TS戦士見習い、女人禁制スパルタ学園の賞品になる 作:TEKKON
「なるほど。ここに出てくるんだな」
あの忌まわしき地下室から地上に出ると、校舎から外れた所にある小さな小屋の中だった。まさか、地下に通じる階段が隠されているとは……
少し離れた所からは先ほどの重たそうな音が聞こえてくる。
「1回生は校舎のグラウンドで重打撃訓練が続いているな。問題は2,3回生が何をしているかだが……」
このレッドウォーリアー学園は広大な敷地を有しており、森林、沼地、山の斜面等の戦闘訓練も出来るようになっている。
2,3回生の訓練場所もかわせたら脱出しやすくなるだろうが、もし自主訓練だったら分散してどうしようもない、か。
「いずれにせよ、この異変に誰も気づいてない今のうちに、か」
俺は早速動く事にした。この学園の周りは高い塀で囲まれており、外に出るルートか限られているのが、今回の最大の難点である。
しかし、それは他の奴の話だ。
俺には切り札がある。
…
……
………
* * *
「……あった。ここだ」
少し先へ進んだ後、俺は目印の木を見つけた。
ここからは従来の道から外れ、森の奥へ向かって歩く事になる。
俺が今回、ここからの脱出を決めたのはこの秘密のルートを知っていたからだ。
このルートは、定期的に人知れず街へと繰り出しているリュウが、俺にだけ教えてくれた秘密のルートだ。見つけたのは偶然らしいが、これはリュウの天性の直感、センスによるモノなのだろう。
「……リュウに感謝しないといけないな」
かくゆう俺も一度、リィアを見送りする為に使わせてもらった事がある。だからこうやって一人でもいく事も出来る。
「まさか、もう一度ここを使う事になるとは」
俺は道なき道を歩む。自由と未来を手に入れる為に。
…
……
………
途中で違和感を感じて足を止め、そっと耳をすます。
「……くそっ!」
間違いない。何者かがこの近くを歩いている。森の外れ且つわかりくいこんな所を好んで歩く奴はいない。なら、目的は俺の可能性が高い。
「まいったな…… 今回の件がもうバレているという事か?」
この身体なら難なく逃げられるがそれはあくまで1対1の場合だ。更に目的地がバレてたらいよいよ状況は深刻になってしまう。
「……あっ!?」
その時、2本の斧を持つ巨体の男が俺をあっさり見つけて、無警戒でこちらに向かって歩いてくる。
「カーイー! やっぱりここにいたか!」
「リュウ!」
「ほら。お前の斧だ。必要だろ?」
「ありがたいっ!」
斧を軽々とこちらに投げながら、嬉しそうな笑顔を見せるこいつこそ俺の悪友で大親友、リュウ・メサイアだ。
…
……
………
* * *
「それで、回復士達がベルガーの股間にあらゆる回復魔法かけたらさぁ、そしたら股間が元気になり過ぎて…… クックックッ!」
リュウは小さい声で話しながらも、楽しそうにその巨体を震わせる。この明るさがリュウの一番の魅力で、この学園に入ってどれだけ救われただろうか。
「それで今の俺は手配されて無傷で捕まえた者には褒美、か」
「まっ、そう言う事だ。真っ先にグラウンドにいる俺達1回生に伝えられて、今頃は全校に広がっているだろうな」
いよいよ、状況が厳しくなってきたって事か。
「それにしても、いいのか? 後々俺の脱走に加担したとバレたらお前は……」
「あ? 今更何を言ってるんだよ。お前はリィアとパーティー組む為にずっと頑張ってきたし、その為にここに来たんだろ?」
当然の行為をしたまでだが? と言いたげな顔でこちらを見る。
「リィアもミト国の魔法学院に行っているしな。幼い頃の約束を守る為に頑張る二人を、俺はずっと隣で見ていたんだ。……だから、死んでもお前をここから出してやるよ」
「あ、ありがとう……」
リィアの事を考えて俺は少し表情が曇ったらしい。リュウが俺の顔を覗き込む。
「ん? どうしたカイ」
「なぁリュウ。俺はリィアと一緒のパーティーを組めるかな。そもそも俺はあいつと組んでいいのかな」
「はぁっ!? こんな事までしでかしたのに、今更何言ってるんだよ!」
「しかし……」
リィア・イレーネ。
俺と同じ歳の幼馴染は、子供の頃から魔法の才能に溢れ”10年に1人の天才”と呼ばれていた。そして、現在は平民の出ながら、国からの援助で魔法大国であるミト国の、名門魔法学園に特待生として在籍している。
卒業後はここに戻ってくる予定だが、普通に考えたらエリートとして魔法団に属し、いつかはエデ国魔法使い界の重鎮として活躍するに違いないのだ。
しかし、リィアは幼い頃の約束をずっと覚えていて、大人になったら一緒にパーティー組みましょうと言ってくれた。
それはとても嬉しい事だが、それは果たしてあいつにとって幸せな事なのだろうか……
「……いてっ!」
「おーまーえーはいつも変な事を考えやがるなー。あいつにとってお前がどんな存在かわかんないのか?」
「存在、か。どんな存在なんだろうな……」
「……あーもーっ! とにかくお前たちはパーティーを組むべきなんだよ! 昔からお前達を見ている俺を信じろよ!」
その為に俺はここにいるんだ。とリュウは言ってくれる。こいつは昔からずっとそうだった。いつも俺の事を助けてくれる。もしかしたら俺がいるからここに来ている節すら感じている
「……ありがとう、リュウ」
「いいって事よ!」
そう言ってリュウは少しだけ照れるような顔を見せるが、俺はその顔を見てふと思った。
「そういえば、今の俺を初めに見た時びっくりしなかったな。普通はダチが女になったら驚くもんだろ」
「うーん。最初に聞いた時は驚いたけどさ、実際に見たら安心したよ」
「安心……?」
「ああ、だってお前の顔、全然変わっていなかったしな」
……は? 変わっていない? 本人ですら別人かと驚いたのに。
「もうすぐ森林エリアを抜けて岩場エリアだ。カイ、隠れる場所が減るから一気に行くぞ!」
「ああっ!」
ここも滅多に人が通らない場所で、ゴール地点も段々と近くなってきている。このまま行けば俺の勝ちだ。最後まで逃げ切ってやる……!
俺は、リィアの顔を思い出しながら、目的地に向かって一目散に走ったが、そこに一番で会いたくなかった男と遭遇する。
その姿はまるで絶望の具現化。
リュウを凌ぐ巨体。鋼のような筋肉。
そして血に飢えたかのような鋭い眼光。
「ガッハッハ! やはりな。お前らはここを通ると思っていたぞ!」
「ラ、ラオン……」
「なんでこんな所に!」
奴こそ今回の究極大武會の優勝候補。
ラオン・カイオル三回生である。
突如、目の前に現れた戦闘狂。絶望の具現化、ラオン・カイオル。
奴はよりにもよって、岩の谷間の前で陣取っている。まるで俺達の目的先を知っているかのようだ。
俺は走りながらリュウに目を向ける。
「どうする!?」
「決まってる。ここを通らないと向こうにはたどり着けない!」
そう言うと、走りながらリュウは斧を構える。
2対1でこちらはスピードに乗っている。
1撃を加えてそのまま一気に谷間に突っ込むつもりだ。
「……くそっ!」
俺も合わせて自分の斧を構える。前より少し重たく感じるが、いつも使っているカスタマイズされた訓練斧だ。これでも十分に戦える。
「俺から先に突っ込む! タイミングを計って加勢してくれ!」
「あぁっ! 俺達なら奴を退かせる事くらいなら……!」
そして、突っ込んでくる俺達を見てラオンは、不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと構える。
「突っ込んでくるか。この根性だけは誉めてやろう! 来い!」
『うおおおおおおっ!』
……ガキィン!!
先行したリュウとラオンの斧が重い金属音を響かせる。
「くそっ! 全速で突っ込んだのに、こいつピクリとも動かねぇ!」
「なるほど、一回生にしてはやるな」
焦りの表情を見せるリュウと対照的に、ラオンは相変わらず余裕のある表情を見せる。まるでリュウの力を確かめてるようだ。
「……てめー。何でここがわかった」
それは俺も思っていた。ここは当てずっぽうで選ぶ所ではない。
「なぁに。堂々と斧を2本持って変な方向に走る、バカがいたからなぁ。それがいつも一緒にいる奴となれば猶更だ」
「そ、そうか。やるなラオン!」
(……豪快にやらかしてるじゃないかこいつ)
こいつのバカさに心底呆れながらも、つばぜり合いの状態を維持しているのは感心する。一回生TOPクラスのパワーファイターなのは伊達ではない。
「お前の力はわかった。そろそろ俺も……!」
「カイーッ! 今だ!」
攻撃しようとラオンが体勢を変えようとした時、リュウは叫ぶ。
そして、その合図を受けた俺は一気に加速をかけた。
「……速いっ!」
「カイ、お前……」
俺の動きを見てリュウは驚き、ラオンは初めて真剣な顔を見せる。
そう。俺はこの身体になって運動性能が飛躍的に向上している。これはベルガーの懐に入った時に違和感を感じ、森林の中でこの身体について色々調べた時に確信した事だ。
元々、俺は一般的な戦士と比べて遥かに小柄で筋力も劣っていたが、それを補って余りあるスピードや俊敏性が一番の武器だった。これだけなら1回生、いや学園イチだと自負している。
その俺の特徴が、女体化する事によりさらに顕著になっていて、更に柔軟性も付加されていた、正直初めて女になって良かったかもとさえ思った。
…………
そして、俺は横に回り込んで突進する。
ラオンはリュウとつばぜり合いをしていて、こちらに手を出す事は出来ない。
「うおおおおおおおっ!!」
俺はこの一撃に全てを込めてこの化け物に叩きつける!
……ガキィン!!
「!?」
「!!」
俺達は目の前の光景に、思わず自分の目を疑った。
「左腕の腕当てだけで、俺の斧を完全に受け止めやがった……!」
「いくら訓練用でもそれはないだろ!」
普通なら良くて骨折、最悪の場合は左腕自体がちぎれている。
「……だが、軽いわぁっ!」
ラオンはそう言うと、俺を左腕で押し返して、そのまま左脚で蹴り飛ばす。
「ぐはっ!」
「カイッ! ……ぐおっ!!」
そして、それを見て油断したリュウはラオンの斧を腹に受けてしまう。
少し離れたここまで骨がやられた音が聞こえてきた。これが本物の斧なら真っ二つになってただろう。
この戦闘狂は戦士二人の猛攻を受けても、一歩も退く事も無く受け止める。
まさに”絶望の具現化”だ。
「くそっ!」
リュウはラオンからどうにか距離を取り、態勢を整えようとした時、遠くから声が聞こえた。
「ラオン先輩、そこにいるんですか!?』
声のした方向を見ると、3人の2回生が俺達の存在を確認したらしく早足で向かってくる。
「リュウ!」
「……くっそおおおおぉぅ!」
リュウは地面に斧を力任せに叩きつけて、周囲に石やあたりに土煙を巻き上げる。
「一旦退くぞ!」
「わかった!」
少しはカモフラージュになるかもしれないが、正直これは苦し紛れの行動だ。向こうが構わず突進してきたら、勢いを失った俺達はすぐやられているだろう。しかし、ラオンは動く気配を見せず谷間の入り口から動こうとしない。
「ラオン先輩。奴らが逃げます!」
「行かせてやれ! どうせ奴らはもうどこにも行けやしない!」
3人の2回生の動きを止めた後、俺達に対して楽しげに言った。
「カイとやら気に入った! お前こそ俺の側女にふさわしい女だ! 時間をやる。作戦を練って全力でかかってこい!」
「……舐めやがって!」
噂通りの戦闘狂だ。奴はこの戦い、いやゲームを楽しんでる。
そうして俺達は、ラオンから遠く離れた岩陰にたどり着いた。
…
……
………
「はぁっ、はぁっ」
「くそー。やっぱりクゾ強いなあいつは!」
「どうするんだよ、リュウ。今更別のルートは無理だぞ!」
全ての門は既に固められている筈だし、他の連中がここに来るのも時間の問題だ。
「……なんとかしてやるよ。俺が奴らを食い止める。たとえ全員は無理だとしても、ラオンだけは3分は足止めしてみせる。だから、その隙にカイはなんとしても突破するんだ」
「確かに今の俺の足なら何とでもなるだろうけど、一人でラオンと戦うのはいくらなんでも無理だ。腹のダメージも大きいんだろ!?」
2対1だから、そして”賞品”を傷つけないという縛りがあったからこそ、少しでも戦えたのは間違いない。
しかし既に負傷している一回生が、単身で学園最強の男に挑むのは自殺行為だ。
それに奴は幾度となく訓練中に人を殺めている。今更一人増えようが知った事ではないだろう。
「それがどうした。さっきも言っただろ? 死んでもお前をここから出してやるって」
リュウのその言葉と真剣な表情から決意と覚悟を感じる。本当に死んでもよいと思っている。
「……本気か?」
「ああ。本気だ。 ……だから、最後にカイに頼みがある」
「頼み?」
「ああ。それを聞いてくれたら俺は100%、いや200%の力で奴と戦える」
熱い瞳が俺に訴えかけてくる。これは最後の願い、まさに一生に一度の願いだ。今までの恩も含めて、この頼みを聞かない訳にはいかない。
「わかった。お前の頼み、何でも聞いてやるよ」
「そうかっ! 助かる!」
そう言うと、リュウは改めて俺の正面に立ち、俺の顔をじっと見つめてくる。
心なしか、いや確実に顔が赤らんでいる。それを見ている俺まで緊張してきた。
「……頼む、カイ。お前のパンツを俺に見せてくれ!!!!!」
「はぁっ? ……はぁあぁああぁああああぁぁっ!!??」
――俺の頭は真っ白になった。