オルイン亡命IF SS集   作:とうゆき

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Flight to Tomorrow

 

 慎ましく暮らしていたオルフェとイングリット。仲睦まじい恋人は自分達の未来には幸せしかないと信じて疑わなかった。

 しかし──平和は突如として終わりを告げる。

 

 倫理観がぶっ壊れたマッドサイエンティスト夫妻に製造されたメンデル怪人54125号、キラ・ヒビキ襲来。

 オルフェは必死に抵抗するも敗北。イングリットを拉致されてしまう。

 

 イングリットの美貌を気に入ったキラは彼女を花嫁にすると勝手に決定。

 なんと傲慢なのだろう。彼は大神ゼウスにでもなったつもりなのであろうか。

 

 

 

 

 

 オーブ近海に点在する諸島の一つに石造りの神殿が建てられている。

 古くから想い合う二人が永遠の愛を誓う神聖な場所は今や、身勝手な欲望を滾らせた邪悪の巣になっていた。

 

 いたる場所にベルトが付いた白のタキシードを着るキラは下卑た笑みを浮かべ、崖の前に立つドレス姿のイングリットに近付く。

 風にたなびく青い髪は純白のウェディングドレスによく映えるも、彼女の表情は深く沈んでいた。

 憂いを帯びた彼女の視線の先にはただただ空と海が広がっている。

 

「おいおい。まさかこの期に及んでオルフェが助けに来るなんて思ってんのか?」

「……」

「奴の機体を大気圏から叩き落として対艦刀を胴体にぶっ刺した後にMSを組み付かせて自爆、トドメに核ミサイルをぶち込んでやったんだ。生きてる訳ねえだろ」

「……」

「ま、仮に生きてたとしてもだ。あいつにあって俺にないものなんて何一つねえんだ。若作りババァの薄汚い野望と一緒にもう一度あの世に送ってやるぜ」

 

 クックックッと嘲笑うキラはオルフェの死を確信していた。

 イングリットも理性では生きている筈がないと思う。けれど感情はあらゆる合理性や理屈を否定してオルフェの生存を信じていた。

 

「私の体は奪えても心までは決して奪えないわ」

「気丈な女は嫌いじゃないぜ」

 

 舌なめずりしたキラは強引にイングリットの腕を引くと神殿内部の祭壇まで進む。

 

 

 

 

 

「この婚儀を心より願い、また、永久の愛と忠誠を誓うのならば、ハウメアはそなた達の願い、聞き届けるであろう。今、改めて問う。互いに誓いし心に、偽りはないか?」

「おう」

 

 歌手になったら一時代を築けそうな流麗な声でピンク髪の司祭が問うと、キラは腕を組んだまま不遜な態度で応じる。

 その一方、祭壇に連れてこられてからイングリットはずっと俯いていた。司祭が彼女の方にも宣誓に同意するか尋ねても無言のまま。

 ここでキラの意に沿わない行動を取ればどうなるか分からない。それでも──命を奪われるのだとしても偽りの愛を口にする事だけは絶対にしない。

 

 覚悟を決めたイングリットが顔を上げると同時、周囲一帯に緊急アラートが鳴り響く。それが意味するのは所属不明機の接近。

 程なく、その原因は彼らからも目視可能になる。

 白、青、黒のトリコロールカラーにV字アンテナとツインアイの頭部。大型ウイングを展開して空から舞い降りるその威容は紛れもなくオーブを守る剣にして自由の翼──フリーダム!

 

『私にあって君にないものが何一つない? 随分吠えたね』

「オルフェ!」

 

 機体から放たれる声は間違えようがなく、イングリットが愛した男のもの。

 

「あぁ!? 生体CPUと大差ないてめえに何があるっていうんだよ!」

『イングリットの愛だ!』

「ちっ……」

 

 堂々たる宣言にキラは臆し、無意識に後ずさる。

 生憎と無限パワーを得た無敵のストライクフリーダムはここにはない。ダガー程度ならまだしもフリーダムを相手取るのは生身では分が悪い。

 

「い、生きてるうちは負けじゃねえ!」

 

 捨て台詞を吐いてキラはみっともなく遁走する。

 

 

 

 

 

 片膝をついて神殿前の広場に着陸したフリーダムは地面と胸部の間に手を差し出す。続いてハッチが開いてパイロットスーツを着たオルフェが現れ、フリーダムの手のひらに乗り移りイングリットに向かって両腕を広げる──のを確認するより早く彼女はドレスの裾をつまんで機体に駆け寄っていた。

 ブライダルシューズのせいで走りにくかったが心はとても軽やかだった。

 腕の中に飛び込んだイングリットをしっかりと抱き止めたオルフェはフリーダムに乗り込もうとして──

 

「……飛び立つのはアウトなんだったか」

〈すみませーん。そこはまだ行政府と交渉中で〉

 

 

 

 

 

 フリーダムによる花嫁強奪再現イベント。

 オーブで若いカップルを中心に人気の体験型アトラクションである。

 

 発端はカガリ・ユラ・アスハとユウナ・ロマ・セイランの結婚式。望まぬ婚姻を強いられている所を愛する人に拐われるというシチュエーションは乙女心がキュンキュンする(実際は異性愛ではなく家族愛なのだが)

 しかも国家元首の式にMSで乱入するという、その場で殺されてもおかしくない蛮行はそれだけ愛の深さを物語る。脳を焼かれる恋人が多数現れるのも無理からぬ事であった。

 

 イベントを企画した会社のロビーにはフリーダムがカガリを拐う瞬間の写真が展示され来訪客から「神話のワンシーン」「まるで宗教画のようだ」「ありがたやありがたや」と好評を博す。

 サブカルチャー界隈でも一大ムーブメントを起こしているジャンルであり、はるばるプラントから来るカップルもいるとかいないとか。

 

 企画会社がエキストラを用意したり撮影した映像を編集するサービスもありながら値段はお手頃。既に半年先まで予約で埋まっているらしい。

 

 ちなみにフリーダムといっても詳しい者が見ればディンの胴体にM1アストレイの頭部をくっつけたパチモンだと気付くだろう。

 内部は複座に改造されていて専門のスタッフが操縦するが、現役の軍人やモルゲンレーテ職員の中にはオルフェのように自分で操縦する気合の入った彼氏もいるとか(その場合は事前に誓約書を書く必要があるが)

 

 そして本職の人間が関わっていても安全上の観点から制約は多い。先程オルフェが止められた、花嫁(に扮する彼女)をコクピットに入れての操縦もその一つだ。

 一応花嫁がパイロットスーツを着ればOKらしいが、会社のスタッフが試したところかなりグダグダな流れになったので泣く泣く断念したという経緯がある(本当はMS同士の戦闘もやりたかったようだが、行政の担当者に提案したら呆れられたとか)

 

 

 

 

 

 ヘルメットを外したオルフェはパイロットスーツをはだけさせて中のTシャツを露出させる。

 火照った体を外気で冷ますように歩いていると、地べたに座り込み浮かない顔のキラがいた。

 どうしたのか。彼のチンピラ間男演技はちょっと前まで支配者ごっこをしていたオルフェから見ても堂に入ったもので、台本を用意したラクスも満足する出来だったというのに。

 

「元気がないね。この流行を知った時に君は苦笑しながらも「カガリに悪いイメージが付いてないみたいで良かった」と言ってたじゃないか。君にとっても自分の開発したナチュラル用OSが戦争に使われるよりはこういうイベントに使われる方が嬉しいだろ?」

「分かるけど……! 君の言う事も分かるけど……! 僕は今モヤモヤしてるんだ! 永遠にネタにされそうなのが嫌で!」

「……」

 

 悲痛な叫びだった。オルフェが知る限りでは幼年学校時代の恥ずかしい失敗をアスランがラクスに暴露した時と同程度か。

 オルフェは軽い気持ちでキラを巻き込んだが、今度からこのイベントに「ヤマト准将も絶賛!」といった謳い文句が付くかと思うといささか同情してしまう。

 

 近日放送されるカガリを扱ったドキュメンタリー番組では花嫁強奪がクライマックスだし、大学の政治史ではアスハ政権の重要なターニングポイントとして日夜議論の対象となっているのだが、これらの事実は報せない方が彼の為かもしれない。

 

「そう落ち込むな。今度は私が間男役をやってやるから。なかなか楽しいものだよ」

「……いくら演技でもあんまりラクスにベタベタしないでね。君でも怒るよ」

「あ、うん。善処する」

 

 ガチ目のトーンで忠告され、思わずオルフェは素で返した。

 

 現在ラクスが鋭意執筆中の台本では「グヘヘヘヘ、こいつは驚いたぜ。まさかあの歌姫様がファンに隠れて核動力機を用意してたなんてよ。この事を彼氏が知ったらどう思うかなぁ? 黙っててほしかったら、分かるよな?」と無理矢理迫るシーンがあるが、我が身可愛さからオルフェは内容を変更させようと誓った。

 

 黄昏るキラをその場に残し、編集スタッフにあれこれと注文をつける司祭をスルーしてオルフェは島内を散策。

 島やMSを購入して港や発着場を整備、更に神殿のセットや休憩施設を用意した会社の熱意と行動力には脱帽するしかない。これらの費用をペイする為には業績が好調でも数十年かかるらしいので、これはもはや事業ではなく一種の推し活である。

 

 

 

 

 

 足を踏み出すたびに沈み込む砂浜の感触や寄せては返す潮騒、風に乗ってくる海の匂いを楽しみながら海岸沿いを歩いていたオルフェはイングリットを発見。

 ドレス姿をまじまじと見るのはこれが初めてだったが、髪を押さえながら心地良さそうに風を浴びるイングリットの姿には神秘性すらあってオルフェはドキリとしてしまう。

 独占欲を露わにした先程のキラの心境も今なら共感出来る。

 こちらの足音に気付いてゆっくりと振り向いたイングリットの顔には穏やかな微笑。

 

「もし私が本当に拐われても助けにきてくれる?」

 

 以前の彼女であればこのような問いかけをする時は弱気や切実さが滲んでいただろう。

 だが今は陰の要素は鳴りを潜め、茶目っ気混じりの明るさが彼女の表情を彩る。愛おしさが胸いっぱいに広がっていくのをオルフェは感じた。

 

「それは難しいな」

 

 左手をイングリットの肩に置いて右手を腰に回して密着。彼女の体温が直に伝わってくる。

 

「たとえ一時であったとしても君を手放す事はないから」

「オルフェ……」

 

 抱き締める格好になって良かったと心底思う。我ながらキザな台詞を言ってしまった自分の表情を見られたくなかった。

 激しい心臓の脈動はオルフェのものかイングリットのものか。あるいは両方か。

 

 

 

 






※誤解を招きそうなので明記しておきますが、演技は崖のシーンからでそれ以前の話はそういう「設定」です。オルフェとキラがMSで戦ったりはしてません。


種自由の配信が始まりましたね。これを機にオルインSSが増える事を願います。
本編の方は……完結まで書き溜めてから投稿しようかと思うので今しばらくお待ちください。


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