああやって空まで飛べるなんて罪人格どころか並の廻り者では相手にならないのは間違いない。
俺もこの吹き矢を用意してなかったら太刀打ち出来なかっただろう。
片腕を鉄杭で貫かれ使い物にならないのを炎で無理矢理翼を作り飛んでいるというのが奴の炎に際限がない証明のようで嫌な汗が流れて来る。
ただ腕に炎を纏わせ羽にしているのと違い直接炎で羽を形成してるからかあまりバランスは取れてないようだった。
「フッ!」
「ッ⁉︎」
「あらあら吹く瞬間に体勢が崩れたせいで見事にかわされましたね。」
そのせいでただでさえ精度が低い吹き矢の命中率は更に下がったのだが。
しかし相手の炎はこちらが必死に防いでいるため、泥沼な展開が続いていた。
その状況を打破せんと先に動いたのはお七の方だった。
彼女は俺たちに背中を見せたと思いきや全力で逃走を図った。
「な⁉︎」
「敵前逃亡は恥ですがあの館を焼く事なく死ぬ方がよっぽど恥です。ここは逃げさせてもらいます。」
そう言って逃げる相手を俺たちは追いかける。
とはいえ追いかけながら吹き矢で攻撃というのはキツい。
ある程度遠い程度なら問題ないがやはり相手がふらついているせいでこちらの照準が合わない。
そうやって標準を合わせていたら距離が離れてしまうのでヤケ糞で放つもまあ当たる訳がない。
加えて吹き矢には肺活量が要求されるので走りながら打つってのは出来ない。
しっかり立ち止まり息を整え照準を合わせ放たないと当たるものも当たらない。
そしてたまにこちらに振り返り炎を放つためそこでさらに距離が離される。
とはいえ相手がどこを目指しているのかは分かっているのでそこまで長い追いかけっこにはならなかった。
「ゼェゼェハァハァ…。」
「ハァハァ…いやあ直接扇寺邸に向かうかと思ったら我々を撒く為にあえて遠回りするとは思いませんでした。」
「ゼェ…ゼェ。」
「おかげで我らがリーダーはこの有様。大丈夫ですか?吹き矢使えますか?」
「……キツいな。」
ただ普通にキツかった。
後ろでフーシェが疲れた様子で話しかけて来たがこっちは一言絞り出すのが精一杯だった。
本調子だったなら一っ飛び出来たと考えたなら追いかけっこになっただけマシとも言えるだろうがやはり機動力は大事だ。
俺も空を飛べれば良いんだがなぁ。
そう考えながら俺は館の真上を見る。
そこには勝ち誇ったかのようにお七が浮いていた。
「ふふふ。矢を鉄の杭に変えた時にはヒヤリとしましたが存外当たらないものですね!所詮付け焼き刃では意味は無いのですよ。」
「まだ終わってないのに勝ち誇るか、哀れだな。この館に廻り者が居る事も知らぬくせに。」
こちらをコケにするかのように嘲笑う彼女に対しこちらは強がりを混ぜながら爆弾を投下した。
当然ここに廻り者が居るなど初耳の彼女は驚くもすぐ表情を戻す。
「ふふふそのような嘘信じるわけないでしょう。」
「居るよここに。」
しかしそんな彼女の予想を裏切り館の中から廻り者が現れた。
扇寺西耶だ。
髪は白くまだ幼い姿ではあったが何か恐ろしさすら感じた。
「ま、まだ子供じゃないですか。」
そう強がるも動揺は隠せなかった。
そうして奴が動揺する隙に俺は『串刺公』で柵を超える高さの鉄杭を作りそこを登っていき敷地内に侵入した。
「さてこうやって近づけた以上もう逃げ場はないぞ?」
「ふふふ。逃げ場はない?それは貴方達の方でしょう。この草を蓄えた裏庭…よく燃えるのではありませんか?それにその少年は貴方達の仲間ではないのですか?」
「違うぞ?ここに来て出逢っただけの他人だ。」
「は?貴方まさか私を殺すためだけにこの状況を作り上げたと?この少年はどうなっても良いと?」
最初は余裕振っていたが俺が喋るたびにその声は震え顔色は変わっていく。
そして最後の質問に
「お前を殺せば守りたいものを守れるのでね。」
と返すと彼女は化け物でも見たかのような顔をした。
「効いてますね。私の才能が。」
その様子を見たフーシェは小声で俺に話しかけてきた。
そう彼女が過剰に反応しているのはフーシェの才能で俺の雰囲気をおどろおどろしく恐ろしい狂人であるかのように変えているからだ。
この距離なら能力は届くとの事だったので許可した。
「さてあとは恐怖に怯える奴に止めをさすか。」
さてこちらに怯えるお七に対してこちらは躊躇なく吹き矢を放つ。
が、
「「当たってないじゃないですか!」」
うん外した。
やっぱ吹き矢って難しいねんな。
というかフーシェだけでなく西耶にまでつっこまれてしまった。
しかしこのままでは奴は正気を取り戻してしまうので別の手段を取る。
「フンッ!!」
「危なっ!吹き矢の次は投げ槍ですか?くっ…腕がこの有様でさえ無ければもっと高く飛べたというのに。」
以前宋江戦で用いた投げ槍だ。
こちらは奴が高度を高く保てないおかげか吹き矢よりかは命中精度は良かった。
なんせ奴に回避行動をさせているからな!
相手は炎を放とうとするがその度に投げ槍が襲い掛かり攻撃に集中出来ない。
「一度燃え広がりさえすれば私の勝ちだというのに!」
奴の嘆きは気持ち良いがこちらにも余裕はない。
なんせ投げた槍を拾いに行く余裕は無いからだ。
このまま泥試合が続くかと思ったそのとき、いつのまにかフーシェを伴い接近していた西耶に声をかけられた。
「おじさん、その吹き矢貸してくれませんか?」
「良いが…経験あるのか?」
「はい。色々叩きこまれましたので。」
西耶の提案に俺は乗っかった。
これでようやく泥試合は終わる。
そう確信したからだ。