オルイン亡命IF SS集   作:とうゆき

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私は今、休みが欲しい!

 

 

 

 C.E.75。

 新たな年を迎えて間もなく、世界平和監視機構コンパスのメンバーは慌ただしい日々を送っていた。

 総裁であるラクス・クラインがユニウスセブンやヤヌアリウス、ディセンベルの犠牲者の慰霊式に招かれ、更にエイプリル・フール・クライシスやブレイク・ザ・ワールドの被害が大きかった地域の慰問を行う事になっていたからだ。

 

 当事者のラクスは当たり前としてナチュラルとコーディネイター双方の過激派を刺激しかねない案件だけにプラントからの依頼でコンパスも駆り出されていた。

 コンパスに出向する人員は基本的に善良で差別意識が薄いので士気は高かったが、その中にあって一人だけ浮いている男がいた。オルフェである。

 

 鎮魂はともかく上の世代の尻拭いなどオルフェからすれば気乗りしない。

 なのでフェムテク装甲の特許を取得して私腹を肥やしたり、新型MSの性能評価という名目で乗り回して遊んでいたら突然ラクスから総裁代行を押し付けられた。

 寛大なオルフェは渋々受け入れ、執務机に肘をついて提出された書類を眺める。

 

 『迷ったらとりあえずラクス様に判断してもらえば安心』

 そんなスタンスの人間は多い。勝手な判断で暴走されるよりはマシだが何事にも限度がある。

 

 ──本部食堂のメニューなど予算内なら現場が勝手に決めればいいだろうに。

 

 ナチュラルならともかくコーディネイターならアレルギーの心配もない。虎ブレンドの珈琲を出されるのは困るが。

 

 ともかく、このようにラクス本人の手を煩わせるまでもない書類を代理で処理するのが今のオルフェの仕事だ。

 そのせいでプラント内のザラ派やデュランダル派残党を適当におだててタダ飯を食らう予定だったのに憐れにも総裁の執務室に押し込められていた。

 

 それでもイングリットと一緒なら苦にしないどころか至福の時間だっただろうが、彼女は現在ラクスの警護でディセンベル市にいる。

 同性で武術の心得があっておまけに心を読めるイングリットはラクスの護衛として最適だった。

 通信技術が発達して気軽に映像越しにやり取りが出来る時代であっても、だからこそ直接顔を合わせる意味合いは大きくなっている。

 

 折衝の為に各地を飛び回るラクスに同行するイングリットとはここ数日会えていない。

 相思相愛なので遠く離れてるほどに近くに感じるが寂しいものは寂しい。だがイングリットはやりがいを感じているようだったので止める事は出来なかった。

 

 加えてキラも地上に降りてラクスが訪問予定の地域で治安維持に勤しんでいる。

 妹夫婦のワーカーホリックっぷりにオルフェは恐れ慄くしかない。*1

 

 ──おのれシーゲル・クライン……!

 

 彼がラクスを責任感や博愛精神の強い人間に育てた結果がこれだ。

 その被害を受けるのはいつだってオルフェのような人間なのだ。

 

 だが……『上司や同僚が頑張っているから自分も頑張る』

 そんな旧人類の愚かな風潮にオルフェは決して迎合しない。

 

 一度深呼吸したオルフェは意識をディセンベル市の方へと向ける。

 

《総裁代行オルフェ・ラム・タオより休暇を申請》

《こちらコンパス総裁ラクス・クライン。申請を却下します》

 

 すげなく断られ、オルフェは衝動的に机を叩く。その勢いで卓上の書類が舞い上がった。

 

 ──なんと身勝手で冷たい女だ! 兄が過労死しても一向に構わぬという事か!?

 

 激情のままペンを取ると手元の書類にサイン。ラクス用の新パイロットスーツのデザイン案を無断で承認。

 

《君がイングリットを連れ回すせいでもう二日も会えていないんだが?》

《……私もキラと会えず辛いのです》

《どうだか。聞いたぞ、イングリットとパジャマパーティーをしたと》

《ええ。着せ替え人形にしたイングリットさんはとても愛らしかったですわ。写真も撮ってあります》

《ならばその画像を寄越せ!》

《嫌です。これは私達だけの秘密ですから》

《っ》

 

 九時に出勤して十七時に退勤するという非人道な職務をこなすオルフェに対してあまりに冷酷な言葉。

 オルフェの顔が朱に染まり青筋が浮かぶ。

 

《世間では平和の歌姫だの天の女神だの讃えられていても一皮剥けばそれか。自分さえよければそれでいいとは薄情な女め》

 

 耐熱耐衝撃結晶装甲……よく分からないが承認。

 

《……》

《都合が悪くなったらだんまりか、ラクス。僅かでも良心が残っているなら画像を寄越して私の休暇申請を受理しろ》

 

 ラクス・クラインの写真集、承認。

 イングリット・トラドールの写真集、却下。

 

《……これは先日、二人が泊まりにきた時の話なのですが》

《うん?》

《朝起こそうとしたイングリットさんに対して寝惚けていたあなたは抱き着いて「お母さ……》

《……》

 

 だんまりを決め込んだオルフェはラクスとのやり取りを中断するとティーカップの下敷きにしていた書類の束に手をかける。

 量は多いが妹想いのオルフェからすればへっちゃらである。

 粉骨砕身。世のため人のため頑張ろう!

 

 

 

 

 

*1
まだ夫婦ではない





最後のシーンの没案
《あなたがフラガ大佐に誘われていかがわしい店に行ったという情報がターミナルから来たのですが》
《…………神に誓ってイングリットを裏切るような事はしていない》
《あなたの口から出る神という言葉ほど薄っぺらいものはありませんが信じましょう。もし何かあったらディスラプターで消し飛ばしていました》

 宇宙に放り出された自分を光のない無慈悲な瞳でロックオンするラクスを幻視してオルフェは全身を震わせた。

《……君一人でディスラプターを使えるのはセキュリティー上の欠陥を感じるな》
《何か言いましたか毒虫》




他にも「彼ピにMSをプレゼントする女は重いよね(笑)」や「ラクス・クラインの兄です。今こそ全てをお話します」などもあった、

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